始めに断っておくが、この話はフィクションである。
読者諸兄においては、その旨をしっかり了解した上で、以下の物語を読み進めていただけるとありがたい。
大学3年のころ、彼女が出来た。
年の頃19の、ピッチピチの新入生である。サークルの先輩として彼女と関わっていた僕は、年上の先輩という立場を最大限に利用して、彼女を口説いた。そりゃもう懸命に口説いた。サークル内外、年上年下を問わずライバルは多かったが、問答無用で蹴落とした。飲み会でライバルを泥酔させて外に放り出し、彼女の隣をゲットした事も一度や二度ではない。恋は盲目。美女は男を狡猾な戦士に変えるのである。
さて、その熱意の甲斐あって、僕は彼女とめでたく交際することとなった。
自慢じゃないが可愛かった。真っ白な肌と、ちょっとハーフっぽい顔立ち。本人はちょっとぽっちゃり体型なのを気にしていたが、男からすればそれがたまらない。胸はEカップだった。
性格も最高だ。田舎から上京してきただけあって、大都市にありがちなスレた感じが一切ない。何を見せても喜び、何を言ってもコロコロと笑う。心がぴょんぴょんするとはこのことである。ちなみに処女だった。ごっつぁんです。
そんな素晴らしい彼女を、僕は当然大事にした。めっちゃ大事にした。雨の日も晴れの日も常にべったり。東に図書館に行くと言えばバイクに乗せて連れて行き、西に買い物に行きたいと言えば重い荷物を持ってやる。テスト期間になれば過去問を渡し、誕生日にはサプライズプレゼント。付き合って半年後には、当然のように同棲していた。
そんな僕の様子を見て、友人らはこう評した。
「お前、重い」と。
友人たちだけではない。付き合って半年になり、付き合い始めの高揚感が落ち着くと、彼女も流石に鬱陶しく感じ始めたのか、もっと自分の時間が欲しいとこぼし始めるようになった。いやはやまったく正論だ。何しろ学校とバイト以外のほぼ全ての時間を、僕と一緒に過ごしているのだから。
だが僕は束縛を止めなかった。
どころか、今まで以上に彼女に付きっ切りになったのである。バイトに行くと言えば不機嫌な顔をし、誰かとメールをしているようなら誰だと聞き、授業が終わったらすぐ迎えに行き、そして毎日ねちっこいセックスをした。彼女はどんどん落ち込んだ表情になり、そして友人らは僕を非難した。
「いくらなんでも束縛が酷すぎる」
「本当に彼女のことが好きなのか」
「そんなんじゃ彼女にも嫌われるぞ」
僕は矢のように浴びせられる罵倒をやり過ごしながら思っていた。全く君たちの言うとおり。束縛すれば自由が恋しくなり、顔を合わせ続ければ鬱陶しくなる。そもそも彼女は花の女子大生。引き留めれば引き留めるほど、他の男と遊びたくなるに違いない。分かっている。全部分かっているのだ。しかし、止められない。君たちには知らないだろう。僕がむしろ、この状況をたまらなく楽しんでいることを。つまり……。
僕は誰かに彼女を寝取られたかったのだ。
きっかけは、付き合って二ヶ月前後の時に起きた、とある出来事である。僕はその時にはもう彼女との初体験をすませ、互いに性行為に慣れはじめてきたところであった。
控えめな情交を済ませた僕らは、裸でベッドに横になり、どうでもいい睦言を呟きあっていた。
その時だ。夜の静寂を切り裂いて、隣室から激しい喘ぎ声が聞こえてきたのは。
僕が住んでいるのは学校から程近いアパートで、当然ながら大学生がそこらじゅうに居た。隣室に住んでいたのは猫背でヌボーッとしたおっさんみたいな工学部生である。ソイツがたまたまその日、僕と同じように女を連れ込み、僕と同じように一戦おっぱじめたというわけだ。
「あんっ、いやっ、すごい、気持ちいい! あああああ!」
僕らの控えめエッチとは正反対の、絶叫のような喘ぎ声がダイレクトに僕の部屋に流れ込む。あのヤロウ、ナマズみたいな顔をしてどこにそんな性欲とテクニックを蓄えてやがったんだ。同じ男としてなんとなく負けた気分になったのを誤魔化そうと、苦笑しながら彼女の方を向き、「すごいね」と言ってみせた僕は、見たのだ。
