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生誕

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 淀む
 
 揺らぐ

 混ざる

 それを繰り返しながら”私”が形作られていく。
 ゆっくり”わたし”の中で浮き彫りになっていくのが分かる。

 ――やめてくれ――

 どれだけ願っても、どれだけ叫んでも、その願いは聞き届けられない。

 ――私は生まれたくない――

 自分の意識の枠が定められ、”私”という主観が初めて感じたのは”恐怖”だった。


 不意に流れ込んでくる大量の情報、知識、そして感情の様なモノ。それらが私を押し流そうとする。染めようとする。支配しようとする。
 私は叫んだ。
 叫ぶ?
 叫ぶとはなんだ?
 大きな声を出すことか?

 声、それは生き物が声帯を使って音を発すること、空気を振動させること。

 空気?そんなものどこにある?
 声帯?それは私のどの部分に該当する?

 ――わからない――

 自分が、主観が、魂が歪む。保てない。いや、保ちたくない。

 ――ダレカタスケテ――

 私は願った。祈った。懇願した。ありとあらゆるものに謝罪した。
 その時、ふと自分が何かを知覚していることに気付く。
 さっきの無理矢理情報を流し込まれているのとは違う、何か。
 だが、私にはそれがなんであるかを理解できない。
 それでも、それは私にとって懐かしいモノの様な気がした。

 ――帰りたい――

 それはどこへ?どうやって?
 ”私”の中で生じた感情、そしてゆっくりと広がっていく。
 ”私”は”わたし”と重なった。
 ”私”と”わたし”は繋がったのだ。


 急に広がる視界。
 それは広く、蒼く、美しい世界。
 その筈なのに、そう感じるべきなのに、何故か”わたし”は苛立っていた。
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