Neetel Inside ニートノベル
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スーパー文芸大戦NEET
Novel 5  カツラ・ドライブ

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 ミツミサトリ博士は憂鬱だった。科学者はいつだって憂鬱なものだ。研究をするためにはスポンサーがいる。スポンサーを得るためにはパフォーマンスと実績がいる。
 なぜただ小説を書くだけではダメなのだろう……なぜ敵がいるのだろう……ミツミサトリにはそれがわからない。
 倉庫のような闇がぎっしり詰まった円形の研究所のなか。
 中央には保護液体が注入されたカプセルが一機。キーボードがゆっくりと回っている……綾波レイのように……。
 ぷしゅん、と間の抜けた音がして、一人の、少年とも言うべき若き少佐が入ってきた。
 ミツミサトリはチラ、とうしろを振り返っただけで、敬礼もしなければ挨拶も省略した。仲が悪いのではない。気心が知れている間柄、ということだ。
 少年は、液体の揺りかごで眠るキーボードを見上げて、ほう、と息をついた。
「ついにできたんだね、ミツミ博士。これが……」
 崩条リリヤ少佐は、畏怖と興奮を隠しきれずに呟いた。
「<カツラ・ドライブ>……か」
 ミツミサトリはかけていた眼鏡を外して、ぎゅっと目頭を揉んだ。
「ああ、まだ試作段階だが十分に実用に耐えられる出来だと自負している」
「すごいね。この戦いが始まってからまだ一月も経っていないのに」
「前々から注文があった品だから。ちょっとピッチを上げただけさ」
「簡単に言ってしまえるのがすごいよ」
 リリヤはぺたぺたとカプセルに触ってその周囲を回っていく。まるで水族館に来た子どものよう……だが、その心の奥にあるのは、硬く鋭い使命感の刃だ。
 カツラドライブ。
 伊勢カツラ総司令の愛用したキーボード、その『キーの叩き方』からカツラ指令の思考と文脈を文芸戦士にバックアップとして無意識下に指導し、誤字はなくなり展開は面白くなりコメントは増えるという優れものだ。すべての文芸戦士の夢といってもいい。
 あの無残に終わったコニー軍との戦いの際に開発決定され、ついに、いま、リリヤの前に実物として存在することにあいなったわけだ。
 だが、なにもかもがユメのよう、とはいかない。それが現実、それが文芸だ。
「リリヤ少佐、心して聞いてほしい……」
 リリヤの背中は無言だったけれど穏やかだった。「なに?」と心の中で優しく聞き返す彼の声をミツミは幻聴したくらいだ。
「カツラドライブは確かに性能面では文句のない代物だ。だが、その、機体に耐久性を求めるのだ」
「というと?」
 ミツミはふう、と一息ついてから、意を決していった。







「パイロットが受けたコメント総数1500以上。

 それに達しない機体は、カツラドライブの出力に耐え切れず……爆裂する」







 リリヤはなにも言わなかった。ただ、ハハ、と乾いた笑いをあげた。
「しかも上質な米を要求する捻くれものだ。一日に同じIDが打ったコメントは弾くし、読んでいないのにコメントした、などというのもダメだ。また連載長期にわたったがゆえ、またはラジオの結果などのコメントも弾く。リアル友達のコメントも弾く。それから」
 もういい、もういい、とリリヤは苦笑しながらミツミを遮った。
「わかった。わかったよ。まったくなんて試作品だ。僕どころか、ニコ副指令にだって使えないじゃないか」
「いや、ニコ副指令は別格だ。不在ゆえに検証はできないが……文章力一本で勝ち取った米、あるいはコメントが得られがたいとされる題材を扱った小説の米は、三倍から多い時は十倍のエネルギーを放出することがあるんだ。これはコメント力学の初歩中の初歩なんだが、原理としてはまず」
 リリヤはとうとうミツミの口を手の平で遮った。笑いながら。
「もういいってば。博士は本当におしゃべりだなぁ」
「むむむむん」
「要するに、<クリスマス・デストロイ>までに1500コメント得られればいいんだろ? なに、あと400かそこらさ。間に合わせてみせるよ」
 ぷはっ、とリリヤの手を振り払ったミツミは、ぜいぜい息しながら、眉をひそめた。
「リリヤくん……それは無理だ。ただでさえ一年前に比べてコメントは不作なんだ。いつ、コメントショックが起きて、<スローイング・シンドローム>を発症した文芸戦士が暴徒と化すかもわからないこんなときに……」
「わかりませんよ」
 リリヤはポン、とカプセルを叩いて、軍帽を被りなおした。
「文芸戦士はどんな時だって、完結するまでは諦めない……僕が入隊したとき、カツラ総司令に頂いた言葉です」
「リリヤくん……」
「大丈夫、これからちょっと師走の大忙しになるだけですから」
 そういって、リリヤ少佐はミツミサトリの前から去っていった。
 ぽつんと残されたミツミサトリは、ぎゅっと拳を握り締め、カツラドライブを見上げた。その眼に宿っているのは、期待と、不安と、それから少しの羨望。





 どうか誰一人として死なないで欲しい。

 両手を組んでひざまずき、ミツミサトリは真新しいキーボードにそう祈った。














 カタタタ
 カタ





 文芸暦五年 十二月二十二日





 開発が進められていた<カツラドライブ>試作機が完成
 しかしエネルギー出力に難があり、その出力に耐え切れる機体は当軍に存在せず
 もっとも期待値の高い機体を持つ以下両名が<カツラドライブ>搭載に志願

 遊撃連載部隊隊長  崩条リリヤ少佐
 遊撃連載部隊副隊長 顎男少佐

 議会はミツミサトリ博士率いる開発部隊との慎重な討議の結果
 本日フタフタマルマル





 ――――崩条リリヤ少佐、機体名『スクールデイズ・ダークサイド』に
     <カツラドライブ>を搭載することを決議した

       

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