「え? うん……そうだね」
そうやって慌てて取り繕う一瞬前の、彼女の表情を。
そこには、恥ずかしさと、恐怖と、好奇心と、それから期待をこめたような眼差しが確かにあった。ほんわか癒し系の彼女がふと見せたメスの顔。ああ、その艶やかさと言ったら! お前今、何を想像してた? そう問い詰めたい気持ちをグッと飲み込み、僕は彼女に荒々しくキスをした。四回戦目で中折れした。
それからだ。僕が彼女が他の誰かに抱かれる妄想をするようになったのは。
空想の中の彼女は、見知らぬ誰か(隣室のナマズ男の時もあるし、サークルのイケメンの時もあった)の上で、僕の存在を忘れたかのように、激しく腰を振っている。その口からは、普段の控えめな声とは大違いの、腹の底から搾り出すような喘ぎ声が迸っていた。他人の男のモノを恥じらいもなく頬張り、舌を這わせ、激しく頭を振る彼女。男に蕩けた視線を向けながら、かぶりつくような下品なキスをする彼女……。
「気持ちいいっ」
「だめっ、もう壊れちゃう!」
「ああぁ……いい……彼氏のより、ずっといいよぉ……」
そんなセリフを彼女の声で再生しつつ、何度自らを慰めたことか。
その情欲がさらに発展し、ついには本当に彼女を誰かに寝取らせようと決心したことも、連夜の昂ぶりを思えば、別に驚くにはあたるまい。
ところで、寝取られというジャンルは、簡単なようで意外と奥深い。各人により好みは多岐に別れ、そのバリエーションはもはや無限とも言える。では僕の理想の寝取られ展開はどのようなものかというと、こんな感じである。
①ラブラブの彼氏がいること。
②だが、その彼氏に、ちょっとした不満があること。
③その間隙を埋めてくれる見知らぬ男に、たまたま(←ここ大事)出会うこと。
④彼氏への思いを抱えつつ(←超大事)流されて体を許してしまうこと。
⑤相手のセックスが滅茶苦茶うまく(←死ぬほど大事)、快楽に溺れてしまうこと。
つまり一文で説明すると、「彼氏一筋のウブで純粋な子が、ひょんなことから別の男に未知の快楽を教え込まれてしまい、彼氏への思いを抱えつつも抵抗できずに溺れてしまう」というのが僕の中でドンピシャのゴールデンパターンなのである。
というわけで僕は、ウブで純粋でラブラブだった彼女に、浮気をさせようと考えたのだった。だが、知り合いと浮気されるのはあまり好ましくない。それだと何故だかあんまり興奮しないのである。だがこの点は、彼女がバイトをしているということが解決してくれた。バイト先のチャラい先輩と……なんて、よくあるシチュじゃないか。しめしめ。
後は僕が束縛のキツい彼氏を演じ、嫌気がさした彼女がフラフラと浮気をしてしまうのを待てばよい。我ながら完璧な作戦だ。
見落とした穴が二つあった。
一つ。彼女の身持ちが意外と固く、浮気をしなかったこと。
一つ。彼女のヘイトが溜まりすぎて、別れを切り出されたこと。
「あたし、恋愛以外にも、もっと色々なことしたいの」
「マジで? じゃあ最後におっぱい揉ませてよ」
グーパンによる流血を最後に、僕と彼女の関係は終わった。
その後のサークルでの立場、及び残りの大学生活がどうなったかは、言うまでもあるまい。もとより覚悟の上である。
繰り返していうがこれはフィクションである。真に受けぬように。
そんなこんなで寝取られ性癖をこじらせた僕は、その後まったくモテず(誰が何と言おうと性癖をこじらせたせいだ、間違いなく)、再び寝取られる機会を得られぬまま、アタッカーズの人妻寝取られモノや、桃太郎企画あたりの寝取りナンパもののAVを見ては、自慰を繰り返す毎日を送っている。
だが心配御無用。僕は案外、今の生活に満足しているのだ。
世の中の女性全員が、誰かに寝取られたと思えばいいのだから。
※読者諸兄においては、当然、「それ彼女、別れる前に実は浮気してたんじゃね?」という疑念が湧くことであろう。だがそれは100%ないと確信できる。根拠はいくつかあるのだが、残念ながら様々な理由でここに書くわけにはいかない。繰り返すが、この話はフィクションである。
