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表紙

紅月の夜
5夜目 思い・友情・待たせたね。・・約束を守りに来たよ。 第一期完

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百鬼「はああぁぁぁぁ!!」

百鬼の攻撃で向かってきたドールズたちが無残にも破壊されて地面に転がる。

百鬼「流石に数が多いであります。」

周りには大量のドールズ立ちが百鬼を円ように囲って並んでいた。

百鬼「全く、白雪はこの量を百鬼に任せてどこかに行ってしまう困ったちゃんであります。」

ドールズだちは百鬼との距離をじりじりと詰めいていく。
百鬼はそれを見てため息をもらす。

百鬼「さて、どうしたもでありますか。このままでは百鬼の燃料切れの方が早そうであります。」

百鬼は何か無いかとあたりを見渡すが都合よくそんなものはある分けなかった。

百鬼「あまり能力に頼るとマスターに負担がかかるであります。・・・っふ。こんな時に人の心配でありますか。百鬼は変わったものであります。」

マスターとは自分の媒体でしかないと考えていたが、それがいつのまにか変わっていることに百鬼は気付き苦笑する。
かと言って今から考えを切り替えてマスターを媒体としてみることは百鬼には出来なかった。
それだけ百鬼の中で十紀人の存在は大きくなりすぎたのだろう・・。
百鬼は深呼吸をしてドールズたち見る。
何かの覚悟を決める様にそしてなにかを自分に言い聞かすように。

百鬼「全くもって厄介であります。」

一歩踏み出そうとしたときふと十紀人言葉が頭をよぎる。
『それとみんなに命令を出しておく・・・絶対に死ぬな。』

百鬼「まったく・・百鬼のマスターは無茶難題を押し付けるであります。」

でもそこがマスターらしいと百鬼は再び苦笑する。

百鬼「でも、百鬼たちにとってマスターの命令は絶対であります。その命令うけとったであります。・・・ちょっとだけ使わせてもらうであります。」

百鬼は片手を地面につけ瞳を閉じた。

百鬼「ちょっとだけマスターの力を分けてもらうでありますね。・・・鬼力!!」

眼を見開いた百鬼の瞳は以前の紅よりさらに紅差を増して真紅になっていった。
百鬼は叫ぶと同時に腕に力を入れて地面を鷲掴みにする。

百鬼「はああぁぁぁぁぁぁ!!」

あたりに軽い地響きが起こりそれと同時に百鬼が鷲掴みにしている所から半径10メートルの範囲の地面が起き上がる。
自分の何倍もの地面を片手で軽々と頭の上まで持ち上げてドールズ立ちを睨みつける。

百鬼「百鬼の本気、見るがいいであります。」

百鬼は地面を持ち上げたまま高々と空に向かってジャンプをした。
そして空からドールズたちを見下ろすして百鬼は笑を浮かべ腕に力を入れる。

百鬼「大鬼砲!!爆であります!!」

夜空に高らかにかざした地面をドールズ立ちに向かって思いっきり投げつける。
百鬼が投げつけた地面はドールズたちに衝突すると同時に爆発を起こして砂煙を舞い上げる。

百鬼「はぁ~はぁ~これで大分数が減ったと思うであります。」

砂煙の中からぞろぞろとドールズ立ちが百鬼に向かって行進を再開するのが見えた。

百鬼「まったくあまり数が減ったとはおもえないでありますね。いいであります・・それなら見せてやるでありますよ。百鬼の名前がなぜ百鬼なのかお前たちに教えてやるであります!!」

残ったドールズの群れに目掛けて1人で突進をかけて行く。

百鬼「はああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
・・・
・・


白雪「はぁ~はぁ~はぁ~」

黒川の群れから逃げるようにして林の中に入った白雪は木の影に身を隠して乱れた呼吸を整えていた。

黒川「隠れても無駄です。貴方は私には勝てません。」

少し離れたとこから黒川の声がする。
どうやらまだ見つかってはいないようだ。

白雪「っく!!」

傷付いた左腕からは未だに血が流れ落ちていた。
白雪はそれを庇うようにその身を木に預けてその場に座り込む。

白雪「あと何体壊せばいいんだ?」

ここに来るまでに黒川の分身を何体かは壊しがそれでも黒川の分身の数は多かった。
分身の能力はほぼ黒川と同等そんな分身の相手するのは無理だ。
白雪には逃げまわるしか方法はなかった。

白雪「これならドールズたちと戦っていたほうがらだったかも知れないな。」

そんなことをいたら百鬼に怒られるだろうと白雪は苦笑する。

黒川「見つけました。」

その声と同時に白雪が身を預けていた木が横に真っ二つになった。
白雪が座っていなかったら今頃白雪の首はこの木のように跳ね飛ばされて地面にろがっていただろう。
白雪は転がるようにその場を離れて黒川の方に構えを取る。

黒川「かくれんぼは終にいたしましょう。」
白雪「少しくらい休息を取らせてもらっていいと思ったんだがな。」

白雪は嫌味を言うように黒川に言った。

黒川「貴方が壊れればその後にいくらでも休息を取れると思いますけど。」

それを言い返すように黒川が言ってのける。

白雪「全くもってその通りだな。・・・だがな私は死ぬわけにはいかない。ご主人様の命令だからな。」
黒川「・・・・」
白雪「私も少し本気を出させてもらう。」

黒川は白雪の眼の色が変わるのがわかった。
それと同時に周りの空気も変わり始めて居ることに気がついた。

白雪「黒川はここは少しうるさすぎると思わんか?」
黒川「・・・。」
白雪「私は静かな方がすきだ。そう、なんの音もない世界。無音の世界がな。・・すまないご主人様少し力をかりるぞ。」

