04.初心者の塔
******************************************
* *
* ここは『初心者の塔』 *
* *
* *
* *
* 武器や防具の装備 *
* *
* トラップの種類や発見・回避の仕方 *
* *
* モンスターとの戦い方 *
* *
* *
* *
* 生きる術が、ここにある *
* *
******************************************
* *
* ここは『初心者の塔』 *
* *
* *
* *
* 武器や防具の装備 *
* *
* トラップの種類や発見・回避の仕方 *
* *
* モンスターとの戦い方 *
* *
* *
* *
* 生きる術が、ここにある *
* *
******************************************
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* *
* 初心者の塔 3F *
* *
******************************************
「ん、んんっ」
立川はるかの意識が戻った。まどろんだ意識で目を開けると、そこには青色の空が一面。大きな白い雲はゆっくりと流れ、そよそよと頬を撫でる風が心地良かった。
目を閉じるとそのまま眠ってしまいそう。でもそれはいけない、身体を起こし五体を確認する。頭、首、胸、手、脚。傷もなければ痛みもない。精神状態も良好、モンスターの姿や気配もない。ひとまず安心してもいいだろう。
ぐるりと周囲を見渡す。真っ白のタイルが敷き詰めれた床と、取り囲むようにそびえる壁、壁、壁、壁の四方。
ここがどこなのか、なぜここにいるのか。彼女は何一つ覚えていなかった。
******************************************
* *
* お目覚めかな? 可愛いお嬢さん *
* *
******************************************
彼女の耳元で誰かがつぶやいた(“神の声”と思うことにした)。
******************************************
* *
* ようこそ! ここは『初心者の塔』! *
* *
* 全3Fで造られたこの塔は、基本的な操作方法を学んでもらうぞ! *
* *
* まずは目の前の宝箱を開けてみよう! *
* *
******************************************
「……これのこと?」
頭元には宝箱が3つあった。神の声は答えてくれなかったが間違いはないだろう。
とりあえず、右の宝箱を開けた。
【ショートソードを手に入れた!】
鞘に入った小ぶりの剣。片手でも振れるだろう重量感。柄には布が巻かれていて握り心地も非常に良い。
するりと鞘から抜く。太陽の光が反射し鈍く輝く刃。まだ血を知らないのか、刃こぼれや錆は見られない。
******************************************
* *
* 装備品は、身につけないと意味がないぞ! *
* *
******************************************
「……そりゃそうだろうよ」
当たり前なことを言う神の声を、彼女は小さく鼻で笑う。手に入れたばかりのショートソードを腰につけた。
【ステゴロ ―> ショートソード】
そのまま、彼女は真ん中の宝箱を開けた。
【レザーアーマーを手に入れた!】
革の独特の臭さに顔をしかめてしまったが、機動性を重視しつつも急所を守ってくれる造り。加えてなかなかの硬さがある。女性の身には十分すぎる防具だろう。
******************************************
* *
* 装備品は、身につけないと意味がないぞ!? *
* *
******************************************
「さっき聞いたし!」
過剰な親切の神の声を無視し、彼女はさっさとそれを着込んだ。
【布の服 ―> レザーアーマー】
次はなんだろう。意気揚々と最後の宝箱を開ける。
【宝箱はからっぽだった】
******************************************
* *
* 宝箱はいいことばかりではないぞ! *
* *
* からっぽだったり、ひょっとしたらトラップが仕掛けられているかもしれない! *
* *
******************************************
「ぐぬぬ……」
しかし武器と防具を手に入れたことには変わりない。試しに振ってみて、その心地を確かめる。
ぶん、ブンっ。
職業柄か、ショートソードは実に手に馴染んだ。振り下ろし、斬り上げる。短いリーチを活かし、振った途中で軌道を変えてみたり、大振りでふところががら空きになったところを鞘を使って防御したり。
何よりレザーアーマーが良かった。軽くて動きを邪魔しない造りが最大限までアクションを可能にしてくれた。
******************************************
* *
* 戦士は剣のエキスパートだ! *
* *
* 魔法は使えないが、全ステータスは平均以上だぞ! *
* *
* 女性だから重量のある武器は使えないが、その分スピードがある *
* *
* そのショートソードやダガーなど、軽量の武器がおすすめだ! *
* *
******************************************
「なんかわからないけど、とにかく強いってことね」
ショートソードを振っていると、次第にモンスターを斬りたくなってきた。
