配られたカードを教えてくれたら、エッチなことをしてあげる。
最も人間らしい誘惑に手を引かれ、泉田は面会室へ足を踏み入れた。
「いらっしゃ~ぁい」
まるでキャバ嬢のように声を上ずらせながら、五日市は冗談ぽく迎え入れた。生れついたその美貌に加え、美容には常に力を入れてきた。不細工男子の筆下ろしの相手としては、分不相応すぎるほどに高嶺の花。
「緊張しなくていいからねぇ」
頬を強張らせる泉田の腰に腕を回して、ぺろりとその頬を舐めた。
「い、いつか……いち……」
泉田にはあまりにも不似合いな、初体験の相手。
人生最高の至福に身を任せながら、男は果てた。
そして、この数分かそこらの後に、泉田は思うだろう。死ぬ前にイイ経験をしておいて良かったと。
○
こうして、一人突出した情報をかき集めだした五日市。そして中村彩乃もまた、女子相手に同じことを始めている。情報戦において、この二人が頭一つ抜け出すであろうことは間違いがなかった。
しかし、五日市と中村がこうして動くことは同時に“不細工組”のドロップアウトを防ぐ効果もあり、六田や栄和は二人の行為を妨害できない。結局、五日市と中村の進撃を指をくわえて眺めているしかなかった。
(……ま、そうは言ってもそうは言ってられん。こうなった以上、五日市と中村にカードの情報量でリードされるのは仕方ないが、その間にもこっちはこっちでやるべきことがある)
栄和は青山と共に面会室へとやってきた。今回は吉田の時のように面会室を使う為に無理矢理付き合わせたのではなく、青山と面会するために来た。
青山 雄太(あおやま ゆうた)。可愛い系男子で中間組の一人。ただし、運動部でトレーニングを積み重ねてきた体は太く筋肉質で、最近ではその愛らしさは失われつつあると言われてもいる。気は強い方ではなく今も栄和に対して怯えた警戒心を抱いている。
「ゲームをしよう」
開口一番。栄和はそう言い放った。
「……ゲーム?」
「いや、別にビビんなくて良いんだよ。きっと損はしないと思うから安心して」
栄和は……青山の警戒心を強めないよう、細心の注意を払いながら話を進めた。
「この紙には、このクラスの“上位十人”を更に美系順に並べたランキングが書いてある。あくまで俺の予想でだけどね」
後藤、六田、麻柄、中村、大川、吉向、高坂、五日市、東山、本条の十名。ここではあえて栄和自身の名前は省いておいた。
「この、10人を俺が上から予想して並べたランキングが書いてあるから、青山はそれを予想してみて。もし完璧に当てることができたら、俺の最終獲得賞金の2割を譲る」
高額賞金を望めそうな栄和の2割。青山にとっては食指を動かされる話である。
「……もし外したら? 俺は何を賭けさせられるんだよ?」
「別に、何も」栄和はあくまで優しくそう答えた。「これはつまり、俺は青山の“意見”が欲しいってゲームなんだ。上位10人の順位をどう並べるのか、青山はどう考えているのか。それを聞かせてもらう代わりに、もし俺の意見と一致すれば2割を払うってこと。悪い話じゃないっしょ?」
悪い話じゃないどころか、青山にとっては美味しい話である。栄和の話術によって警戒心はあっけなく解かれ、青山は栄和の考えに素直に関心していた。
「オッケー。やるよ」
こうして青山はシャープペンシルを手にとり、自らの予想を紙に記し始めた。栄和の柔らかい物腰に青山は仲間意識を抱き、「自分が真剣に予想することで、栄和くんの参考になれば良いな」とすら考えている始末であった。
このゲームには、当然あるべき“大原則”……“大前提”が、栄和の意図によって欠落していることにも気付かずに。
……もちろん、それも全ては計算通り。あっさりと騙されそうな馬鹿が、栄和によって選ばれた。ただそれだけのことである。
○
第八節を終了し、第九節。ここでも栄和は面会時間、更には教室で失格者が発表される時間などをフルに活用し、二節の間に六人もの男女とゲームを行った。“当然ながら”、栄和のランキングを的中できた者はいない。
こうして得たアンケートの結果を数値化し、集計。例えば青山が後藤を1位と予想すると、後藤に10点。同じく2位9点、3位8点と、1点刻みに10位1点まで。6人分のランキングでこれを行い、その結果をまとめる。
1 後藤 仁 54点(4-1-2-1-3-1)
2 高坂 千里 50点(2-3-1-4-1-5)
3 東山 桃子 49点(3-2-5-2-2-3)
4 本条 亜由美 44点(1-7-3-3-4-4)
5 大川 光介 37点(7-4-4ー6-6-2)
6 吉向 しのぶ 32点(5-5-6-5-5-8)
7 中村 彩乃 21点(8-6-7-7-8-9)
8 五日市 美花 18点(6-10-8-8-10-6)
9 麻柄 杏一 14点(10-8-9-9-9-7)
10 六田 翔之介 11点(9-9-10-10-7-10)
こうして――得られた結果を見て、栄和が自分自身の作ったランキングとの違いに一抹の不安を抱いている頃、相澤・荒谷・高坂・小林の四人組も生徒の顔ランキングを暫定的に完成させていた。
(一行五名。左から美しい順)
後藤仁 東山桃子 本条亜由美 高坂千里 大川光介
中村彩乃 栄和真太郎 吉向しのぶ 六田翔之介 五日市美花
麻柄杏一 白山由佳里 相澤郁保 荒谷光 水戸沙希
吉田傑 原見葵 岸村真 小林千尋 常節若菜
工藤真矢 青山雄太 土屋博明 室川美幸 泉田和成
中川里美 比川佑介 矢野京子 蜷川雅人 根元駿
柿本和文 藤河沙織 染谷康介 小本昇平 高橋藍
田中清志 遠藤静香 千葉秀美 佐藤瑞穂 堀田泰明
三浦卓也 大沢玲子
「……うん」
相澤が、何度も何度もランキング表を見返しながら、手応えを掴んだように頷いた。
「……これなら、可能性はある」