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一話-二学期の始まり-前編-

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今日は夏休みが明けて、二学期初めての登校だ。いつもならまた学校が始まるというある種の憂鬱感のせいで軽く死にたくなってしまう所だが、今日は楽しみだ。転校初日だから。

楽しみな反面、心配な面もある。友達が一人も出来なかったらどうしよう。とか、前の学校のようにいじめられるんじゃないか。とか、そういう悩みだ。幸いにも、俺は地元の滋賀の信楽町の高校から遠く離れた千葉まで引っ越したから、共通の知人関連でいじめられることは無いだろう。

暗い話は置いておいて、なんと今日から制服を着れる。しかも学ランだ。前の学校では私服だ。お母さんの買った服ばかり着ていたら凄くバカにされたから、これは大きい。しかも学ランだ。着ているだけでカッコいい気がする。凄く。

真っ白い無地のTシャツの上に真っ白いカッターシャツを着て、黒の学ランに腕を通す。金色の校章のついたなんとなく格好のいいボタンを下からフチフチと閉めていく。この上から二番目のボタンは卒業式にあげることになるんだろうな。楽しみだ。彼女が出来ればいいな。

一番上のホックは閉めるべきなのだろうか。とりあえず閉めておこう。ズボンを履いて、その中にシャツを入れる。学ランに腕を通す前にすれば良かった。なんとなくやりにくい。

時刻は8:10分。学校側から事前に9:00分に来るように言われたから、時間は余裕だ。とりあえず、優雅に朝飯でも作ろう。目玉焼きなんか、お洒落かもしれないな。
フライパンに片手割りで卵を落とす。ジュウッという音と共に卵が凝固していく。強火のまま八秒間キープして、黒コショウと塩を加える。そこに水を少し入れて、蓋をして、火を切る。一分後、蓋を開ければ中は、白身は凝固しきって黄身は凝固していない最高の目玉焼きの完成だ。

母さんと父さんは共働きで朝は居ないので、当分このレシピにはなりそうだ。ご飯を器に盛り、その上に目玉焼きを乗せる。そして、黄身に箸をまっすぐに突き刺し穴を作り、そこから醤油を入れる。そして食べる。

これが最高の目玉焼きだ。毎日これが食べれるとなると、なんとなくうれしい。黄身と醤油の絡まったご飯を口に運ぶ。美味い。醤油が黄身、黄身が醤油を助け合い、絶妙なフレーバーを作り上げる。最高だ。

しかし、静かだ。いつもなら母さんがいるからだろうか。なんとなく静かに感じる。テレビをつけよう。

電源と書かれたボタンを押す。テレビが「フォン」と言い映像が映りだす。朝のニュースが流れている。朝に千葉のT市で殺人があったらしい。ここは千葉のK市だ。T市ってどこだろうか。後で地図を見よう。

テレビの横に、8:38と書かれた文字が見える。学校へは九時につけばいいけど、そろそろ歩き始めよう。迷ったら困るし。
2, 1

  

玄関の窓を開けて、誰も居ない部屋に向かって、「いってきます。」と言う。虚しいけど、一度はなんとなくやってみたかった。今から目指す場所は千葉県立枯葉(カレハ)高等学校。確か北だ。

方向感覚は優れているし、道もなんとなく覚えている。北っていうのは解らないが、道は覚えているから余裕だ。近所の人に「おはようございます。」と声をかける。すがすがしく。

無視された。関東の人は冷たいっていうのは、本当なのか。睨まれた。最悪だ。挨拶は避けよう。

と思っていると、突然、目の前を何かが横切った。黒猫だ。黒猫が横切り、コンクリートの塀の上に乗っている。俺のほうを見ている。無視だ。関東人になりきろう。無視だ。

遠くのほうで黒猫が、「ニャア。」と鳴いたのが聞こえた。やはり俺のすることは"無視"なんだろう。無視しよう。
学校は次の交差点を左に曲がった所だったと思う。いや、曲がった所だったはずだ。少し駆け足になり、期待に胸を寄せて交差点へと近づく。

空が見える。都会の空は、雲ひとつ無く、綺麗な空だった。飛行機がなんとなく大きく見える。空港が近いからだろう。そして学校は見えない。

俺は交差点を左へ曲がったはずだった。いや、確かに曲がったのだ。しかし今、空が見える。どういうだろうか。

体に痛みが走る。何となく意味は理解できた。車か何かに轢かれた。たぶん今は吹き飛ばされている。視界が赤に染まり、暗くなっていく。
4, 3

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