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第三話 入部

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 放課後、俺たちは図書館準備室兼文芸部室の扉を叩いていた。すぐに扉は開かれた。そして僕たちの目の前に現れたのは写真通りの乳魔人が現れた。ブラウスの勇が舞い上がるのを軽く無視して俺はなるべく紳士的に、言い印象を持たれるように自分たちが入部希望者である事を告げた。
無論これからの部活生活を有意義に進めるためである。下心はほんの少ししかない。彼女は穏やかに、その艶のある黒髪の長髪をなびかせながら答えた。
「ありがたいよ。部員が少なくて困ってたの。今は私も含めて二人だけだから。あ、写真で知ってると思うけど私は部長の木曽詩織。よろしくね」
 そして俺たちもそれぞれ名乗った。そして勇が尋ねる。
「もう一人の人はここにはいないんですか」
「ええ、今日は確か用事があって来られなかったの。無口で大人しくてかわいい子よ」
 図書館準備室の中に入ってみると、実に多くの本棚があり、所狭しとたくさんの本があった。一見したところ最近のものはないようだった。ぱっと見たところ一番新しいものでせいぜい平成初期の作品だった。予算が少ないのだろうかと俺は椅子に座りながら思った。
 そんな思案を巡らしているうちに、テーブルの向こう側に陣取っている木曽さんはもう入部届けを持っていた。気が早い性格の勇でさえさすがにこう突っ込んだ。
「ちょっと、早すぎじゃないですか」
 が、木曽先輩は全くうろたえずに言った。
「早く入って何か問題でもあるの。あと、判子はないだろうから拇印でも構わないよ。それとこれは付属の書類ね」
彼女の手にはインクパッドと大量の紙束があった。勇が拇印という言葉に過度に食い付く。
「ボインですか」
「拇印ね」
 と木曽先輩はわざわざアクセントをはっきりさせて言った。註釈するが、勇はふざけた奴だがそこまで阿呆ではない。むしろ頭脳は優秀なほうだ。よって、拇印の意味を理解していただろう。つまりこのやりとりは木曽先輩にボインという言葉を言わせたいための勇の策略なのだ。
 何と言う呆れた不道徳な奴だろうか。最もそのおかげで、俺も少し興奮できたので文句はあまり言えないが。

 しかし俺は事態の進行のあまりの速さに戸惑っていたので先輩にこう申し出た。
「少し考えさせてくれませんか。あと仮入部とかはないのですか」
「仮入部なんてものは文芸部にはないからね。ほらほら、ぐだぐだ考えてないでさっさと決めたら。男らしくないよ」
 俺と勇は思わずむっとした。安っぽい挑発に簡単に乗ってしまったのが間違いだった。人間、頭に血が上ると冷静な判断が出来なくなる。俺が言いかけた時には、既に勇がいつになくまじめな表情で言った。
「入ります」
 一応念のために書類を一読したが、内容のない事がだらだらと書いてあったので、途中で読むのをやめた。勇は読もうともしなかった。木曽先輩は背中を押すようにこう言った。
「入部費とか全然ないし、部活にいつくるかも自由だし気楽なもんよ。深く考えないで捺しちゃいなさい」
 全く、その発言は今から考えると断崖絶壁の近くでぼんやりとしている人間の背中を押すような行為だったのだ。
 そして最初に勇が所定の欄へと拇印を捺した。俺も続いて判を捺した。このとき、捺す寸前に何とも言えないいやな感じがした。今から考えると第六感という奴だったのだろう。
 その後、職員室に行き担任の坂田先生に判子を捺してもらった。これで俺たちは晴れて無事に文芸部員になった。

もし俺がこのときにH.Gウェルズよろしくタイムマシンで過去に戻れるなら、自分自身の顔を拳で全く躊躇なく、渾身の力を込めてぶつだろう。その罰に勝るとも劣らぬ失敗を俺は犯してしまったのだから。
 正式名称を一石高校文学部というこの部活はいつからかこう呼ばれていた。オタクの吹きだまり。容易には甘受する事が出来ない言葉だ。というかこれを言われて何も感じない人間はもはや無我の境地に達していると言ってもいい。お釈迦様もきっとお認めになられるだろう。俺がこの事実を知ったのはこの後の事だった。非常に遺憾な事に。
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