白雪は静かに眼を閉じた。

黒川「何を言っているのです。」
白雪「・・・お前に真の静寂を見せてやろう。」

白雪は静かに眼を開ける。
その瞳はは先程の紅ではなく透き通るような銀色ですごく穏やかで冷たく静かだった。
黒川は黙って白雪と視線を合わせる。

白雪「黒川。覚悟するんだな。」
黒川「何をするかしりませんが。覚悟するのは貴方の方です。」
白雪「・・氷夷結界。」

白雪が静かにそう唱えると一瞬にしてあたり一帯の空気が変わる。
白雪や黒川が呼吸するたびに口元から白い息が出る。

白雪「・・黒川。見つけたぞ。」
黒川「!!」

白い息は黒川の分身からは出ていなかった。
出ているのは黒川の本体のみだ。
驚いたが黒川はすぐに表情を戻して口を開いた。

黒川「本体がわかったところで私が有利に立っていることはかわりません。」
白雪「そうだな。でもすぐに変わるさ。」

白雪は素早く手を動かして空中に文字を書く。

白雪「氷夷結界奥義!氷柱!!」
黒川「!!」

黒川が反応したときには既に遅かった。
地面から無数の針のような氷の柱が次々出てきて黒川と黒川の分身に襲いかかった。

白雪「逃げられたか・・。それでもさっきよりかは静かになったな。」
黒川「・・・・。」

黒川は白雪の背後に静かに着地をする。

白雪「分身の方が反応が遅いんだな。」
黒川「・・・。勝ったつもりですか?この間合いでは私の方が有利です。」
白雪「そうかも知れないな。・・しかし、本体が分かればいいだけのことだ。」
黒川「・・・。」
白雪「次で終にしよう。」
黒川「・・・私もそのつもりです。」
白雪「来い。氷結の鞘。」

白雪がそう唱えると左手に一点の曇もない透明な氷でできた鞘が握られる。
白雪は鞘にデバイスをしまい構えを取る。

黒川「死神の型。斬。」

一方黒川は静かに鎌を振り上げる。

黒川「貴方が何をしようと私は貴方を破壊するだけです。」
白雪「ならば止めてみせろ。私と雪風をな」
黒川「言われなくてもそうします。」

二人は見つめ合い互いに動かなくなった。
数秒いや、数分後。
最初にしびれを切らして動いたのは黒川だった。

黒川「終わりです。」
白雪「氷結!一閃!!」

黒川が動いたのにあわせて白雪は飛び出した。
二人の体が交差して入れ替わるように離れる。

黒川「・・・・。」
白雪「・・・・。」

二人は振り向きもせずただ武器を振り下ろした状態でその場にとどまった。
白雪の腹部あたりの服が紅色に染まり始める。
白雪がガクっと膝を地面に付けると同時に鞘とデバイスが砕けてなくなってしまった。

白雪「っく。」
黒川「・・・・お見事です。」

黒川は白雪の方に向き直り口を開いた。

黒川「まさかあの一瞬で2太刀入れられるとは・・・。」

そう言い終わた瞬間、黒川のデバイスも消えてそのまま後ろに倒れた。
白雪は静かに立ち上がり黒川のすぐ横に来てその場に静かに座った。
黒川は目線だけを白雪にへと向ける。

黒川「もう、体が動きません。・・・さぁ、止めを刺してください。」
白雪「そうしたいのはやまやまだが命令されているされているから私には出来ない。」
黒川「命令?」
白雪「ご主人様にだ。お前を殺さないで止めてくれとな。」
黒川「・・・・ふふ。・・まったくあの人の考えることはよくわかりません。」
白雪「お前・・・笑えるようになったんだな。」
黒川「え?」

黒川は不思議そうな顔をした。
自分でも気づいていなかったのだろう。自分が今、少しではあるが笑ったことに・・。
それだけ素直に黒川は笑えたということだった。

白雪「はっはっは。気づいていなかったのか。まぁいい。確かにお前の言うとおりご主人様は時たま何を考えているかわからないときがある。」
黒川「そうでしょうね。私たちには無縁だった物をあの方はお持ちになっていますから。」
白雪「いわれてみればそうだな。そういったものに私たちが触れる機会があまりなかった。」

二人は顔を見合わせて同じことを考えていた。
そして思ったことを口に出したのも同時だった。

黒川・白雪「あの方は/ご主人様は優しさを私にくれた/くれました」

そう言って二人はまた笑いあった。
・・・
・・


クロ「っう。」

うずくまっていたクロが目を開けて立ち上がる。
あたりに白雪と黒川の姿を探すがそこには誰もいなかった。

クロ「人間・・。」

クロは静かに眼をつぶり十紀人の気配を探る。

クロ「まだ、生きているな。今行くぞ人間。待っていろ。」

クロは傷付いた体を無理やり起こして歩き出す。
歩くたびに受けた傷に響いて倒れそうになるのを足を踏ん張って踏みとどまる。
なぜ、そこまでして歩くのかとクロに問いかければなにも考えずにこう答えるだろう約束を果たすからだと。
幼い頃にしたふたりだけの約束を果たすためだと・・・。
・・・
・・