だいすきな彼女
始めに断っておくが、この話はフィクションである。
読者諸兄においては、その旨をしっかり了解した上で、以下の物語を読み進めていただけるとありがたい。
大学3年のころ、彼女が出来た。
年の頃19の、ピッチピチの新入生である。サークルの先輩として彼女と関わっていた僕は、年上の先輩という立場を最大限に利用して、彼女を口説いた。そりゃもう懸命に口説いた。サークル内外、年上年下を問わずライバルは多かったが、問答無用で蹴落とした。飲み会でライバルを泥酔させて外に放り出し、彼女の隣をゲットした事も一度や二度ではない。恋は盲目。美女は男を狡猾な戦士に変えるのである。
さて、その熱意の甲斐あって、僕は彼女とめでたく交際することとなった。
自慢じゃないが可愛かった。真っ白な肌と、ちょっとハーフっぽい顔立ち。本人はちょっとぽっちゃり体型なのを気にしていたが、男からすればそれがたまらない。胸はEカップだった。
性格も最高だ。田舎から上京してきただけあって、大都市にありがちなスレた感じが一切ない。何を見せても喜び、何を言ってもコロコロと笑う。心がぴょんぴょんするとはこのことである。ちなみに処女だった。ごっつぁんです。
そんな素晴らしい彼女を、僕は当然大事にした。めっちゃ大事にした。雨の日も晴れの日も常にべったり。東に図書館に行くと言えばバイクに乗せて連れて行き、西に買い物に行きたいと言えば重い荷物を持ってやる。テスト期間になれば過去問を渡し、誕生日にはサプライズプレゼント。付き合って半年後には、当然のように同棲していた。
そんな僕の様子を見て、友人らはこう評した。
「お前、重い」と。
友人たちだけではない。付き合って半年になり、付き合い始めの高揚感が落ち着くと、彼女も流石に鬱陶しく感じ始めたのか、もっと自分の時間が欲しいとこぼし始めるようになった。いやはやまったく正論だ。何しろ学校とバイト以外のほぼ全ての時間を、僕と一緒に過ごしているのだから。
だが僕は束縛を止めなかった。
どころか、今まで以上に彼女に付きっ切りになったのである。バイトに行くと言えば不機嫌な顔をし、誰かとメールをしているようなら誰だと聞き、授業が終わったらすぐ迎えに行き、そして毎日ねちっこいセックスをした。彼女はどんどん落ち込んだ表情になり、そして友人らは僕を非難した。
「いくらなんでも束縛が酷すぎる」
「本当に彼女のことが好きなのか」
「そんなんじゃ彼女にも嫌われるぞ」
僕は矢のように浴びせられる罵倒をやり過ごしながら思っていた。全く君たちの言うとおり。束縛すれば自由が恋しくなり、顔を合わせ続ければ鬱陶しくなる。そもそも彼女は花の女子大生。引き留めれば引き留めるほど、他の男と遊びたくなるに違いない。分かっている。全部分かっているのだ。しかし、止められない。君たちには分からないだろう。僕がむしろ、この状況をたまらなく楽しんでいることを。つまり……。
僕は誰かに彼女を寝取られたかったのだ。
きっかけは、付き合って二ヶ月前後の時に起きた、とある出来事である。僕はその時にはもう彼女との初体験をすませ、互いに性行為に慣れはじめてきたところであった。
控えめな情交を済ませた僕らは、裸でベッドに横になり、どうでもいい睦言を呟きあっていた。
その時だ。夜の静寂を切り裂いて、隣室から激しい喘ぎ声が聞こえてきたのは。
僕が住んでいるのは学校から程近いアパートで、当然ながら大学生がそこらじゅうに居た。隣室に住んでいたのは猫背でヌボーッとしたおっさんみたいな工学部生である。ソイツがたまたまその日、僕と同じように女を連れ込み、僕と同じように一戦おっぱじめたというわけだ。
「あんっ、いやっ、すごい、気持ちいい! あああああ!」
僕らの控えめエッチとは正反対の、絶叫のような喘ぎ声がダイレクトに僕の部屋に流れ込む。あのヤロウ、ナマズみたいな顔をしてどこにそんな性欲とテクニックを蓄えてやがったんだ。同じ男としてなんとなく負けた気分になったのを誤魔化そうと、苦笑しながら彼女の方を向き、「すごいね」と言ってみせた僕は、見たのだ。
