2、知らない町
――次の日
近くにあった公園の土管の中で一晩を過ごした俺は、当ても無く町に出ていた。
ここが何処かという根本的な事すら、俺の頭は理解していない。
そもそも本当に知らないのだ。ただでさえ自分の自宅付近の現状すらも把握出来ず
にいた俺が、こんなにも遠くまでやって来た時点でそれははっきりとわかっていた。
朝、日中、日差しが唯でさえ強いこんな真夏に、昨日全速力で走りに走ってきた俺
にはもうこの現状を打破するための改善策など考える余地も無いわけで。
ただただ、知らない土地を淡々と前に進む俺に、一人の女の子が声を掛けて来た。
唐突だった、本当に突然だった。それはまるでジャンケンで最初はグーの時にわ
ざとパーを出した西田君があの時見せたあのニヒル顔のように。
「にいちゃん、あれ取って」
女の子が指差す方向には、壁の向こうの家から突き出た木の枝に引っかかったブル
マだった。ブルマまでの高さは、俺のこの高身長を持ってしても手を思いっきり伸ば
しながらママさんバレーに週2日通いつめて鍛え上げたこの足腰の筋力をフルに使っ
たジャンプでやっと届くであろう、っと思わせるほどに高かった。
しかし、何故あんな所にブルマが引っかかっているのだろうか、そもそもこの女の
子の物なのだろうか、小学生くらいに見える女の子だが今時ブルマを履かせている小
学校なんてあるのだろうか、ブルマブルマブルマ。
「ねぇ、にいちゃん、にいちゃんってば」
俺の制服のズボンに両手でしがみ付きながら、ゆさゆさと揺らし俺を呼ぶ女の子。
今は疑問を抱いている場合ではなく、ここは素直にブルマを取ってやるべきだと思
えてきた。
「わかった、俺に任せろ」
俺は木の枝までを助走をつけて全力でジャンプしながら手を思いっきり上げる。お
よそ3mは飛んだであろうか、ブルマを鷲づかみするとそのまま落下する。
着地に成功した俺は、掌で鷲づかみしたブルマを女の子に渡す。
「ありがと、にいちゃん」
そう言いながら微笑みを俺に向けてくれる女の子、すると自然に俺の心は和んでし
まっていた。今まで走って体にきていた疲労感も、自分の所在が分からない不安も、
女の子の微笑みによって全て消え失せていた。
「おぅ、こんくらいならいいって。それに何かいい気分にさせて貰ったしさ」
「どぉいうこと?」
女の子が首を傾げつつ、俺の言葉に疑問を持つ。
その姿は可愛らしかった。例えるなら子供の頃、小学校低学年の頃良く見ていた昼ド
ラ「桜心中」の桜子さんのように。
「いや、何かさ、お前の笑顔見てるとそう思えただけなんだけどさ」
女の子と視線を合わせながら、少し照れが入りながら喋る俺。
「えへへ・・・//」
同じように女の子の方も、照れているようだった。