Neetel Inside 文芸新都
表紙

超人バロムⅠ
第1話植物魔人サボテルゲ

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この物語に登場するドルゲは架空の物です




第1話
「植物魔人サボテルゲ」

正義なる者コプーの力で2人の少年が変身し、悪なる者ドルゲと戦い、地球を守りぬいた正義の代理人(エージェント)、超人バロム1
バロム1とドルゲの戦いで、大魔人ドルゲが砕け散ってから、数十年の月日が流れていた

ドルゲが消え、今、宇宙はかつて無い穏やかさを見せている

しかし、突如宇宙の平和を乱す新たなドルゲが異次元の壁を突き破り、今、我々の世界へと侵攻を開始してきた
ブラックホールを作り出し、こちらの宇宙へと姿を現した新たなドルゲは、コプーのいないこの宇宙を次々と破壊していく
圧倒的なドルゲの力にいくつ物星があっという間に滅ぼされたその時、再び次元の壁を突き破り、新たなコプーもまた、現れた
激しい戦いを始めるコプーとドルゲ
そして、コプーは渾身の一撃をドルゲに炸裂させ、ドルゲに大きなダメージを与える事に成功する
傷ついたドルゲは丁度近くにあった星へ…




太陽系第三惑星地球へと、新たな魔人ドルゲが襲来してきた




・・・・・・・・・・・・・・・・・・




「宇宙人だ!宇宙人の襲来だ!!」
「宇宙人みたいに大きな口開けてアホアホしてないでさっさと朝ごはん食べなさい」
ぼさぼさの髪に頬に絆創膏をつけた少年、「大中 英寿(おおなか ひでとし)」は未確認飛行物体墜落の朝のニュースに釘付けになっていて
朝食に手をつけていなかったため、台所からやってきた母に叱られてしまう
しかし、彼にとって朝食どころではないため、目はテレビから離さず、母の声は右から左へ受け流した
歩いて行ける近所に『何か』がやってきたらしいのだから、心躍らずにはいられない
平凡で退屈な日常は終わりを告げ、スリルと迫力に満ちた新しい世界が自分の元に舞い降りたのではないかと期待に胸を震わせながらニュースを聞いていると
横から現れた退屈な日常の化身がテレビの電源を消してしまう
「いい加減にしなさい!あんたが食器洗うんならまだしも、人が洗う時は人に合わせな!」
「でも母ちゃん!近所に宇宙人だぜ!宇宙人!」
騒がずにはいられない物を前に、無粋な事を言う母に、それどころではないとテレビを指差し興奮した調子で英寿は言うも、無論それは逆効果にしかならない
母は軽く頭を抱え、にらみつけてきた
「あんたももう高学年何だから迂闊に宇宙人とか夢みたいな事言うんじゃないよ。そんな事じゃ周りから馬鹿にされるからね」
「馬鹿にする奴何かいねぇっつーの!」
「馬鹿な事言う奴が馬鹿にされなかったら誰が馬鹿にされるんだい!」
「母ちゃん!馬鹿だから!」
「な!!」
怒った母の今時珍しい鉄拳制裁が炸裂し、英寿の頭部に激痛が走る
更にこの後食器も自分で洗う事になり、最終的に半泣きで遅刻ギリギリの通学路を走る事となってしまった

口は災いの元である

最も、口からではなく空から本当の災いは降ってきたのだが…



英寿が学校目指して走っていると、横に小奇麗な格好をした賢そうな長身の少年が並走してきた
「おはよう英寿」
「おう、武正」
さわやかに英寿に挨拶してくるのは同級生の「真上 武正(まうえ たけまさ)」である
見た目どおり第一印象どおり裏も表も無い馬鹿で熱血少年の英寿と同じく、武正も見た目どおり、第一印象どおりの賢くて計算高く、しかし人当たりが良くて誰からも好かれる言わば優等生だ
「珍しいな、お前がギリギリとか」
「うん、まぁーね」
そんな内外共に優等生であるはずの武正が自分と同じく遅刻ギリギリ目指して走っている事が珍しい英寿の質問に、武正は生返事で返す
「何だ何だ?朝までゲームしてたのか?」
「そんな分無いじゃん、言いたくないんだ、ごめん、じゃ」
食い下がる英寿の質問に、武正は会話を切り上げると、校門目指して一気に加速した
「あ、おい待てよ、おーい」
後を追うも、既に武正はかなり距離を離しており、教室まで追いつく事ができず
教室について早々朝の学級活動が始まってしまったため、結局何故武正が遅刻ギリギリに走ってきたのかはわからずじまいだった

