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プロローグ

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「ねえねえ、わたし昨日カレと初キスしちゃった」
 それはお昼休みの時間帯。ナツミの突然の告白に、思春期真っ只中の女子高生たちは歓声をあげた。
「おーっ、なっちゃんもやっと初キスかあ。これでうちら全員達成じゃん」
 そう言ったのは、この仲良しグループの中で唯一の黒髪であるキョウコだ。キョウコは髪へのこだわりが人一倍強く、髪染めをあまりよく思っていないタイプの女の子。確かなヘアケアの効果か綺麗な黒髪を誇っているが、その代わりメイクはあまり得意ではなく、顔に似合わない分厚い化粧をしてくるのが玉にキズ。
「それで、キスだけだったの? ねえ、どうなのよ」
 大きな身を乗り出してナツミに迫るのは、身長170センチのカナ。中学時代はバレー部で三年間を過ごし、鍛えられた身体は身長と同様に骨格もしっかりしている。本人はそれを真剣に悩んでいるけれど、そのぶんお尻もおっぱいもボリュームがあって、男子だけでなく女子まで目を引いてしまうグラマー体型だ。彼女を羨ましがる女子生徒は、実は多い。
「カナってば露骨すぎ。ここはキスの種類を聞くところでしょ! ね、どんなキスだったの? フレンチ? ディープ? ベロチュー?」
 頬を上気させ、この中で一番興奮しているのはマユだ。この子はテンションが上がるとすぐに頬が赤くなるから分かりやすい。容姿は中学一年生と言っても通用しそうなレベルの童顔で、それが真っ赤になるとリンゴみたいで結構かわいい。このグループで愛されているマスコット的存在である。
「おおい。それって全部同じじゃん」
 頬杖をつき、一番冷静な態度を見せるのはリナ。高一にして恋愛経験も知識も豊富なグループのリーダー的存在だ。彼女がリーダーに祀り上げられたそもそもの発端は、一学期にキョウコの恋愛相談に乗ったのがキッカケ。あまりに博識、あまりに的確なアドバイスだったことから一目置かれ、二学期も半ばの今では、他のグループの子からの恋愛相談は当然のこと、他のクラスの子からも頼られるようになってしまった。実はリナさん、このお話の主人公だったりする。
「キスっていっぱい種類あるよね。リナちん、全部言える?」
 キョウコが好奇心を膨らませた表情を向けた。
「全部って言ってもなあ。バード、スタンプ、プレス、スライドが軽いキス。カクテル、スロート、オブラートがディープなキスとかかな。あとピクニックキスってのもあるよ」
 事もなく答えるリナに、一同は感嘆の声を漏らした。とくに満足そうな顔をしているのはキョウコだ。リナの博識が広まった元凶だけに、恋愛の話になると彼女はすっかりリナの信者になる。
「ていうかキスの種類はいいってば。ねえ、キスの他にはナニをしたのよう」
 カナは下世話な話に向けたくて必死だ。これだから体育会系は困る、と言われるようになるのも時間の問題だろう。
 ただ、ナツミもナツミで、少し照れながらもみんなに話したくて仕方ないというように勿体ぶっている。このグループで一番遅れている、つまり一番奥手という立ち位置だった彼女は、ようやくみんなに追いつけたという喜びで一杯なのだろう。リナにはこの感情が痛いほどよく分かった。
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