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―クライシスサイン―

 荘厳なる面持ち、細やかな装飾に彩られたステンドグラスを備えたその教会は、夕日で、哀愁を帯びていた。アークコロニー、イノアのツァフノア海に面した最果ての町「フォボス」。この町の教会は、美しいステンドグラスで、愛好家にとっては隠れた名所であった。夕方現在、教会内では、毎日のミサが終えようとしていた。
「ミサを終わります。さあ、行きましょう」
 教父の、式を終える言葉により、信者はぞろぞろと帰っていく。
 そんな中、異様な雰囲気に包まれた、二人の人間が、岐路に就く信者たちの波に逆らい、教会に侵入してくる。
一人は銀髪で、暗銀のダイヤ型の仮面を被り、茶色い布地のクロークを纏い、木製のステッキを持った、長身の男。もう一人は、鮮血色の長い髪と眼、男と同じクロークを纏った、細身の女。
彼女は、その赤い眼差しを、迷いなく、教父に向けていた。
―― ズズズズーーーーン・・・・・ ――
信者が皆出て行くのを確認すると、仮面の男は扉を閉めた。その場は三人だけ。静寂が場を包んだ。少し経ち、静寂を破ったのは、意外にも教父。
「お二方、何用ですかな?」
 仮面の男は、その言葉を契機に、教父の元へと歩き始めた。
「貴様が呼んだのでは、なかったか?」
 フッ、と教父は微笑む。すると、教父は二人に背を向け、直径5メートル程もあるステンドグラスを見つめながら、こう言った。
「私はね、このステンドグラスにどうにも魅入ってしまうのだよ。君も思わないかね?非力ゆえに、繊細の粋が込められた、この神秘を。」
―― カツ カツ カツ カツ ――
「不思議なものだ。心の平穏とは、このような美の享受により、もたらされるものらしい。そう。充実した・・・、3年間だった」
 ―― スパン ――
 宙に舞う。それは、教父の首。
 刃の一閃。風を斬る刃音は、教会内を駆け巡る。仮面の男は、淡々とその剣を振るった。出来事は一瞬。
 すると、胴体と離絶したはずの教父の首は、再びその口で言葉を発した。
「ふふふ・・・、お前さんはまだ何も知ってはいない。盲目に甘え、世俗から目を背けている。お前さんは世の中を理解しているようだが、諸々の根を、未だ気付いていない。真の俗物、それを知ったとき、お前さんは、目を逸らさずに、『それ』を見据えることが出来るのか?」
 仮面の男は、ステンドグラスをまっすぐ見つめた。一時の沈黙が流れる。
「・・・確かに、私は無知だ。しかし、私は折れない。決して。」
 教父の眼は、じっと仮面の男を見つめていた。
「夢想家、だな。未だあの二人ほどに覚悟は出来ていないようだ。だが、それもまた、然り。」
「そう、だな。あいつらには、敵わんさ」
 終始微笑を浮かべ続けながら、スッ、と眼を閉じ、その首は、胴体とともに、チリと消えた。
「さらばだ、悪魔らしからぬ悪魔、メフィストフェレスよ。」


仮面の男は一時、町の誉れ高きステンドグラスを見つめ、哀愁に心を浸す。美しきステンドグラスは、ちょうど夕日が差し込む方向に作られており、描かれた花々の色彩が、夕日により、美しくも、もの悲しさを帯びたコントラストを覗かせる。
 仮面の男は、少々無骨ながら、花を好いていた。花を見るたび、荒びかかった心を浄化してくれた。しかし、今現在、彼の心に引っかかっている「疑問」は、それを許されなかった。
「ディン、こっちに来な。力天使(パワー)がおいでなさるよ」
「ああ・・・」
 仮面の男は『ディン』と呼ばれ、女の言葉に応じた。もやもやとした感情を押し殺し、女性の元へ歩み寄る。
 静寂―――
 雀のさえずりが耳を心地よくくすぐる。
 しかし、仮面の男はいまだにもやもやとした心持ちが晴れない様だ。
一時の時間がすぎる。教会を包む空気が、徐々に、触れ難き者の顕現を誘う。それは表現し難き、神聖と捉えるしか言い換えようがない、戦慄。それが増すにつれ、ステンドグラスの前に、いびつな「歪み」が生じ始めた。
―― スゥーーーーーッ ――
と、人間の形を成した、「戦慄」は、姿を現した。
