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優れた者たち

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 ドラゴンブレスを使用できる人間の登場で、各国はその技術の研究を進めた。
 ドラゴンブレスを使用できるとはいえ、まだまだ威力は低く、使用した人間が原因不明の死を遂げることも多かったため、その技術は未だ完成しているとは言い難い。
 そんな中、私は製鉄技術提供によって手に入れた資金を元に、独自の研究機関を創設することにした。
 元々この研究機関は私が各国から手に入れた技術を確かめるために創ったものだったが、時間が経つにつれその存在理由は大きく変化していく。
 はじめ私はただ単に優秀な人間を中心に引き入れていたが、各国を巡る内にあることに気が付く。それは優秀な人間は必ずしも社会に受け入れられるわけではない、ということだった。
 私は学者達と何度も顔を合わせることで、彼らが思いのほか大きな縛りの中で生きていることを知る。学者の地位争い、その人間が持つ社会的立場や宗教観、道徳的価値観などだ。
 当然ながらそれらによって優秀なのにも関わらず、排斥される人間も多い。
 故にごく自然な流れでそういったような、あぶれた学者達の方が引き入れやすく、多くの縛りから解放された研究の場として機能することとなった。
 事実彼らは優秀で、私の与えた情報から多くを学び、技術をより洗練させていく。そして私はその技術を必要に応じ、各国の地位の高い人間に流すことでバランスを調整し、同時に政治的なコネを手に入れ、より国々の争いを操作しやすくなった。
 国々は竜紅玉の名称を改め禍紅石という名をつけ、ドラゴンブレスを扱える人間の総称をコトダマ使いとし、一般人が禍紅石を国に提出する制度を作ることで、コトダマ使いの数を増やす。
 そして国の勢力が大きくなり、コトダマ使いが増えるにつれて、次第に勢力調整は難しくなっていった。既存の権力者を出し抜き、成り上がろうとする者たちが増え始めたのだ。
 小さな勢力変化に関わる争いの中でそういった者が手柄を立て、大きな戦果を上げることは問題ないが、それが大戦の中で行われるとなると話は違ってくる。成功するにせよ、失敗するにせよそういった者達の行動は後々大局へと大きな影響をもたらす。
 よって私は自ら重大な戦に傭兵アレス・フリードとして参加することで、直接戦況をコントロールすることにした。

 一介の傭兵として大戦に、ただ参加するだけなら凄まじく容易だ。勝たせたい勢力へ参加し、剣を振るうだけだ。当然のことだが、ただの雇われ傭兵に重要な配置を任されるわけはない。戦況にほとんど影響しない場所への配置や、捨て駒としての役割がほとんどだ。
 しかし乱戦にさえなってしまえば、もはやそんなものは関係ない。私の知覚能力があれば重要な指揮官を探し当て、仕留めることも難しくはない。唯一難しいと言えば、盛大に暴れ過ぎて私の正体が露見しないように力の調節を心がけ、尚且つ戦果を上げねばならないことだった。

 しかし、実際戦場で戦っていると、少しばかり人間離れした戦いをしても人間ではないことがばれることはない。人間達は皆必死に恐怖と闘いながら殺し合っているのだ。少しくらい派手に暴れても、恐怖による錯覚と判断される。
 3度の大戦への直接介入で私はそれを理解した。
 所詮人間は弱い生き物。
 私がそう判断…いや、侮った頃に私は戦場であいつに出会った。
 4度目の戦場、クレストから東部に位置する小規模な国が連合を組んでクレスト皇国に宣戦布告した。
 クレストと連合の国力差は7対3だが、クレストがこの戦場に全兵力を投入できるわけではない。戦力としては4対3といったところだろう。
 私は数回の戦場での活躍で有名になったおかげか、開戦前からそれなりに重要な配置で戦が始まった。
 鍛冶屋に特別に作らせたバスタードソードブレイカ―を握り締め、構える。切れ味を二の次に、頑丈さを主眼に置いた大剣。そのせいで重量が常人には扱えない程に重くなってしまったが、私に重量は関係ない。戦の間壊れなければそれで充分だ。
 迫り来る敵目掛けて大きく薙ぎ払う。
 たとえどんな鎧で刃を防いだとしても、私のバスタードソードブレイカ―は切るのはなく叩き潰す武器だ。敵の防具も、武器も、馬ですらも、まとめて薙ぎ払う。
 飛び散る鮮血、千切れ飛ぶ四肢、断末魔の叫び声。
 その中を私は目標に向かって突き進む。

