Neetel Inside 文芸新都
表紙

見開き   最大化      

ラジオ+花びら+ロボット三原則+記憶/SHISA/あう



「ちょ、どういうことだよ!」
「だからさっきも言ったようにもうその手配書は取り消してあるんだよ。間違いだった。そのロボットは賞金首じゃない。よって金はおまえに支払われない」
「は?!そんなのねーよ!今日食う金もねーのに!払ってもらわねーと困るンだよ!」
「知るかよ。早くそいつ連れて、出な、カイエン。次のお客が来てる」

 俺は愕然として声も出ない。
 いつの間にか俺は警察を追い出され、アホみたいな顔で雨の中を突っ立っていた。コブ付きで。


 こんなのってあるか?


 説明しよう。

 俺はカイエン。巷で噂のロボットハンターだ。略してロボハン。

 ロボット法三原則に反したロボット達を捕まえ、警察のロボット犯罪課にそいつらを持って行くのが俺の仕事だ。ただし賞金がかけられてるようなロボットだけだ。あたりめーだ、それでオマンマ食ってるんだからな。

 は? ロボット法三原則ってなんだかって?

 アイザック・アシモフ読んだことないのかよ?
 むかーしのSF作家だよ。
 ロボットの定義を初めに作った懐古の作家。
 空想の産物としてロボットの物語を書いた。
 本当に人間と見分けのつかないほどの、動く人形――ロボットを、この世に作り出すことが出来るなんて、当時の人間は思っていなかっただろうが――いや、作れると信じた奴らがいたからこそ出来たのか。

 ともかく、今の時代では当たり前のようにロボットがうろついている。

 勿論、人間と見分けがつかないような精巧なロボットは、中流家庭では買えないくらい高値で売られている。だから、殆ど街でうろついてるのは四角ばった鉄のものや、丸っこいフォルムの二足歩行ロボット、または二足歩行すらしないロボットもいる。
 しかしまあ、人間と区別がつかない訳だから、意外とこの街にも人間を装ったロボットがすまして歩いている、なんてことも否定はできない。

 で、そのむかーしむかしのアシモフさんが空想上に作った法がこれだ。

 第一条 ロボットは人間に危害を加えてはならない。また人間が危害を受けるのを何も手を下さずに黙視していてはならない。
 第二条 ロボットは人間の命令に従わなくてはならない。ただし第一条に反する命令はこの限りではない。
 第三条 ロボットは自らの存在を護(まも)らなくてはならない。ただし、それは第一条、第二条に違反しない場合に限る。

 ロボットはあくまで機械だ。家庭ロボットなんかやペットロボに愛着を持ち、「家族も同然です」なんて奴らもいるが、故障し、暴走するロボットはよくいる。そのせいで火事を起こして家を全焼させたなんてこともなくはない。まあそれは過失、事故ということになりえるが――。
 それがあまりに過ぎ、たとえばそのロボットが確信犯として事件を起こし、しかも人間から逃亡をする知能を持った奴がいると、大変なことになるわけだ。プログラムに重大なバグが出来たのかなんなのかはわからないが、そういったロボットには賞金がかけられ、市民に呼びかけられる。このロボットを見つけたら、捕まえたらいくらいくらやるってな。


「それで食ってるおかげでこれだよ」

 せっかく手配書のロボット【SHISA】を見つけて連れて来たってのによ。
 ちらりと横を見ると、どうみてもロボットに見えない、一人の少女が俯いていた。
「うっ…うう…ひ…っ」
「確かに変だと思ったんだよ、こんな泣くしかできねえ女型ロボットが指名手配ロボなんてよ」

 溜め息を吐く。
 俺がちょっとした用事である町にいった帰り、砂漠を渡っていたら、こいつが泣きながら砂漠に突っ立ってたわけだ。きちんと砂漠用コンバットブーツはいて、服もそれなりにその場にあった服を着ていたが、どっかで見たことある顔だと思い、手元の賞金首帳を見たら…まあ載ってたわけだ。かなりショボイ金額だったが、持って帰ったら生活の足しにはちょうどいいと思った。
 そしたら、間違いだってんだからなあ…。

「おい、お前指名手配じゃねーそうだ。だから用はなくなった、帰っていいよ」

 自分でもひどいと思うが仕方ないだろう。
 俺は知らなかったんだ。間違って手配書出す警察が悪いんだ。俺は悪くない。
 しかし少女は相変わらず泣いていた。
「おい、俺は行くからな」
「シサ、帰るところ、ヒッ…、ない」
「は?」
「帰るところ、ない」