白鳥の如き翼を生やし、長髪で、頭には蒼い冠を被り、純白のローブに、手足には蒼が基調の、きらびやか手甲・具足。微笑みを浮かべたその顔は、まさに神聖をそのまま表したかのようである。
「魔女ガラテア、そしてその守護騎士、サラディンよ。あなた方のご活躍は目を見張るものがあります。主もお喜びです」
 二人は、サッ、と頭と腰を低くする。
「ところで・・・、褒美に関してなんだけど・・・さ」
 ガラテアの言葉に、天使は呆れた顔をする。
「ふう。分かっています。いつも通り、金塊を差し上げましょう。俗欲の強いあなたにすら及ぶ主の慈悲。それをくれぐれもお忘れなきように」
 ガラテアの眼前に文字の陣が組まれ、金が見る見るうちに生成されていく。天使曰く、この所業は、神自らが行う、神聖にして強大な力の現れだという。
 「どーも」
 ガラテアが一言口にすると、サラディンは、クロークの中に忍ばせていた、金属臭い皮袋の中に、台形型の金塊を詰めていく。計六つの金塊を収め、背中に担ぐ。
「改めて、今回の任務、ご苦労様でした。早速ですが、次の任務に移らせていただきます」
 サラディンは訝しげに顔を上げる。
「・・・今回は、やけに急ですね。いかがなされたのですか?」
「そうですね、今回は特例です。標的は・・・堕天使」
「堕天使・・・」
「この堕天使が堕天したのは、つい最近のこと。今夜十時に悪魔との密会が催されるとの情報がきております。場所は、この教会裏のブリュフィオ森林、湖付近に現れるはずです。早めに手を打たないと、世界の害となりますゆえ、よろしくお願いいたします」
 ガラテアは、すかさず聞き返す。
「階位は?」
「・・・『大天使(アークエンジェル)』と『権天使(プリンシパリティ)』一人ずつです」
「・・・了解した」
 ガラテアは特に何の表情も表さず、承諾する。
 しかし、サラディンは、仮面越しでも、容易に読み取れるほど、焦っていた。
「二人!?そのうえ、下級の上位と中位・・・。それはいくらなんでも無理ですよ!」
サラディンは激しく反対、しかし天使は、いたって揺るがない。
「君たちの実力を信頼しての頼みなのです。あなたはいささか、自らの実力を過小評価してはおりませんか?」
「何をおっしゃいますか!私たちの実力は私たちが一番理解しております!私たちの力では、個々は相手に出来ようとも、二人まとめて相手には出来ません!」
 ―― ポン ――
「もう、そこまでにしよう。大人気ない。どうせ、他に出来るやつがいないなら、私たちがやるしかないんだ」
「でも、あまりにもリスクが」
「聞き分けのないやつだなぁ。パワー、了解したよ。後はこっちで処理しとくからさ」
「ありがとう。私はこれで失礼いたします」
再びその「歪み」が出現し、天使はその内へと姿を消した。
― 微笑 ―
たしかに天使は微笑んでいた。企みを帯びた顔。「何か」を暗示する顔。少なくとも、ガラテアは、その「何か」を、悟っていたようだ・・・

―― 五年前 ――
薄暗い密室。灯火は携帯ランプが一つ。そこは、恰幅の良い男三人にはあまりにも狭い、小さなテント。外は雨、中はジメジメとして、熱苦しく、気分の良いものではない。
 一人は自前の剣を研ぎ、一人は戦術書を読み更け、私は明日の戦闘に備え、粗末な石ころでシミュレーションを繰り返していた。
「流石だ、レボナオル将軍は」
 本を閉じ、読書をしていた男が言葉を発した。
「どうかしましたか?当たり前じゃないですか」
 私は少し皮肉を込めて返答する。その頃私は、この戦いの後に、英雄ともてはやされる、当時の将軍、『レボナオル=オルタニア』に心酔していた。頭がキレ、完璧な作戦と采配には、ある種の芸術にすら感じ取れた。平民出であるところにも驚かされた。指揮官として戦場に出でて3年。未だ負け知らず、無敵の天才。その上、民を大切に扱っていた点も、尊敬に値した。本当に救世主に見えたのだから、可笑しなものだ。
「今回の、『山背崩し』の作戦。これは流石に思いもよらなかった。誰も山を背後に置く軍を、その背後から山を越えて攻めようとは思いもよらんよ。山道の地図を渡された時は、あの人が何を考えているのか分からなかったもんだ」
