Neetel Inside 文芸新都
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トワとの距離
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 大野を描いた絵を見せに行った。ベッドの上の大野の笑顔は、俺が描いた時と何一つ変わらない笑顔で、春の陽気のように穏やかだった。

 ぐちゃぐちゃの感情のまま描いた大野の絵は、結局いつも通りのものになったのだと思う。それを見た大野はいつも通りのあの笑顔で笑ったのだから。

 そしてそれが最後の大野の表情だった。

 しばらくして大野に呼吸器が取り付けられた。容態が悪化して呼吸器を付けた大野は別人みたいだった。 

 桜が散って本格的な春が始まり、その端々に初夏の香りが漂い始めた。俺はただ絵を描き続け、そして時折大野の病室を訪れては描いたものを見せた。大野は何も言わないので、俺が適当に話しかけた。反応は返ってこなかった。当たり前だった。

 本格的な夏がやってきた。夏休みもひたすらに絵を描き続けた。去年回った大野との思い出を真っ白なキャンバスに求めるように、色んなところを回って描いた。もちろん大野の病院にも行ったが、最近は眠ってばかりだった。会話の代わりに機械の電子的な音が規則的に鳴る病室で、俺は黙って絵を描いた。

 秋になっても、冬になっても、俺はずっと絵を描いていた。大野を最後に人は描いていなかった。誰もいない場所で、静かに描いていた。季節ごとに移り変わる景色、大野が好きだったそれを、一つもこぼさないように。冬の終わりに第一志望の美大への進学が決まった。俺はそこでも絵を描くだろう。何のために描いているか、忘れそうな時があった。

 また春が近い季節になった。大野がこの世を去った。葬式に出ても涙は流れなかった。

 しばらくして、俺の許に郵便物が届いた。一枚の絵画と短い手紙の差出人は、大野祐一だった。

       

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