遭遇しないに越したことはない。が、武器が手に入ったら使いたくなるのが戦士の性。抜身の刃を見ているだけで、鼓動が、吐息が、荒くなる。赤く染まる頬や潤みのある瞳が刀身に映される。
******************************************
* *
* お楽しみ中ですか? *
* *
******************************************
「そ、そんなことない!」
正気に戻り、空の宝箱を蹴飛ばして誤魔化す。もちろんこれで誤魔化せたとは思っていない。
それはそれとして、貰えるものも貰ったところで彼女の目が『そこ』に向く。
トビラ。頑丈そうな鉄のトビラがフロアの端にあった。
******************************************
* *
* あそこから2Fに行けるぞ! *
* *
* カギがかかっていることもあるが、カギはフロアを探せば必ず見つかるぞ! *
* *
******************************************
「はいはい。了解っすー」
何となくわかっていたことなので、立川はるかはさっさとトビラに向かった。片手で押すとそれは意外にも軽く、そして音もなく開かれた。
彼女に不安はなかった。とにかく、モンスターを斬りたい、刺したい、殺したい。そんな殺戮欲求がぐるぐると渦巻いていた。
* *
* 初心者の塔 3F *
* *
******************************************
「ん、んんっ」
立川はるかの意識が戻った。まどろんだ意識で目を開けると、そこには青色の空が一面。大きな白い雲はゆっくりと流れ、そよそよと頬を撫でる風が心地良かった。
目を閉じるとそのまま眠ってしまいそう。でもそれはいけない、身体を起こし五体を確認する。頭、首、胸、手、脚。傷もなければ痛みもない。精神状態も良好、モンスターの姿や気配もない。ひとまず安心してもいいだろう。
ぐるりと周囲を見渡す。真っ白のタイルが敷き詰めれた床と、取り囲むようにそびえる壁、壁、壁、壁の四方。
ここがどこなのか、なぜここにいるのか。彼女は何一つ覚えていなかった。
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* *
* お目覚めかな? 可愛いお嬢さん *
* *
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彼女の耳元で誰かがつぶやいた(“神の声”と思うことにした)。
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* *
* ようこそ! ここは『初心者の塔』! *
* *
* 全3Fで造られたこの塔は、基本的な操作方法を学んでもらうぞ! *
* *
* まずは目の前の宝箱を開けてみよう! *
* *
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「……これのこと?」
頭元には宝箱が3つあった。神の声は答えてくれなかったが間違いはないだろう。
とりあえず、右の宝箱を開けた。
【ショートソードを手に入れた!】
鞘に入った小ぶりの剣。片手でも振れるだろう重量感。柄には布が巻かれていて握り心地も非常に良い。
するりと鞘から抜く。太陽の光が反射し鈍く輝く刃。まだ血を知らないのか、刃こぼれや錆は見られない。
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* *
* 装備品は、身につけないと意味がないぞ! *
* *
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「……そりゃそうだろうよ」
当たり前なことを言う神の声を、彼女は小さく鼻で笑う。手に入れたばかりのショートソードを腰につけた。
【ステゴロ ―> ショートソード】
そのまま、彼女は真ん中の宝箱を開けた。
【レザーアーマーを手に入れた!】
革の独特の臭さに顔をしかめてしまったが、機動性を重視しつつも急所を守ってくれる造り。加えてなかなかの硬さがある。女性の身には十分すぎる防具だろう。
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* *
* 装備品は、身につけないと意味がないぞ!? *
* *
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「さっき聞いたし!」
過剰な親切の神の声を無視し、彼女はさっさとそれを着込んだ。
【布の服 ―> レザーアーマー】
次はなんだろう。意気揚々と最後の宝箱を開ける。
【宝箱はからっぽだった】
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* *
* 宝箱はいいことばかりではないぞ! *
* *
* からっぽだったり、ひょっとしたらトラップが仕掛けられているかもしれない! *
* *
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「ぐぬぬ……」
しかし武器と防具を手に入れたことには変わりない。試しに振ってみて、その心地を確かめる。
ぶん、ブンっ。
職業柄か、ショートソードは実に手に馴染んだ。振り下ろし、斬り上げる。短いリーチを活かし、振った途中で軌道を変えてみたり、大振りでふところががら空きになったところを鞘を使って防御したり。
何よりレザーアーマーが良かった。軽くて動きを邪魔しない造りが最大限までアクションを可能にしてくれた。
