Neetel Inside ニートノベル
表紙

byex2ゲーム
第1部 すごろく

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            目次

                      必要時間目安
事件発生1日目~2日目        ・・・2  5分

事件発生2日目14:30~       ・・・3  3分

事件発生2日目14:40~       ・・・4  4分

事件発生2日目14:50~       ・・・5  4分

事件発生2日目15:00~(野口視点)  ・・・6  3分

事件発生2日目15:10~       ・・・7  5分

事件発生2日目15:20~       ・・・8  5分

     

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 野口は2両目の連結部分のドアのそばにいる。
すなわち、ドアの窓ごしに先頭車両の中を見渡せる位置にいるのだ。
野口は携帯を見ている6人をマークしている。
内藤がいうには、犯人の電話にははっきりと、自分の車両と同じアナウンス、振動音が聞こえたという。
つまり、確実に犯人は先頭車両にいることになる。
総理大臣の孫を誘拐しておいて、マヌケにも自分で出向いてくるとは。
先頭車両はドア2つ隔てた目と鼻の先。
犯人をみつけ、しめあげて、孫と共犯のいるアジトの場所をはかせなくてはならない。
しかし、焦って先頭車両に乗りこみ、6人を確保するのは危険だ。
6人すべてが犯行グループの可能性があるからである。
いかに屈強な野口でも6人は相手にできない。
どうせ犯人は田町駅で降りる。
必然的にこの中から降りた奴が犯人であり、田町駅には他の警官が待機している。
今は泳がせたほうがいい。
 内藤は有楽町で降りて、次にきた電車に乗った。
そしてサイを振る。
目は2。
つまり、次は浜松町で降りればいいようだ。
さっきの電話以来、犯人からの電話はおろか掲示板へのかきこみもない。
だが、やじ馬たちは大量に書きこんでいる。
内藤はもはやそれに目を通すのもやめた。
ひどい警察への悪口が目立ったから、見るに耐えない。
こいつらも全員しょっぴいてやりたい気分だったが、さすがに文章であおっただけでは共謀罪にはしにくいだろう。
犯行予告でも書きこめば別だが。
内藤とは対象的に、野口はすべての書きこみをチェックし、6人のうち3人までは携帯のボタンをうつタイミングから、
どの書きこみをしているかわかった。
この3人は文脈からただのやじ馬と判断し、残りの3人のうちの1人も携帯を見たのが最初の1回だけなので除外する。
すなわち残りの2人のどちらか、あるいは両方が犯人。
そこまで絞りこんでいた。
気づけば電車は田町駅に着いている。
ところが不思議なことが起きた。
この車両から降りたのは4人だが、その中に携帯をいじっていた人間は1人もいなかったのである。
しかし野口は焦らない。
この車両の観察を続け、降りた4人は田町駅で待ちかまえていた警官たちに任せることにした。
 そのころ内藤は浜松町駅で降り、一服している。
隣の駅では他の警官が活躍し、事件はもうかたずいているだろう。
内藤はひとりかやの外におかれている。
これでノンキャリの自分たちも少しは見直されるだろう。
内藤は同じ境遇の本部待機組の3人に電話をした。
「はい、こちら首相着孫誘拐事件対策本部。」
弱々しい声。一文字菊だ。
「一文字か。種田に代わってくれ。」
種田進は色黒で長身。
剣道4段で文武両道の頼れる男である。
「種田さん忙しいです。書きこみのチェックしてます。」
「じゃあ、鉄ちゃんでいいや。」
「鉄ちゃんは時刻表や路線図とにらめっこしてますよ。」
「嘘付け、クロスワードやってるだけだろ。」
「なんでそんなに仲悪いんですか。僕は鉄ちゃんも内藤さんも好きなのに。」
「気持ち悪いこといってんじゃねぇよ。」
「僕も忙しいので切りますよ。」
井上虎鉄は40歳と対策本部のなかでは最年長であるのに、普段活躍している所を見たことがない。
それでよくクビにならないなと思うが、人徳があるからだろう。
とても警官には見えない柔和なものごし。
趣味は切符収集とクロスワードパズル。
そんな奴でも忙しいといっている。
「本当にかやの外はオレひとりか。」
そうつぶやくと、暇しのぎに携帯を見た。
犯人のサイコロが振られている。
目は6。
おかしい。

     