そして、英寿にとって退屈な日常が始まる





・・・・・・・・・・・・・・・・・・




人間の手の届かない地の底
コプーによって大きなダメージを負い、動けなくなったドルゲは、今、再びここに基地を作っていた
≪るろろろろろろろろろろろろろろ≫
『ロロロロロロロロロロロロロロロロロロ』
不気味な地下空洞に甲高い声ととても低い声が同時に響き渡り、薄明かりの中に新たな大魔人ドルゲがその姿を現す
天に伸びる4本の角、悪臭を放ち触れた者を容赦なく殺す巨大な体、そして邪悪に輝く三つの瞳を持った新たな大魔人ドルゲは、できたばかりの地下空洞の広間に片手を向ける
≪『生まれよ、悪のエージェント!アントマン!』≫
ドルゲの甲高い声と低い声が同時に響き、広間に爆発が起こった
「ヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュ」
やがて煙の中から奇声と共に全身にうずの様な模様を持つ人型の怪人、アントマンが複数体現れる
ドルゲにひざまずくアントマン達に、ドルゲはおもむろに近づくと、一体の頭にそっと手を触れた
「ヒュヒューーーーーーーーーーーーー」
すると、そのアントマンは絶叫して苦悶し、倒れ付して跡形も無く消滅してしまう
しかし、周りのアントマンは全く微動だにしない
≪『貴様等はドルゲの悪の奴隷だ、ドルゲに従い、ドルゲのために働け』≫
「ヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュ」
ドルゲの言葉に、アントマン達は奇声をもって肯定する
≪『殺せ、この星の生きとし生ける者を一人でも多く殺すのだ、そうすれば私の傷は癒える。ルロロロロロロロロ…』≫
「ヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュ」
地下空洞にドルゲとアントマンの不気味な声が木霊した




・・・・・・・・・・・・・・・・・・




終業のチャイムが鳴る学校から、武正と、それに付きまとう英寿が出てきた
今朝の事を思い出した英寿が、再び武正を質問攻めにしているのである
「なぁ、何かあったんだろ?なぁなぁなぁ!」
「しつこいな。だからお前の面白がるような事は無いってば」
「宇宙人だろ?今朝のニュースでやってた」
「そんなの関係あるわけないだろ」
「嘘だぁ、お前だけ宇宙の勇士になって巨大ロボットに乗り込んで悪と戦う何てゆるさねえからな」
「お前それ本気で言ってるのかよ」
呆れた武正が英寿の顔を見ると、彼の瞳は「本気」の二文字をしていた
思わずため息が出てしまう
「人に言っちゃいけないような事じゃないんだったら俺に話せよ!いいだろ!な?」
完全に武正が宇宙から来た人に特別な力を貰ったのだと確信して期待の眼差しを向けてくる英寿に
ついにわかったよ武正が折れ、ただしお前が期待しているようなもんじゃないからなと付け加えると、英寿を隕石が落下したらしい山に程近い森へと案内した

やっぱり何だかんだ言って宇宙の神秘に遭遇できるじゃん!

英寿の期待は隕石の落下場所に近づいた事で、余計膨れ上がる
超常的な何かとの遭遇を勝手に確信していた英寿の前で、武正が小走りになり、やがて大きな木の根元でかがみ込んだ
「そこに何かあんのか?」
「しっ!」
興奮して近づくと、武正は口元に指をつけ、強い口調で注意し、木の根元にあるものをちょんちょんと指差してみせる
何だろうと覗き込んで、英寿は肩を落とした
そこには、ダンボールに入った小さな白い子犬がいる
「何だ、捨て犬か」
「何だとは何だよ、だから期待するようなもんじゃないって言ったろ」
期待していた物との違いに英寿が肩を落す横で、武正は給食の残り物のパンを犬に食べさせはじめ
その様子を眺めていた英寿は、先ほどまでの落胆が嘘の様にあっという間に元気を取り戻し、俺にもやらせろよと自分を指差しながら訴える
移り気の早さに苦笑しながら、パンを渡すと、割と慣れた手つきでパンをちぎって食べさせ、喜ぶ子犬の顎を撫でてじゃれあい始めた
「お前んち犬飼ってたっけ?」
「いや、親戚の姉さんの家に、マタって言って、強いんだぜ」
「へぇー…強い」
犬を「強い」と褒めるのは如何な物かと小首をかしげて考える武正と、犬と楽しく遊ぶ英寿
そんな二人の背後に、迫る一つの影があった

