Neetel Inside ニートノベル
表紙

今日は……(仮)
第三話

見開き   最大化      


○第三話「今日は魔法少女」
「茜! 気をつけろ、手強いぞ!」
「分かってる! くらえ~ホーリーセイバー!」
 茜の掛け声と共に、手に持っていた筒から光り輝く刃が出現する。そして気合と共に茜は、怪人を一閃する。
「ぎゃあああああ~~~! ひ、ぎゃあああ~~~」
 辺りには怪人の紫色した血が飛び散る。そして怪人は痛々しい悲鳴をあげてのたうち回る。しばらくすると怪人は動かなくなり、煙のようになって消えていった。
「よくやったな、茜!」

 茜は魔法少女である。日々こうして、この街を襲う怪人と戦っているのだ。何が目的なのか分からないが、怪人たちは週に一度くらいのペースでやってくる。そして未知のウイルスをばら撒いたり人間を拉致して改造したりするのだ。今のところ、奴らに対抗できるのは魔法少女として覚醒した茜だけだが、しかし茜がどうして魔法少女となったのかも分からない。
 自分の娘を危険な目に合わせたくないというのは親として当然考えるのだが、しかし今のところ、茜が戦う以外に奴らを退ける方法がない。なので、せめて茜が戦いやすいように出来る限りのアシストをしようと思うのだが……この戦いはいつになったら終わるのだろうか。

 茜は魔法少女だが、普段は普通の中学生として学校に通っている。勿論学校の皆も茜が魔法少女である事を知っているので、茜は人気者のようだ。クラスメイトからはよく花をプレゼントされたり、応援のメッセージを貰ったりしているらしい。
 一方俺はというと、茜が使っている魔法グッズの手入れや、新しいグッズの新開発を行っている。魔法を使って戦っているとは言え、いつも無傷というワケにはいかない。その為、こまめにメンテナンスしないとすぐに痛んでしまう。それにいつ何時、どんな相手が現れるかも分からないので、様々な状況に対処できるように準備しておかなければならないのだ。

 ――ビービービー!

『御園博士! 怪人が出現しました! ただちに魔法少女の出撃願います!』
 室内に警報が鳴り響き、茜の出撃要請が来た。また怪人が現れたようだ……俺は携帯を手に取り、茜に連絡を取る。茜ももう慣れたもので、すぐに了解してくれた。さて、今のうちに怪人の情報を集めなければ……
 パソコンには、国からの怪人情報がリアルタイムで届くようになっている。更新情報を見てみると、怪人出現から数分後の映像が届いているようだ。早速再生してみると……そこに映っていたのは、信じられない光景だった。
「こ、これは……美鈴ちゃんじゃないか!?」
 怪人とはその名前の通り、人型をした何者か、なのだが……今回の相手は俺も良く知る人物と瓜二つであった。それは茜の幼馴染の少女、今井美鈴ちゃんだった。体こそすっかり怪人と化して、有り得ないところから手が生えたり、よく分からない肉塊となってたりするが、その顔は美鈴ちゃんそのもの……ど、どうなっているんだ!?
 しかし驚いてばかりもいられない。これが本当に美鈴ちゃんかどうかはまだ分からないが、現に今、街を襲っているのはこの怪人なのだ。放っておけば世界が滅んでしまう。怪人を倒せるのは茜だけ……茜が戦って、倒すしかない。
 とは言え、茜が美鈴ちゃんの顔をした怪人と戦えるのかどうかは不安だ。いやその前に、本当に美鈴ちゃんかどうかを確認した方がいいか。偽者ならそれに越した事はないわけだからな。俺は再び携帯を手に取り、美鈴ちゃんに連絡を取ってみることにした。

 ――トゥルルルル……トゥルルルル……

『もしもし』
「あ、み、美鈴ちゃん!? よかった、君は本物の」
『ふふふ』
「……美鈴ちゃん?」
『い~けないんだ、いけないんだ♪ おじさん、いけないんだ~~~』
「な、に……どうしたんだ!?」
『いけないんだよ? 知ってるよねぇ? うふふふふ……あはははははは』
「美鈴ちゃん! しっかりするんだ!」
『£ФЭで$ё*なんてしちゃいけないんだよぉぉぉ~~~? あははははははは!!』

 ――ブツッ……ツーツーツー

 なんという事だ……。どうやら本当に美鈴ちゃんが怪人になってしまったらしい。茜になんて伝えたらいいんだ……
「お父さん!」
「あ、茜……早かったな」
「来る途中で携帯に画像が送られてきて……それに、美鈴ちゃん今日学校休んでたんだって! も、もしかして本当に……」
「……あ、ああ……美鈴ちゃんは怪人になってしまった」
「そんなっ……うそ……」
「……茜。辛いだろうけど、茜も分かっているだろう? 一度怪人になってしまった人は、もう戻れない。だからせめて、茜の手で……」
「だ、だけど! だけど……」
「気持ちは分かる。でもこれ以上美鈴ちゃんを放っておけば、美鈴ちゃんが他の人を苦しめてしまう事になるんだ」
「……そう……だね。私しか……やれないんだよね?」
「ああ……さあ行こう」