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* *
* 戦士は剣のエキスパートだ! *
* *
* 魔法は使えないが、全ステータスは平均以上だぞ! *
* *
* 女性だから重量のある武器は使えないが、その分スピードがある *
* *
* そのショートソードやダガーなど、軽量の武器がおすすめだ! *
* *
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「なんかわからないけど、とにかく強いってことね」
ショートソードを振っていると、次第にモンスターを斬りたくなってきた。
遭遇しないに越したことはない。が、武器が手に入ったら使いたくなるのが戦士の性。抜身の刃を見ているだけで、鼓動が、吐息が、荒くなる。赤く染まる頬や潤みのある瞳が刀身に映される。
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* *
* お楽しみ中ですか? *
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「そ、そんなことない!」
正気に戻り、空の宝箱を蹴飛ばして誤魔化す。もちろんこれで誤魔化せたとは思っていない。
それはそれとして、貰えるものも貰ったところで彼女の目が『そこ』に向く。
トビラ。頑丈そうな鉄のトビラがフロアの端にあった。
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* *
* あそこから2Fに行けるぞ! *
* *
* カギがかかっていることもあるが、カギはフロアを探せば必ず見つかるぞ! *
* *
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「はいはい。了解っすー」
何となくわかっていたことなので、立川はるかはさっさとトビラに向かった。片手で押すとそれは意外にも軽く、そして音もなく開かれた。
彼女に不安はなかった。とにかく、モンスターを斬りたい、刺したい、殺したい。そんな殺戮欲求がぐるぐると渦巻いていた。
******************************************
* *
* 初心者の塔 2F *
* *
******************************************
2Fは縦に長いフロアだった。あいかわらず白いタイルが敷き詰められていて清潔感こそあったが、その無機質に細く伸びる様は少し不気味で遠近感が狂ってしまいそうだった(そもそも3Fと2Fの構造は物理的にありえないぐらい違ったが、彼女はそこに疑問を感じない。世の道理である)。
少し先に1Fに続くだろうトビラがあった。それ以外は、何もない。宝箱もなければモンスターもいない。
ああ、モンスターを斬って突いて裂いて抉って殴り飛ばして踏みつけて踏み続けて踏みにじって潰して殺してやりたい。
なんてことを考え、立川はるかは不気味さを振り払う。
******************************************
* *
* このフロアではトラップについて説明しよう! *
* *
* まずは1歩、踏み出してみよう! *
* *
******************************************
「……びっくりした」
急に叫ぶ神の声に驚きつつも、その内容はしっかりと聞いた。
トラップ。つまりモンスター以外の驚異、死の危険。
モンスターを虐殺する上で障害となるに違いない。楽しく駆逐しているときに茶々を入れられるのは興が削がれる。しっかり覚える必要があるだろう。
言われるがままに1歩、前に出る。
ゴッ
「いっ! ……たぁ」
頭上から落ちてきたレンガが脳天を直撃。痛み以上に驚きが大きく、立川はるかはしゃがみ込んだ。
当たりどころが悪かったのか、ぶつけたところから滲み出た血の筋が顔を伝い、床に落ちた。真っ白なタイルに真っ赤な点が1つ2つと増えていく。
手の甲で拭い、ペロリと舐める。不味い鉄の味。しかしこの程度で済んだのは運が良いと、彼女は前向きに考えた。死ぬことはないにしても、脳震盪を起こしていたかもしれない。そう考えると軽傷だ。
******************************************
* *
* これは設置型トラップ *
* *
* ダメージの大きいトラップが多いが、じっくり観察すれば発見できるぞ *
* *
* たとえばこのトラップなら、床にひび割れているぞ *
* *
******************************************
「…………」
身体で覚えろ的な教え方に文句の1つでも言ってやりたかったが、そこにいない相手に文句を言ってもむなしいだけ。じっと我慢し、次の神の声を待った。
『これは』設置型トラップ。つまり、他にもトラップの種類はあるはずだ。
******************************************
* *
* 次は3歩、前に出てみよう *
* *
******************************************
と言われても素直に進まない。進みたくなかった。
まずは、観察。
床。特に変化はない。
頭上。いたって普通の壁。
すぐ横の壁。
あった。
左側は単なる壁。異常はない。
しかし右側。小さな穴があった。2歩前に出たあたりの、横の延長線。
なにかが、ある。
ショートソードを抜き、何が起きても対処できるよう、構える。
1歩。
2歩……踏み出す寸前で、止まる。
嫌な予感がした。
何かこう、生命の危機的な、本能の危険察知的な。
ショートソードを振ってみた。
ヒュンッ!