影はゆっくりと二人に近づき、やがてそのすぐ後ろで止まる
「おい」
背後からかかった突然の女性の声に、驚いて二人がすぐに振り返ると、そこには髪を赤く染めた長身の女が立っていた
「あれ?華南(かなん)姉さん?」
「え?武正?」
「誰?」
「従姉弟の真峰華南(まみね かなん)姉さん、どうしたの?こんなとこで」
「あ…」
思っても見なかった身内の登場に、恥ずかしげに視線をそらす華南
その女性にしてはたくましい手には、犬用の缶詰が握られており
武正の視線に気づくと、多少慌てたようにそれをポケットにしまい、武正の頭をがしっとその大きな手で鷲づかみにした
体育会系の成人男性並の力を持つ不良女の握力に、武正は思わずいててて痛いと悲鳴をあげる
「い…犬が拾えないから、拾われるまで面倒見てやろうと思っただけで。あたしゃ間違った事やってないよ」
「じゃあ何で俺の頭を握るの!」
「お前がオレを小馬鹿にした目で見っからだよ!」
要するに今朝見つけたこの子犬の世話をして子犬と自分の世界に浸ろうとやってきた所に都合よく身内がいたので
何だか意味も無く気恥ずかしくなって八つ当たりしているのだが、そんな事は横で見てる英寿には理解できない
おっかない人だなと注目していて、ふと、二人の向こう側の木々の間に、何か渦巻き模様の様な物が見えた気がした…

「なぁ!アレ!今あそこに何かいたぞ!アレなんだ!」
華南に頭を握られる武正を救出し、渦巻きが見えた方を指差すが、そこには何も無い
「何もいないじゃないか」
「いやいたって」
こいつまたおかしな事をと英寿の方を見ると、今度は武正も彼の背後の木々の間に渦巻き模様を見る
「え!?」
驚いて周囲を見回すと、いつの間にかいくつ物渦巻きが…全身渦巻き模様の5人の怪人が、自分たちを木々の間から見つめていた
「何だ!こいつら…」
異様な雰囲気を出す集団の出現に、華南は反射的に武正と英寿を背中に庇う
「何だいあんた達、喧嘩売ってんのかい?ねぇ!!」
「ヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュ」
「ヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュ」
身構え、華南が叫ぶと、集団は奇声を上げながらぞろぞろと姿をあらわし、一同を包囲してしまった
多人数との喧嘩の経験もある華南だが、集団の持つ不気味な雰囲気に、流石に腰が引けている
危険を感じ取った英寿は子犬を抱き上げ、武正は携帯電話を取り出す
「もしもし!警察ですか?」
その声を合図にしたように、集団は一斉に一同に襲い掛かってきた
「なろ!」
近づいてきた一人に、華南は掴みかかってきたアントマンを内股で投げ飛ばし、二人に襲い掛かろうとする一体を蹴りつけ、更にもう一体の攻撃を受けると、叫んだ
「逃げな!!」
「でも!」
「邪魔!」
投げた感触も蹴った感触もまるで金属のようであり、人間の物とは思えない
確実に相手が人外の者であり、とても危険な事を察した華南は、二人をとても守りきれないと察っしたのだ
「行こう!」
「姐さん!頑張れよ!」
足手まといになると感じた二人は、すぐに森の外目指して駆け出していく
それを華南を他の2人に任せた3人のアントマンが追撃する
華南は何とかそれを食いとめようとしたが、自分を襲う2人の相手で手一杯で、とてもそれを止める事はできなかった