十紀人「どこに行った!!粋!!出て来い!!」

あたりにはむなしく俺の声だけがこだます。
先程からなんどか遠くで激しい爆発音や木の倒れる音はしたが今は静まり返っていた。
おそらく白雪や百鬼たちの戦闘が終わったことを意味するのだろう。
俺は戻ってみんなの安否を確認したい気持ちをぐっとこらえて粋を探す。
そうだ、この戦いは粋を助けないことには終わらないことを分かっている。
そして今自分がしなきゃいけないことも・・。

十紀人「隠れてないで出て来い!!」

再び叫ぶがさっきと同様にむなしくこだまするだけで何の反応もない。
俺は諦めてその場を立ち去ろうとしたその時だった。

粋「さっきから君は五月蝿いね。おちおちデータ収集も出来ないよ。」

どこからか粋が現れてゆっくりと俺の正面に立つ。

十紀人「粋。決着をつけに来た。」
粋「まったくなんの決着だよ。君が僕にしたことへの決着?それともこの戦いの決着かい?」
十紀人「両方だ。お前を救ってこの戦いを終わらせる。」
粋「僕を救う?・・っぷ!あははははははははははは。冗談も対外にしてよ。僕を救うだって。・・・君何様のつもり?」

そういて粋は俺を冷たい視線で睨みつける。
俺は粋をしっかりと見つめて目線をそらさなかった。

粋「誰がいつ救って欲しいって願ったんだい?・・・僕は君に救って欲しいなんて願っていないし救われるような事もない。余計なお世話なんだよ!!わかったらさっさと死んでよ。」
十紀人「・・・・」

俺は一瞬の沈黙の後に口を開いた。

十紀人「お前を変えてしまったのは俺だ。昔のお前はもっと優しくてカッコよくて強かった。俺にはない強さを持っていた。」
粋「・・・。」
十紀人「それを俺が変えてしまったんだ。・・すま」
粋「やめろ。」

粋は俺の言葉を遮るように言った。

粋「やめろ!!もう!昔の話をするな!!貴様が変えただと!?思い上がりも対外にしろ!!僕は貴様が憎くてむかつくから殺すんだ!!すべてを奪うんだ!!今も昔もこの気持は変わってないんだよ!!だから早く死ねよ!!」
十紀人「・・・粋。」
粋「もういい!!役立たず共なんかに任せた僕が馬鹿だった!!僕がこの手でお前を殺してやる!!」

粋は叫んで荒くなった呼吸を整えて懐からナイフを取り出す。

粋「・・・昔みたい僕はもう弱くないからね。僕は自分にもおもちゃのデータを取り込んだから。覚悟してね。」
十紀人「・・データを取り込む?どういうことだ?」
粋「そのままの意味だよ。僕はヒーローになったんだ。誰にも負けない最強のヒーローに!!ふふふ。コアデバイスって知ってる?」

そう、言葉のままの意味だった。黒川を研究に使ってその運動能力を自分にも植えつけることで粋は強くなったのだ。
粋は言った。コアデバイスと・・。それは体内にある生命力を使って身体能力を急激に上げる装置だ。
火事場のバカ力という言葉がある。追い込まれた人間は時折見せる超人的な力のことだ。
例えば自分の体重の何倍もの重たさがある物を担ぐ事ができたりビルとビルの間を飛び越えたり出来てしまうそれだ。
どうやら粋の話によればデバイスたちの人並み外れた身体能力はこのコアデバイスによるものらしい。
粋はそれを人が耐えれるようにデチューンして自分の体内に埋め込んだ。
その証拠に粋は一瞬で俺の目の前まで着てナイフを振り上げようとしていた。
俺はすぐに回避をしたが頬をナイフがかすめて血が滲み出るのがわかった。

十紀人「・・・。」

少し間合い取って俺は粋を見つめる。

粋「そんな目で見てもぜんぜん怖くないよ。だって僕は今強いから。」
十紀人「俺が思い出させてやるよ。お前が俺に教えてくれた。本当をの強さとカッコよさをな!!」
粋「もう君の声は聞きあきたよ。死ね!!」

粋は僕に向かってナイフを投げてきた。
俺はそれを紙一重で避ける。

粋「残念だったね。」

俺と粋の距離は一瞬でなくなっていた。
眼の前には粋がいて目一杯引いた拳を俺に繰りだそうとしている。
刹那。
俺の腹部に衝撃が走る。
まるで腹部で爆弾が爆発したんじゃないかと錯覚すら覚えるほどだ。
一発で意識が飛びそうになるのをこらえたが粋は容赦なく二発目を振りかぶっていた。
その二発目は見事に俺の顔面を捉えた。
俺はそのまま何メートルか吹っ飛ばされて地面に倒れる。
受身なんか取ることなんて出来なかった。
飛びそうになる意識を保つのでやっとだったからだ。
きっと顔面をハンマーで思いっきり殴られたらこんな感じになるだろ。
ゆっくりだが粋がこちらに近づいてくる足音も聞こえる。
意識が遠のいて行くのがわかった。
あぁやっぱり俺は正義の味方にはなれなかったのかな・・。
薄れ行く意識の中でそんなことを考えていた。
・・・
・・