 勇み口でレボナオルを褒め称える彼は、『アッシュ=マーキュリー』。私よりも6歳年上のアッシュは、戦場では「狂戦士(ベルセルク)」と呼ばれ、敵味方共に畏怖されていた。彼は並みの騎士と比べ、一周りも二周りも大きく、強く、そして、恐ろしかった。獅子のの鬣の如き逞しい髪と髭、そして、身長は2メートルを超え、さらに、身の丈を超えるグレイブを携え、戦場に血溜りを作る。その様な威風だけでも規格外だが、それをさらに強めるもの、それが、彼の戦場に轟く怒号である。彼の怒号は二里先まで届くと言われている。これはさすがに言いすぎだが、そう言わしめるほどに、彼の勇ましき咆哮は、戦場のルーキーを竦み上がらせるのである。しかし、一旦戦場から帰ると、彼ほど後輩想いの、腰の低い者はいない。愛妻家としても有名で、妻や家族のためならば、(言ってはいけないのだが)王すらも屠ろうとのこと。
「私は末恐ろしいですけど。これほどまでに才能をもって余した方。さぞかし存分に発揮できる地位を求めているのでしょうね」
「それは失礼じゃないか?ホリディ。レボナオル将軍は至って善良なお方だ。その言い方だと、いかにも彼が皇帝になり上がろうと企んでいるかのような言い方ではないか」
「失礼?私は失礼な事など言った憶えはないのだが?善良・・・とても定義づけ難い言葉もそうあるまい。皇帝、か。お前も分かっているんじゃないのか?レボナオル将軍の眼が、今何を見ているのかを・・・」
「何言ってるんだ・・・!言葉を慎め!」
この口の減らないのが『ホリディ=クーガー』。何事も冷静で、頭がキレ、人の数歩先を読む。軍ではレボナオルにも認められ、参謀として活躍。
 ちなみに、同期ではあるが、私とはそりが合わない。偏った考え、合理性に裏打ちされた、知識や論理を優先する性格。優男で、女性にはもてはやされるが、いざ彼という、理屈で固められた本性を目の当たりにすると、皆離れていった。これはこれで、損な性格だ。
「ホリディ、言葉が過ぎる。ダリス、お前も言葉を荒げるな。今は体を休めるんだ」
「す、すみません・・・」
「・・・・・」
 当時の私は、頭の悪い子供であった。25歳にしてこの体たらく。我ながら恥ずかしい。
 私の本名は『ダリス=フロイト』。訳あって、この名を封印している。ちなみに、家系は騎士である。
 私たちは話を止め、消灯。明日の戦いに備えた。世に言う、『荒城の戦い』である。その中でも、レボナオルが世に名を馳せた戦い、『国境山脈攻略戦』が、明日、幕を開ける。
 そして、この一戦が、私の運命を大きく狂わせる、引き金となる。
―― 翌日 ――
 日が出るか出ないか、薄暗い朝焼けに、眼を擦りながら、準備を整える。
私たちは、敵拠点を背後の真ん中を打ち崩す、最前列の部隊にいた。静かに、ただ静かに、号令を待ち続けていた。
「今回ばかりは、死にます、かね?」
何度か戦場には赴いている。しかし、これほど後には引けない戦場は初めてであった。
「何だ、怖気づいたか?」
「相手方はおよそ3万2千。こっちは5千ですよ?いくらゲリラ戦とはいえ、厳しいですよ」
「フッ、理不尽な程までの差。確かに、生き残るのは、ちと難しいかもなぁ」
「そう、ですよね」
「ダリス、深く息を吸ってみろ。そして、深く息を吐け」
「は、はあ・・・」
―― すぅーーー・・・・・。はぁーーー・・・・・ ――
 変わらない・・・。
「もう一度息を吸ってみろ」
―― すぅーーー・・・・・ ――
「そうしたら、ここから見える地平線を見ろ。自分が今立っている、この場所を想像してみろ。自然は、広いぞ。広く、穏やかだ。私たちなぞ、ちっぽけなものだよ・・・」
 私の眼前に広がる自然は、先ほどとは一線を画していた。いや、私にその広大さを享受できる、心の余裕が生まれたのだろう。死の恐怖を克服できたわけではない。しかし、覚悟はできた。己の死に対しては・・・
「全軍!出撃せよ!大将首を取って来た者には、望むままに褒美を与えるとレボナオル将軍は仰っておられた!皆血眼となって競い合えぃ!」
 部隊長の猛々しき号令とともに、私たちは理性を顧みず、獣の如く轟く・・・!
―― ウオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!! ――
 「雑魚を蹴散らせぃ!!奇襲は迅速に、一人でも多く敵を殲滅し、混乱を煽ることが本義だっ!!衛兵一人に対し、一人で対処するんだっ!!!」
 アッシュの怒号が轟き、さらに高まる。それは、まさに嵐。疲れも忘れ、馬で山を下りきり、城門裏口に着く。そのまま突入し、途中、驚き慄く衛兵を薙ぎ、突き進む。
 城内は、混乱と戦慄に包まれていた。奇襲は予定通り成功。吹き荒れる嵐は、吹き止む素振りを見せない。
 皆隊として既定の進行ルートに従って進軍する。私たちは、アッシュ・ホリディと共に、中央ホールへ向かう。途中、二手に分かれた通路に出た。
「ダリス、ホリディ、お前たちは右に行け。私は小隊の半分を引き連れ、左へ行く。この先は通路が格段に狭くなる。・・・中央ホールで会おう」
「了解しました。お気を付けて」
 私たちはここで別れ、小隊を引きつれ、お互いの無事を祈り右左へと消える。
「行くぞ!!後れを取るな!!一気に突っ切るぞ!!」
 私は、隊が分かれ、心細くなった兵士たちを鼓舞し、士気を高める。
「いたぞ!応戦しろ!」
眼前には、心もとない衛兵が、道を塞ぐ。無論、士気と数と覚悟の大きな差の前に、相手になることはなかった。
 こちらは、敵を視認すると、先ほどの士気が、さらに高まり、加速した。相手方の精神に恐怖がたちこめる様を、手に取るように、容易に把握できた。
―― うぉぉおおおぁぁあああぁあああ!!!!! ――
 斬る、薙ぐ、捻じ伏せる。一瞬にして、辺りは血溜りと化した。良心なぞ、そこには無い。そこには、獣と化した嵐が通り過ぎ、哀れな亡骸だけが転がっていた。紅く、紅く・・・。
 私たちは通路を抜け、大きなホールに出た。右手には左宮に続く通路、左手には・・・
「何としても、ここで食い止めるんだーー!!!」
 哀れな傀儡。命をなげうつためだけの戦闘。・・・私たちは、彼らの命も、背負って生きているのだろうか。もちろん、当時はこんな辛気臭い話題など考えもしなかったが。
「斬って、斬って、斬りまくれぇぇぇぇぇ!!!」
 喉がかき切れんばかり吼え続けた。何度も、何度も。生きるため、使命のため、己のため・・・。
その時の記憶は、あまり鮮明ではない。生死の、本気のやり取り。ただ生を求める本能だけがぶつかり合う戦いとは、記憶にすら刻まれないものなのかもしれない。
幾らか時が過ぎ、右宮・左宮に向かった軍などとも合流し、将軍が居座っているであろう、ホールの中央階段を駆け上がる。
―― ・・・・・・・・・・・・・・ ――
もぬけの殻。人一人いない。中央には、古びた玉座が孤立しているだけ。
「逃走用の通路があるのだろう。俺は興味ないが、望むままの褒美が欲しい奴は探すがいい」
 ホリディが初めて部下に指示(?)を出した。私も、そこまでして殺す義理も見当たらず、占拠という目的を果たした余韻に、少し浸っていた。いや、むしろ、これで任務は完了したのかという疑問すら浮かぶほどの、呆気ない幕引きであった。
「ダリス、アッシュ氏はどうした。見ていないか?」
「えっ?」
 まったく気にしていなかった。
(そういえば、たしかに、左路に向かったきり、見ていない・・・)
 私は、寒気を感じた。鳥肌が立った。最悪の場合しか考えられない。
「・・・行ってみよう。急ぎ、確認しなくては――」
「た、大変です!!アッシュ隊長先導部隊が、下部ホールの左手通路にて・・・全滅、です・・・」
 私は、耳を疑った。いや、認める気にはなれなかった。
 私とホリディは急ぎアッシュの身元に向かう。この時ばかりは、道を塞ぐ、ゴロゴロと群がる味方兵士に、殺意すら沸いた。
 全速力で駆け、人を押し退けて、野次馬を抜けると、そこには、信じられない光景が広がっていた。
 ぼろ雑巾のように打ちのめされた、味方の残骸が、ひしめくように、地面に転がっていた。
「なんだ、これは・・・。ありえない。馬鹿な・・・。」
 よく見ると、皆イノア軍の装備を着ている者だけしか、絶命していなかった。
「・・・悪魔・・・」
「何?」
 ホリディが口走った言葉、以前は何を言っていたのか聞こえなかったが、今考えると、「悪魔」と、口が滑ってしまったのではと、今なら推測できる。
「だが、何なんだ、この死体は。まるで、大砲でも受けたかのような外傷だ・・・」
「そうだな、明らかに、人の力で成せる芸当ではあるまい」
「人では出来ない?では、熊や獅子にでも襲われたか?」
「・・・・・」
 ホリディはしゃがんで、少しの間死体をじっと見つめると、急に立ち上がり、スタスタと先に行ってしまった。すぐさま私はその後について行く。
「どうしたんだ、ホリディ。何かこの先に、気になることでもあるのか?」
「・・・とりあえず、黙ってついて来い」
 私はわけも分からず、ホリディの後について行くことにした。淡々としたその歩みは、どこか覚悟というか、一種の決意を感じた。
 通路は曲がり角。左に左折し、そのまま歩くと、先刻アッシュと別れた、二又の通路に出た――
――――― !!! ―――――