少年二人は必死で逃げるが、アントマンの方が足が速く、距離はすぐに縮まっていく
何とか逃げられないかと辺りを見回すと、公衆トイレがあり、必死の思いで駆け込み、洗面台の下を開け、二人で飛び込んだ
すぐにアントマンが追いつき、外に見張りを立てて女子トイレと男子トイレにそれぞれ1人づつ入り込んでいく
トイレのドアが次々と乱暴に開けられていき、その度に二人は恐怖に打ち震える
英寿にとっては念願の怪異、未知との遭遇だったが、当然死の恐怖が勝って興奮どころではない
やがて、ドアを全て開けたアントマンが、どこかにいるはずだと掃除用具入れを開けるなど、トイレの他の場所を探し始める
「おい、もう駄目だ。俺が出て行ってあいつ等の注意を引くから、お前、何とか逃げろ」
もう駄目だ、覚悟を決めたのか、英寿が震える武正に耳打ちした
その言葉に、目を丸くして驚いた武正は、必死に首を振る
「諦めるな、ギリギリまで隠れるんだ」
「でも俺が出て行った方が皆助かる」
「友達がやられるのなんか嫌だ」
「俺だって嫌だ、だから俺が…」
「ヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュ」
「!!!」
必死にお互いを助けようとする二人を、無情にもアントマンが発見した
凶悪な握力を持つアントマンの腕が二人の首筋に伸びる
その時
英寿の連れていた犬がアントマンに飛び掛り、首筋に噛み付いた
「ヒュヒュヒューーーー!!」
突然の事にアントマンが怯んだ隙に、二人は洗面台の下を飛び出した
武正は当然逃げようとする
が、英寿がアントマンに喰らいついて離さない犬を助けんと無謀にもアントマンに飛び掛っていった
「こいつを見捨てられるかよ!!」
「何してんだ!やめろ」
英寿の突然の行動に慌てた武正は、背後に回ったアントマンに羽交い絞めにされてしまう
「わっ!?」
「あぁ!!」
同じく、英寿もあっさりと捕まってしまった
二人を捕らえたアントマンはおもむろに小犬を抱き上げると、力一杯コンクリートの地面に叩きつける
「やめろ!!」
英寿の叫びもむなしく、子犬は悲鳴と共に動かなくなってしまった
「あぁ……」
「何て事しやがる!こいつめ!離せ!!離せぇええええ!!」
悲しみに満ちた声を上げる武正と、怒りに燃える雄叫びを上げ、暴れる英寿
しかしそんあ二人を、アントマンは無機質に拘束し続ける
ややあって、森の向こうからあざだらけで意識を失った華南を担いだアントマン達が現れた
「離せ!離せこいつめ!」
「くそお!くっそおぉおお」
その痛々しい姿に英寿は力いっぱい叫んで暴れ、武正もまた、怒気をあらわにする
しかし二人の抵抗など意に介さず、3人を拘束する3人のアントマンとは別の2人が何か作業を始めた
2人のアントマンが地面に手をかざし、クルクルと回りだすと、やがてその円の中がまるで蟻地獄のようにくぼんで行き、底の見えない巨大な穴ができあがる
そして、3人を拘束するアントマンは、2人のアントマンが作った穴にそれぞれ3人を担いでいく
≪『ルロロロロロロロロロロ…子供だ、まずは子供、それから女を放りこめ、ロロロロロロ……』≫
突如、穴の底から不気味な声が響き渡った
ドルゲだ、大魔人ドルゲがこの穴の底で生贄を待っているのだ
「畜生こんな所で死んでたまるか!畜生畜生!!」
「うぅ!!離せ!離せぇ!!」
大魔人ドルゲの指示に従い、アントマンは喚き、暴れる英寿と武正を担いで穴へと近づいていく

そして、2人を躊躇無く穴へと放り込んだ

「あぁああああああああああああああああああああああああああああ」
「わぁあああああああああああああああああああああああああああああ」
真っ逆さまに穴の中を落ちていく2人
しかし、英寿がとっさに穴の側面から生えていた木の根と、武正の手をとった!
「う!」
「ぁぁ!!」
間に挟まれた英寿は、必死に腕に力を入れ、耐えるが、長くは確実にもちそうにない
その様子に、武正は必死になって叫んだ
「俺はいいから!俺はいいからぁ!!」
だが、英寿は離さない
目に涙を浮かべ、歯を食いしばり必死に耐える


その美しい友情を、大気圏の外にいた真っ赤な球体、コプーは見ていた
コプーは二人の強い友情と自己犠牲の精神に感動し、地上の2人を救うべく、地上にコプーの力を照射する


必死に頑張っていた英寿だったが、遂に力尽き、手を離してしまった
その時、空から降り注いだコプーの光が2人の体を包み込む
2人は無意識の内に腕をクロスさせ、凄まじいスパークが地底に起こった


「バローーーーーム」

「クローーーーース」



叫びと共に、2人の体が、1つになる

     