十紀人「もうやめろ!!」

悲痛な叫びだった。
俺が幼い時の記憶だ。まだ、粋にも桜姉ちゃんに会っていなかった時だ。
俺はいじめられていた。
理由なんて簡単だ。
家がお金持ちただそれだけ。
だけど子供からすればそれだけでいじめの理由になってしまうのだ。
周りと違って裕福だから。調子にのっている。
俺はそれだけの理由でいじめられていた。
俺にはいじめるやつらをねじ伏せる力なんてなかったしそんな度胸もなかった。
学校という狭い空間では先生たちも頼りにならず逃げることもままならない。
ただ、やめろとしか叫ぶしかなかった。

十紀人「お願いだからやめてよ!!」

そんな俺の叫びなんか誰も聞いてくれない。
むしろそれを聞いて喜び、笑いあうだけだ。
もちろん先生たちにも助けを求めたが学校のメンツとかなんとか言って我慢しろと言われた。
この世には悪しかない。
どんだけ助けをよんでも、どんだけ叫んでも。
テレビとかで出てくるヒーローなんて現れなんかしない。
現実とはそういうものだ。
他の人たちも見て見ぬふりをしたり、一緒になって俺をいじめるのに参加したりする。
そうだ、この世界にヒーローなんていないんだ。
そんな時期だった。
粋と出会ったのは・・・。
・・・。
俺はいつものようにクラスの奴らにいじめられていた。

子供1「ほらほら、立てよ。」
十紀人「っく。」
子供2「早く立てよ。」
十紀人「なんでいつも俺ばっかりなんだよ!!」
子供3「そんなのきまってるじゃん。お前が生意気だかだよ。ばーか」

いじめっ子たちはそうだそうだと口を揃えていった。

十紀人「・・・・」
子供3「おい!もうやめて欲しかったら跪いてこの靴なめろ。」

そう言って一人のいじめっ子が地面に倒れ込んでいる俺の顔の前に泥で汚れた靴を出す。
俺はそれを舐めればもういじめられることはないと思った。
素直舐めればいいんだ。そうすればもういじめられることはない。
俺は覚悟を決めて舌を出し靴を舐めるために少しずつ顔を近づける。

粋「やめろ!!悪に屈するな!!」

俺は顔を止めて声のする方に顔を向ける。
いじめっ子たちは何が起きたかわからずにただ黙って俺たちの前に立つ人を見ていた。

粋「よってたかって1人を3人で相手するお前たちは悪党だ。よってこの正義のヒーローが相手してやる!!」
子供2「あいつなにいてるんだ?」
子供3「俺に聞くなよ。」
粋「覚悟しろ。やああぁぁぁ!」

ヒーローと名乗った人はいじめっ子たちに立ち向かっていった。
結果なんて分かっていた。その人は勢いは良かったがすぐに3人に囲まれて地面に倒れる事となった。
しかし、いじめっ子たちもあきたのかあぁつまんねぇっとか言いながらその場を去っていた。
俺はその場に座りその人を見つめていたい。
粋は大の字で寝ながら僕の方を見て笑顔を見せて口を開いた。

粋「あぁ、負けちゃった。」
十紀人「・・・」
粋「テレビの様にうまくいかないね。」
十紀人「なんで助けたんだ。」
粋「ん?なんでって君が困っていたから。」
十紀人「弱いのに出しゃばるからこういう目に会うんだ。みんなと一緒に眺めてればいいのに・・・。」
粋「ヒーローは悪を見てみぬ不利なんて出来なよ。それに悪に屈する正義も無いから、だから僕はどんな悪にでも立ち向かうよ。例え負けることを知っていてもね。」

そう言った粋の顔は一点の曇もない笑顔を俺に向けてきた。
その時の俺にはその笑顔がすごく眩しくて悪だらけの世界に光をさしてくれた笑顔だと思えた。
そして俺は黙って粋の言葉を聴くことしかできなかった。

粋「それにそれが本当の強さだと僕は思うから。」

その言葉は強く俺の胸に突き刺さった。
喧嘩が強いから強いんじゃない。
力があるから強いんじゃない。
相手を服従させるから強いんじゃない。
何者にも立ち向かえる勇気、負けると知っていても立ち向かえる勇気。
そういったものが本当の強さだと粋を見て素直に思えた。
だって粋はこんなにも強いしこんなにもカッコ良いいから・・。

粋「さて、僕はみたいテレビがあるから帰るよ。」

そう言って大の字に倒れていた粋は起き上がりその場を立ち去ろうとした。
僕は引き止めたくて立ち上がり粋に声をかけた。

十紀人「あの!!」

粋は走りだそうとした体を止めて不思議そうに俺の方を見る。

十紀人「名前教えてもらってもいいか?」

粋は体をこちら向けて俺の目の前にやってくる。

粋「僕は伊集院粋。」

そう言って俺の前に手を出してくる。
その手を僕は握って粋の瞳を見つめた。

十紀人「俺は道明十紀人。」
粋「いい名前だね。」

俺と粋はそこでかっちりと握手を交わす。
これが俺と粋の出会い。
そして俺が正義の味方になると決意した日。
その日から俺は自分を鍛えるためにいろいろな格闘を習い始めた。
俺の正義のヒーローの正義を少しでも助けることが出来るように。。
正義ヒーローの味方として・・・。
・・・
・・


