Neetel Inside ニートノベル
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わが地獄(仮)
食事

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 味がしない。
 食べようと思わない。
 だから作る。



 必要なものは卵、鶏肉、きのこ(なんでもいい)、タマネギ。
 100CC測れるカップに、醤油50CC、みりん30、あとは水。30も入れれば十分。合計が100以下になればいい。
 フライパンにオリーブオイルを適当にひたして(サラダ油はすぐに腐る)、炒める。肉からでもタマネギからでもいい。すべての食材が冷凍されていると、細胞がグチャグチャになったタマネギから水分がかなり出る。ほぼ煮込むような形になる。
 加熱。
 加熱すれば喰える。あとは塩と醤油でほとんど食べ物の味になる。
 俺は偏食だったから、子供の頃の味覚がほとんどない。「おせち」と聞いておせちがどんなものなのか想像できない。俺にとっておせちとは正月の季語のようなものでしかないし、友達のお母さんからもらったくらいでしか食べる理由がない。
 そんなことはどうでもいい。
 食事に意味なんかない。
 だからつくる。



 生きるのがヘタなんだ、と気づいたところで、治ったりしない。俺は美味そうという理由で食事をつくることを努力したりしないし、美味いってどういう感覚なのかわからない。舌にしびれるような甘味を感じることなんだろうなとは思う。
 自分に美味い思いをさせたからって、なにか値打ちがあるんだろうか?
 そもそも自分に価値がないのだから、守る理由なんてない。俺は母からそう教わった。母も自分を守らなかったし、俺も自分を守らない。守る価値がないから。
 楽しい気分も色あせていくだけだし、失った時の孤独が深まるだけだから、調整していかないといけない。生きるというのは俺にとって退屈の塊で、他に何もない。
 だから自己紹介ができない。
 俺には紹介する自己なんてないから。
 ただ生きているだけ。熱も想いもどこかへ散った。
 それでいい。



 なにかに中毒できない。
 酒すらあれだけ飲み倒しても翌日には飲まない。
 どんな遊びも一日で飽きる。
 生きていることは、埋まらないものが、埋まらないことを確認していくだけの作業に思える。
 機械を脳にくっつけて、彼に俺の身体を動かして欲しい。
 俺をベストなコンディションでメンテナンスし、余計なことを考えないように支配してほしい。
 いつかそんな世界になればいい。
 そう心から思えないから、つらさが消えない。











       

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