「バッローーーーーーーーーーーム!!」


 爆発と共に、地中から緑の頭と水色の足、黒い体、銀色に輝く瞳を持つ超人が飛び出した
その名はバロムⅠ(アイン)
英寿と武正が異世界のコプーの力で一つとなって誕生した新たな正義のエージェントである

「ヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュ」

突然のバロムⅠの登場に、しかし地上のアントマン達はひるまず、すぐさま臨戦態勢をとり、バロムⅠを包囲した
対し、バロムⅠは動かない
いや、動けない

「い…一体どうしたんだ」
「俺たち、二人が一つになった…」

 突然の事に、バロムⅠの目の奥で操縦する英寿も武正も困惑しているのだ
しかし二人の状況など構わずアントマンの拳がバロムⅠに襲い掛かってくる
バロムⅠの体にアントマンの拳が炸裂し、体制が崩れた!

「このままじゃ殺される」
「やろう!やるしかない!」

二人の意思が同調し、バロムⅠは追い討ちをかけようとしていたアントマンの攻撃を受け止める

「いける!強いぞ!!」

 反撃の鉄拳がアントマンの顔面に炸裂し、吹き飛ばして木にたたきつけた
更に背後から飛び掛ってきたアントマンに後ろ蹴りを決め、横から掴みかかろうとしてくるアントマンに肘を叩き込む
よろめく体に更に連続で拳を浴びせると、アントマンは倒れ付し、跡形も残さず消滅した

「……」

 奇怪な現象に驚く間も無く次々飛び掛ってくるアントマンを同様に拳で撃破する
やはり、倒された他のアントマンも全て跡形も無く消えてしまった

「か…勝った…」
「凄い力だ…」

凄まじいバロムⅠの力に感動する二人だが、次第に意識が薄れ、元の二人の姿に分かれて意識を失ってしまう…





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・





 はるか地底の奥底で、魔人ドルゲは邪魔な存在の登場に苛立っていた

≪己、コプーの正義のエージェント…≫
『アントマンでは奴は倒せない』

 そこに、アントマンが鉢植えに入ったサボテンを持ってくる
ドルゲはサボテンの方を向くと、両腕をサボテンにかざした

≪『ルロロロロロロロロロロ…ドーーーールゲーーーーーーーー!ドルゲの悪のエージェント、サボテルゲ、誕生せよ!!』≫
「ボロボボボボォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ」

 爆発と赤い煙がサボテンを包み、その中から人型に変形したサボテンが奇声を上げながら現れる
 魔人ドルゲの持つドルゲ細胞、それは癌細胞の一種であり
生物に取り付いたドルゲ細胞は、その生物を醜いドルゲの悪のエージェントへと変えてしまうのだ

≪『行けぇ!サボテルゲ!正義のエージェントを倒すのだ!!』≫
「ボォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ」

