ベスタリオの一件から数年、リーズナ―は基本的な方針はそのままに、組織内での競争意識がより強くなっていた。手柄を上げさえすれば今まで以上に出世に大きく影響する様な風潮が生まれ、今までの様に突出した才能の人間に頼るよりも、多くの非凡な才能を持つ人間をより効率的に運用できる体制で組織は運営されている。
当然ながら組織内部で出世を競うように皆が手柄を立てようと躍起になる中、より優秀な人材を外部からも取り込むために、リーズナ―の下請けの様な仕事をしている人間も大きな手柄を立てれば組織に入れるようになった。組織の下請けの様な仕事をしている人間と大まかには行ったが、彼らの9割9分はリーズナ―の事を一切知らない。そんな人間をリーズナ―に加えるには当然ながら外部にその存在を知られる危険性を孕む。
私はそれを大いに危惧していたが、流石はベスタリオと行った所か。情報開示の際には実働部隊に念入りに下調べをさせた上、一度リーズナ―に外部から加わった人間は、よほどの理由が無い限り外部との接触を禁じられたのだ。
しかし、キサラギとクレストの対立を深めるための工作も順調に進んでいる中、大きな問題が起きる。
クレストの禍紅石の供給先であるドラゴン養殖場に潜伏していた人間が、功を焦ったせいか、独断で行動する事態が発生した。ドラゴン養殖場はクレストの重要施設だ。そんな場所へ口封じのための人員を送り込むことは不可能に近い。
しかもそこには私が警戒していた人物、エネ・ウィッシュが関わっていたのだ。
ここ数年、クレストの政治家との繋がりを強めたその人物は、ただの野心家としてはあまりにも不自然な行動が多かった。
クレスト各地で騎士への命令権を強く持つ者と接触しては、また違う地へと移動しそれを繰り返す。私はてっきりエネ・ウィッシュはクレストに対してクーデターを企んでいるモノだとばかり考えていたが、それにしてはあまりにも行動が遅い様に思える。エネ・ウィッシュの年齢はもう40代後半のはずだ。クーデターを起こし権力を手に入れることが目的であるならばあまりにも高齢だ。仮に組織だって動いていてその志を誰かに継がせるつもりなのならば、始めから彼女が表立って行動する必要は無い。後ろから指示していればいいだけの話だ。
エネ・ウィッシュの目的が分からないまま放置したままにしておくことに不安に感じた私は、直接彼女の暗殺を試みる。
私は情報通り標的である人物を何の問題も無く仕留めたはずだった。しかし、エネウィッシュは影武者を用意していたらしく、暗殺が失敗した後はより情報かく乱が酷くなり、エネ・ウィッシュの目的が益々判断しにくい状況となったのだ。
そんな人物がよりにもよって、リーズナ―の情報を僅かとはいえ持っている人間の周囲を嗅ぎ回っている。しかもこちらは下手に手を出せない状況だ。
よって私は実働部隊を動かすことを諦め、私自らドラゴン養殖場の周囲を監視することでエネ・ウィッシュの目的を量ることにした。
そしてそこで起こるドラゴン養殖場での騒動、その首謀者の逃亡、D‐9部隊、それらを見届けていた私は思いもよらない人間を見つけた。
バスタードソードブレイカ―を背負った傭兵。ラドルフの弟子である沈黙のジノーヴィだ。
そこで私が感じたのは不安か、恐怖か?
それすら分からないまま、私はただうろたえてしまっていた。
ただ、確かに感じるのはラドルフとは血の繋がりすらないこの男の瞳には、ラドルフの意思のようなモノが受け継がれついるということだけだった。