小さな穴から何かが飛び出し、空気が擦れる音がして、壁に突き刺さった。
金属の矢、だった。
******************************************
* *
* すばらしい! よく気がついた! *
* *
* それは感知型トラップ。 *
* *
* 設置型トラップと違い、ポイントではなくエリアで作動するため避けにくい *
* *
* 比較的ダメージが少ないものが多いので、無視してもいいだろう *
* *
******************************************
どう見ても、先ほどのレンガよりもダメージが大きそうな気がした。軌道を見るに当たっていたとすれば肩。だが、もし頭に当たっていたら即死だったかもしれない。
矢が貫通した鳥のことを思い出し、ぶるりと身体が震えた。恐怖が押し寄せる。
そんな彼女に、神の声は無慈悲なトラップを教えた。
******************************************
* *
* 最後はこれだ。即死型トラップ! *
* *
******************************************
その神の声が合図だったのか、その即死型トラップとやらは作動した。
ドンッ!
一定のリズムで両側面の壁から1本ずつ。
ドンッ!
手前は右から、奥は左から。
ドンッ!
合計2本の丸太が向かい側の壁に打ちつける。
ドンッ!
その勢いは凄まじく、衝突音はびりびりと空気を震わせ、鼓膜さえもぶるぶると震わせた。
******************************************
* *
* このタイプのトラップは凶悪だ *
* *
* 引っかかればもれなく即死。間違いなく即死 *
* *
* しかし、即死型トラップは必ず見えるようになっている *
* *
* 例えばこれなら、タイミング良く避ければ問題ないぞ! *
* *
******************************************
明らかな殺意を目の当たりにし、立川はるかは動けなくなってしまった。手に持ったショートソードを落としてしまった。脚ががくがくと震え、奥歯はかちかちを鳴り、視界は涙でうっすらとぼやけていた。
『引っかかればもれなく即死。間違いなく即死』
命の終わりがそこにあった。
そんな心の折れかかった状態で、立川はるかはかろうじて前向きに考えることができた。たしかにタイミングさえ間違えなければ良い。たった2回、いっせーのーでっと入り、出るだけで良い。
ショートソードを拾い、ぺちんと震える脚を叩く。涙を拭い、ぎりりと歯を食いしばる。
「大丈夫、大丈夫。私はできる、行ける、クリアできる丸太ぐらい通れるし大丈夫。下にはモンスターがいてそいつらは私に殺されるためにいて私はそいつら殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して」
すがるような祈り。そして欲求。乱れ切った呼吸の中で、小声で、それでもしっかりとつぶやき続ける。
丸太をじっと見る。
タイミングを、リズムを頭の中で刻む。
1、2。
1、2。
「……っ!」
まずは1本、通った。
丸太と丸太の間、風がビュンビュンと鳴っている。
恐怖が蘇る。しかし、恐怖に震えるのも、腰を抜かすのも、歓喜な涙するのも次の丸太を通ってからでいい。
通る。
まずは、丸太を通る。
1、2。
1、2。
「……っ!」
タイミングは完璧だった。
ピキッ
足元で、何かが作動した。
「えっ――」
動けなかった。恐怖による硬直のような精神的なものではなく、物理的に、身体が動かなくなっていた。
そこは丸太の軌道上。
悲惨な現実が訪れる。
グュッ
「ぶっ」
左腕、左肋骨、そこらを覆う筋肉や伝う神経。すべてが破壊、粉砕、断裂し、立川はるかは壁に叩きつけられた。その衝撃が深刻なダメージとなり、全身を駆け巡った。
意識はあった。けれど左半身は機能せず、右半身は壁に打ちつけられ麻痺していて、内臓を痛めたのか喉奥からは大量の何か(血なのか吐瀉物なのか、彼女にはわからない)がこみ上げてきている。そんな中、辛うじて意識を保っていた。
しかし動くことはできなかった。頭部にも衝撃があったのか、視界がぐらんぐらんと揺れていた。膝をついていられるのがほとんど奇跡だった。
立川はるかの状態がどうであれ、トラップはまだ作動している。
ごっ
丸太は立川はるかの頭部を破壊した。壁と丸太の間には大量の血と脳漿がぶちまけられ、首から下の立川はるかは床に崩れ落ちた。
******************************************
* *
* トラップは1種類だけとは限らないぞ *
* *
* ちなみにそれは一定時間拘束する設置型トラップだ *
* *
* さあ、入り口からやりなおしだ! *
* *
******************************************
【ゲームオーバー】
* *
* 初心者の塔 2F *
* *