 背を向けた男。裏口から真っ直ぐ伸びる通路側に、その男はいた。明らかに、場違いな紳士。タキシードを着こなし、すらっとした体躯。何よりも驚いたのが、その身長。アッシュすらも見上げてしまうその身長は、3メートルはあるだろうか。
「ん?おや?人間だ。何か用かな?」
「え・・・・あ・・・・」
 私は、奴の瞳を覗いた瞬間、何も言葉を発することが出来なくなってしまった。
女性とすら見紛う、端正な顔立ち。シルクのように鮮やかな髪。そして、第一に印象的だったのが、その瞳。冷たい、どこか、寂寞を閉ざしたかのような、深い、紅の瞳。それは、人間のみならず、獣ですら、恐れ、慄くだろう。さらには、その真っ赤に染まった拳。数多の生を屠り、数多の無念を喰らい尽くした、修羅を感じさせた。恐ろしい程の、生命としての格の違い。それを、本能的に思い知らされた瞬間だった。
「どうした?あ・・・この手か。ちょっとこれじゃあ近寄りがたいかな」
 ポケットからシルクのハンカチを取り出し、見事な作法で、その血を拭う。
 行為から口調まで、全てが物腰の穏やかさを物語っていた。
「私の仕事は終わった。ロギヴェルノの保険、レボナオルの計略。私は、ほんの少し加担しただけさ。ロギヴェルノ側にね」
 私は、冷や汗が止まらなかった。
「私たちも、殺す・・・のか?」
 男は、クスッ、と微笑を浮かべた。
「大丈夫だよ。もう仕事は終わったって言っただろう?それに、わたしは興味があるんだ、人間にね。人間の、芸術ってやつにさ」
 おかしな発言だった。さも自分は、人間ではないような発言をするのだから。
 彼の物腰に、私は少し落ち着きを取り戻し、死にはしないことを理解すると、スッ、と胸の重しが降りた。そこで、私は、大胆にも、「彼」自身についての質問をした。
「あなたは、何者・・・なのですか?」
「悪魔。人はそう呼んでいる。下級種族だけどね。って、知ってて話してたんじゃなかったのか。残念」
「・・・・・・・・・は?」
「うーん、まあ最初から信じれなんて言わないさ。ただ、これは真実なんさ」
 私は呆気にとられてしまった。巨人という希少種族である、という風ならば、まだ理解をする心のユーモラスさはあったが、まさか、悪魔と返事が返ってくるとは、思いもよらなかった。しかし、ホリディは違った。いつも、そう。私だけが無知であった。今も、昔も、なんら変わってはいない。
「あなた様は・・・メフィストフェレス様、ですね?」
 ホリディは違った。この男と、面識があるらしい。
「え?ああ、そうだが・・・」
 メフィストフェレスと唐突に名前を呼ばれ、すこし戸惑っているようだ。
「あれ?君は、ホリディか?」
「はい、ご無沙汰しております」
「ホリディ、面識が、あるのか?」
 コクッ、と軽く頷く。
「そうか、あの日以来、か。まあ、君の決めたことだ。幸運を祈るよ」
「はい。ところで、後ろの者は、まだ、生きておりますか?」
「えっ?」
「ああ、まだ息はある。だが、もう助かりは、しないだろう・・・」
 私は気付かなかった。後ろにいたのは・・・
「アッシュ隊長!!」
 そう、この悪魔が私に与えた影響、ことのほか大きかった。彼のすぐ後ろにいたにも拘らず、人の気配すら感じ取れなかった。
 すぐさま走り寄り、状態を詮索する。
「これは・・・」
 左腕複雑骨折、左鎖骨骨折。見た限り、あの悪魔の攻撃を盾で受けたのだろう。しかし、それ以上に悲惨な部位、右脇腹。かつてそこにあったであろう逞しさは、無残にも消し飛んでいた。
「気に・・・するな」
「アッシュ隊長!」
 アッシュは、死力を尽くし、私に語りかける。
「俺は・・・な・・・、死ぬ・・・ため・・に・・・・戦・・・上・・に・・・・赴・・い・・・・た。・・・の・・・・決・・果・・・・は・・・宿・・・命・・・・だ。ゴホッ、ゴホッ」
 吐血する。血は、死を迎えるのに、十二分に流した。辺りは血みどろ。それでもなを、意識を保ち、命を削ってまで訴えようとする漢の死に際に、私は涙を流さずにはいられなかった。
「もう・・・いいです・・・喋らないでください・・・・・」
「いや・・・聞け・・・・この・・・作・・・戦・・は・・・な・・・・俺の・・・死を・・・もって・・・・完・・遂・・・する・・・ゴホッ」
「隊長・・・何を、仰ってるんですか・・・・・」
「部隊・・・の・・・仲間・・・・には・・・・悪い・・・・こと・・・したな・・・。・・・妻・・・に・・・・よ・・・ろ・・・・・し・・・・・・く・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「っ!!」
 アッシュは、この死を、本当に享受できていたのだろうか。今では分からない。望む死など、何処にも無い。そして、彼の場合は、覚悟の死。そして、責務の死。これで、良かったのか?私は様々な考えが頭をよぎった。
「メフィストフェレス・・・といったか。あんたも、仕事、といったな。詳細を教えてくれ。アッシュ隊長との結びつき、レボナオル将軍の計略とやらを」
「そうだな、こちらにも言えない情報もあるのだが、まあ、いいでしょう」
 確かに、私の感情は色々なものが入り混じっており、混沌としていた。ただ、唯一ドライだったもの。それは知識欲。