 奇声を上げてサボテルゲは地上へと出発していく



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 気がつくと、英寿と武正は病院のベッドで横になっていた

「あ、あーーー良かった、二人とも、気づいた」
「不審者に襲われたんだって?何事も無くてよかったよかった」
「ったく、心配かけてお前は…」

 枕元には報告を受けて駆けつけた武正の両親と、英寿の母の姿がある
あの後二人は先に目を覚ました華南が呼んだ救急車に運ばれたらしい

「子犬は!あそこに子犬、いなかったか!」
「子犬?」
「何の事言ってんだいあんた」

 目が覚めて英寿が一番にあの子犬の事を心配するが
現場にいたわけでは無い彼の母と武正の両親には何の事かわからず、首を傾げて逆に問い返すしかない

「頭殴られていかれちまったのかい?」
「母ちゃん冗談言ってる場合じゃねぇよ!」
「子犬、死んだよ、俺が起きた時、もう…」

 病室の扉を開けて、顔に大きな湿布をつけ、頭に包帯を巻いた華南が入ってきた
その痛々しい姿と子犬の死に、二人の表情は暗く沈んでしまう

「…しかし、皆が無事だっただけでも良かったよ」
「本当に怖かったでしょう。体は何とも無いらしいけど、今日はゆっくり休みなさい」

 そんな二人を元気付けようとする武正の両親の言葉に、二人は頷くが、表情は変わらず
一同はそんな二人に言葉も無く、ただ見つめるしかない

「母さん、しばらく僕達だけにしてくれないかな…」
「俺も、二人だけで話したい事があるんだよ」

やがて二人からそう言われ、親達と華南は彼等の複雑な心境を察して、部屋から出て行った

「アレは一体何だったんだろう」

 親達がいなくなったのを確認して、武正が言った
それに対し、英寿は困った表情になる

「俺にもわからない」

 困惑する二人
その時、武正のポケットの中で何かが光を発した

「何だろう」

 不思議に思いポケットを探ると、携帯電話サイズの緑色の長方形の物体があり
その中心の細長いランプの様な部分が銀色の光を放っている

「何だこれ」
「僕も知らない、さっきのに変身する時に使う道具なのかな…」

 武正の身に憶えの無い不思議な道具に、二人が不審に思って見つめていると
不意に道具は武正の手を離れ、ふわりと宙に浮かんだ

「わ」
「何だ何だ」

 驚く二人に、道具から穏やかな声が聞こえてくる

『地球の子供達よ、私はコプー、悪の化身ドルゲを追って地球までやってきた。

しかし、私は地球へ入る事はできない。

私が地球に入ると、私の体から出る君達にとって有害なエネルギーによって、地球の生物は死滅してしまうのだ。

そこで私はドルゲに襲われた君達の熱い勇気と友情を見て、君達にコプーの力を授けた。

魔人ドルゲは恐ろしい存在だが、君達の勇気と友情があれば、必ず倒す事ができるだろう。

しかし、バロムⅠの正体は他人に知られてはいけない、もしバロムⅠの正体が他人に知られてしまうと、バロムⅠの力は失われてしまうからだ。

地球の平和を守れるのは君達だけだ。頼んだぞ』

 銀色の光がやんで、道具が武正の手に戻ってきた
余りの事に二人は呆然として言葉も無く、ただ腕の中の道具を見つめている

「これは……ボップだ。俺にはわかる」

 やがて、英寿が武正の手の中の道具を指さし、言った
それを聞いて武正は驚く

「俺もだ、俺も、わかる」
「きっと俺達はバロムⅠになった時に戦い方を頭にインプットされたんだ」
「どうする?どうしよう!」
「決まってるだろ!!」

 英寿は突然の事に困惑する武正の肩を捕まえて、力強い眼差しを向ける

「ドルゲをやっつけるんだ!!」
「何言ってるんだそんなの俺達に…」
「やるんだ!!俺達がやらなきゃ皆あの子犬みたいにドルゲに殺される事になるんだぞ!」

 単なる勢いで戦う事を決意したのではと思っていた武正は怯む
英寿はあの子犬の死に本気で心を痛め、しかもそれを繰り返させまいと強く決意していたのだ
 だが、だからといって小学生の自分達が強大な魔人と戦えるはずが無い
そう思い、英寿を説得しようとした、その時

「キャーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
「うわぁああああああああああああああああああ」

 病室の外から大勢の悲鳴が聞こえてきた




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「ボォオオオオオオオオオオ!!この病院はドルゲの悪のエージェントサボテルゲが占拠した、中にいる人間は皆殺しにする!!ボォオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」

 ロビーの自動ドアを破壊して、数人のアントマンを引き連れたサボテルゲが豪語した
ロビーにいた患者や医者、看護師は突然の不気味な怪物の襲撃に、どよめき、何事かと人が集まってくる

「死ねぇえええ!!」
「ひっ!いやぁああああああああああああああああああ…あ…ああああああああああああああああああああああああ」

 サボテルゲの手から鋭い棘が発射され、手近で呆然としていた女性に突き刺ささり、女性は悲鳴と共にドロドロと緑色の液体になって溶けてしまった

「わ…わぁああああああああああああああああああああ」
「きゃああああああああああああああああああああああ」

 たちまちパニックに陥るロビー
そこにアントマンが飛び掛り、手に持った大きな針で逃げる人々を突き刺していく



・・・・・・・・・・・・・・・・




「ドルゲだ!外が大変な事になってるぞ!」

 悲鳴を聞き、外の様子を見ていた英寿が叫んだ
それを聞いて、武正の顔が青ざめる

「ど…どうしよう」
「バロムⅠに変身するんだ!」

 うろたえる武正の肩を捕まえ叫ぶ英寿
しかし心底嫌そうに身を振られ、拘束を解かれてしまう

「いい加減にしろ英寿!」
「何でだよ!俺たちがやらなくて誰がやるんだ!」
「警察がいる!自衛隊だっているんだ!子供の僕達に…」
「そんなもん来る前に大勢殺されちまうぞ!死んじまうんだぞ!」

