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「その、終わりに寄せて」

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 基本的に、私はこの毎日に退屈しているのだなと思われた。
 常々なにか面白いことはないかと思いあぐねているが、私にとって何が面白いのかはわからない。むしろこっちが教えてほしいものだ。
「私にとって、面白いことってなあに?」
 時に思う。今、この瞬間にすれ違った、二度と会うことのない、しかしもう一度どこかで会うかもしれない親愛なる他人様は、いったい何を思い、何を感じて生きているのだろうか。
 うず高く積み上げられた文章の前であぐらを組み、次第に染まっていく義理のない物語を干渉なく見守る。
 君がしている「行為」に疑問もあり、興味がある。
 その全ては退屈から成っていると私は思う、のである。

 ○

 最後である。最後に、私が後藤ニコだったことについて話をしよう。
 雨に濡れる京都御所の片隅で、何の脈絡もない「うんこ」の話を思いつき、それから展開するはずもない与太話を壮大に広げていけたのは退屈そのものの結晶であると言えよう。
 もともと、本屋に行ってもこれ一つ退屈を埋めるものが見つからず、加えて金もなかった私は、私が私を楽しませるための、極めて自己中心的な物語を作成し、現実の外側へ行けるところまで行ってみようと空想した。
 初めて見ず知らずの他人から寄せられた感想に私は感動もした。
 初めて見ず知らずの他人に感想を送り、私はさらに感動した。
 自己で始まった物語であることに違いはないが、自己で完結するはずの物語が果たして自己のまま完結したのかは未だに定かではない。恐らくは違うだろう。
 ただ、私にとって美しいものが詰め込まれていた、とだけは言える。
 次に書いたものは長い間の熟成期間を置き、徹底した成分分析と味見を行ってからの登場であった。
 基本的に私はものを書く際にプロットは組まないが、それに関して言えば緻密に設定を仕上げていた。どうせ破たんするものがプロットであると私が思うように、何度も破たんを繰り返した。
 そもそも私は素人であったので、プロットという言葉と意味を理解したのは一つ目が終わってからしばらくしてからの話である。その時点で、私が練っていたものはただの打ち合わせ表にすぎなかった。
 面白いを追及した次作の行方は、私がうす暗い路地裏で葡萄酒を揺らしている間に見当を失ったが、面白いことに変わりはないのでいずれ諸君に見てもらおうと思っている。どんな形であろうと、最初と最後が決まっていればあとはどうにかなる。
「ほれほれどうだ、いいだろう。次はこうなって、その次はこうなるのだぞ」
 と、君と葡萄酒を交わしながら話せる日がくる。私の面白いが、君の面白いになれば本望である。そうして話ができるのならもっと面白いはずだ。きっと、そう信じている。

 ○

 私はそれ以前にものを書いていた。
 後藤ニコ名義で書いた「コ・リズム」「ぼく、彼女の、なんなのさ。」「夕夏」「脳髄モダニズム」のほかに、もう三つだけ与太話が存在している。
 いわゆる未公開作品というものだ。(あえて大層に称す。その方が最終回に華が出る)
 これらはいずれも長編となり、言わずもがな目も当てられない出来に仕上がっている。結婚初日に己の人生を賭して作成した夕食の献立に似ている。結婚経験はないが、きっとそういうものだ。そういうものなのだ。
 公開すれば恐らく後悔することになるであろうから、あえて衆目に晒す破廉恥な行為は避けておくが、せっかくの場であるのでどんなものなのかをさらりと鞍馬の清水の如く紹介する。
 ひとつめは真っ向から君の右頬をストレートで殴りに来る恋愛小説である。その破壊力たるや右の親知らずが吹っ飛ぶ威力を秘める。流血し、赤面が一週間続く。
 ふたつめも恋愛小説である。天高く振り上げた踵が君の脳天を直撃し、ゲロを吐いてほどなく失神する。
 みっつめも恋愛小説である。渾身の一撃が君の肋骨を数本持っていき、携帯小説を凌駕する超展開と超表現で最後に恋人がなんらかの理由でご都合主義的に死ぬ。
 こうやって見ると恐るべきラインナップを取りそろえる。
 思えば遠くへ来たものだ。

 ○

 さて、そろそろ終わりにする。
 私はいったん、ここで筆を置く。また書くかもしれないし、書かないかもしれない。それは誰が決めることではない。私が決めることである。
 退屈の先には何があるかは知らん。私は常々、退屈であるから面白いを求めたい。
 きっとそれは、またもや自己中心的で、アホらしく、超自然的でかつ、奇想天外で、異空間感覚の、神秘的な、正直何かよくわからないものであって、それすなわちマジカルなのだろう。
 彼女の言葉を借りるのなら、世界は今日も回っているのだ。
 その先にも、面白いが待っていればいいな。
 また、どこかで会えれば。そう思う。
 
 ○

 親愛なる読者様。
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