どれくらいたっただろうか?
一瞬?数秒?数分?
どれくらいたったかはわからない。
ただ俺の意識が飛んだのは確かだった。
その中で見た昔の記憶。
大切な俺と粋の記憶だ。
眼を開けると粋は俺に拳を振り下ろそうとしていた。
俺はとっさにその場から離れる。
その直後コンクリートが粉砕するような音が耳を襲う。
俺があと一歩遅ければ頭ごとなくなっていたことを知ってぞっとする。
何故なら今の粋の一撃で地面に直径50センチくらいの穴を開けていたからだ。

粋「へぇ~あれで起き上がれるなんてね。」
十紀人「・・・」

俺は素早く起き上がり静かに構えを取る。
今の俺では粋には勝てないだろう・・・だけど俺は全力でお前に立ち向かう。
そうすれば絶対お前を救えると俺は信じているから。
だって俺の正義は俺の強さは全部、粋、お前から教わったことだから!!
俺は拳に力を込める。

十紀人「粋。俺はお前を殴る。」
粋「面白いことをいうね。これほどに力の差を見せ付けたというのに。」
十紀人「俺はおまえから本当の強さを教えてもらったからな。強さでは負けてない。」
粋「強さは力だよ!!そうだろ!!全ては力!!」
十紀人「だったら俺がお前に証明してやるお前が教えてくれた正義は!!強さは!!力なんかに負けないことを!!」

そいって粋に向かって一直線に走り出していた。
粋は拳を振り上げて俺が来るのを待ち構える。
それでも俺は足を止めずに粋に向かっていた。
粋は俺に向かって拳を振り下ろす。
俺はそれを避けようとはしなかった。
真正面から粋の拳を受ける。
それだけで体は飛ばされそうになり意識も途切れそうになる。
それを俺は歯を食いしばりグッとこらえて粋を見た。
粋は俺がその一撃をを耐え切ったことに驚き眼を見開いていた。

十紀人「粋!!覚悟はできてるな!!」

俺は自分の握りしめた拳にありったけの思いと力を入れる。
そしてその拳を思いっきり粋へと打ち込んだ。
拳は粋の鳩尾に直撃してその衝撃で粋は地面を転がった。

十紀人「はぁ~はぁ~。」

これは以前クロから教えてもらった技だ。
どこか体の一部に生命力を集めて相手にそれを打ち込む。
そうすることによって外面ではなく内面を攻撃する技。
いうなれば臓器に直接攻撃をくわえているような物だ。
しかし生命力の調整が難しい。一歩間違えればそのまま自分も意識不明になり易い極めて危険な技だ。
急激に眠気が俺に襲いかかってきた。

十紀人「あと一発。」

粋はゆっくりと立ち上がろうとするが俺の一撃がかなり効いているのだろう。
その場にまた倒れる。それでも粋は立ち上がろうとしていた。

十紀人「っく!!」

俺はその場に倒れこんでしまう。
立ち上がろうとするが既に俺にはそんな力は残っていなかった。
力を振り絞るが無残に倒れ眠気や体の痛みで意識が飛びそうなのをこらえる。

クロ「人間、苦戦しているようだな。・・・人間は馬鹿だな。」
十紀人「・・・ク・・ロ・・・か。」

俺の目の前にクロが現れた。
血は未だに流れ落ちたままだ。

クロ「人間。力の使いすぎだ。お前の生命力はもうからっぽじゃないか。このままでは死ぬぞ。」
十紀人「・・・だ・・い・じょう・・ぶ・だ。」
クロ「無理をするな。自分でももう気付いているだろ。」
十紀人「・・・・。」
クロ「だから、私がここに来たのだ。」
十紀人「ど・・いう・・こと・・・だ?」
クロ「私の生命力の器を人間に譲る。」
十紀人「・・・」
クロ「不思議そうな顔をするな。生命力の器とは生命力を貯めることが出来る器のことだ。大きから小さかれだれにでも一つはある。」
十紀人「・・ま・・て」
クロ「そんなことをしたら私が死ぬだろうと言いたいのだろ。」

俺は黙って顔だけを動かして頷いた。

クロ「どの道この傷では長くない。もらってくれ。」

傷口を見えればわかる今俺の目の前で立っているのが不思議なくらいだ。
もってあと1、2分ところだろ・・。
それでも俺は懸命に首を横に振ってそれを否定していた。
それでも助かるかもしれないという気持ちがあったからだ。

クロ「十紀人くん。」

クロの口調がいきなり変わり俺は眼を見開いた。
クロが俺の名前を初めて呼んだとかそういうのじゃない。
この声を俺は知っていたからだ。随分昔に聞いた懐かしい声だ。
優しくて綺麗な声。俺の眼からは自然と熱いものが頬を伝って流れ落ちていくのがわかった。
クロは俺の手にそっと手を乗せて俺に笑いかけてきた。

クロ「短い間だったけど十紀人くんと過ごした日々はとても楽しかった。」
十紀人「さ・・く・・ら・・ね・ちゃ・・ん?」
クロ「それに約束守れてよかった。これで私はずっと十紀人くんを守れるから。」

クロの体が光、形を変えていく。懐かしい当時の・・・桜姉ちゃんの姿へと・・。
俺はただただそれを見つめるしかなかった。
出来る事なら今すぐ抱きしめたいが体が言うことを聞いてくれない。