「キャーーーーーー」
「うわぁああああああ」

怒鳴りあう二人の口論を遮るように、外から聞き覚えのある悲鳴が聞こえてきて、武正の表情が青ざめた

「母さん…父さん…」

慌てて飛び出そうとする武正を、英寿が捕まえる

「離…」
「バロムⅠになろう!お前の父さんと母さんと、病院の皆を助けるんだ!間に合わなくなるぞ!」

武正は英寿の剣幕に怯み、少しの間固まって
次の瞬間、力一杯頷いた

「頼む!英寿!」
「任せろ!」

熱い二人の友情を感知したボッブの友情熱バロメーターが満タンを示し、二人の両手が自然とクロスする

「バロム」
「クロス!!」

閃光と共に緑色の稲光が走り、正義の超人へと二人は変わる







・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・






アントマンとサボテルゲは、ロビーにいた人々を一箇所に追い詰め、なぶるようにじっくりと近づいていた
5体のアントマンに周囲を包囲され、逃げ道も無く、じわじわと壁によっていく人々の中には、武正の両親と、英寿の母、そして華南の姿もある

「くっそぉ…」
「お前達は一体何者何だ!」

怪我のため満足に動けない華南は悔しげな声をあげ、武正の父は気丈にもサボテルゲを指差し、質問する
しかしサボテルゲは奇声を上げてそれをあざ笑った

「死に行くお前達に知る必要は無い…やれぇアントマン!」
「ヒュヒュヒューーー」
「あぁーーー!」
「キャアアアアアアアア」

サボテルゲの攻撃指示に、アントマンが一斉に攻撃せんとした、その時だった!!

「スッパーーークボーーーーーーッブ」

横合いから飛んできたボッブがアントマン達と人々の間で炸裂した凄まじい光を放ち、今しも攻撃せんとしていたアントマン達を怯ませた

「ヒュヒューーー」
「おおぅ!?」

驚き慌てるサボテルゲ達
そこに横合いからバロムⅠが飛び掛り、拳と手刀で2体のアントマンを撃破する
突然現れたバロムⅠに人々は驚き、サボテルゲと3体のアントマンは思わず距離を取った

「正義の超人、バロムⅠがいる限り、お前達の好きにはさせんぞ!サボテルゲ!」
「ボォオオオオオオオオオオオオオオオ!小癪な!返り討ちにしてくれる!!かかれぇ!」
「スパーーーーーーーーック!!」

サボテルゲの号令で襲い来るアントマンに、勇躍、立ち向かうバロムⅠ
先頭のアントマンの持った棘をかわして裏拳を叩き込み、次のアントマンを担ぎ上げて投げ飛ばし、後ろから迫ってきたアントマンを肘打ちと回し蹴りで吹き飛ばす
バロムⅠに倒されたアントマンは次々とドロドロに溶け、跡形も残らず消滅していく
信じられない光景に息を呑む人々

「ボォオオオオオオオ」

部下のアントマンを全て倒され、遂にサボテルゲが鋭い棘のついた手を振りかざし、バロムⅠに向かってきた
1撃、2撃と攻撃をかわすバロムⅠ
外れたサボテルゲの腕が病院の鉄壁に炸裂し、壁に大きな凹みができる

(す…凄い威力だ)
(うろたえるな!皆を守るんだ!)
(……よし!英寿、こいつを病院の中で暴れされちゃいけない!外に出そう)
(よっしゃあ)

バロムⅠはサボテルゲの懐に飛びつくと、サボテルゲを抱えて全力で病院の入口へ走った
病院のドアを吹き飛ばし、バロムⅠとサボテルゲは病院の外へと転げ出る
サボテルゲから離れ、体制を立て直そうとするバロムⅠ
しかしそれより一瞬早く立ち直ったサボテルゲがバロムⅠに棘つきの手を叩きつけてきた

(うわああああああああああああああああああ)
(ぎゃああああ)

