「簡単に言うと、私は人間ではない」
「おお!おお!うぉおお!!」
眼鏡の奥のくすんでいた瞳を輝かせ、ダンテリオははしゃぐ。
「凄い、いいよこれは!!人間じゃない証明は後でいいから話を聞かせておくれよ!!」
「…私の存在がどういうものか、という所から話すが、私はお前達命を持つ者達が済むこの大地、星の一部のような存在だ」
「うんうん、なんかインチキくさい宗教のような話だねぇ!」
口ではそう言うものの、ダンテリオの顔は終始嬉しそうなままだ。
「ある時この星にとって不都合な事態が発生した。それを解決するために私は生み出され、今もこうしてその為に働いているというわけだ」
「不都合な事態?」
「ああ、そうだ。例えるならば…そうだな、人間で言う所の頭にシラミがわいたような状態と言えばいいだろう」
「…もしかしてシラミっていうのは僕達人間のことかい?」
「いや、正確には人間を含む全ての命を持つ者達のことだ」
それを聞いた途端、ダンテリオの顔に歪な笑みが浮かぶ。
「へぇえ、へぇええ!面白いなそれは!!」
自分達人間も排除の対象であるという事実を聞いたにも拘らず、ダンテリオはやや興奮したまま額を押さえ、半開きの目で何やら考え込む。
「そうか、だからリーズナ―で技術の向上を…。だが、全ての生命体を滅ぼす技術?仮に存在したとして完成させるまで研究する人間がいるのか?…いや、僕のような人間ならするか…。だが彼のように我々とコミュニケーションをとれる存在が命を持たない物なら…」
ダンテリオは何やらブツブツと小声で独り言を始めたかと思うと、急に大きく眼を見開きながら顔を上げて私に向き合った。
「一応聞くけど、共存っていうのは無理なのかい?」
「不可能だ」
「そ、即答だねぇ…。理由を聞いても?」
「お前達”命を持つ者”と私達”命を持たない物”では存在する目的が真逆だからだ」
「真逆?」
「そうだ。お前達”命を持つ者”は生きるため、子孫を残し種全体を生かし続けるために存在している。だが――」
私がそこまで言うと、ダンテリオは今までにないほど表情を歪め歓喜した。
「君達”命を持たない物”は死ぬために…消えるために存在しているっていうことか!」
「大まかにいえばそんな所だ」
「おぉおおお!凄い!凄すぎる!!何もかも僕達とは違うんだねぇ!その理由は?どうして消滅が目的なんだい!?」
目の前で大はしゃぎするダンテリオを見て、私は少々話すのをためらった。
この男は知ることを道楽、生きがいにしている節がある。ここで全てを話すことで満足し、興味を無くされるよりも、命を持たない物についての知識を餌に働かせた方が効率がいいかもしれない。
「…話はここまでだ。これ以上聞きたければ組織で結果を出すなり、私の目的に役立つようなアイデアを生み出して見せろ」
「いいねぇ、じらされるのは嫌いじゃない、むしろ好みだよ。…でもここまで興奮しといてなんだけど、証拠の方を見せてもらえるかい?」
そう言いながらにやりと笑うダンテリオの前で、私は自身の体を消す。
「――おぉ!」
そして再びダンテリオの背後で体を形成すると、机の上に置いてあった鋏を手に持つ。ダンテリオが背後に立つ私の存在に気付いたと同時に、鋏を私の首筋に思いっきり付きたてると、鋏はぐにゃりとヘシ曲った。
「た、確かに人間じゃないみたいだねぇ」
流石に目の前で人外な力を目の当たりにしたせいか、少し動揺するダンテリオ。
だが、私が人外であると認めたのなら、今度はダンテリオに成果を求めねばならない。
「…例の禍紅石はどうなっている?」
「あ、ああ、バニッシュストーンのことか。ちょっと難しいとこだよ。コストも特性も判明してはいるものの、コストを奪われて人間性を保てる実験体が居ないんだ」
「なら、まずはそこからだ。お前には、期待している」
そう言うと私はダンテリオの目の前で体を消し、連絡係としての務めに戻る。
そして私は自身の変化に気付く。一人の人間の特性、性格を理解し、それを利用することを考えるようになったことだ。
やはり、モルド達と接触したことは私にとっても良い影響を与えたようだ。
そう考えた時、私の中で温かい何かと冷たい何かがジワリと広がった様な気がした――。