 犯人の現在地が品川に動いている。
ゲームは続いていたのだ。
内藤はすぐに本部長に電話をした。
「どうなってるんです。捕まえたんじゃないんですか。」
「確かにあの車両から降りた4人は足止めしている。
それどころか、他の車両から降りた19名も取り調べているが、出てこないんだよ。
証拠品のサイコロのアプリが入った携帯が。」
「出てきやしませんよ。犯人はまだ電車に乗っている。
奴の現在地がどんどん動いている。今奴は大崎にいます。」
 大久保は内藤からの電話を切ると、すぐに井上に電話をかけ調べさせた。
今大崎を通過しているのは野口が乗っている電車とは別の電車だという。
大久保は田町駅にいる警官を、次に犯人が降りるであろう渋谷駅に向かわせている。
 「まずい。」
内藤は犯人を舐めすぎていたことを後悔した。
どんな手品を使ったのか、犯人は今大崎にいる。
いや、もう五反田だ。
すでに4駅も離されている。
ゲームに負ければ、総理大臣を人質に取られるのだ。
内藤はゲームを続行しなければならなかった。
電車に飛び乗りサイコロの目を振る。
サイの目は6。
「やった。」
これで追いつける。
「ん?」
おかしい。
このゲーム、"6"が出すぎている。
犯人のサイコロは1回目が6、2回目も6だ。
最初から犯人が勝つように、サイコロのアプリに細工をしていたとしたら。
現在地が動いていたのもそこに犯人がいるとは限らない。
もともと細工してあって犯人はイカサマをやっている。
 内藤は再び本部長に電話した。
「犯人が電車にいたのは、最初に電話をしてきたときだけです。
たしかに電話から聞こえてきた振動音、アナウンスは自分が乗っていた車両と同じでした。
しかし、そのあとは別です。
現在位置が動いているのを見て我々がかってに思いこんだだけです。
電話の後すぐ降りたかも知れないし、まだあの車両に乗っているのかもしれない。
犯人が用意した携帯電話など、いくらでも細工がほどこせるだろう。
つまり、やはり犯人は最初に携帯をいじっていたあの6人の中にいるはずです。」
「野口からの報告で、6人のうち2人が降りたらしいが、
2人とも品川で確保している。
安心しろ。」
野口は品川で2人が降りたのを見て、本部長に連絡していたのだ。
 野口は車両を移動して聞き込みを開始した。
周りに携帯を使っていた奴はいないという。
駅に着く度に元の位置に戻って、残りの4人が降りないか確認する。
結局、携帯電話をかけているのを見たという奴は1人もいなかった。
そういうマナーの悪い奴がいれば、目につくはずだ。
どういうことだろう。
聞きこみをしていないのは先頭車両だけだ。
野口は意を決して先頭車両に踏みこんだ。
そして、大胆にも犯人とにらんだ人物に話しかけた。

     

「すいません。警察ですけど、ちょっとお話だけよろしいですか。」
「はい。」
「この車両で電話をかけていた人はいませんでしたか。」
「いました。」
ビンゴだ。
「どんな人でしたか。」
「グレーの背広に黒いコートを羽織ってた30代くらいの男性です。
。顔はひとむかし前のイケメンって感じで、なんか目つきの悪い人でした。」
それは内藤のことではないか。
そりゃそうだ。あいつが電話を受けたんだから。
しかもひどい言われよう。
「他にはいませんでしたか。」
「いません。」
そりゃそうだ。「自分です。」とは言えないよな。
よし、ここらで核心を突こう。
「あなたは確か秋葉原より前から電車に乗りましたよね。」
「はい、日暮里から乗りました。」
「おかしいですよね。どこまで乗るつもりですか?」
電車はすでに新宿を過ぎていた。
もし、ここより先で降りるならば、なぜわざわざ遠回りしたのかということになる。
日暮里からなら内回りのほうが近い。
どう言い逃れるのか固唾を飲む。
「実は降りるつもりはないんです。」
期待していた答えとのギャップに驚いた。
乗り過ごしてしまったと弁明するのかと思えば、
これでは完全にクロだと自分で言っているようなものではないか。
犯人と目される人物はさらに続けた。
「私達は自殺サイトで知り合い、自殺するつもりでここに来ました。」
と周りの3人を紹介された。
混乱してくる。
自殺志願者が死ぬために首相の孫を誘拐して、
わざと捕まり死刑にしてくれということかと、
無理な解釈をしたが違った。
 彼らの話によると、最近自殺サイトにあのニュー速板に書かれた犯行声明の内容が書き込まれ、
ご丁寧にも発車時間まで書き記されていたという。
そして、その車両に乗ると事件に巻き込まれるという憶測から話に尾ひれがついて、
乗ると必ず死ぬとか、大量殺人が起きるとか、自殺者集合とか、大量の書き込みがしてあったそうだ。
彼らはそれぞれ事情で、ひとりでは自殺できない自殺志願者達が集まるそのサイトで知り合い、
もしかしたら、死ねるのではないかとこの電車に乗ってみたという。
まさに地獄への片道切符というわけだ。