桜「この姿で会うのはずいぶん久しぶりだね。」
十紀人「・・・な・・ん」

桜姉ちゃんはそっと俺の唇に人差し指を置いって俺の唇をふさいだ。
今は喋るなということだろう。
そして俺の頭を自分の膝の上に置いて俺を見つめてくれる。
その当時と変わらないひまわりのような笑顔はとても愛しくて懐かしくて安心できた。

桜「本当はもっと一緒にお話とかしたかったけど私はもう限界だから。だからね、私の最後の力で十紀人くんを守ろうと思うの。受け取ってくれないかな。」

その瞳に揺らぎはなくただ俺の瞳を優しく、力強く見つめていた。
そのことから桜姉ちゃんが本当でそれを望んでいることすら分かる。
それでも俺は嫌だった。

十紀人「だ・・め・・・だ・・お・・・れが・・ま・・・も・る・・か・・・ら。」

桜姉ちゃんは顔を横に振った。

桜「いいの私は十紀人くんを守ると約束したから今度は十紀人くんの内側から十紀人くんを守るの。それはとても素敵なこと。だけどもう会えないと思うとちょっぴり寂しいかな。」

そう言って桜姉ちゃんは眼に涙を浮かべながら笑った。

桜「受け取って私を・・そうすれば私たちはずっと一緒だよ。それとちゃんと守ってあげてね。友達やあの子たちを・・・。」

そう言って桜姉ちゃんの顔が俺のに近づいてきて唇と唇が触れ合う。
それと同時に体に力がみなぎって行くのがわかった。
桜姉ちゃんの体は輝きを増して足から消えていく。
動くようになった手を伸ばして俺は桜姉ちゃんを抱きしめた。
最初で最後の桜姉ちゃんとのキスはとても甘酸っぱい味がした。
それを俺は心に桜姉ちゃんとの思い出と共に深く刻み込んだ。
俺は眼を開けて静かに立ち上がる。
体の痛みや眠気はすっかりとなくなっていた。
そしてその代わり胸の辺りに温かい何かを感じる。
それはきっと桜姉ちゃんが俺にくれたものだろうと思う。
いまだに涙は決壊したダムのように止まることなく流れを散る。
でも俺はこの涙を拭おうとしなかった。
拭き取りたくなかったのだ。なんでか自然にそう思えたのだ。

十紀人「ありがとう。桜姉ちゃん。今度こそ守ってみせるよ。さくら姉ちゃんと一緒に・・。」

胸に手を当て拳を握って粋を見る。
粋は丁度立ち上がるところだった。

十紀人「粋。決着をつけよう。」
粋「・・・。」

俺は粋に向かって走りだす。

粋「いい加減ウザイんだよ!!おまえなんか死んでしまえ!!!」

粋も俺に向かって走り出す。
俺は分かっていた。多分、粋も分かっているだろう。
次、最初に地面に膝を付けたほうが負ける。
俺達にはもう体力や生命力の余裕なんてものはなかった。
1発目ほぼ同時に俺たちは殴り合った。
2発目俺は粋の拳をギリギリのかわして横腹を蹴り上げる。
3発目よろけた粋に追い打ちをかけようと近づいた時にカウンターを食らって粋の拳が俺の顎を突き上げた。
4発目粋の追撃を防御障壁で防いて回し蹴りを粋に入れる。
5発目・6発目・7発目・8発目・9発目・10発目・・・・・。
何発目になるだろもうそんなことどうでも良かった。
俺は力のかぎり拳を握り振るい続けた。
ただ、俺の思いを友達に知って欲しくて。
ただ、自分が憧れた人を守りたくて・・。
俺はそんな中・・今更になって気づいてしまたんだ。
粋を助けたいとかそんなんじゃない俺はただもう一度粋のあの時俺に見せてくれた。
初めて出会ったときに見た。あの優しい笑顔をもう一度見たいと思った。
俺はそこに安らぎを求めているだけなんだ。
桜姉ちゃんが死んだ悲しみ、粋を変えてしまった責任そういったものが粋の笑顔ですべて流されると思ってしまった。
だから俺はここに立って粋と戦っている。
御託なんてもういらない。

十紀人「粋いいいぃぃぃぃ!!」
粋「十紀人おおおおぉぉぉ!!」

俺は拳を強く握り締め振り下ろす。
だた真っ直ぐに粋の胸に向かって。
・・・・・。
・・・・・。
・・・・・。
俺の拳は粋の胸に当てられて粋の拳は俺の頬に当たるか当たらないかのギリギリのところで止まっていた。
俺たちはそのままの形で止まったまま動かなかった。

粋「・・・十紀人。」

その声に俺は顔をあげると粋は笑っていた。
それは俺と粋が初めて会った頃の笑顔のように輝いていたものだ。

粋「負けたよ。・・・流石正義の味方だね。・・・ありがとう思い出したよちゃんと。」
十紀人「粋!!」

そう言って倒れかかって来た粋を俺は抱きとめる。

粋「迷惑を掛けるね。」
十紀人「そんなことない。」
粋「最後の一撃の時、僕は君の瞳の奥を見てしまった。そして思い出してしまったよ昔の気持ちを・・・忘れていた気持ちをね。」

