「……春は本当にあけぼのか?」
神妙な面持ちでそう呟いたのは真奈である。残りの三人はきょとんとした顔で真奈を見返した。
「あーもしかして今日の古典の授業でやったやつか!? あのYO! YO!ってやつ!」
「やうやう、ね♪ 清少納言の枕草子よね。季節の情感が趣深くていいわよね♪」
「あ~そういえばやったな~。春夏秋冬の趣深いものを紹介する感じのやつだっけ~?」
きょうこ、サヤ、鈴の順で、それぞれのリアクションを取る。
夕暮れのマック。今日も四人は飲み物片手にだべっている。
「……確かにあの随筆は趣深いかもしれない……しかしやはり昔の人と今の人では感覚が色々と違うと思うんだ……」
「確かにそうかもなー! じゃあ真奈は春はなんだと思うんだ!?」
「……はるは……サロンパス」
「しょうもねー!!」
きょうこが真奈にチョップでツッコミを入れる。その二人にサヤが割り込んだ。
「今の人にわかりやすいように、枕草子を現代的な言葉で書き下したものもあるのよ♪ 確か『桃尻語訳・枕草子』っていう本」
「……それなら読んだことがある……。『春はあけぼの』が『春ってあけぼのよ!』みたいに訳されてるやつだよな……?」
「そうそう♪ もう二十年以上前に出版された本だけど、面白いわよ」
「……二十年前か……さらに現代の言葉にしたらどんな感じになるだろうか……」
「さ、さらに現代の言葉~?」
最後の疑問文を言ったのは鈴である。真奈は続ける。
「……例えば、二十年前にはいなかったであろうネチズン風に書き下したらどうか……」
「ネチズン~? ど、どんな感じになるんだろ」
「……『春の明け方まじパネエwwwwオモムキブカスwwwwwあそこで白くなってる山、俺のなんすよwwwwってやかましいわwwww』……みたいな感じかな……」
「テンション高いな~」
「……『夏の夜…ども…。この良さがわかる野郎、他に、いますかっていねーか、はは。他の貴族の会話。蹴鞠楽しいwwwとか和歌オモレーwwwとか、ま、それが普通ですわな。かたや俺は闇を見て呟くんすわ。 It’s true WOKASHI. 狂ってる? それ、褒め言葉ね』……」
「あいたたたたたた!」
持論を披露する真奈に、鈴ときょうこが困惑する。しかもどうやらまだ続くようだ。
「『秋に、夕暮れ見たんです。夕暮れ。そしたらなんか山がめちゃくちゃ近くにある気がするんです。で、よく見たらなんかカラス飛んでて、巣に向かって行くんです。もうね、アホかと。どんだけ趣深いんだよと』……」
「なんか牛丼食べに行きたくなるわね♪」
「ふ、冬もなんかあるのか!?」
「段々不安になってきたよ~」
真奈はそこで一拍置いて、息を大きく吸い込んだ。
「……『冬!冬!早朝!早朝ぅぅうううわぁああああああああああああああああああああああん!!!あぁああああ…ああ…あっあっー!あぁああああああ!!!早朝早朝早朝ぅううぁわぁああああ!!!あぁクンカクンカ!クンカクンカ!スーハースーハー!スーハースーハー!いい匂いだなぁ…くんくん』……」
「「「ストップ!~♪」」」
突然奇声を上げ始めた真奈を、残り三人が制止する。真奈は肩で息をして黙った。
「いきなり叫ぶなよ~」
「びっくりしたわ……♪」
「あたしネットとかあんまり見ないからよくわかんなかったなー! 個人的には冬こそあけぼのだと思うんだけど!」
きょうこが自慢げに胸を張る。ようやく息の整った真奈が先を促した。
「……どういうことだ……言ってみろ……」
「大晦日は曙でしょ! 紫になって白くなってK.O.されてたし!」
「「「元横綱……~♪」」」
三人はマットに沈んだ。