「今回、このように仕向けたのは、半分はロギヴェルノ、半分は、君たちの将、レボナオルだ。彼は、悪魔がロギヴェルノの切り札として召喚されていることに気付いていてね、それを逆手に取ったのさ」
「魔女・・・か」
 ホリディが呟く。
「そう、イノア側の魔女に、逆召喚されたのだ。私にも、私を使役する魔女がいるのだが、私を通じて意思疎通をしている内に、イノア側の魔女と意気投合してしまってね、国に悟られない程度の協力に、私の主が応じたのさ。よほど気前が良かったらしいからね」
「しかし、はじめからあなたを戦場に送り出せば、楽に勝てていたでしょうに」
「ああ、それがね、私の主はさ、つくづく貪欲な方でね、これでもか!ってくらいふんだくるもんだから、国も迂闊には支援を要請出来ないのさ」
「・・・・・」
 大国が渋る報酬、どれほどのものなのだろうか・・・
「山林の見取り図、今日この日までの、ロギヴェルノの計略、兵力、士気から将軍の性格まで、様々な情報提供を持ち掛けたもんだ。レボナオルという人間、並の完璧主義者ではないよ」
「なるほど、この戦いは、全て計略どおり。いや、この戦争は、全てレボナオルの手の平の上で戦っていた、ということか」
「では、アッシュ隊長の死も、計略の内・・・・・」
「私はただ、この通路を通る敵を殲滅しろと、主は申していた。イノア側の要請なのだろう」
 そう言い終ると、悪魔はスッと膝をつき、地面に右人差し指を立て、不可思議な軌道を描く」
「何を、している?」
「私はもう、帰らなくてはならない。君たちの部隊が近づいてきている。ああ、そうだ、君の名前を教えてくれるかな?」
「私は・・・ダリス」
「そうか、憶えておこう」
 ――――― そう答えたときには、もうメフィストフェレスの姿は、光の中へと沈んでいった・・・・・・・・・・
―― コヴリア・ソロン森林の小屋にて ――
「そうか、先刻の悪魔とは、浅からぬ縁、なのだな」
 そこは、深い森の中に孤立して建っていた小屋。誰も立ち寄ることも、知られることも無い、簡素な小屋。魔女の隠れ蓑には最適であろう。
 魔女ガラテアは、私の師であり、恩人でもある。そして、世界の常識を一変させられた人物でもある。
「そう、妙に人間的な奴だった。悪魔らしからぬ、悪魔・・・まさにそう」
「・・・・・」
 私は剣を研ぎながら話し続けた。魔女も何やら怪しい色に濁った薬品の調合を行いながら話を聞いていた。
「そのすぐ後か。お前が野垂れ死ぬところを拾ってやったのは」
「今思えば、不本意だったな」
 魔女はフッと微笑む。しかし、瞳は哀しみを帯びていた。
「だが、この後、お前は国賊として追われる身か。悲惨だな、お前も」
「もう、過ぎたことだ。あの頃とは違う。取り巻く環境どころか、私の眼に映る世界すらも、変わってしまった。今は俗世からの隔世を望んでいる」
 私は再び、話し始めた。
―― イノア首都にて-ヴォレンティノ城 ――
 私は兵舎のベッドに横たわり、回想に耽っていた。悪魔、アッシュの死、全てが幻のように思えてならない。以前からホリディが読んでいた、神や悪魔に関する文献。我々戦場に立つ者には、何ら役に立たない、無価値なものだと馬鹿にしていた。そんな常識の何もかもが、根底から崩れていった。今すぐにでも、世界の真実に渇いていた。
 私はベッドから起き上がり、ホリディの部屋へと向かった。その途中、何やら不穏となる会話を耳にした。
「本当か・・・?部隊長二人が・・・処刑・・・?」
「ああ・・・極秘裏に・・・世間から抹消・・・されるらしいぞ」
―― 私と・・・ホリディ、か? ――
 一筋の寒気が、体中を駆け巡る。肌寒い程の悪寒。一目散にホリディの部屋に向かった。
―― バン! ――
「ホリディ!早く逃げるぞ!」
 ホリディは、至って冷めていた。そして、驚愕の言葉を放った。
「俺はいい。お前だけ逃げるんだ。逃走用の馬車も用意してある。荷物をまとめろ」
 ホリディが私よりも今の状況を、重々理解していることはわかった。しかし、ホリディ程の人間が、なぜこのような所で死を選ぶのか、理解できなかった。
「あんた、何言ってるんだ!一緒に行くぞ!」
ホリディの襟を掴み、洗い立てのシャツが引き千切れるほどの勢いで迫る。そんな私の全力を軽く受け流し、真顔で、淡々と口を開く。
「俺はな、生まれた時から、欺瞞に満ちたこの世界に、いつも問い、答えを求めていた。俺はなぜ生まれてきたのか、なぜ世界は争い続けるのか、なぜ俺の家族は、俺を捨てたのか」
「大人たちからしたら、当時の俺は「小賢しいガキ」の妄言としかとられなかったよ。体のいい理屈を並べ、自分の望む通りに利用する大人たちを、そいつらこそ悪魔だと思っていた」
「しかし、それは・・・」
「ああ、分かっている。人は生きるために、俗に染まらなければならない。大人が常識を与えなければ、集住は成り立たん。そう、俺は気付いたんだよ。俗世を変えられないのなら、俺が逃げればいいのだと」
「おまえ、だからって死んでしまったら、もともこうも無いだろう!」
「静かにしろ、気付かれるぞ。それに、俺は死ぬなんて一度も言ってないぞ。俺は、悪魔になるんだよ」
「・・・え・・・?」
耳を疑った。悪魔になる?何を言っているんだ?
