「……太るよなあ……。絶対太る! 誰だよーマック行こうとか言い出したやつは! せっかく今日でテスト終わったんだからもっとリッチなところでパーっとやろうぜー。なぁ鈴ぅー」
背の高いモデル体型の少女は、その腰まである長い茶髪をふわつかせながら大きなため息をついた。
都内某駅前のマックは夕方ということもありたくさんの人影で溢れていた。
おなじみの油の匂いを漂わせる店内には、時間つぶしのOL、勉強中の大学生、仮眠中のサラリーマンなど様々な人種が見られる。
たった今店内に入ってきた女子高生4人組は、なにやら疲れきった様子で、かつ少し安堵しているような様子も含んでいる複雑な雰囲気だった。
そんな彼女たちが、油で色の滲んだ店内においてそれでもなおくっきりと目立っているのは、その外見の華やかさによるところが大きい。
「どこにそんな金があるんだ! あたしは今日のテストで撃沈したから春休みは補修でいっぱいなのー! あんたがあたしの代わりにバイトしてくれるっていうのかー!」
ジト目でギャーギャー喚いているのは、背の高い少女とは打って変わって小柄で、なんとなく高級なチョコレートを思わせる少女だった。その濃い黒髪はピンと引き締まっていて、小柄さと相まって端正なたたずまいを強調している。
鈴と呼ばれたその少女は明らかに4人の中で一番気落ちしていた。
それはおそらく先程愚痴っていた試験の結果によるものなのだろう。高校生という若い身空で遊びたい盛り。お金が無いのは死ねと言っているようなものだ。
そんな鈴の肩に手を乗せて、まるであやすかのように鈴をなだめすかしているのは、メガネをかけたいかにも優等生らしい見た目の少女だった。
メガネ、優等生。この二つの要素がそろったらあとの1つは目押しの必要もなく勝手に揃ってくれる。
そう。その娘の胸元には、真夏にたわわに実った果実のようなたっぷりとした胸がキツそうにブレザーに収まっていた。
「まーまーすずちゃん。次頑張ればいいのよ。今回のテストは結構難しかったみたいだし、平均点いつもより低いかもしれないじゃない! 」
「そーだね……サヤにいわれても今ひとつ嬉しくはないけど……。どうせサヤは今回も学年トップクラスにしっかり入るんだろ?あーあーヘコむヘコむ!」
巨乳メガネの名前はサヤというらしい。鈴はジト目を崩さずにその視線を長身の少女からサヤに移すのだった。
がやがやとさえずる三人の傍らには同じ制服の少女がもう一人立っていた。肩までの長さの黒髪をピクリとも動かさないその少女は、他の三人とは異なりさっきから空中の一点を見つめ続けるばかりで一向にしゃべる気配は無い。
「……」
「暗いっ! 暗いぞ真奈! こんなチープなところとはいえせっかくだから少しはテンション上げろ! 試験は終わったんだぞー!」
一人取り残されいたようにみえたしゃべらない少女、真奈は長身の少女にその肩をぐいっと押されてばね仕掛けのおもちゃのようにふらふらと揺れる。
「きょうこ……。そうだね……。テンション上げるよ……。……わーい。やったー……試験終わりだー……」
蚊が飛び回る程度の音量で真奈はしゃべる。長身の少女の方はどうやらきょうこというようだ。
「おおっ! 今日は真奈テンション高いなー。真奈もさぞかしテストできたんだろうなぁ……」
真奈はこの調子でもテンションが高い方であるという驚愕の事実を携えて、鈴が会話に飛び込んでくる。
そんな感じで四人はその後もはしゃぎながら注文の列を乱していた。
自分たちの注文の順番が回ってきたときになって、ようやく何を注文するのか全く決めていなかったことに気づいた四人はメニューを指さしながらさらに賑やかに騒ぐのだった。