 そんな中、戦場の混乱を掻き分けて、一人の男が私に向かって凄まじい勢いで突っ込んできた。
「だっしゃーーーっるぁあ!!」
 両手に大斧を持ち私に突っ込んできた男は、私のバスタードソードブレイカ―に重い一撃を当てると、そのまま力づくで私を押しこもうとする。
 だが、力で私に勝てるはずもない。
 私は男を軽く押し戻すと、バスタードソードブレイカ―を手放し、その死角に身を隠す。急に支えを失った男が体勢を崩したその瞬間に、私は男の腹部に拳を放った。
「――!!」
 男は咄嗟に大斧の柄を交差させて私の拳を防ぐ。
 数メートルは吹き飛んだだろうか、斧の一本は折れ、地面を転がりながら男は体勢を立て直す。
「ぬぅう」
 男は小さく呻き声を漏らすと、地面に落ちていた剣を拾い、徐々に距離を詰めてきた。
 このままこの男に時間を掛けていては目的を達成できないと判断した私は、地面に転がっているバスタードソードブレイカ―を拾い直し、自ら距離を詰め、男に向けて振り下ろす。
 それを男はさっき拾い上げた剣を砕かれながらも受け流し、左手に持った斧で私に攻撃を仕掛けてくる。カウンターだ。
 正直、私は攻撃が受け流されるなど考えてもいなかったので驚きを隠せなかった。
 無論、斧を喰らってしまっても私の体は全く問題ない。だが、それは私の正体が人間ではないことを思わせるには十分な事柄だろう。
 咄嗟に私はそのまま距離を詰め、男の横を地面を転がる様にして回避した。
 なんとか男と再び距離を取り、私達は睨み合う。
「おいおい、あれを避けんのか……流石、闘神と呼ばれるだけのことはあらぁな」
 男はそう言うと、左手で握っていた大斧を右手に持ち替える。
「闘神?」
「あん?お前さん自分が巷でなんて噂されてるのかも知らんのか?」
 闘神、それが私の通り名ということだろう。神という単語が入ったこの通り名に私は不安を感じる。
 通り名でそこまで大仰なものをつけられたということは、それだけ人間離れしているということだ。これだけで正体が露見することなど無いだろうが、一時期神として行動していたことがあるだけに不安は徐々に広がっていく。
「ついでにワシの名も覚えておけ!ワシは双斧(そうふ)のモルドだ。まぁ、今は一本しか持っていないがな」
 おどけた様に軽く笑うモルドを後目に、私は戦場の状況を確認した。
 モルドとの戦いに時間をかけていた間も、戦況は動いている。私の目標だった指揮官も、今は随分移動してしまったようだ。ここから敵を蹴散らしながら的指揮官へ辿り着くのは流石に人間としては無理があるだろう。
 幸いにもクレスト側が有利な方へ戦況は傾いている。ならばここでこれ以上、私が動く必要はない。
 私がバスタードソードブレイカ―を肩に担いだ事で、何となく敵意が無いと悟ったモルドが私に話しかけてきた。
「なんだ?無駄な戦いはしないタイプか?まぁその方がこっちとしてはありがてぇがな」
 私は去り際にもう一度モルドの顔を見ると、自分の人間に対する認識を反省しながら、戦場を去った。
10, 9

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