Neetel Inside ニートノベル
表紙

電波ジャッカーBLUE 【完結】
第二話【モラハラ】

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担任に呼び出された。
空き教室に春子、担任、そして山本。

元お嬢様女子大生みたいな担任の先生。

「志村さん、どう言うこと?」

どう言うこと…って
何で聞くよそれ。

山本は泣いている。

イジメてました、って言うしかないよな。
それ以外言うことないし。

でも、今それ言ってしまうと、開き直ってるって思われたりしーひんかな。

担任は黙ってる。

春子は担任のその一連の所作が、何かとても無責任なものに感じた。

「イジメてました。」

「何でそんな事したの?」

おっと
流石にどう答えたら良いか分からなくなった。

担任は何を期待してるんだろう。
どんな答えを期待してるんだろう。

正直に胸の内を話すのか、反省してます的な言葉を織り交ぜるのか。

何を言ってももう非難される気がした。
気がする、というか、多分確実に非難される。


でも、よく考えたら仕方ないか。
イジメって悪いことやし、罰的なものは必要なわけで、今のこれがそうなんや。

春子は、客観的にそう思うことで自己防衛出来た。

「分かりません」

一番無難だけれど、一番担任が納得しなさそうな言葉を選んでしまった。
「分からへん事ないやろ!?」

担任はそう言った。
春子は、じゃあもしお前ならどう答えんねん、と思った。
私はイジメなんてしません!って言うんやろどうせ。
もしもトークできんのかお前は!

春子は頭の中の妄想で勝手に怒っていた。

山本は泣いている。

山本よ。
おまえは今安全圏にいるんやぞ。

自然界では攻撃側が安全圏
でもこの文明社会では人に攻撃すること認めてへんねん!

攻撃した奴はな!
社会から攻撃されるねん!

だから、攻撃されてるお前の方がむしろ安全圏やねん!!

そこから先は何があったのか覚えてない、記憶が飛ぶ。

     

春子の自宅

両親はどんな気持ちなのか、いい気持ちではないだろうけど。
春子に優しく接した。

「おかあさん」

「春ちゃん、山本さんのお家に謝りに行かへん?」

「…」

これはいずれやらなければならないことだと思った。
凄く怖かった。

でもやらなければならないことだ。

「…行く」

「そうやな、お父さんとお母さんも一緒に行くし。ちゃんと謝ろな。」

「春子」

今まで黙っていた父が口を開いた。

「オトンが今から言うことはな、道徳的に正しいかは分からへん。」

春子は黙って聞いた。

「人間なんて不安定な生きもんやし、理由もなく人を嫌いになったり攻撃したくなったりする。化学現象やねん。
 山本さんやったっけ?その子イジメてたんもそんな具体的な理由は無いと思う。」

春子は心の内を見透かされたような気がした。

担任の先生の「何でイジメなんてするの」と言う言葉が自然に反復された。

「でもな、…。」

それ以上父は言わなかった。

ただ春子はその「でもな」の後の言葉がどんなものなのか分かっている。
それをきっと父も悟って最後まで言わなかったんだろう。

「春ちゃんはもうおっきいから分かるもんな。」

隣に座っていた母が言った。

担任と話しているときはあんなに自分を守ることばかり考えていたのに。
両親と話した後春子は霧が晴れたようだった。

もうこんな間違いは絶対犯さない。
自分がやったことを悔いた。
心から反省することが出来た。
謝ろうと思った。

そして志村一家は山本の家へ向かう。

     