「え? うん……そうだね」
そうやって慌てて取り繕う一瞬前の、彼女の表情を。
そこには、恥ずかしさと、恐怖と、好奇心と、それから期待をこめたような眼差しが確かにあった。ほんわか癒し系の彼女がふと見せたメスの顔。ああ、その艶やかさと言ったら! お前今、何を想像してた? そう問い詰めたい気持ちをグッと飲み込み、僕は彼女に荒々しくキスをした。四回戦目で中折れした。
それからだ。僕が彼女が他の誰かに抱かれる妄想をするようになったのは。
空想の中の彼女は、見知らぬ誰か(隣室のナマズ男の時もあるし、サークルのイケメンの時もあった)の上で、僕の存在を忘れたかのように、激しく腰を振っている。その口からは、普段の控えめな声とは大違いの、腹の底から搾り出すような喘ぎ声が迸っていた。他人の男のモノを恥じらいもなく頬張り、舌を這わせ、激しく頭を振る彼女。男に蕩けた視線を向けながら、かぶりつくような下品なキスをする彼女……。
「気持ちいいっ」
「だめっ、もう壊れちゃう!」
「ああぁ……いい……彼氏のより、ずっといいよぉ……」
そんなセリフを彼女の声で再生しつつ、何度自らを慰めたことか。
その情欲がさらに発展し、ついには本当に彼女を誰かに寝取らせようと決心したことも、連夜の昂ぶりを思えば、別に驚くにはあたるまい。
ところで、寝取られというジャンルは、簡単なようで意外と奥深い。各人により好みは多岐に別れ、そのバリエーションはもはや無限とも言える。では僕の理想の寝取られ展開はどのようなものかというと、こんな感じである。
①ラブラブの彼氏がいること。
②だが、その彼氏に、ちょっとした不満があること。
③その間隙を埋めてくれる見知らぬ男に、たまたま(←ここ大事)出会うこと。
④彼氏への思いを抱えつつ(←超大事)流されて体を許してしまうこと。
⑤相手のセックスが滅茶苦茶うまく(←死ぬほど大事)、快楽に溺れてしまうこと。
つまり一文で説明すると、「彼氏一筋のウブで純粋な子が、ひょんなことから別の男に未知の快楽を教え込まれてしまい、彼氏への思いを抱えつつも抵抗できずに溺れてしまう」というのが僕の中でドンピシャのゴールデンパターンなのである。
というわけで僕は、ウブで純粋でラブラブだった彼女に、浮気をさせようと考えたのだった。だが、知り合いと浮気されるのはあまり好ましくない。それだと何故だかあんまり興奮しないのである。だがこの点は、彼女がバイトをしているということが解決してくれた。バイト先のチャラい先輩と……なんて、よくあるシチュじゃないか。しめしめ。
後は僕が束縛のキツい彼氏を演じ、嫌気がさした彼女がフラフラと浮気をしてしまうのを待てばよい。我ながら完璧な作戦だ。
見落とした穴が二つあった。
一つ。彼女の身持ちが意外と固く、浮気をしなかったこと。
一つ。彼女のヘイトが溜まりすぎて、別れを切り出されたこと。
「あたし、恋愛以外にも、もっと色々なことしたいの」
「マジで? じゃあ最後におっぱい揉ませてよ」
グーパンによる流血を最後に、僕と彼女の関係は終わった。
その後のサークルでの立場、及び残りの大学生活がどうなったかは、言うまでもあるまい。もとより覚悟の上である。
繰り返していうがこれはフィクションである。真に受けぬように。
そんなこんなで寝取られ性癖をこじらせた僕は、その後まったくモテず(誰が何と言おうと性癖をこじらせたせいだ、間違いなく)、再び寝取られる機会を得られぬまま、アタッカーズの人妻寝取られモノや、桃太郎企画あたりの寝取りナンパもののAVを見ては、自慰を繰り返す毎日を送っている。
だが心配御無用。僕は案外、今の生活に満足しているのだ。
世の中の女性全員が、誰かに寝取られたと思えばいいのだから。
※読者諸兄においては、当然、「それ彼女、別れる前に実は浮気してたんじゃね?」という疑念が湧くことであろう。だがそれは100%ないと確信できる。根拠はいくつかあるのだが、残念ながら様々な理由でここに書くわけにはいかない。繰り返すが、この話はフィクションである。