******************************************
2Fは縦に長いフロアだった。あいかわらず白いタイルが敷き詰められていて清潔感こそあったが、その無機質に細く伸びる様は少し不気味で遠近感が狂ってしまいそうだった(そもそも3Fと2Fの構造は物理的にありえないぐらい違ったが、彼女はそこに疑問を感じない。世の道理である)。
少し先に1Fに続くだろうトビラがあった。それ以外は、何もない。宝箱もなければモンスターもいない。
ああ、モンスターを斬って突いて裂いて抉って殴り飛ばして踏みつけて踏み続けて踏みにじって潰して殺してやりたい。
なんてことを考え、立川はるかは不気味さを振り払う。
******************************************
* *
* このフロアではトラップについて説明しよう! *
* *
* まずは1歩、踏み出してみよう! *
* *
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「……びっくりした」
急に叫ぶ神の声に驚きつつも、その内容はしっかりと聞いた。
トラップ。つまりモンスター以外の驚異、死の危険。
モンスターを虐殺する上で障害となるに違いない。楽しく駆逐しているときに茶々を入れられるのは興が削がれる。しっかり覚える必要があるだろう。
言われるがままに1歩、前に出る。
ゴッ
「いっ! ……たぁ」
頭上から落ちてきたレンガが脳天を直撃。痛み以上に驚きが大きく、立川はるかはしゃがみ込んだ。
当たりどころが悪かったのか、ぶつけたところから滲み出た血の筋が顔を伝い、床に落ちた。真っ白なタイルに真っ赤な点が1つ2つと増えていく。
手の甲で拭い、ペロリと舐める。不味い鉄の味。しかしこの程度で済んだのは運が良いと、彼女は前向きに考えた。死ぬことはないにしても、脳震盪を起こしていたかもしれない。そう考えると軽傷だ。
******************************************
* *
* これは設置型トラップ *
* *
* ダメージの大きいトラップが多いが、じっくり観察すれば発見できるぞ *
* *
* たとえばこのトラップなら、床にひび割れているぞ *
* *
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「…………」
身体で覚えろ的な教え方に文句の1つでも言ってやりたかったが、そこにいない相手に文句を言ってもむなしいだけ。じっと我慢し、次の神の声を待った。
『これは』設置型トラップ。つまり、他にもトラップの種類はあるはずだ。
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* *
* 次は3歩、前に出てみよう *
* *
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と言われても素直に進まない。進みたくなかった。
まずは、観察。
床。特に変化はない。
頭上。いたって普通の壁。
すぐ横の壁。
あった。
左側は単なる壁。異常はない。
しかし右側。小さな穴があった。2歩前に出たあたりの、横の延長線。
なにかが、ある。
ショートソードを抜き、何が起きても対処できるよう、構える。
1歩。
2歩……踏み出す寸前で、止まる。
嫌な予感がした。
何かこう、生命の危機的な、本能の危険察知的な。
ショートソードを振ってみた。
ヒュンッ!
小さな穴から何かが飛び出し、空気が擦れる音がして、壁に突き刺さった。
金属の矢、だった。
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* *
* すばらしい! よく気がついた! *
* *
* それは感知型トラップ。 *
* *
* 設置型トラップと違い、ポイントではなくエリアで作動するため避けにくい *
* *
* 比較的ダメージが少ないものが多いので、無視してもいいだろう *
* *
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どう見ても、先ほどのレンガよりもダメージが大きそうな気がした。軌道を見るに当たっていたとすれば肩。だが、もし頭に当たっていたら即死だったかもしれない。
矢が貫通した鳥のことを思い出し、ぶるりと身体が震えた。恐怖が押し寄せる。
そんな彼女に、神の声は無慈悲なトラップを教えた。
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* *
* 最後はこれだ。即死型トラップ! *
* *
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その神の声が合図だったのか、その即死型トラップとやらは作動した。
ドンッ!
一定のリズムで両側面の壁から1本ずつ。
ドンッ!
手前は右から、奥は左から。
ドンッ!
合計2本の丸太が向かい側の壁に打ちつける。
ドンッ!