山本の家の玄関はどこかカビ臭く、重苦しい雰囲気だった。

「申し訳ないですが、早苗はあなたに会いたくないそうです。」

山本の母親が出て来てそう志村親子に言った。

一瞬会っただけだったのに、山本の母親の皮膚の質感や
細部に至るまでの特徴が頭に入っていった。
それだけ春子は全ての感覚を研ぎ澄まし、緊張していたのだ。

それだけに、会いたくないと言われて追い返されたことに、拍子抜けしてしまい
それと同時に、まだこれから何かが起こるのだろうと言う不安な感覚が頭をよぎった。

家に帰る途中春子の父親が春子母親の顔をチラッと見た。

「ラーメンかなんか食べに行こか。」

母親が言った。



次の日、春子は学校へ行く気にならなかったが
それではいけないと思い、重々しい足取りで学校に向かった。

クラスに入った途端、教室は静まりかえり、視線が春子に集まった。
正確に言えば、視線ではなく、意識のようなものが春子に集まった。

山本はいなかった。

「志村さん、職員室に」

春子はそれを予想していたのか、別段驚きもせず担任のお嬢様先生の言葉に応じた。
先生の春子を見る目は、もはや教師が生徒を見る目ではなかった。

職員室の隣の相談室のようなところへ移動する。

「山本さんのお父さんです」

そこに機嫌の悪そうな男が座っていた。
山本の父親は春子の頭から爪先までを、見下したような眼差しで見つめる。

そう言う目で見られても甘んじなければならないと春子は思った。
今すぐ謝りたかったが、今は山本の父親の話を聞くべきと判断して、思いとどまった。

春子が椅子に座ると同時に山本の父親が口を開いた。

「お前か」

半笑いに見えた。

「ホンッマにしょうもない顔しとるのぅ。
 他に何もすること無いんかい。イジメやりよる奴は何考えとるか分からんのぅ。」

春子は黙って聞いた。

「黙ってんと何か言わんかい、アホでも話くらい出来るやろ。どアホが。」

「すいませんでした」

春子は決して「あい、とぅいまて~ん」的な気持ちは込めず
神妙に、遜り、自分を下げ、そう言った。

「お前みたいな奴は、どうせロクでもない家庭で育ってるんやろ。」

春子はそれには答えない

「山本さんの事を傷つけたと思います。」

「お前もどうせ何の取り柄もないクズみたいな奴やねんろ、見てたら分かるわ。」

「今更反省しても遅いと思いますけど、でも」

「黙っとれ、このクズ。」

学校のチャイムが鳴った、ドア付近でパタパタと走る音が聞こえた。
クラスメイトが盗み聞きしていたのだろう。

お嬢様先生は山本の父親に挨拶し、春子と教室へ向かった。

そして春子の顔を見てこう言った。

「しっかり反省しなさい」

先生の顔の横に
「キリッ」
という文字が見えた気がした。

     

「志村さん、職員室へ。」

最近は、呼ばれないことの方が珍しくなった。
受刑者やししゃーない、春子は投げやりな感じでそう自虐した。

「…クラス移動…?」

「そう、アナタと山本さんが同じクラスにこれ以上いるのは、難しいと判断しました。」

お嬢様先生は淡々と述べる。

「そう言うわけで、山本さんは今まで通り3年4に、志村さんは来週から3年1組に移動となりました。」

そんな

クラス移動って、違うクラスに?
何の前触れもなく?
どうしたらいいの?周りにどう言うの?

「アナタもその方がいいでしょう。」

何がや、何がええねん。
こんなこと、これからずっと、卒業するまで続くんか。

「山本…さんは、何て言ってるんですか?」

春子はそう尋ねた。

「山本さんですか?彼女は同意しています。と言うかクラス移動を提案したのは彼女です。」

山本は、春子をとことん拒絶したいようだ。

「山本さんが提案したのに、何で山本さんはクラス移動しないんですか?」

春子はそう尋ねた。
嫌味で言ったんじゃない、本当にそう思ったのだ。

志村春子を違うクラスに移せと言って、それを担任が了承した。
そんなことがあっていいのか。

「元はと言えばあなたが悪いんじゃないんですか!?」

担任は、正しきものが悪を裁くと言わんばかりの顔でそう言った。

今まで山本に対してやってきたことは本当に反省している、それで許されるモノではないのは分かっている。しかし、二度と同じ事はしない。
この担任は、そして山本は、まだ自分が同じ事を繰り返すと思っているのか。