読者諸兄においては、その旨をしっかり了解した上で、以下の物語を読み進めていただけるとありがたい。
大学3年のころ、彼女が出来た。
年の頃19の、ピッチピチの新入生である。サークルの先輩として彼女と関わっていた僕は、年上の先輩という立場を最大限に利用して、彼女を口説いた。そりゃもう懸命に口説いた。サークル内外、年上年下を問わずライバルは多かったが、問答無用で蹴落とした。飲み会でライバルを泥酔させて外に放り出し、彼女の隣をゲットした事も一度や二度ではない。恋は盲目。美女は男を狡猾な戦士に変えるのである。
さて、その熱意の甲斐あって、僕は彼女とめでたく交際することとなった。
自慢じゃないが可愛かった。真っ白な肌と、ちょっとハーフっぽい顔立ち。本人はちょっとぽっちゃり体型なのを気にしていたが、男からすればそれがたまらない。胸はEカップだった。
性格も最高だ。田舎から上京してきただけあって、大都市にありがちなスレた感じが一切ない。何を見せても喜び、何を言ってもコロコロと笑う。心がぴょんぴょんするとはこのことである。ちなみに処女だった。ごっつぁんです。
そんな素晴らしい彼女を、僕は当然大事にした。めっちゃ大事にした。雨の日も晴れの日も常にべったり。東に図書館に行くと言えばバイクに乗せて連れて行き、西に買い物に行きたいと言えば重い荷物を持ってやる。テスト期間になれば過去問を渡し、誕生日にはサプライズプレゼント。付き合って半年後には、当然のように同棲していた。
そんな僕の様子を見て、友人らはこう評した。
「お前、重い」と。
友人たちだけではない。付き合って半年になり、付き合い始めの高揚感が落ち着くと、彼女も流石に鬱陶しく感じ始めたのか、もっと自分の時間が欲しいとこぼし始めるようになった。いやはやまったく正論だ。何しろ学校とバイト以外のほぼ全ての時間を、僕と一緒に過ごしているのだから。
だが僕は束縛を止めなかった。
どころか、今まで以上に彼女に付きっ切りになったのである。バイトに行くと言えば不機嫌な顔をし、誰かとメールをしているようなら誰だと聞き、授業が終わったらすぐ迎えに行き、そして毎日ねちっこいセックスをした。彼女はどんどん落ち込んだ表情になり、そして友人らは僕を非難した。
「いくらなんでも束縛が酷すぎる」
「本当に彼女のことが好きなのか」
「そんなんじゃ彼女にも嫌われるぞ」
僕は矢のように浴びせられる罵倒をやり過ごしながら思っていた。全く君たちの言うとおり。束縛すれば自由が恋しくなり、顔を合わせ続ければ鬱陶しくなる。そもそも彼女は花の女子大生。引き留めれば引き留めるほど、他の男と遊びたくなるに違いない。分かっている。全部分かっているのだ。しかし、止められない。君たちには分からないだろう。僕がむしろ、この状況をたまらなく楽しんでいることを。つまり……。
僕は誰かに彼女を寝取られたかったのだ。
きっかけは、付き合って二ヶ月前後の時に起きた、とある出来事である。僕はその時にはもう彼女との初体験をすませ、互いに性行為に慣れはじめてきたところであった。
控えめな情交を済ませた僕らは、裸でベッドに横になり、どうでもいい睦言を呟きあっていた。
その時だ。夜の静寂を切り裂いて、隣室から激しい喘ぎ声が聞こえてきたのは。
僕が住んでいるのは学校から程近いアパートで、当然ながら大学生がそこらじゅうに居た。隣室に住んでいたのは猫背でヌボーッとしたおっさんみたいな工学部生である。ソイツがたまたまその日、僕と同じように女を連れ込み、僕と同じように一戦おっぱじめたというわけだ。
「あんっ、いやっ、すごい、気持ちいい! あああああ!」
僕らの控えめエッチとは正反対の、絶叫のような喘ぎ声がダイレクトに僕の部屋に流れ込む。あのヤロウ、ナマズみたいな顔をしてどこにそんな性欲とテクニックを蓄えてやがったんだ。同じ男としてなんとなく負けた気分になったのを誤魔化そうと、苦笑しながら彼女の方を向き、「すごいね」と言ってみせた僕は、見たのだ。