「そう、あの悪魔だ。圧倒的な、隔世の力をもった存在。俺は、この世界から飛び立つ。完全に、俗世から、身を引くんだよ」
「何を言ってるんだ・・・。俺たちは悪魔なんかじゃない」
 スッと私の手を振り払う。
「詳細を話す余裕は無い」
私を横切り、扉の前に立ち止まり、再び口を開く。
「ついて来い、逃走経路を案内する。・・・・・確かに、本当の悪魔にはなれないさ。俺は、人間だ。だが、もう決めたんだよ、俺は」
「・・・・・」
―― 城下に続く地下水路前 ――
このヴォレンティノ城には、八つの地下道が通っている。山脈に近いイノアでは、山から水を引き、城を経由し、城下町に流れている。その経路は全て、海が終点だが、途中城下町に出る出口が、全ての地下道にある。
「ここを通って行き、城下に出れば、そこに馬車が泊めてある。とりあえず隣町まで逃げるんだ」
 私は再び、ホリディの眼を覗いた。彼の、喜びと悲しみが混同した瞳を・・・
「本当に・・・」
「何度も言わせないでくれ。俺は、今日という日のためだけに生きてきた。だから、ここでお別れだ。たぶん、これが、今生の別れとなろう」
「そんな・・・」
私は憂いを訴える。フッと口角を上げ、ホリディは微笑んだ。
「忘れはしない。アッシュ隊長や、お前と過ごした日々を。俺の友は、お前だけだ。だから、お前も忘れないでくれ」
「当たり前だろう・・・」
 お互いを認め合い、分かち合った覚悟。私とホリディの眼には、信頼の二文字が刻まれた。
 その後、ホリディを見ることはなかった。
 私は走った。走り続けた。10キロメートルはあるであろう、延々と続く闇のコンクリート洞は、私の足音と、中央を流れる流水の音、たまに聞こえる、奇怪で耳障りな不快虫等の足音を響かせるだけ。虚空の如き、無が包む空間では、疲れを感じる神経よりも、思考を欲する新皮質が働いていた。この水路を作るため、人柱となった人々を敬ってみたり、現皇帝ヴィルホルン3世の「農労支援策」を褒めてみたりと、出来る限り喜ばしいニュースを思い浮かべ、淡々と走り続けた。
―― 水路-城下町出口 ――
 闇に慣れた眼には眩しい、陽の光を遮きれてはいない、鉄柵を見つけた。鉄柵を針金でこじ開け、永遠にも感じられた闇から開放され、不意にも伸びてしまった。すぐに不謹慎さを悟り、自戒の念に駆られた。
 私はホリディの言っていた、馬車を探した。鬱蒼とした森に、舗装された公道。城下町の外れとはいえ、ここまで自然が生い茂っているものかと、不思議に思えた。
 少し森に入り、一帯では一番の若木に、馬車の手綱が括り付けてあった。馬が2頭、車体部分はずいぶんと立派で、屋根つきの4人用。ただ、私がそこに乗ることは許されないようだ。なぜなら、操縦者がいなかったからだ。操縦席には、小さな紙が置かれており、申し訳ないが、厄介ごとには巻き込まれたくないので、この馬車は差し上げるから、1人で逃げてくれ、とのこと。
「まあ、なんとかなるか」
 馬術は嗜んでいるので、何とか馬車の操縦は出来そうだ。
―― ヴォレンティノ郊外-グルニア方面 ――
「!?」
 私が公道に沿って馬車を走らせている途中、唐突にヴォレンティノ方面から、大地を揺らす程の爆音が、私の耳を揺さぶった。すぐさま馬を止め、振り返ると、城は燃えていた。玉座のある中央部、兵舎の左辺、奴隷や罪人を置く右辺。その内の、右辺側が、完膚なきまでに爆破されていた。
「なんだ、あれは!?」
―― あそこには・・・処刑場もある・・・ ――
 私は一瞬、ホリディを思い出した。彼がむざむざと命を落とす人間ではないことは知っている。目の前の惨状・・・
―― お前が、やったのか? ――
「・・・先を急ごう」
 たとえ何があろうと、今ここで引き返すことはできない。彼を裏切ることは出来ない。
 とにもかくにも、早々に馬車を走らせた。
―― グルニア ――
 私がグルニアに着く頃には、既に陽も傾きつつあった。これ以上馬車を走らせることは困難だと悟り、ここで夜を明かすことにした。
 グルニアでは交易が栄え、中でも鉄鋼山が有名である。そのため、町は活気に溢れていた。
