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そして炎が消えるとき

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 暗殺失敗から数年、リーズナ―の活動に大きな支障も無く時が過ぎていく。
 新しい技術を生み出しては、その技術を運用することに適した国に提供し、情勢をコントロールする。最も大仕事だったクレスト、キサラギ2国を停戦に持ち込む作戦も2国間を跨ぐ大地震を利用し上手く成功させることができた。
 戦争と対立はわたしにとって望む所ではあるが、実際クレスト、キサラギの2国はミラージュに戦意が無いのをいいことに大規模な戦を繰り返していたため、私は両国の国力低下を防ぐために停戦に持ち込む必要があったからだ。
 そして、停戦に持ち込んだ後は2国間の敵対心を維持するため、コトダマ使いを使って襲撃を繰り返した。国境近くの村や町を狙うことで、互いが互いに相手のせいだと思い込む。
 しかし、いくつもの重要な作戦がスムーズに成功する中、妙な出来事が起こった。
 例のミラージュから脱走した”魂すら消すことのできるコトダマ使い”の所在を掴んだリーズナ―はニーシャと数人の実行部隊を送り込む。
 結果として作戦は失敗。ニーシャ以外の人間は全て死亡し、唯一生き残ったニーシャもコストのせいで記憶のほとんどを失ったため、事情が一切分からない。さらに作戦後、そのコトダマ使いの隠れ住んでいた山の木々が涸れるという現象も発生したため、益々例のコトダマ使いの特性が何なのか分からなくなってしまった。
 私がその作戦に同行していれば少なくとも例のコトダマ使いの特性が何であるかくらいは判明しただろうが、私はあの暗殺失敗以来ムーンライトソードの隠蔽工作に忙しかったため、リーズナ―の連絡係としての仕事以外はほとんど行っていなかったのが災いした。
 しかし、貴重なコトダマ使いであるニーシャが無事だったことは大きい。ニーシャのコトダマは”消す”という特性だったため基本的には対コトダマ使いとしての運用が多かった。だが、ニーシャの錬度が上がったのか、もしくはニーシャを教育しているダンテリオのおかげかニーシャの周囲の音を消すという隠密行動向きのコトダマの使用が可能になったのだ。
 そのため、襲撃の際のリスクを極力減らすことができ、効率的に町や村を襲うことができるようになっていた。

 しかし、ある時街を襲撃した部隊が全滅したという報告を受ける。しかもその部隊は集団戦闘に長けたコトダマ使いを含む優秀な実行部隊だった。
 その報告内容を見て私は自分の目を疑った。全滅させられた実行部隊と戦った相手の情報にはラドルフの名前があったのだ。
 ラドルフとはあの時別れて以来一度も会っていない。傭兵として生計を立てていることは知っていたが、まさかこんな形でラドルフの名前を聞くことになるとは思いもよらなかった。
 リーズナ―の中からはラドルフを含め襲撃部隊を全滅させた街を再び攻撃し、報復することを提案する者もいたが、リスクが大きすぎることと、そもそも報復することに全く意味が無い為、間もなく却下される。ラドルフが襲撃を実行した部隊を全滅させた原因だったのならそれもあったのかもしれないが、部隊を全滅させたコトダマ使いは既に死亡していた事もあり、二つの禍紅石を回収するだけとなった。
 ラドルフはリーズナ―に始末されることは無い。そう、私は安堵したのだろう。しかし、その安堵も意味のないモノだった。

 偶然だった。
 情報収集の通り道、とある山を越え目的地まで移動している最中に、私は不自然な熱量増加を知覚する。
 その場所へ移動し、様子を窺うと20人足らずの人間達が一人の男を包囲していた。そう、包囲されている男はラドルフだったのだ。
 ラドルフにかつての幼い面影は無い。しかし、あのコトダマは間違いなく炎狼ヴォルフと同様のものだ。
「燃え尽きろぉおおおお!!」
 私が状況を把握しようとしていると、ラドルフは渾身の力でワーストワードを放ち、周囲のもの全てを焼き払う。
 そして始まる異常なまでのコストの支払い。ラドルフは体を地面に横たわらせ、もがき苦しんでいる。
 私は無意識のうちにラドルフの目の前まで来ていた。
 体を形成していないままだったため、ラドルフには見えるはずが無い。見えるはずが無いのに、ラドルフの視線は私を捉える。
「――…」
 もはや声を発することもできないのか、ラドルフの口が小さく動く。何を口ずさんだのかは私には分からなかったが、そんな様子のラドルフを見て、不意に私の中で凄まじい痛みの様なモノが駆け抜けた。
 ――なんだ、これは!?――
 人間だったら吐いていたのだろうか、泣き叫んでいたのだろうか。
 しかし私にはそのどちらもできない。ただ、耐えることしかできないのだ。
 ラドルフの手が私に向かって伸ばされようとした時、私は反射的にその手に触れようとした。
 だが、私がその手に触れることなく、ラドルフはそのまま息絶えた。
 急に私の意識が霞み、揺らぐ。
 ――消え、る――
 そう思った瞬間、”わたし”が私の異変を察知したのか、私の意識は”わたし”の中に無理矢理引き摺り込まれるように沈んでいった――。
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