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第八話「…大魔王からは逃げられない。」

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「そういえば、英語のテストの話なんだが。」


唐突に言い出した鈴に残りの三人が目を丸くする。鈴が自分から勉強の話題を振るのはかなり珍しいことであるようだ。


「まあ全然できなかったのはいつも通りなんだけどさ。それにしても学校で習う英語って日本語に訳しても意味わからなくないか?」


鈴は眉間にしわを寄せる。英語は鈴の苦手科目の一つのようだ。…得意科目があるのかどうかはわからないが。


「確かにねー。日本語で『ボブはあまりのことに大変驚きました。』とか生まれてから一度も言ったことないなー。」
「…そもそも周りにボブがいないもんな。」


きょうこと真奈が鈴に同意する。この二人も基本的に勉強はあまり得意ではないようだ。
 きょうこは一度コーラの入ったコップから伸びるストローに口をつけると、さらに話を続ける。


「もっと現実で使うような文章にしてほしいよな。せめて漫画に出てくるくらいのさー。そういう文章の問題なら解ける気がするぞ!」
「…ちょうど何冊か漫画をもっているが、これを英語に訳してみたらいいんじゃないか?」
「む!やってやろうじゃないかー!」


話が一気に妙な方向に行き、きょうこは咆哮をあげる。
 真奈は3冊の漫画を取り出してきょうこに手渡す。きょうこはそのうち一冊を開いて適当なセリフを探し始めた。


「むむ!これなんかいいんじゃないか? 英語に訳すからどういうセリフか当ててみてくれよー。」


きょうこが自信たっぷりな様子で言う。少し考えたきょうこは、さらに自信たっぷりに叫んだ。


「This is my mera-zoma! どうだ!」
「…なんでそのセリフを選んだのか心底理解に苦しむ…。」


真奈は手で顔を押えながら呆れたように言う。


「な、なんだとー! 訳としてはあってるだろー。じゃあ真奈もこっちの漫画で訳してみろよー。」
「望むところね…。じゃあこのセリフを…。」


真奈はきょうこから一冊の漫画を受け取ると、手をあごに当てて考え始めた。
 やがて訳し終わったのか、真奈が漫画を机の上に伏せいつもより心持ち大きめの声でとんでもないことを口走り始める。


「Oh, yes! Come on! I'm coming!! こんな感じだろうか…。」
「ま、ま、、真奈ちゃん! それはいったいどんな漫画なの…?」


サヤが大慌てで聞く。身を乗り出したせいで乳がテーブルの上に乗ってしまっていた。


「…? ヤンキー漫画だけど…。『いいぜ、来いよ! 来ねえならこっちから行くぜ!』ってセリフよ…。…『来ねえなら』はちょっとわからなかった。」


サヤが乗り出したまま机に倒れこみおでこを打つ。残りの二人は何が起こったのか全く分からないようだ。


「サヤ、何の漫画だと思ったんだ?」
「なななな、な、なんでもないの! そっかぁケンカのシーンね。おほほほほ…。」


鈴の追及を笑顔でかわすサヤ。腑に落ちない様子の鈴だったが、それ以上それについては何も言わなかった。
 それはこの英訳ゲームへの好奇心の方が勝ったせいだったらしい。


「なんかあたしもやってみたくなってきたな。真奈、その最後の一冊の漫画をとってくれないか。」
「…これね。はいどうぞ。」


真奈から漫画を受け取った鈴はそれをぱらぱらとめくり始めた。
 残りの三人が見守る中、鈴は選んだセリフの英訳を口にする。


「My battle power is 530,000.」


鈴以外の全員がテーブルに倒れこみ、おでこをぶつけた。
9

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