「木を隠すなら森、か」
 私は手ごろの宿を探し、馬車を置かせてもらった。そこは店主と女房らしき人の2人で切り盛りしていた。食事と寝室を用意してもらい、早々に休んだ。
―― 深夜 ――
 私はトイレで用を済ませ、寝室に戻るところであった。
「・・本・・に・・・いる・・・・な」
何かカウンターの方で会話が聞こえる。好奇心で聞き耳をたてた
「ええ、確かにその人でしたら、こちらのホテルに泊まっておりますよ」
「そうか、部屋番号を教えてもらいたい」
「え?どうかなされたんですか?」
「ああ、こいつは、国家転覆を狙った指名手配犯だ」
 ―― 私の事か・・・! ――
 すぐに部屋に戻り、身支度を整え、窓から外に出る。一目散に逃げ、私が来た逆側の門に向かう。
「犯人が逃げたぞ!!探せ!!!」
 大通りは確実に見つかる。小道を利用し、何とか追っ手の網を潜り抜ける。
 門に着いた。しかし、追っ手は門を塞いでいた。仕方なく、町の角を攻めてみる。すると、町の最北端に、通り抜け禁止の鉄柵を見つけた。すぐさま針金を取り出し、鉄柵をこじ開ける。
「いたぞ!!!追え!!!」
 何とか間一髪鉄柵を抜け、町を脱出する。
 しかし、そこは闇の森。なりふり構わず走り続けてはいたが、方向も分からなくなり、途方にくれてしまった。
「おやおや、お困りかな?」
―― !!! ――
 なんと、目の前に、メフィストフェレスが現れた。しかし、その瞳は、哀愁を帯びていた。
「・・・私を、助けに来た・・・というわけでは、なさそうだな」
 悪魔は、微笑を浮かべたまま、何も語らない。
「救いは、いらない。そこをどいてくれないか?」
「それは、できない相談だな」
「知って、いるさ」
 私は剣を抜いた。死を覚悟しての、最後の抵抗。
「私一人を始末するのに、あんたを使役するとは、なかなか嬉しい評価だな」
「それは、お褒めの言葉として、とっていいのかな?」
「そういう、ことだっ!!!」
 剣を振るう。この時ほど、吹っ切れた戦いはなかった。安定した剣閃。限りなく、無我に近かった。
「惜しいな、実に惜しい人材だよ」
―― パキン ――
 剣は、一瞬にして根元から折られた。刹那の一瞬であった。
「さらばだ・・・」
―― ズバァン ――
 一瞬、自分は死を享受した。しかし、感覚は、残っていた。
「お前は・・・そうか、そういうことか。フフフ、ハハハ、なるほどな。いいだろう、面白い、相手になろう!!」
 何がなんだか分からなかった。私はまだ生きているのか?少しづつ、瞳を開く。私の前には、人影があった。
「え・・・」
「ダリス、逃げるんだ。」
―― !? ――
「ホリディ!?」
「さあ、早く!!俺にメフィストフェレスを倒すことはできない!!」
 その声は、確かに、ホリディの声だった。タキシードを着ていたが、体躯は彼のまま。彼の顔は見ていない、だが、きっと、人の時と、変わらない、凛々しい顔だったはずだ。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「私は死力を尽くして走った。気付かぬ内に、気絶していたのだろう」
「ホリディか。いい友を持ったじゃないか。悪魔だがな」
「あいつは、人だよ。人の心を、悪魔となった今でも、持ち続けてるはずさ」
「・・・そっか、やさしいやつだったんだな」
「ああ、誰よりも、優しさと、正義の心を持ったやつだったよ」
 剣も研ぎ終わり、昔話も一通り話し終わった。
「それでは、行こうか」
「ええ」
 その後、魔女に拾われ、私は一命をとりとめた。数日して、すぐにレボナオルの皇帝就任と、この抹殺指令を彼が出したことを知り、幻滅する。そして、なぜか私の捜索は打ち切られた。
今夜、再び死地へと赴く。いや、私は、この俗世から既に、抹殺されている。故に、私は、死の恐れを克服できた。今は、命を救われ、悪魔を滅する方法、生きる意味を作ってくれた彼女「ガラテア」に、全てを尽くすだけである。
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