     

 犯人は目白でまた"1"を出し、池袋で降りた。
まだ内藤のほうが先行している。
犯人のトリックが分かったからか、内藤の心には余裕が生じた。
案外、携帯には細工はないのかも知れない。
イカサマがなくても、並走する京浜東北線を使えば説明がつくのだから。
 その裏付けがとれたのだろう。
本部待機組の井上から電話がかかってきた。
「山の手線と京浜東北線は上野、秋葉原、東京で駅に着くタイミングが同じになる。」
「これで犯人が京浜東北線からオレに電話をかけ、
東京駅で山の手線に乗り換えたことがわかった。
助かったよ、鉄ちゃん。」
「ところで内藤、山の手線と京浜東北線の車内アナウンスには違いがあるんだが。
犯人の電話から聞こえてきたアナウンスを覚えてないか。」
「確か"次は神田"だったかな。」
「内藤、それは山の手線のアナウンスだ。
京浜東北線は快速だから神田には止まらない。
なんで気付かなかった。」
「おいおい、オレは鉄ちゃんと違って鉄ヲタじゃないからわからねーよ。」
内藤はそう言って電話をきった。
推理はふりだしに戻ってしまったが、落胆しているヒマはない。
 犯人は池袋で"6"を出し日暮里に向かった。
次に"4"がでればあがりである。
駒込で降りた内藤もサイを振った。
"1"ということは田端。
次に"6"がでればあがりである。
どちらかがあがれば決着がつく。
そうすると犯人はこの場から消えるだろう。
ゲームが終わる前に犯人を見つけなくてはならない。
どうすれば犯人を確定することができるだろう。
 田端駅で内藤はサイを振る。
"5"。
「御徒町か。」
あと1足りなかった。
次に1がでればあがりだが、他の目なら2周目ということになる。
日暮里で犯人はサイを振る。
"2"
上野に向かって動き出す。
 内藤は犯人の現在地を確認していると、あることに気付いて目を疑った。
自分の現在地と犯人の現在地が重なっている。
犯人が日暮里から乗ったのは内藤が乗っている電車だったのだ。
不思議なものである。
犯人がこの電車にいるのは分かっているのに手が出せないなんて。
いや、確かめる方法はある。
携帯にはリダイヤルという機能があるではないか。
これで犯人に逆にこちらから電話をかければどうなるだろう。
犯人はとらないかも知れないが、この電車の中で着信音が鳴るはずである。
その音をたどれば犯人を特定することができるはず。
早く気付けば良かった。
そうすれば、こんな茶番にも付き合わなくてすんだのだ。
 内藤は犯人に電話をかけた。
やはり、出ない。
内藤は電話を鳴らしながら車両を移動した。
わずかな音にも耳をすませながら。
前から3両目にきたときに、こもったバイブ音が聞こえた。
音のほうに近づいていく。
面長の青白い顔をした30代の男。
その男のズボンのポケットから音が聞こえる。
「電話鳴ってますけど、でなくていいんですか。」
内藤は白々しく話しかけた。
男は青白い顔をさらに青くさせたが、取り乱す様子もなく、無視を決め込んだ。
内藤は試みに電話を切ってみた。
すると男から聞こえていた音もピタリとやんだ。
間違いない。
 そのとき、上野駅に着きドアが開いた。
しまった。
男はドアが開くや否や飛び出した。
内藤もそれを追う。
男はこの期に及んでも、まだゲームを続けようとした。
サイを振ったのだ。
「2。勝ったーーーーー。」
男は急に奇声を上げた。
内藤は男をねじ伏せ、手錠をかける。
終わった。
そう思った。
そして安堵した。
しかし、違った。
始まったのだ。
 「よくやったな。」と本部長に言われ、
「いや、今回は野口の活躍が大きい。」と内藤は正直に述べた。
一瞬、本部長の顔が曇る。
「ああ。それなんだが、野口な、・・・殉職したんだ。」
内藤は何を言われたのか理解できない。
「野口はあの後クハE230-518を一通り調べ終わり、
こっちに電話をかけてきた。
電話の最中、野口の声が途絶えたんだ。
何者かに注射器で腹を刺され、
ショック症状のまま息をひきとったそうだ。」

我々は勝ったのだろうか。

       

表紙

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Neetsha