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あとがき(つばき)

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 書き出した始めは、「恋愛に向かう話」を書いているのだと思っていました。でも途中で、これは「失恋するための物語」なのだと気がつきました。失うことはとても難しくて、ずっと、書きながら模索していました。

 致命的なものになんて出会わなくていいのではないかと、時々思います。
 でもそれは時に予期せぬかたちでやってくる。望んでいるかどうかなんて関係なく。
 他の何かでは代替不可能な、目が眩むような一回性の記憶は、心に深い痕を残していきます。それを埋めることは多分ずっと適わない。喪失は、どれだけその生々しさが薄れたとしても、いつまでも喪失のままだから。
 そして心の力で、人は忘却という正常な代謝さえ止めることが出来るのです。

 そういうものごとを書いてみたいと思いました。
 私が知覚してきた中で一番純粋なものを、さらに言えば純粋だからこそ歪んだものを、出来うる限り抽出してみたかった。結果、やたらと綺麗な様子の話になってしまったけど、十五歳のことくらいは存分に綺麗に書いたっていいんじゃないかな、と。一人で書いていたらきっとこんな風には書かなかったでしょう。共同作業というのはとても不思議です。

 椎森沙紀というキャラクターは結構長いこと固まらず、それで相方さんには随分迷惑をかけました。「書いてみないとわかんない」とか困ったことを言う私に、話し合いの中で、また相手方の話の中で動き、語る「椎森さん」を通して、たくさんのインスピレーションをくれたことが、非常に助けになりました。
 でも書き終わってみた今では、それは椎森さんという人の一面なんじゃないかという気もしています。言い訳でしょうか。すぐに自分を見失ってしまう、そして何かを失うことがとても下手な女の子。雨降りにさえ傷つけられてしまうような弱い輪郭。
 物語を作ることは、「浅野君の視線」を通して私たち自身が椎森さんを発見していく作業でもあったのかもしれません。そこでどんな発見があるのか、一話ごとに相手の話を楽しみに待っていました。たぶんお互いに。


 合作のお話を頂いて話を練り始めたのは、一年前のことでした。
 一年というのは本当に長い時間です。書いている間に私も随分変わりました。ごく個人的で内面的なものだけれど、劇的な変化があったといってもいいくらいです。そういう不安定な日々の中で、一生懸命書けるものがあるということは、ひとつの確かな拠り所になってくれました。
 未熟なところがたくさんある作品だと思います。不完全燃焼のマテリアルもちらほら。それはわかっています。でも、それでもやっぱり、これを書くことを経ていない自分がいたかもしれない、と考えると怖くなるのです。
 徹底的に自信がなく、すぐくよくよして、遅筆で、かと思うと頑固でやかましくて、随分扱いづらい合作相手だったと思うのだけど、「娼婦をモチーフに書きたい」と言い出す私にも怯まず、「大丈夫、絶対に書けますよ!」と一貫して明るく励ましてくれた相方さんには感謝しています。もう天使にしか見えません。どうか二十歳という一回性を余すところなく享受されますように。まぁいくつになったって全部は一回限りなのだけど。
 
 誰かと物語を共有するというのは、やっぱりどう考えたって、稀有な経験です。
 どのくらいの方がどんな風に共有してくださったのか、その数も深度も計ることは出来ないけれど、それはそれとして、またもっといいものが書けたらいいなと今は思っています。


 つばき

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