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2-3『彼と彼女の新刊めぐり』

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 あの日から放課後は早々に帰ることになった。仮定の通り、放課後残って2人で勉強するよりも、帰宅して1人で勉強するほうが効率が良かったのだ。
 帰り道は前のときと同じく、ダラダラ寄り道をしながら帰るので速やかに帰れるわけではなかった。が、やはり女子と帰るというのは悪い気はしない、むしろアリだなと思う始末(彼は意外と一般的男子高校生をしている)。
 
 今日の寄り道先は商店街。ついつい他のところに寄り道をしてしまい、寄れそうで寄れなかったところ。
 
「あっ、本屋」
 立川はわざわざ指を差す。子供じゃあるまいし。
 商店街の小さな本屋。近隣では唯一の本屋だった。
「寄っていい?」
「ダメって言ったらどうする?」
「もちろんム・シ」
 さっさと入っていった。まあ、彼も新刊のチェックをしたかったのでちょうど良かったのだが。
 
 さっそく新刊が並んでいるところで、パラパラと立ち読みをする。
 
 
『オズワルド・Dによろしく』
 彼は作中のゲーム(LIVE・A・LIVE)は知らなかった。ただ男子は一度くらい、自分は特別でなんだってできる、そんな妄想をする。そんな男子が、ゲームのキャラクターと対話していく話なんだろうか。
 
 
『あなたの生活。私の生活。』
 サクっと読める短編集。たしかにサクっと読める、よどみなく読み終えていた。いわゆるシュール系なんだろうか。サクっと読め過ぎて、あまり脳内に残らないのも作者の意図したことなんだろうか。
 
 
『俳句日和』
 作品の解説がとにかくおもしろく、ユニーク。作家のセンスを575にまとめるというのはすごいことじゃなかろうか。
 今までにない作品。ついつい続きを待ち望んでしまう。
 
 
『動物の草原』
 なんて詩的な文章だろうか。読みやすいし、思わず息を飲んでしまうようなラスト。動物を主役にしているところなんて独特だ。絵本にしてみてもおもしろいかもしれない。
 
 
「ん、小説?」
 気づけば立川が横にいた。
「なんだか難しそうなの読むんだね」
「そうでもないよ。文藝でも読みやすいのはたくさんあるよ」
「へぇ、そうなんだ。私はこっちかなー」
 立川は、普段彼が読まないようなジャンルを指差す。せっかくなので、何冊か開いてみた。
 
 
『蟲籠 -secondary world-』
 ひとまず前作のあらすじを読んでみた。たしかにダークファンタジーな内容だった。次に序章を読んでみてると……むむ、何だかたくさんの人が死にそうな予感。それにしても気になる引きをしている。
 
 
『星の調書』
 何と言うのかすごい内容。置き去りにはされないけれど、独特すぎる……のだろうか。何度か読みなおせばもっと深く入り込むことができるような気がする。
 
 
『ライアーダーク』
 学園モノ。まだミステリー要素は少ないが、入りとしてはなかなかいいんじゃなかろうか。ちゃんとキャラクターも生きているように感じられるし、これは少し楽しみに思う。
 
 
「あ、『外角低めにスライダー』! これはオススメやよ。野球は要チェック、これはめっちゃ期待、早く野球始まらへんかな。
 あと、これ読むと無性にキャッチボールしたくなってくる」
 
 そういえば野球が好きって言ってたっけ。
 それにしても、立川が小説を読むなんて。てっきりマンガしか読まないようなイメージがあったので、少し驚きだった。
 しかも自分ではまず手を伸ばさないような棚の本。
 
 ……何とか借りれないものだろうか。
 
 彼は数少ない趣味の読書。その幅が無料で広がるのだ。
 
 ……何とか借りれないものだろうか(2回目)。
 
「他にはどんなの読んでるの?」
「いろいろ読んでるけど……ファンタジーや恋愛モノが比較的多いかなぁ」
「へ、へぇ」
 
 困った。どう言えばいいものか。探ってみたはいいものの後に続かない。
 さてどうしたものか。いっそこちらから貸して、この交換ということで借りてみるか。いや、それでも何て言えばいいかわからない。
 
 ここは諦めることにして買ってしまうか。無理だ、学生のふところは温かくない。
 
「アサダくんはどんな本読んでるの?」
「僕? ……文藝が中心だけど、読まず嫌いはしないかな」
「へー。ちょっと興味あるある!」
 ……これは良い流れ。ここは押すしかない。
「なら僕のおすすめ貸すから、立川さんもおすすめ貸してよ」
「ん、いいよー」
 ようし、うまくいった! 思わず彼はガッツポーズ(心の中で)。
 
「えへへ、アサダくんのおすすめ、楽しみだなー。
 あ、でもごめん」
 
 にこり。
 
 彼女は笑う。
 
「まだ部屋が散らかったままだから、整理できたら持ってくるね」
 
 その笑顔に彼は。
 
「ありがとう」
 
 イヤな予感がしていた。
 
 気づいてしまったことへの不安。それが、彼にあった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 彼は自意識過剰ながらも考えた。
 手紙のこと、放課後の勉強のこと、いっしょに帰ること。そして、あの笑顔。
 
 今まであまり外れたことのない推測を立てた。
 
 
 
 
 
 もしかして、立川さんは、僕のことが……
 
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