Neetel Inside ニートノベル
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わが地獄(仮)
『ガス室』

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 ガス室が法律で整備された。そのことに特に依存は無い。人間は増えすぎていたし、生きることにそれほど価値はないし、区画整理は必要だ。ただし戦争は駄目だ。あんな何もかも焦土にするようなことをするくらいなら潔く自殺した方がいくらかマシだ。それによくよく考えれば死ぬコトの方が合理的だ。なにせもう苦しむことがない。楽しいことも味わえないなどと言い出す臆病者もいるにはいるが、そもそも楽しいなんていうのは勘違いだ。暇が上手に潰れて満足しているだけのことで、それ以上のことじゃない。わざわざ誰かを追い詰めたり悲しませたりしてまで維持する平和にどれだけの意味がある。ほどほどの数が生きてほどほどに死ねばいい。今は、異常だ。
 だから苦しまずに死ねるガス室が作られた。死体の処理も簡単だ。ガス撒いて詰めてある人間を殺したら、そのまま焼却炉に様変わり。高圧バーナーで一気に消し炭にする。骨も残らない。とても効率的だ。
 よく考えろ。
 年間何人が孤独死してる。その死体の始末をしてる若い連中の未来を考えろ。ボケッと生きてきて詐欺に遭ったらあっけなく手放すような銭しか自分らしいものがないくせに、ちゃんと立派に生きてきましたみたいな顔をよくできるものだ。本当は自分が一番もう死んでも同じだと分かってるくせに、朝が来るから起きてるだけだろう。死ねばいいんだ。
 人間が多すぎる。
 減らせばいい。そしてもっと土地に密着して細々と生きていけばいい。海外旅行なんて不要だ。学問もいらない。そんなことより国のあり方を明らかにすることのほうがリトマス試験紙なんかより充分に必要なことだ。だからとにかく間引くしかない。
 もちろん、若い人間もやる。
 そんなに既製品がいいなら話の分かる颯爽とした美男美女以外は殺してしまおう。べつに構わない。皆殺しだ。一匹たりとも逃がさない。草の根分けてでもお前らの嫌いな人種を焼き尽くしてやるよ。
 それで出来る平和に俺はお前らをぶちこむ。少ない牌を小ずるく食い合うことしか能のない連中がいったいどんな発想で平和に相対するのか見物だな。正論? 吐けばいい。セオリー? 守ればいい。それでどうなる。あほんだら、そんなことすれば確実に破綻する。じわじわと現実に嬲り殺しにされるというのがお前らには分からんのだろうな。下がいるから。
 その下を取ってやるよ。
 他人の言葉で他人の服で他人の髪で他人の顔で生きてきたお前らが、その元になりうる個性を焼いた後に何が残るか見物だぜ。キョロキョロキョロキョロさ迷い歩け。お前らは真実を焼いたんだ。お望みどおりの人生だろ? 空気を読んで、相手の言葉尻をひっつかまえて、自分は正しいんだ、生きていていいんだと錯覚し続けるために他人を陥れ続けろよ。俺は全然構わない、あの世で連中と楽しく観察させてもらうよ。お前らのその低能ぶりをな。
 死ねばいい。
 どいつもこいつも死ねば少しはマシになる。生きてるってことは無意味なことだな。それが分からんくせにガス室を作らんってのはどういうことだ? どう考えたってガス室だよ。ほかにない。人間をドカッと殺して、困るのは死んだ人間じゃない、残ったやつらだ。困らん程度に残せる自信があるならやってみな。一度焼いたら最後までいく。途中じゃ止まらん。
 お前らは知るだろうよ。自分たちがいかに愚かだったか、どれほど人生に意味が無いかを。死ぬのが常道、正しい現象なんだということをうすうす感じなら馬鹿馬鹿しく生きていけ。そうしてめくらみてぇによちよち歩いたお前らが、めあきを虚仮にしてたんだからお笑い草だ。お前らなんか何にもわかっちゃいねぇのさ。表面、表面、表面。てめえら一皮かっさばけば悪臭ぷんぷんの臓物なのによ、何を格好つけているんだか。馬鹿馬鹿しいことこの上ないぜ。だから俺はガス室にいく。そこで燃えて死ぬんだ。俺に墓はいらない。遺体もいらない。何もいらねぇんだ。何も無いんだから、この世には。満足できるものなんか何も無い。最初から空っぽだ。俺はお前らにも世の中にもつくづく愛想が尽きたんだ。べつに俺だけじゃねぇ、ほとんどのやつはうすうすそれを分かってるんだよ。真実はいつも後回しにされるから、ホコリをかぶって眠ってるだけだ。俺はそれを最優先にした。だからガス室なんだよ。
 痛いとか苦しいとか、まるで無意味なことだったな。そんなものがあるから余計に痛みや苦しみが増幅するんだ。そういうものから逃げようとするから戦争が起きる。最初から痛みも苦しみも無ければ、何も起こらない。それじゃ無機物と一緒だというのなら、無機物のほうがあり方として美しいな。砕かれたって石ころは文句も言わねぇし、自分の形なんかどうだっていいんだろう。文句をつけてくるのは人間様さ。醜い醜い猿野郎どもめ。せいぜいめそめそしながら生きていけ。てめえらなんかお呼びじゃねぇ。ガス室で焼かれる気になったら手を挙げろ。いつだって、苦痛のない死だけが上物なんだ。痛み、苦しみ、悲しみ、孤独。そんなものすべからくゴミ箱いきで結構だ。何の意味もなけりゃあ次にも繋がらん下らん感情。忌むべきは、そんなゴミよりわずかでも価値ある快楽なんてこの世のどこを穿り返してもありはしなかったってことだけだ。

       

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