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プロローグ

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 まだ五月だというのに、昼間の日差しは少し強い。その日の最高気温は二十四度に達するらしく少し暑いくらいの陽気だった。
私は昼食を済ませ、摂り過ぎた熱量を発散するために部屋着を一枚脱いだ。そのおかげでさっぱりしたけれど、胸の内側の熱はまだ出ていってくれそうになかった。
 原因は分かっている。私はパソコンを立ち上げると慣れた手つきで画面を進めた。
そして訪れたのは、出会い系サイト。トップページを見慣れてしまった今、私はそこの常連と言うべきかもしれない。
男性の書き込み欄は今日もたくさんのプロフィールで埋まっていた。その数は千件を越している。私はすでにどきどきしていた。久しぶりということもある。専業主婦にありがちな暇を持て余していた私は、検索機能を使いつつじっくりと目当ての男の子を探すことにした。
 利用者のほとんどは二十代から三十代。多種多様なプロフィールが転がっているが、必ず目にするのは実業家や医者などだ。出会い系サイトの男達はそのほとんどが、自分を良く見せようと見栄えの良いアピールをしている。高額な謝礼を払うとか、欲しいブランド品をいくらでも買ってあげるとか、単刀直入に女性をとことん悦ばせられるテクニックを持っている、とか。それがどこまで本当かは知らないし、私にとってはどうでもいいことだった。それは決して冷やかしという意味ではない。
 やがて一つのプロフィールに目が止まった。二十一歳の大学生、名前はハル。私はそれをクリックした。添付されている小さな携帯写真には、本人と友人と思しき男の子二人が肩を組んで写っていた。もっとも、友人の顔は見えないように黒で塗りつぶされている。そのとなりのハルは活発さと人懐こさを併せたような表情をしている。ちょっとだけ、好みかも。
私の狙いは年下の男の子。本当はもっと大人しそうな子の方がよかったのだけれど、たまには違うタイプの子でもいいと思った。午後の陽気が私を少しだけ挑戦的にさせたのかもしれない。
 私は早速、ハルにメッセージを出した。サイト内でのメッセージ交換は課金が必要になるから、メールアドレスも添えておく。「メッセージ見ました。ハル君に興味があるからお話してみたいな。よかったらメールくださいね」という具合だ。ハルはまず間違いなく返事をよこすだろう。あとはそれを待っていればいいだけだ。私はブラウザを閉じ、残った家事に取り掛かった。
 得意になれる話ではないけれど、初めて出会い系を使ってみた時に比べると私はすっかり慣れてしまったようだ。わずかひと月で、ずいぶんな女になってしまったように思う。言い換えれば、ひと月前まで私は何も知らない女だったのだ。
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