草原にライオンがいた。
ライオンにはたいそうハンサムであった。
そうだからみんなはライオンをほめたたえた。
はじめのうちは彼もみんなの言う事をそれほど信用してはいなかったが、ある日、鏡にうつる自分の顔を見てみんなの言いようが理解できた。
それからライオンは毎朝りっぱなたてがみを入念に手入れするようになった。
みんなはいっそうライオンをほめたたえた。
ライオンが散歩をしていると女の子がよってきて彼をちやほやした。
それからライオンはたてがみだけじゃなく、全身に気を遣うようになったし、一挙手一投足がかっこうよくみえる振る舞い方を研究した。
そんな彼をみんなはますますもてはやした。
ライオンの鼻は少し高くなった。
みんなは彼に威厳がでてきた、と口々に言った。
ライオンの鼻はもっと高くなった。
ある日、彼の取り巻きが年老いたライオンを邪険にしていた。
彼は輪をかき分けると、年老いたライオンに手を差し伸べた。
そんな彼の立派なおこないを動物たちは賞賛した。
しかし、内心では侮蔑していた。にもかかわらずそうしたのはその行いが自分をかっこうよくみせるからだ。
いつからだろうか。ライオンの取り巻きの数が少し減っていた。
しかし、彼はそんなことには気付かなかった。
なぜならもっと多くの動物が彼を尊敬の目で見ていたからだ。
とても長い年月が過ぎた。
ライオンは自分のまわりを見渡すと遠くの景色が見えるので首をかしげた。
いぜんはたくさんの動物の生垣でそんな景色は見えなかったのに。
とうとうライオンのまわりにはだれもいなくなっていた。彼のたてがみはすこしよれていた。
その次の朝、ライオンはいつもより時間をかけてたてがみを綺麗にし、いつも以上にかっこうよくみえるようにセットした。
手の動かし方、足の出し方の細部にまでこだわった。
けれど、ライオンのまわりには誰もいなかった。
ある日、ライオンは湖の向こうに気高く美しいライオンをみた。そのライオンのまわりにはたくさん動物がいて、彼のことをほめたたえていた。
ライオンはずっとずっとたてがみを綺麗に手入れしていた。