Neetel Inside ニートノベル
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顔の嵐
人間を殺める

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「はーっはははは!!!」
 六田の高笑いが教室中にこだまする。
「見たかぁ五日市!! 俺に逆らう奴には容赦しねえ!! 小本が死んだのもてめえのせいだぞ!!」
「……あ、そ」
 五日市は興味無さ気に背を向けた。六田の賞金の五割を奪えなくなったのは残念だが、小本が死んだ事そのものについては何も感じていない。
『それではこれより第五節の面会時間を設けます。希望者の方はどうぞ』
「……行こう」
 言葉少なく、荒谷の腕を引いて教室を出た相澤。そして、その様子をじっと眺めていた栄和……。
「吉田くん、ちょっと付き合ってよ」
 栄和もまた、吉田を連れて別室へと向かった。

「……まさかあんな事になるなんて。小本くん……」
 小本の事を心から不憫に思う荒谷。まだゲーム序盤のこの段階では、たしかに六田や五日市のように他人をばっさりと切り捨てられる者の方が奇特ではある。だがそれにしても、特に荒谷はこのゲームに向いていない。他人の事を心から心配しており、六田や五日市に対しても非情な感情を持てずにいる。
 また、口で非情を騙っているだけの相澤も同じ。こうして二人きりの空間にいても、お互い裏切ることなど少しも考えていない。
「と……とにかく、ランク付け急がないとね! がんばろ」
 沈んだ空気を明るくしようと気を張る荒谷。
 ああ、とだけ答えて、相澤は再び紙の上にシャーペンを走らせた。
 荒谷と相澤の二人は、まず生徒全員を三つのランクに分ける事から始めていた。荒谷と相澤の顔レベルを同じようなものとして、『自分以上』・『自分と同じくらい』・『自分以下』の三ランクに区分ける。細かく順位付けるのは時間を要する上、あくまでも主観が入るため正確なランキングは作れない。しかしこの三つのランクに分けるだけならほぼ誤差が出ない上、ゲーム序盤であればとりあえずこのランキングでも充分だと考えてのことだった。何しろ芸能人カードのランク付けも行わなければならないのだから、生徒のランキングだけに時間はかけられない。
「……こんなとこか」

 =確定的に相澤・荒谷以上=
 大川光介 後藤仁 栄和真太郎 中村彩乃 麻柄杏一 六田翔之助
 五日市美花 吉向しのぶ 高坂千里 東山桃子 本条亜由美 

 =恐らく相澤・荒谷と同程度=
 青山雄太 岸村真 土屋博明(脱) 吉田傑
 工藤真矢 小林千尋 白山由佳里 常節若菜 原見葵 水戸沙希 室川美幸

 =確定的に相澤・荒谷以下=
 柿本和文 小本昇平(死) 泉田和成 染谷康介 田中清志 蜷川雅人 根本駿 比川佑介 堀田泰明(死) 三浦卓也(脱) 
 遠藤静香(脱) 大沢玲子(死) 佐藤瑞穂 高橋藍(死) 千葉秀美(脱) 中川里美 藤河沙織 矢野京子(脱)

 精神的な面では間違いなくこのゲームに向いていない相澤と荒谷。その二人にアドバンテージがあるとすれば、それは仮にも二人が「美系」だということ。もちろん六田や五日市など確定的に敵わない者も多いが、逆に自分達より下の生徒達もかなり多い。このランク付けを行う作業の中で、ようやくその事を認識した二人。
「え……ってことはさ、このランキング通りならまだ意外に余裕あるってことなのかな? 私達……」
 安堵の表情を浮かべる荒谷。瞬間、相澤は顔を怖くして声を張り上げた。
「そんな事言うな!! ……そんなの、あくまで芸能人のカード次第だ。油断しちゃ駄目だ。絶対」
 相澤は、特に荒谷の身を強く案じている。こんなランキングを見ただけで安心してしまう荒谷を、強く戒めた。
「そ、そうだよね……。ごめん」
「いや……。悪い」
 再び会話が無くなる教室。
「そ、そういえばさ、相澤くんの芸能人カードは誰なの? 石井先生が『カードを見せるな』ってしつこく言ってたから聞くのも駄目なんだって思い込んでたけど、美花ちゃんや六田くん達の話聞いてたら人から聞くのはアリなんだなーって!」
 教室の雰囲気を保つ為、無理に明るく振舞っている。。
「いや……、お互いのカードを聞くのは芸能人のランキングを作ってからにしよう。お互いのカードを知ってるってことが、ランク付けの時にどう影響するか分からない」
 そう話しながら、石井に配られた芸能人一覧表をポケットから取り出す相澤。
「そ……そっか! そうだよね。よし、芸能人のランキングがんばろ!!」
「ああ。最終的にはどっちのランキングも細かく順位つける必要があるんだし、急いでやらないとな……」
 そうして、やはりまずは三つのランクに分けることから始めた。荒谷と意見を交えながら、少しずつ作業を進めていく。
「なあ、光」
 しばらく作業を続けた後、会話が途切れたところで相澤が荒谷の名を呼んだ。
「どうしたの? 相澤くん」
「光は……このゲーム、どう思った?」
 突然の質問にうろたえる荒谷。
「そりゃ、ひどいゲームだなって……」
「ああ……、酷い。しかも一節ごとに必ず一人ずつ死んでいく。皆が助かる手段なんて絶対に無いんだ。……絶対に」
 相澤はギリギリと歯を食いしばった。その姿を見ながら、ただならぬ様子に息を呑む荒谷。
「……だったら俺は、『好き嫌い』で人を救いたい!」
「!」
「俺は……六田は許せない。嫌いだ」
 荒谷は遠慮がちに頷いた。
「他の奴らが死ぬくらいなら、俺は六田に死んで欲しい。……俺が、六田を殺す」
「!!!」

 ○

「え……あの、なんで連れてこられたの??」
 栄和と吉田の別室。
 教室中央の椅子に吉田を大人しく座らせて、栄和は隅の方で勝手にランク付けを進めていた。
「別に……。一人じゃ面会室は借りれないって言われたから。皆がいる教室はうるさいし、さっきの節で付き合ってもらった柿本くんは他の人と面会するって言うし」
 なんだか少しいじけたように言い捨てる栄和。
「さっきの節って……。栄和くん、小本くん達のやり取り見てなかったの??」
「興味無い。どうせ自分には関係無いし」
 栄和 真太郎(さかわ しんたろう)。眼鏡から漂うインテリなイメージ通り、学校の勉強だけではない「頭の良さ」を持っている。
「そ、それで……ランキングはできたの!?」
 身を乗り出して覗きこもうとする吉田。
「うん。絶対見せないけどもう出来た」
 びっしりと文字の書き込まれた紙を丁寧に折り畳むと、吉田が歩み寄るより早く制服の内ポケットにしまい込んでしまった。
「こんなゲームを主催してる時点でまともな連中じゃないのは分かってたけどさ。このランキング、かなりの性悪だよ。……絶対見せないけど」

       

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