「え? うん……そうだね」
そうやって慌てて取り繕う一瞬前の、彼女の表情を。
そこには、恥ずかしさと、恐怖と、好奇心と、それから期待をこめたような眼差しが確かにあった。ほんわか癒し系の彼女がふと見せたメスの顔。ああ、その艶やかさと言ったら! お前今、何を想像してた? そう問い詰めたい気持ちをグッと飲み込み、僕は彼女に荒々しくキスをした。四回戦目で中折れした。
それからだ。僕が彼女が他の誰かに抱かれる妄想をするようになったのは。
空想の中の彼女は、見知らぬ誰か(隣室のナマズ男の時もあるし、サークルのイケメンの時もあった)の上で、僕の存在を忘れたかのように、激しく腰を振っている。その口からは、普段の控えめな声とは大違いの、腹の底から搾り出すような喘ぎ声が迸っていた。他人の男のモノを恥じらいもなく頬張り、舌を這わせ、激しく頭を振る彼女。男に蕩けた視線を向けながら、かぶりつくような下品なキスをする彼女……。
「気持ちいいっ」
「だめっ、もう壊れちゃう!」
「ああぁ……いい……彼氏のより、ずっといいよぉ……」
そんなセリフを彼女の声で再生しつつ、何度自らを慰めたことか。
その情欲がさらに発展し、ついには本当に彼女を誰かに寝取らせようと決心したことも、連夜の昂ぶりを思えば、別に驚くにはあたるまい。
ところで、寝取られというジャンルは、簡単なようで意外と奥深い。各人により好みは多岐に別れ、そのバリエーションはもはや無限とも言える。では僕の理想の寝取られ展開はどのようなものかというと、こんな感じである。
①ラブラブの彼氏がいること。
②だが、その彼氏に、ちょっとした不満があること。
③その間隙を埋めてくれる見知らぬ男に、たまたま(←ここ大事)出会うこと。
④彼氏への思いを抱えつつ(←超大事)流されて体を許してしまうこと。
⑤相手のセックスが滅茶苦茶うまく(←死ぬほど大事)、快楽に溺れてしまうこと。
つまり一文で説明すると、「彼氏一筋のウブで純粋な子が、ひょんなことから別の男に未知の快楽を教え込まれてしまい、彼氏への思いを抱えつつも抵抗できずに溺れてしまう」というのが僕の中でドンピシャのゴールデンパターンなのである。
というわけで僕は、ウブで純粋でラブラブだった彼女に、浮気をさせようと考えたのだった。だが、知り合いと浮気されるのはあまり好ましくない。それだと何故だかあんまり興奮しないのである。だがこの点は、彼女がバイトをしているということが解決してくれた。バイト先のチャラい先輩と……なんて、よくあるシチュじゃないか。しめしめ。
後は僕が束縛のキツい彼氏を演じ、嫌気がさした彼女がフラフラと浮気をしてしまうのを待てばよい。我ながら完璧な作戦だ。
見落とした穴が二つあった。
一つ。彼女の身持ちが意外と固く、浮気をしなかったこと。
一つ。彼女のヘイトが溜まりすぎて、別れを切り出されたこと。
「あたし、恋愛以外にも、もっと色々なことしたいの」
「マジで? じゃあ最後におっぱい揉ませてよ」
グーパンによる流血を最後に、僕と彼女の関係は終わった。
その後のサークルでの立場、及び残りの大学生活がどうなったかは、言うまでもあるまい。もとより覚悟の上である。
繰り返していうがこれはフィクションである。真に受けぬように。
そんなこんなで寝取られ性癖をこじらせた僕は、その後まったくモテず(誰が何と言おうと性癖をこじらせたせいだ、間違いなく)、再び寝取られる機会を得られぬまま、アタッカーズの人妻寝取られモノや、桃太郎企画あたりの寝取りナンパもののAVを見ては、自慰を繰り返す毎日を送っている。
だが心配御無用。僕は案外、今の生活に満足しているのだ。
世の中の女性全員が、誰かに寝取られたと思えばいいのだから。
※読者諸兄においては、当然、「それ彼女、別れる前に実は浮気してたんじゃね?」という疑念が湧くことであろう。だがそれは100%ないと確信できる。根拠はいくつかあるのだが、残念ながら様々な理由でここに書くわけにはいかない。繰り返すが、この話はフィクションである。