 茜と二人、美鈴ちゃんの所へ向かう。と、こちらに気付いたらしい美鈴ちゃんが、その変わり果てた姿と顔で見つめてくる。
「美鈴! どうして……そんな姿に……」
「うひ……ひひひひ……け、けがら……わしい……お前達……ひひひひ」
「目を覚まして! 美鈴!」
 やはり美鈴ちゃんを倒すという事に納得しきれていなかった茜が、必死で説得しようと試みるが……美鈴ちゃんはいやらしい感じで笑い続けるだけだ。
「茜……もう駄目だ。彼女に俺達の声は届いていない」
「くっ……」
「さあ茜、変身だ!」
 辛そうな顔をしながらも、茜は変身ステッキをかざす。そして、眩い閃光と共に変身を果たす。それを見ていた怪人の美鈴ちゃんは、大声で笑い始めた。
「あはははははは!! なぁにぃその格好!! そんな格好でしてたんだぁ!! きゃはははははは!!」
「美鈴……」
「あははは……うふふ……ふ……なによ……なに、そんな物騒なもの見せたりして」
 笑っていた怪人だったが、茜の手にある武器を見て、表情を変える。
「まさかそれで、私を殺すつもり? 私を刺すつもりぃ? アンタがぁ!?」
「耳を貸すな茜! お前を惑わせる為の戯言だ!」
「いや! やめて! そんなので刺したら私死んじゃうよ! やめてよぉ!!」
「茜! それはもう美鈴ちゃんじゃない!」
「う……く……」
 武器を構えはしたものの、躊躇する茜。無理もない、だが……やらなければやられる!
「茜!!」
「く、あ、ああああ!!」
 意を決して、茜はホーリーセイバーを発動し、怪人に突っ込んでいく。だがその瞬間、慄くような演技をしていた怪人はニヤリと顔を歪め、無数にある手のうちの数本をムチのようにしならせて、茜を薙ぎ払った。
「くあ!?」
「きゃははははは! 本当に殺そうとしたんだぁ!! こぉの人殺しぃぃ! きゃははははは! 親が親なら、子も子って事よねぇぇぇ!!」
「あ、あ……」
 倒れた茜に、じりじりと近づいてくる怪人。いかん、このままでは……何か手はないのか!? 俺はポケットの中をまさぐって、使えそうなものはないかと探す……と、その時ポケットから一万円札が数枚散らばった。すると、怪人はギョロっと視線をこちらに向けなおし、ニタ~っとした。俺はある予感を感じ、金を拾わずに茜の所へ走った。
「ふ、ひひひひ! か、か、ねええええ!!」
 予想通り、怪人は地面に散らばった金に飛びついた。そうして拾った金を見詰めながら不気味に笑い始めた。俺はその隙に、茜を助け起こす。
「う、んん……」
「茜……まだやれるか?」
「も……や……」
「大丈夫だ! ほら、周りを見ろ! みんなお前の事ずっと待ってたんだ!」
「……」
「やれるな?」
「う、ん……」
「よし! みんながお前の為に、いっぱい力をくれるぞ!」
 人々の応援の声が茜に届き、白い光を伴う力の流れが茜に降り注ぐ。その光は俺からも発せられている。光に包まれた茜はどこか大人びたような、それでいて慈愛に満ちたような表情へと変わっていく。その姿は……どこか、今は亡き妻の面影を見るようだった。
「うう!? こ、この白いのは……」
「……ごめんね……美鈴……でも、他に方法はないから」
「や、やめろ! 近づくな!! 私はアンタとは違う! 違うんだからあああ!!」
 ホーリーセイバーに、再び光が宿る。そして……その白い光に怯えた怪人は抵抗する事もなく、貫かれた。
「うああああああ!! い、いた、いたい! やあああああ!!」
「大丈夫……すぐ終わるから……」
「ああああああ!! あああ……あっ……あああ……」
 痛々しい悲鳴をあげていた怪人だったが……次第に、その表情からは苦痛が消え、元の美鈴ちゃんの顔に戻って行った。そして、涙を流しながら……消滅していった。
「ああ……美鈴……ごめんね」
「茜……ほら、拭いてやろう」
 俺はハンカチを取り出し、茜の顔を伝う涙を拭く。しかしまさか、こんなにも身近な人物が怪人になってしまうとは……茜も辛いだろう。これも魔法少女の運命なのだろうか? だとしたら……なんて残酷な運命なんだ。この先ももしかしたらもっと過酷な運命が待ち受けているのかもしれない。その度に茜は心を痛めていくのだろうか。それなのに、俺は父親としてただ傍にいてやることしかできないのか……

       

表紙

もこもこ 先生に励ましのお便りを送ろう!!

〒みんなの感想を読む

Tweet

Neetsha