 ラジオからよくわからない音楽が流れた。
 花びらがどうとか、恋がどうとか、なにやらクサい歌をねちっこく女性歌手が歌いあげている。気まずかったからこそラジオをかけたものの、さらに気まずくなった気がした。テーブルから立ちあがってラジオを消そうとすると、視線が俺に向けられた。
「消さないほうがいいのか?」
「…はい」
 女ロボット…シサはうなずいた。音楽を珍しそうに聴き入っているようだった。
「……」
 どうしてこうなったんだろう。
 どうしてロボットをとっ捕まえる側の俺が家にロボットを招き入れてるんだろう。今までロボットに情を持ったりしないようにということもこめて、家に置いたり関わったりもしないようにしていたというのに。
 俺は頭を抱えて何度目かの溜め息を吐く。
「明日…買い取り屋に売りに行くまでだからな、ウチにおいとくのは」
「…はい」
「で、お前何が出来るんだ?家庭用ロボットで掃除とか出来るのか?」
「…いいえ」
「仕事用か?IT系の事務とかの」
「いいえ」
「じゃ、なんだ?まさかセクサロイドか?」
「?」
 俺の言ったことが分からなかったようで、シサは首をかしげるような仕草をした。
「セックス用かってきいてんだよ!」
「! 違います」
「じゃあなんだよ?何のために作られたロボットだ?」
「……なんの、ため」
「単なる愛玩用か?見る専の」
「…だったと、思います」
「わかんねーのかよ。プログラムされてないのか?」
 シサは俯いて何も言わなかった。
 本当に分からないのか、もしくは言わないようにされているとか…?
 そんな変わったロボットには見えないけどな。
 高値の価値のあるロボットだろうが。
「まあいいけどよ、俺には関係ないしな。俺は疲れた、寝る」

 じっとソファに座ったまま何も言わないシサを残して、俺は寝室に逃げ込んだ。奴が睡眠をとるタイプなのか、スウィッチをわざわざ操作しスリープモードにするタイプなのか分からなかったが、いちいちそんなことを気にしてやるのも面倒なので、無視した。





 旅の疲れもあって、俺はぐっすりと眠っていた。
 誰か入って来た気配にも気付かなかった。

 気付いたら自分の胸にナイフが刺さっていた。

「?!」

 俺はびっくりして、飛び起きた。

「…血がでない」
 ぼそりと声。
「?!おまえ、」
 見ると、シサだった。
 暗い部屋にぬぼうと立っていて誰だか一瞬分からなかったが、月明かりで少しだけその顔が照らされた。
 今日拾って来たロボット、シサだ。
「カイエンさん、なんで血が出ないんですか?」
「は?」
 ふとナイフが刺さったままの自分の胸を見ると、全く血が出ていなかった。
「…え?」
 それどころか、回線と思しきひも状のものが出て、バチバチ火花を散らしている。
「…あ」


 それを見た瞬間、俺の記憶が塗り替えられた。

 光速で、なにもかも蘇る。





 なんのことはない、俺がロボットだったのだ。


 長い間、自分を人間だと思い込んでいたロボット。
 しかも犯罪を犯す壊れたポンコツ機械の尻を追い回していた。


「俺がそのポンコツ機械だったのか?」
「……気付きませんでした」
「お前、なんでこんなことしたんだ?俺の記憶を直しにきたのか?」
「いいえ」

「私は、対殺人用に作られたロボットです」


「……だからお前、泣いてたのか?」
「!」
「殺したくなくて。だからお前、今も泣いてるのか?」
「お前の設計者は何を考えてるんだろうな。殺人用に作ったのに、泣くようにプログラムするなんて。よほど鬼畜かロマンチストか」
「……」

「俺を殺すのか」
「いいえ…あなたは、人ではないようだから」
「?人だったら殺すのか?」


「…はい。私は、そういう風にプログラムされています」




 もうこの街には、人はいません、とシサが言った。

 シサの顔をじっとみると、暗がりの中彼女の頬から、はらはらと何かが散っているのが分かった。



 花びらみたいだ、と口に出そうになったが、先のラジオで流れていた歌のようで、やめた。




owari
----------------------------


言い訳
5pくらいで投げた漫画を元ネタに改変してむりやり短編にしてみました。
色々ひどい。最後のとこなんてセリフだけっていうね。
着地点を途中でめんどくなって変えたので矛盾だらけ、読み返すのも嫌なので推敲もまったくしてません。そして締切には遅刻しました!ごめんなさい。

       

表紙
Tweet

Neetsha