Neetel Inside 文芸新都
表紙

恋なし、友なし、孤独あり。
その道、孤独なり。

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 我が人生、孤独なり。
 神は私をこの世の中で位置付ける際、<ただひとつ孤独在り>と明記した。その結果、私はこの様に順風満帆と孤独道を駆ける程でもない速さで泰然自若歩んでいるのである。私が悪いのではない。これは神が決めたことなのだ。その決まりに無私な態度で従う私は良き下僕といえよう。
 そのような私にとって、大学三回生のその春は特筆するべき奇異な出来事が立て続けに起きた時期であった。何故私はこのようなものに巻き込まれることになったのであろうか。責任を問いただせばそれは輪廻の如くを人へ人へと巡り、最終的に私のところへ転がり込んでくるであろう。
 この物語を語る前にもう一度言おう、私は孤独主義者であると。
 
 ◇
 
 当時小学生の私は憧れ女子のスカートの中を毎夜毎夜と夢に見、中学生時代には連日テレビで姿を表すあのアイドルとの接吻を脳内シュミレーションしたものだ。来たる高校生の時分には誰でもよいから乳を揉みたいと渇望した。そして大学三回生となった現在、私は異性とのセックスを所望中である。もちろん相手は誰でもよい。
 ここまで読んだ女性読者諸君は私のことを「不潔」だの「不健全」だのと「不」の付く言葉を並べ卑下するかもしれない。たしかに私は紛れもない「負」の塊であるが、これだけは読者でない男子諸君へも危害を加える為に言っておきたい。男なら誰でも通る道なのだ。道標なき孤独道をただひとつ進んできた私であるが、男道はすぐ隣を走っているので確信を持ってそれを言おう。
 しかし、実現せずはそれの至るところではないだろう。彼女いない歴=年齢=20=童貞というスペックは私の孤独道たる所以であり成果である。これは誰にも卑下されるべきことではない。
 
 ◇
 
 大学という場所はコミュニティの塊である。これはいざ入ってみれば分かる。
 耳を澄ませば、カントリーロードではなく若き青春馳せるものたちの会話が飛び込んでくる。やれ飲み会だの合コンだのセックスだのオシャレだのカワイイだのカッコイイだのと抽象的な名詞と形容詞の数々がキャンパス内で飛び交うのである。言うならばそれはロンリーロードのメロディ。
 もちろん私はその言葉たちの言語的意味を知ってはいるものの、彼らと語れるほどそれらを趣味としているわけではない。仮に私が完璧にオシャレを極めたところで彼らと語り合うことはないだろう。私と彼らでは根本的に違うのだ。孤独道の周りには茨が螺旋状にプロテクトを固め、道に入ろうとすれば容赦なく刺たちがコミュニティ大好き人間を突き刺し拒む。この道の中を歩くには防具屋には売ってない特殊な外套が必要なのだ。もしそれがなければ足を進める度、赤い線がその素肌に刻まれいくだろう。その痛みに耐えて孤独道を歩んだところで、その人は自分の血を見て一時的な開放感と優越感に浸っているだけで、欝じゃない人の「私、欝かも」発言と同レベルの精神的自傷行為なのだから見ていられない。
 孤独道は生半可な覚悟では歩めないのである。
 
 ◇
 
 我が大学の自慢は美しいキャンパスだそうだが、正門から時計台まで続く桜並木道もその自慢のひとつだという。私は他の大学をあまりに目にしたことがないゆえ、これが本当に素晴らしく美しいものかは定かではない。
 しかし、これだけは言える。我が目前に続くその桜並木道の下、新入生を我先とサークルなるものに勧誘する彼らは間違いなく汚れの塊だ。入りたいサークルなど各個人でみつけ、慎重に選ぶべきである。それを待たず押し付けるように入会案内の紙くずをばら撒く彼らは自信と誇りを失った怠惰的飲み会サークルばかりである。
 しかしながら新入生というものは大学生活に何かしらに期待を抱いており、その餌に軽く引っ掛かるのもまた周知の事実なのだから悲しいものだ。言うまでもなく孤独道五段の私はサークルなどとは一切関わりがないが、恥ずかしいことに当時一回生の私は目前の新入生彼らと同じく浮かれており、あやゆくサークルなるものの支配下に置かれかけたことがある。
 思い出したくないことを思い出した。
 私は桜の花びらとともに腐った紙くずを踏みにじり、「ショウモナイ人間どもめ」と群衆を蔑み、威風堂々とその道を歩く。桜並木道ならぬ孤独道を。
 
 ◇
 
「○☓研究会、どうですかー?」
 突如私の孤独道の行き先を阻むものが現れた。しばらく理解に苦しんだが、すべてを悟った時の私の怒りは言葉では言い表せないものであった。思わず立ちはだかる男の顔を何かしらの方法をもって貫きたいと私はその軽い顔を睨む。
「私は三回生なんだが」
 屈辱である。私をあの浮かれた先輩に引っ掛かる浮かれた新入生と見たのか。どこまで節穴だらけの眼であろうか。私ならば独眼であろうと50メートル先の人間が孤独であるか否かを見分けることができるというのに。
「あっ、いえ、在学生でもどんどん募集してるんで。時間あったら新歓どうぞ~」
 そう言って男はまだ勧誘を続けてきた。いい加減鬱陶しい。初めから鬱陶しい。タメ口な辺り同じ三回生なのだろうが、それがさらに私を苛立たせる。
「興味ないな」
 差し出された紙くずを片手で払い、私は道を進み続けた。サークル名をなんと言ったか。とりあえずムカツイたので名前だけでも覚えて呪っといてやろうかと思ったが、頭には残っていなかった。
 
 

       

表紙

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