鋭い棘の刺さる激痛に、思わず悲鳴を上げる二人
よろめくバロムⅠに、サボテルゲは更に棘の拳を見舞ってきた
合体している二人に凄まじい激痛が走る

(うわぁああああ)
(ち…畜生負けるか!武正!頑張るんだ!)
(うぅ……わかった!よぉし!)
「バッローーーーーーム」

しかし、二人はそれに耐え、バロムⅠはサボテルゲの腕を受け止めると、カウンターのパンチを叩き込んだ

「ボ…オオオオオオオオオ」
「スパーーーーーーック」

怯むサボテルゲに先ほどのお返しとばかりに次々拳を見舞っていくバロムⅠ
たまらず体を離し、空高く飛んで後ろにあった10階建てのビルの屋上に着地するサボテルゲ

「バロムⅠ!俺の棘に刺さって死ね!」

そう言ってサボテルゲは体の棘を引き抜くと、次々とバロムⅠ目掛けて投げつけてきた

「む!」

しかしバロムⅠは素晴らしい動体視力で飛んでくる棘をかわし、サボテルゲ目掛けてジャンプする

「とう!」
「ボオオ!?」

自らの能力を破られ、動揺するサボテルゲ
そこにビルの上に着地したバロムⅠのチョップが次々炸裂していく

(トドメだ!行くぞ武正!)
(よぉし!)

バロムⅠはサボテルゲに組み付いてビルから飛び降り、急降下しながらサボテルゲの体を空中で素早く頭を下にした

「バロム・急降下砕き!」

10階建のビルから頭から落ちるサボテルゲ、頭部へ凄まじい衝撃が走る
更にサボテルゲにしがみついていたバロムⅠは地上に激突する前にサボテルゲを離して離脱、見事に着地し、まったくダメージを受けていない

「ぅボ…ボオオ…オオオオオオオオオオオオ」

サボテルゲはもう一度よろよろと立ち上がろうとしたが、再び倒れ付し、大爆発を起こした
後に残されたバロムⅠは、サボテルゲの爆発の炎が治まり完全に殲滅できた事を確認すると、両手を斜め上に向け、大きく脚を開いて正義の雄叫びを上げる

「バッローーーーーーーーーーーーーーーーーーーム」

新たな大魔人ドルゲの作ったドルゲ魔人、その最初の一体が、正義のエージェントに倒された瞬間だった





・・・・・・・・・・・・・・・・・



≪『ロォオオオオロロロロロロロ!ドオオオオオオオオオオルゲエエエエエエエエエエエエ!』≫

地底の奥底で、配下のドルゲ魔人の敗北を知ったドルゲは、苛立ちの雄たけびを上げた

『己バロムⅠ!』
≪だがこれはほんの序章に過ぎない!≫
≪『ドルゲは必ずや地球を侵略する!ロロロロロロロロロロロ!』≫

地底の空洞に、ドルゲの不気味な声が響き渡った



・・・・・・・・・・・・・・・・・




沈む夕日を前に、武正と英寿は、向かい合う

「英寿、バロムⅠは僕らにしか出来ない事だ」
「へっ、そんなもん、知ってら」
「あぁ」

英寿の返事に、武正は英寿の手をとった

「うえ!?何でぇ気持ちわりい!」
「英寿、僕は僕達だけの力で、ドルゲを倒せるとは思えない」

突然手を握られ、気恥ずかしくなって振りほどこうとする英寿の手を強く握ったまま、武正は言う
その言葉に、英寿はむっとし、勢いよく手を振りほどいた

「そんなもん!やってみなけりゃわからねえだろ!」
「でもドルゲとは戦う!」

英寿の目を睨むように真剣な表情で見据えながら、武正は言った
武正は現実的に自分達の能力を考え、ドルゲとの戦いを人任せにしようとしていた、だが、それでは大勢の人が犠牲になってしまう
それがわかり、バロムⅠとしての力、それをフルに使う事を選んだのだ
そんな武正の態度に、英寿はへんっと鼻を鳴らす

「ああ!そんで最後に、ドルゲもやっつけるんだ!」

試合に勝ってホームランも打ってやる!的なノリで物を言いに、武正はまた何か言おうとしたが、やめた
そうだ
最初からドルゲに勝てないと決め付けて戦ったのでは、戦い抜く事などできないだろう

「……そうだな!」
「そうさ!」

真剣な表情のまま口元に笑顔を浮かべ、肯定した武正の肩に英寿は手をのせ、自分も口元に笑みを浮かべる
戦う誓いを立てた二人を、夕日が真っ赤に照らし出していた…
















       

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Neetsha