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誇り高きおなにぃ

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 二月十四日。
 その日、姫様が消えた。







 早朝、朝の礼拝に赴く城住まいのシスターたちは姫様の後ろ姿を確かに見たという。そのときはまだ姫はネグリジェ姿で、昨夜の伴をした金髪の美少年の腕をぬいぐるみのように引きずって歩いていて、きっと小腹でも空いたのだろうとシスターたちは頷きあって、特に声をかけずにおいたのだが、昼前になって姫様が行方不明になっていることが発覚した。
 氷づけにした恐竜さえ飾っておけるほどの巨大な私室のベッドの上には、金髪の美少女がおっぱい丸出しですやすやと眠っているだけだった。どうやら昨晩は欲求不満な夜だったらしい。
 捜索は城を挙げて行われた。すぐさま城下町にもお触れが出され、姫を見つけた者には姫のお伴券三日分が贈呈されることになった。臣下が何も悩まずにこのようなお触れを出してしまえるあたり、当時のアイスヴォルフ王国がいかに性に関しておおらかだったかが窺えるだろう。通貨は現在でもアイスフォレスト地域で使われているパーンだったが、金1パーン姫のお伴1パーンという有名な言葉が残っている。城下町の売春窟の最大の商売敵がその国の姫だったというのだからたまらない。
 姫を探す王宮騎士の隊長は、馬の手綱を握り締め路上を駆け回り、ちらと快晴の空を見上げた。いい天気だ。絶好の青姦日和である。
 まさかな、と思った。あの姫に限って、そんなことはあるまい。
 まさかだった。







 ばささっ、と木々を鳥が舞った音に、びくり、と姫が身をすくめた。そして飛んでいくふくろうを認めると、ふ、と笑う。いつもならクマと出会ったところで腎虚にしてしまえばいいと考える剛毅な姫も、今日だけは臆病になるらしい。かぶった赤ずきんの紐をきつく結び直し、森を進んでいく。足跡ひとつない雪に足跡をつけて歩いていくのは童貞狩りと同じくらい楽しい。
 小一時間もかからないうちに、凍った湖のほとりに出た。
 小屋が一軒、屋根だけを残して雪に埋もれている。屋根には戸がつけてあり、積雪の時期はそこが出入り口になるのだが、いまその戸は開け放たれている。主は出かけているらしい。
 姫は腕に提げてきたバスケットを腕で抱えると、あたりをきょろきょろと見回した。静かだった。雪が音を吸ってしまうからだ。
「ふむ」
 やめておけばいいのに、姫は森の奥へふらふらと進んでいった。まだ穴熊が出てくる季節ではないとはいえ、森に潜む肉食獣は皆冬眠するわけではない。
 案の定、姫はハイロウの群れに後をつけられていた。ハイロウというのは灰色の狼のことを指すが、本物の狼よりも狡猾で臆病だ。そのため真の狼の子孫を自称しているこの国では、ハイロウは害獣として駆除されるさだめにある。
 その恨みが雪のように積もっていたのか、ハイロウたちはじりじりと姫との距離を詰めていった。
 が。