「もうやらないです…もうあんなことしないですよ…クラス移動なんて…いやです」

「山本さんは被害者です!彼女はアナタと会いたくないと言ってるんです!それから3年4組の出入りも禁じます。」

この中学は3年間クラスのメンバーは変わらない。その中で、春子は、少ないながらも数人友達がいる。

3年1組なんて正直、顔さえ知らない人もいる。


これからあるのだ

これからあるのだ

これからあるのだ


最後の合唱コンクール

最後の運動会

最後の文化祭

修学旅行

それらを想像した。

きっと、卒業アルバムの3年4組には、春子の顔はないのだ。
きっと、名簿に名前はないのだ。
3年1組だから。

きっとそうなる、おそらくそうなる。

涙が溢れそうになった。いや、もう泣いていたかもしれない。
そして、これから来る未来に吐き気がした。

「…お願いします…他の…他の…方法を…。」

担任である女は、春子の泣きそうな顔を見ている、キョトンとしている。
女は、今春子がどんな気持ちなのか理解できないだろう。

女は春子に新たに言葉をかけた。この不良生徒を更正させなければ、正義、正義の言葉を。

「山本さんが可哀想だとは思わないのですか!!!!」

女は、こんな最低なことがあるか、と思っている。春子は悪だと思っている。春子はハイパー糞虫だと思っている。
クズだから、悪だから、非難せねばなるまいと考えている。

完全に善の存在である私が、このこをみちびかなくては。

この後女は、決して春子の願いを聞き入れなかった。

     

「よろしくな、アタシ山本早苗って言うねん…。」

そうやって照れたように春子に話しかける山本。
2年前の入学式の事だ。

自分から友達を作ろうしない春子からしたら、向こうから話しかけてくれた事はとてもうれしい事だっただろう。
しかし春子はあえてローテンションで

「おーう、志村って言うねん、よろしくなー。」

と言った。

結局春子と毎日話しをしてくれるのは山本だけで、そのまま1年過ぎた。
特に何もなく、無難に日々は過ごされた。


「なー…志村ってウザくない?いつも機嫌悪そうにしてるし。」

クラスメイトの田嶋美佐子は嫌いな奴を決めないとやっていけない性格らしい。
毎回ターゲットを決めても1か月ほどで飽きるんだけども
春子のひょうひょうとした態度が気に障ったらしい、もう3ヶ月くらい同じことを言っている。

「山本、お前志村と仲良くしてるやろ、きしょ。なんで?きしょいで?」

田嶋の取り巻きも山本に嫌な顔を向ける。
香水くさい田嶋が山本に言葉にならない圧力をかけていた。

昼休みに山本は春子に言う。

「志村さん…あんな…田嶋さんっているやん?あの人がな?」

てええええええええええええええええええええええええええええええい!!!!!!!
それえええええええええええええええええええええええええええええええええええいい!!!!!!!
どっこいしょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおい!!!!!!!
ほいさほいさほいさっさああああああああああああああああああいい!!!!!!!
うひひいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!!!


頭に浮かんできたそこから先の思い出を、春子は無理矢理消しさった。


今春子は3年1組にいる。
クラス移動させられたのだ。

みんなはあえてこっちを気にしないようにしている。
それがとてもぎこちなく思えた。

春子は座っている姿勢を変える。
なぜか…どんな姿勢で座っても、自分が不自然な体制になっている気がした。


そして3年4組

「早苗!!!?心配したんやでー!!!?」

クラスメイトの黄色い声が聞こえる。
擬音にしたら「わちゃわちゃ」だ。

「ゴメンなぁ早苗、うちら気付いたげんと…。つらかったやろぉ?」

「これからはみんな早苗の味方やからな!」

「(以下同意文)」
「(以下同意文)」
「(以下同意文)」
「(以下同意文)」


その中には田嶋の姿もあった。

こうして「山本」は、「早苗」になった。

       

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Neetsha