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一話「現代編」

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「こっちに来いよ…俺達と世界を手に入れよう!」
今日も、十年以上前に買ったスーパーファミコンのスイッチを入れ、
唯一持っているソフト、LIVE・A・LIVEをプレイする。
さまざまな時代のオズワルド・Dと一郎は語り合う。何度も何度も、十年以上繰り返した一郎の儀式だ…

そして斎藤一郎は一人、いつものように世界救うヒーローになる。


斎藤一郎は女にもてたかった、人から羨ましがられたくて仕方がなかった。毎日のようにAVを見てマスターベーションをしていた。
そんな一郎が選んだ職業は医者だった。
「医者になれば女からもてる、金持ちになれる、人からも羨ましがられる華やかな人生を送れるんや…」
しかし世間は甘くなかった、そんな人間が医学部に行けるわけもなく。一郎はすべての私立、国立医学部におちた。

「なんで俺は落ちるんや!間違っとるのは世間の方や!俺は滑り止めの大学なんかいやや、いかへんぞ!」
「一郎!お願いやから大学に行ってちょうだい!お金なら心配せんでええから…」
おかんのなく姿を初めて見た。俺はそれでも偏差値の低い大学にいくなどプライドが許さなかった。
「一郎、大学は出といたほうがええぞ」おとんの戒めとも聡ともいえない空気のこもった言葉に、
俺はしぶしぶ地元の国立の生物資源学科に入学した。

俺は友達ができなかった、周りの人間に強い興味がなかった。ただただ学校と家を往復した。
頭の中では自分がヒーローだった、周りの人間はわき役としか思っていなかった。そしてLIVE・A・LIVEの世界でそれは
現実となり、俺はヒーローになる。
そんなことを繰り返した。

俺は高1の時携帯電話を手に入れてから毎日のように、アダルトサイトの無料動画をダウンロードした。頭がおかしくなるほどマスターベーションをした。
いやなことすべてを忘れるまで、マスターベーションをした。
頭の中でオズワルド・Dが話しかけてくる。
「つらいのか?」
「ああ、俺はつらいんや。学校も家も世間も誰も俺を受け入れん、誰も俺をとくべつとおもわへんのや」
「お前は特別になる努力をしてるのか、周りの成功しているやつはみんなそれなりの努力をしてるとは思わないのか?」
「しらん、そんなことはわからん。何も考えたくないんや、つらいんや…楽になりたいんや」
「ゲームのスイッチを入れろ、一郎、お前をヒーローにしてやる、俺をやっつけて世界を救おう。」
俺は誰ともまともな会話をしたことがない。もう会話の仕方もわからない、どうすればいいのかもわからない。
ただ何度も、何度も、頭の中で話しかけてきてくれるオズワルド・Dと遊ぶ。
それがおれのすべてだった。

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