 ヒュ――――ン
 ドスッ

 なにごとかと姫が振り返ったときにはもう、胸から矢を生やした一匹のハイロウを残して、残党が尻尾を巻いて逃げ出していくところだった。
「馬鹿っ! 武器も持たないで何してるっ!」
 男の声は木の上から降ってきた。見上げると、ハイロウの毛皮をつぎはぎした装束をまとった男が太い枝から飛び降りてくるところだった。
 姫はふんと鼻を鳴らした。
「王を守るは民の役目。でかしたぞ狩人」
「あんたの国の民になった覚えはねえ。俺は誇り高き鷹の一族だ、狼じゃない」
 木から降り立った狩人は姫を一瞥もせずに死んだハイロウの元に跪き、手馴れた様子で死体を解体し始めた。雪にどろっと内臓が零れ出し、湯気が立った。姫は眉をひそめて、二歩ほどうしろに下がった。
 大きな背中を向けたまま狩人が問う。
「何の用だ。まさかバレンタインチョコを届けにきた、なんて冗談を言うつもりじゃないだろうな」
「ほう、よくわかったな。鷹の目は何事もお見通しかや?」
 ふ、と狩人の肩が笑ったので姫はむっと描いたように整った眉を吊り上げた。
「なんだ。余が菓子を持ってくるのはそんなにおかしいか?」
「ああ、おかしいね。そんな殊勝な真似をするやつかよ、あんたが」
「失礼なやつだ……」
 狩人は二つの袋にそれぞれ内臓と、四肢をバラして肋骨の中にしまった胴体を詰め込み、肩から背負った。ハイロウの内臓はあまり美味くないが、貧民たちの手にも届く食料だし、毛皮はこの時期、当然重宝される。
 姫はつつ、と狩人の隣に擦り寄ってバスケットを差し出した。ハンカチのかぶせられたバスケットを見て、狩人がふうんと意外そうな顔をした。
「マジかよ」
「ああ、マジだとも……ところでマジとはどういう意味だ?」
「知らんでいい。どれ……おや?」
 狩人が布をとってみると、バスケットには酒が入っていた。年代モノのぶどう酒だ。
 姫が狩人の装束をつまんで立ち止まった。にやにや笑っている。
「……チョコは?」
「どこにあると思う?」
 姫はワインの栓をあけると、こくこくとラッパ飲みし、その口を若い狩人に向けた。







 穴熊が眠っていたらどうしようかと二人は思ったが、幸先のいいことにその木のウロには冬眠している先客はいなかった。
 なので狩人は安心して中に姫を連れ込み、木の内壁にその身体を押しつけた。どすん、とウロの外で衝撃に揺れた枝から積もった雪が落ちる音。
 狩人は、城下町を抜けるために姫が着ていた町娘の衣服を真ん中から引きちぎった。
 雪のように白いおっぱいがさらされた。姫の呼吸にあわせてゆっくり波打っているのがなまめかしい。
「いつも強引だな……おまえと会うたびに服が減る」
 そういう姫はまんざらでもなさそうに、切なげな流し目を男に送っている。狩人はウロの底にカラになった酒瓶を転がし、毛皮の服を脱いだ。
「おまえが悪いんだからな。こうなるのが嫌なら、一人住まいの猟師を訪ねてこなければいいんだ」
 冷たい空気のなかにむき出しにされた狩人のいちもつを見て姫がうっとりと微笑む。
「まだだぞ……まだだ、先に口で……ここは寒い……」
 柄にもない姫の懇願に狩人はうなずき、姫の履いていたズボンをずるずると下ろした。銀の茂みがしっとりと濡れて光っている。ゆっくりと股を開かせる。
 そこで狩人はいきり立ったいちもつも縮みかねないモノに出くわした。
「おどろいたか?」
 狩人は言葉もない。
 姫の膣の入り口に、小さなチョコが挟まっていた。
「信じられねえ」
 狩人は幽霊でも見るように姫を見た。
「酔狂にもほどがあるぜ」
「そう臆するな」
「お、臆してなんか……おまえが妙なことをするから……」
「女は度胸だ。そして余は娯楽も愛するお茶目さんなのだ。さ、早く食べるといい。ちゃんと手作りなんだぞ?」
 ごくっと狩人は生唾を飲み込む。
「ほーう、そなた、初めての夜もそんなに震えていたのか?」
「なっ……」
「どうした、威勢がいいのはあそこだけか? いまにも皮をかぶってしまいそうだぞ?」
 攻め立てる声に負けじと狩人は姫の腿の間に顔をうずめた。
「あっ……ん」
 白い喉をさらして姫がのけぞる。
 その手がいとおしげに、股間を愛撫する狩人の頭をなでた。







