Neetel Inside ニートノベル
表紙

アイノコトダマ
そして、沈黙は破られた

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 なんだかんだでエネの依頼を受けたジーノ達は、あれから大急ぎである村へ向かっていた。ジーノとフィーがディーの依頼を受けて調査した村、あそこはキサラギの諜報活動の拠点ではなく、所属不明のコトダマ使い達を有する組織のものである可能性が高いらしい。
 二人が報告した結果、ジリエラシティの監視が村につけられているため、騎士たちが決定的な証拠を手に入れる前に大規模な証拠隠滅を行う可能性があるらしい。
 証拠隠滅が行われる前に行動するために、3人は旅路を急ぐ。そんな時間のない状態で、エネの依頼を受けてからのジーノは嘘のように冷静だった。念願の復讐が成し遂げられるかどうかという状況で、彼はいつも通りに振舞っている。そんなジーノの様子に、リンとフィーは不安を抱かずにはいられなかった。

 眼を閉じて、体を休める。もはや目的地まであと少しといったところだが、どれだけ急がなくてはならないとは言っても、到着してからが本番だ。疲労困憊で間に合っても意味はない。
 ――ドクン――
 心臓が強く脈打つ。そう、これは生きている証。
 ――…ドクン――
 鼓動のリズムがゆったりと力強く響く。そう、俺は生きている。
 ――ドクン…――
 闇に溶けるように静かに鼓動は鳴り続ける。そう、あの時消えていったもの。
 俺はただ必死に何かを繋ぎとめようとして足掻いていた…。
 ――ドクン!――
 目の前で鳴っていたはずの鼓動は止まる。代わりに俺のそれは、うるさいくらいに響いている。
 もう、何も見たくはなかった。
 聞きたくはなかった。
 感じたくなかった。

 白い髪をなびかせながらコトダマ使いは微笑む。
 無邪気に、残酷に。
「――」
 その言葉に意味など無かっただろう。だって俺の心には何も響いていない。何も感じていない。

 ――なのに何故俯いてしまったのか――

 眼が、合った。俺の両手に抱えられている、妹だったモノと――。

 ――モウ、イヤダ…

 ――コンナ、現実…

 ――コンナ、世界…

 ――全部、ミンナ…


 ――キエテシマエバイイノニ――

     

 唐突な発光。
 そう、圧倒的な光に3人は眼を覚ます。まだ日も昇っていない時間に、目的地の方向からありえないほどの光が辺りを照らしている。
 ジーノは吐き気を強引に抑え込んで立ち上がる。コトダマ使いが起こしたであろうこの現象に、ジーノは口を歪めて微笑んだ。
 発光が収まり、眼がまともに開けられるようになると、ジーノは手話で二人に話しかけた。
(リン、フィー。ここからは打ち合わせ通り二手に別れて動く)
 もはや証拠隠滅阻止が叶わぬのなら、別々に動いて少しでも組織の実行部隊の情報を集めなければならない。経験不足のリンを補うためフィーと組ませ、ジーノは単独で情報を集める。
 二人に背を向けて行動を開始しようとするジーノに、リンは鋭い目つきで話しかけた。
「ジーノ、情報収集よ。分かってるわよね?」
 そんなリンの言葉に左手で大丈夫のサインを出すと、ジーノはそのまま茂みの中へ消えていった。
「ジーノさん…」
 心配そうにジーノの方を見つめるフィーを見て、リンは大きくため息をついた。
「あたしらの分早く終わらせて、ジーノ奴とさっさと合流するわよ!」
「…そう、ですね。急ぎましょう、リンさん」

 二人は妙に心配そうな顔をしていた。何をそんなに心配しているのだろうか。未だ相手の情報がほとんどないこの状況で、俺が強硬策に出るとでも思っているのだろうが、杞憂も甚だしい。
 俺は姿勢を低くしながら、さっきの光の発生源の方へと進む。物音をたてずに、周囲に神経を張り巡らせながら移動していく。
 そうやって進んでいくと、見張りらしき人間が数人、道を見張っていた。確認したところ人数はそう多くない。考えていたよりも、気付かれず突破することはそう難しくはなかった。エネの言っていた通り、連中は準備万端な状態で行動しているわけではないようだ。
 見張りたちに見つからないようにしながら少し進むと、何やら焦げ臭い香りが立ち込めてくる。恐らくはさっきの発光現象のせいだろう。
 木の陰に隠れ様子を窺うと、村は凄まじいことになっていた。村が8割がた灰になっている。中心部から放射状に灰になっているが、何故か1部分だけが残っている。まるでそこだけ何かで被害を防いだような…。
 俺は眼を凝らして確認する。よく見るとそこには4~5人ほど残っていた。このままの距離では話声までは聞き取れないため、俺は最新の注意を払って移動した。
 少しばかり移動したおかげで、人影に入って見えていなかった人物の姿が俺の眼に入った。
 ――ドクン!――
 俺の中で強く脈打つ。音が消える。瞳が乾きそうなほどそいつを見つめて、俺は…。
 
 ――背中が隠れそうなほどに長く、嘘みたいに白い髪が揺れている――

 景色が流れる。
 距離が一気に縮まっていく。
 3人がこちらを見る。
 ――構うものか。
 薙ぎ払う、邪魔する者は全て。
 バスタードソードブレイカ―が前に出てきた2人の命を奪う。
 俺はそのままバスタードソードブレイカ―を手放して短剣に持ち替える。
 ――邪魔だ。
 短剣がもう一人の首を切り裂く。
 血飛沫が視界を遮る。
 俺は、白く長い髪をした女の前に立っていた。
 ――ドクン!!――
 俺は女を憎悪をこめて睨む。
 俺を見つめ、表情を変えずに女は口を開いた。
「あなた、私を知って…いえ、私はあなたを知っているのね」
 ――意味、が、分から、ない。
「そう、私たちは互いを知っているのね」
 ――何を、言って…。

「なら、私たちは一緒だわ」

 ――あ

「あ、あぁああああああああああああああああ!!」

 俺の声が響き渡る、12年前のあの時と同じように…。

       

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