粋が話しだしたのを俺は黙って聞いた。

粋「僕は君が憎かったわけでも殺したかったわけでもないんだ。ただ君が羨ましくて憧れていただけなんだ。それがいつしか憎しみに代わって僕はそれに気づけないでいた。ごめんね。君を傷つけてしまったね。」
十紀人「いいんだ。俺はお前に謝りたい。お前の気持ちも知らないで俺は・・俺はお前を傷つけた。お前を変えてしまったのは俺だ。」
粋「泣かないでよ。」

そう言って粋は俺の頬に流れる涙を優しくぬぐってくれる。

粋「僕は君の成長が羨ましかったんだ。次第に君は周りから好かれていって君を助ける筈の僕を軽く超えていっていつしか僕が君に助けられる方が多くなっていった。君が手の届かないところに行ってしまったと思ったよ。その時から君はいつも僕の前に立っていた。追いつきたくても追いつかない。そんな君と向かい合うのがいつしか僕は恐れるように成っていた。そして僕はそこから逃げ出して君を憎んでしまったんだ。」
十紀人「・・粋。」

俺は粋の本音を心で受け取った。

十紀人「すまない。」
粋「だから謝らないでくれよ。謝りたいの僕の方だ。君の大切な人を僕は奪ってしまったんだから。」
十紀人「お前も好きだったんだろ桜姉ちゃんが。」
粋「・・・うん。大好きだった。」

俺は橋から落ちるとき見たんだ。
桜姉ちゃんが飛び降りるときに粋は必死に俺と桜姉ちゃんの服を掴もうとしていたところを・・。

十紀人「今度誤りに行こう、桜姉ちゃんに二人で・・。」
粋「うん。」
白雪「ご主人様!!無事か!!」
百鬼「マスター!!大丈夫でありますか!!」
黒川「主。ご無事ですか?」

俺達のところにみんなが集まってくる。

十紀人「二人共無事だ。もう、戦いは終わったよ。」
白雪「クロは?」

白雪はあたりを見渡してクロの姿を探す。
しかしそこにはクロの姿はなく俺達以外何もいなかった。

十紀人「・・・クロは俺の中にいるよ。」

そう言って俺は自分の胸の中にある確かな温もりを感じるところに手置く。

白雪「そうか。一つになってしまったか。あいつもそれが本望だっただろ。ご主人様。大切にしてやってくれ。あいつは私の少ない友人のうちの一人だから。」
十紀人「あぁ、大切にする。」

丁度その時携帯の呼び出し音が鳴り響いた。
粋は懐から携帯を取り出して携帯を耳に当てる。

粋「僕だ。・・・・・そうか。わかった。」

そう言って電話を切って粋は俺から離れるように体を起こす。

粋「政府の人たちが動き出してしまったよ。・・政府の人たちは君たちデバイスを狙っている。僕はここで政府の人たちと戦って注意を引くからその間に十紀人たちは逃げてくれ。」

それもそうだろあれだけド派手に暴れたんだ政府の人たちにバレても仕方が無いだろう。

粋「あとは僕の仕事だ。さぁ十紀人みんなを連れて逃げてくれ。」
十紀人「お前を置いて逃げれるかよ。俺も一緒に戦うぜ。」
粋「何言っているだい。政府に僕の存在はばれている。でもまだ君の存在はバレていないんだ。この意味が分からない君ではないだろ。」
十紀人「やっと仲直り出来たんだ。俺はお前を置いてなんて行けるわけ無いだろ!!俺は正義の味方なんだから!!」
粋「君は彼女たちを危険な目に合わせる気かい」
十紀人「っう!!でも・・・。」

俺は白雪たちを見る。
粋の言うように白雪たちを危険に合わせるのは俺の本望ではない。
俺が困っている顔をしていると白雪は口を開いた。

白雪「私は共に戦うぞ。ご主人様。」
百鬼「マスター。百鬼も心はマスターと同じであります。」
十紀人「みんな・・・ありがとなそういってくれると思ってた。・・そういう事だ粋。」
粋「っふ。いい仲間を持ったんだね十紀人。・・・そうだね。じゃぁ共に戦おうか。」
十紀人「そう来なくっちゃな!!」

そう言って俺は政府の人たちと戦う覚悟を決める。
みんな一緒だったらどんな人たちが来たって負ける気なんてしなかった。

十紀人「粋、どっから来るんだ?」
粋「あっちからだ。」

俺は粋の指を指す方を見る。

粋「ごめんね。」
十紀人「え?」

その粋の声の後、後頭部に激しい衝撃がして俺は意識を失った。

白雪「ご主人様!!」

白雪は倒れかかる十紀人を受け止める。

白雪「お前!!」
粋「早く十紀人を連れて逃げて。」
白雪「え?」
粋「こうでもしないと十紀人は本当に僕と一緒に政府の人たちと戦うからね」
百鬼「・・・。」
粋「さぁ十紀人連れてこの場から逃げて。」
白雪「昔に戻ったのだな。今なら感じる。お前の鼓動があの頃と同じなのを。」
粋「ごめん。もっと早く気づいていれば君との約束を守れたのにね。」
白雪「そうでもない。そのおかげで私はご主人様にであえたのだから。」
粋「これは手厳しいね。」