 溶けたチョコと愛液で濡れた姫を狩人の樫の木のような男根が貫いた。姫の血の気を失った身体がびくんと跳ねる。
「んぁっ……んん……あっあっ、ん……」
「どうだ……参ったか……参ったらもう俺のところへ来るんじゃない」
 鼻と鼻を触れ合わせながら口づけを交わす。息を吸うために糸をひいて二人は唇を離した。
「まだそれを言うか。この頑固者」
「俺とあんたは……んっ……身分が違いすぎる。俺の子でも孕んだらどうするつもりだ」
「産むよ」
「鷹と狼の子が歓迎されると思うか」
「誰か別の男の種ということにしてしまおう」
「できないことを言うな」
 姫が初めて顔をそむけた。その顔を無理やり引き寄せて、唇を奪う。その合間も、二人の秘所は恥骨をぶつけ合ってお互いを貪っている。
 白い喘ぎをもらす姫の耳元で男は囁く。
「おまえがそんなことできないって俺にはわかる」
「なにを知ったような……」
「おまえは優しいやつだからな。自分の子どもに一生嘘をついて生きていくのか?」
 瞳を潤ませた姫が、まだ膨らみかけのおっぱいを相手の胸板に押しつけて甘えた声を出す。
「どうしてそんなひどいことを言う。優しくしてくれればいいのに」
「ずいぶん酔ってるな。一国を率いる未来の女王とは思えないぜ」
「いまの私は、ただの女だよ」
「いいや、おまえはお姫様だ。白銀の狼の末裔だ。そして俺たち鷹の一族は、あんたらの昔の仲間で、いまは敵だ」
「そんなこと……ん、あっ、やっ、んん!」
 狩人の肉棒が激しく姫を責め、上の口から言葉を奪い取った。山に鍛えられた男のたくましい身体が姫の意識を雪と同じ色に染めていく。狭いウロのなか、たとえ気が変わっても逃げることもできずに犯され続けるしかない、その現状が姫をどんどん興奮させる。
「あっあっあっ! ああっんぁ、んん、んっ!」
 あと一瞬で絶頂に達する、というときに狩人が陰茎を姫から引き抜いた。あまりにも勢いよく抜いたので姫の身体がつられて男にぶつかってしまったほどだった。白い二つの稜線が二人の間でおしつぶされる。
「うっ!」
 男の熱い精液が、姫の白い肌を汚した。姫は信じられない思いで狩人を見つめた。
「どうして」
 狩人は目を逸らしたまま、衣服を着て木のウロから出て行った。振り返りもしなかった。
 姫は裸のまま、壊された服の上に精液を浴びたまま放置された。
 屈辱に身が張り裂けそうだった。こんな目に逢わされたことは十六年間で初めてだった。
 そして、辱めを受けた悔しさよりも、狩人が思っているものの大きさに、敗北感を覚えた。
 もし流刑処分にされた身とはいえ鷹の男と交わったことを隣国が知れば戦争になるだろう。そうすればたくさんの童貞や処女が死ぬ。人の腕のなかで眠ることも知らずに死ぬ。
 そんなことは許されない、と狩人は言っているのだ。姫のへその上を伝う精液は物言わぬ狩人の決意なのだ。
 悔しかった。恥ずかしかった。生まれて初めて死にたくなった。
 そして、そんな気持ちに自分をさせた、あの狩人が恋しくてたまらなかった。
 空になった酒瓶を手に取ると、姫は男の名を呼びながら、木のウロのなかでひとりぼっちで自慰にふけった。
 その日、狼の姫君は生まれて初めて失いたくないと思った獲物を獲り逃がし、みじめにひとり、涙を流した。
 涙はチョコほど甘くなかった。






 アイスヴォルフ王国と後に共和制となったアーチホーク共和国が現在、友好国として隣接しているのは、一千年前の冬の日の姫君が。一人の男を追わずに自慰にふけったためなのである。
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