粋は白雪の言葉に苦笑する。

白雪「死ぬなよ。」
粋「善処するよ。」
白雪「百鬼行くぞ。」
百鬼「・・わかったであります。」

白雪は十紀人を担いで百鬼と共にその場から離れようとしたとき粋は最後に白雪に十紀人への伝言を残す。
白雪はそれに頷いてから必ず伝えると言い残してその場を去った。

百鬼「粋でありますか。・・いい男であります。死でほくないほどに・・であります。」
白雪「あぁ。」
百鬼「でも、マスターの方がいい男であります。」
白雪「そこは同意しておこう。」
百鬼「百鬼たちは幸せであります。」
白雪「全くだな。」
・・


粋「さて、だんだんと音が近づいて来たね。」

粋は独り言のように呟く。

黒川「そうですね。主。震えていますよ。」

黒川はそっと粋の触れる手を取った。
粋は驚き黒川の方を見る。

粋「武者震いだよ。・・君も逃げてくれて構わないよ。」
黒川「それが命令であっても従うことはできかねます。粋様は私の主なのですから。」
粋「っふ。出会った頃と比べて黒川はよくしゃべるようになったね。十紀人のおかげかな?」
黒川「・・・主は意地悪です。」

そう言って黒川は少し顔を紅くする。

粋「黒川。今までごめんね。僕が君にしてきたことは謝って済むものでもないけど謝らせてくれ。」
黒川「もう、いいのですよ。すべては過ぎ去ったことですから。」
粋「ありがとう。」
黒川「行きましょうか。主。」
粋「うん。」

段々と爆発音が近くなってくる。
二人は前から来る者たちを出迎えるために構えを取る。
・・・
・・


十紀人「粋いいぃぃぃ!!」

俺はベットから飛び上がるように起き上がる。

白雪「起きたか。」
十紀人「白雪!!粋は!!」
白雪「わからない。」

白雪はそういって首を横に振った。
俺はあたりを見渡してここが自分の部屋だと気が付く。

十紀人「俺はどれくらい寝ていんたんだ?」
白雪「3日だ。」
十紀人「え?」

俺は自分の耳を疑った。
しかし確かに白雪の言葉は頭に鳴り響いていた。
白雪は静かに口を開いて俺が気絶からのことを話してくれた。
俺達を逃がすために俺を気絶させてその場から逃がした後、黒川とともに粋は政府の人たちに二人で立ち向かって行ったこと。
明け方百鬼と白雪で現場を見に行ったがそこには何事もなかったようにいつもと変わらない風景が残っていて粋や黒川やドールズの姿はどこにもなかったこと。
静が俺のことを心配していたこと。
白雪は静かに話してくれた。

十紀人「そうだったのか・・。」
白雪「今、静と百鬼で買い物に出ている。」
十紀人「俺はまた粋に助けられたんだな。」
白雪「そう落ち込まないでくれ。ご主人様。」

白雪は悲しそうな顔をして俺を見つめてきた。

十紀人「すまない。」
白雪「最後に粋からの伝言だ。『約束は守ります。だから君は君の大切な物を守ってください。』っとのことだ。」
十紀人「そうか。」

俺はその言葉を聞いて少し気持ちが楽になった。
そしてまだ熱い夏は始まったばかりだと言うように外で鳴いている蝉の鳴き声に耳を傾ける。
開け放たれた窓からは涼しい風が優しく俺の頬を滑って行った。

十紀人「夏は始まったばかりだな」
・・・
・・


数日後
俺は一人で今桜姉ちゃんの墓の前に来ている。
此処に来るのはもう数年ぶりになるだろうか・・。
俺は眼を閉じて手をあわせる。

十紀人「桜姉ちゃん。俺を守ってくれてありがとう。そしてごめんなさい。」

一通りのお参りが終わると俺は静かに眼を開けて立ち上がる。
振り返ると一匹の黒猫が俺を方を見ていた。

黒猫「にゃ~。」
十紀人「・・クロ。」

その猫を見た瞬間クロとの・・桜姉ちゃんとの思い出がフラッシュバックする。
胸の真ん中の部分が温かくなるのが分かる。
桜姉ちゃんは俺の中で確かに生きている。
俺はそれを忘れてはいけない。そうすれば桜姉ちゃんは俺の中で生き続けられる・・そんな気がした。
ふと、自分が泣いていることに気付いて俺は服の袖で涙をぬぐい取る。

十紀人「最近、涙もろいな。」

俺は鼻をすすり、涙を止めて歩き出した。

???1「綺麗な花だね。」
???2「そうですね。桜様に似合いそうな花です。」
???1「十紀人はセンスがいいからね。」

墓地の入り口のところまで来ると桜姉ちゃんの墓の方から聞きなれた声がして俺は直ぐ様振り返った。
そこに黒いスーツを着た俺と同年代くらいの男とこの熱い中メイド服に身をつつんだ女の二人が立っていた。
俺はその人達を知っている。
一人は俺に正義と強さを教えてくれた人。
一人は初めて会ったとき俺の命を狙った無愛想だけど根は優しい人。
その人たちの名前は・・。

十紀人「粋!!黒川!!」
粋「待たせたね。・・約束を守りに来たよ。」
黒川「十紀人様、お待たせいたしました。」

夏の昼下がり日差しが容赦なく地面を照りつけて、反射で眼を覆いたくなるくらい眩しい。
風は生温かくて何もしていないのに汗が勝手に流れだしてそれが涙なのか汗なのかわからなくさせる。
木に止まった蝉たちは歌い。それがいろいろな音と重なって夏の音を作る。
そんな暑い暑い夏の昼下がりの出来事だった。
・・・
・・


FIN













       

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