その勢いは凄まじく、衝突音はびりびりと空気を震わせ、鼓膜さえもぶるぶると震わせた。
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* *
* このタイプのトラップは凶悪だ *
* *
* 引っかかればもれなく即死。間違いなく即死 *
* *
* しかし、即死型トラップは必ず見えるようになっている *
* *
* 例えばこれなら、タイミング良く避ければ問題ないぞ! *
* *
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明らかな殺意を目の当たりにし、立川はるかは動けなくなってしまった。手に持ったショートソードを落としてしまった。脚ががくがくと震え、奥歯はかちかちを鳴り、視界は涙でうっすらとぼやけていた。
『引っかかればもれなく即死。間違いなく即死』
命の終わりがそこにあった。
そんな心の折れかかった状態で、立川はるかはかろうじて前向きに考えることができた。たしかにタイミングさえ間違えなければ良い。たった2回、いっせーのーでっと入り、出るだけで良い。
ショートソードを拾い、ぺちんと震える脚を叩く。涙を拭い、ぎりりと歯を食いしばる。
「大丈夫、大丈夫。私はできる、行ける、クリアできる丸太ぐらい通れるし大丈夫。下にはモンスターがいてそいつらは私に殺されるためにいて私はそいつら殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して」
すがるような祈り。そして欲求。乱れ切った呼吸の中で、小声で、それでもしっかりとつぶやき続ける。
丸太をじっと見る。
タイミングを、リズムを頭の中で刻む。
1、2。
1、2。
「……っ!」
まずは1本、通った。
丸太と丸太の間、風がビュンビュンと鳴っている。
恐怖が蘇る。しかし、恐怖に震えるのも、腰を抜かすのも、歓喜な涙するのも次の丸太を通ってからでいい。
通る。
まずは、丸太を通る。
1、2。
1、2。
「……っ!」
タイミングは完璧だった。
ピキッ
足元で、何かが作動した。
「えっ――」
動けなかった。恐怖による硬直のような精神的なものではなく、物理的に、身体が動かなくなっていた。
そこは丸太の軌道上。
悲惨な現実が訪れる。
グュッ
「ぶっ」
左腕、左肋骨、そこらを覆う筋肉や伝う神経。すべてが破壊、粉砕、断裂し、立川はるかは壁に叩きつけられた。その衝撃が深刻なダメージとなり、全身を駆け巡った。
意識はあった。けれど左半身は機能せず、右半身は壁に打ちつけられ麻痺していて、内臓を痛めたのか喉奥からは大量の何か(血なのか吐瀉物なのか、彼女にはわからない)がこみ上げてきている。そんな中、辛うじて意識を保っていた。
しかし動くことはできなかった。頭部にも衝撃があったのか、視界がぐらんぐらんと揺れていた。膝をついていられるのがほとんど奇跡だった。
立川はるかの状態がどうであれ、トラップはまだ作動している。
ごっ
丸太は立川はるかの頭部を破壊した。壁と丸太の間には大量の血と脳漿がぶちまけられ、首から下の立川はるかは床に崩れ落ちた。
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* *
* トラップは1種類だけとは限らないぞ *
* *
* ちなみにそれは一定時間拘束する設置型トラップだ *
* *
* さあ、入り口からやりなおしだ! *
* *
******************************************
【ゲームオーバー】
******************************************
* *
* 初心者の塔 2F(2回目) *
* *
******************************************
2度目の挑戦。丸太のトラップを抜け、無事にトビラの前に到着できた。
彼女は腕や頭を撫でた。頭の怪我はもちろん、即死型トラップの致命傷すらなくなっていた。
「…………」
先ほどの死亡時の記憶は鮮明に残っていた1撃目で火の中に突っ込んだような熱さを思わせる痛み。動かない左半身、痺れる右半身。半濁した意識の中、込み上げてくる嘔吐感。
眼前に迫る丸太。
痛みは一瞬。
気づけば2Fの入り口。
******************************************
* *
* 2Fクリアおめでとう! *
* *
* トラップはこの3つ以外にもう1つ、特殊型トラップがある *
* *
* あえてここでは説明しない。遭遇してからのお楽しみってやつだ *
* *
* さあ最後のフロア、1Fはすぐそこだ! *
* *
******************************************
『遭遇してからのお楽しみ』
その言葉が立川はるかの逆鱗に触れた。
「……楽しみやがって!」
腹いせにショートソードの柄で壁を殴った。反響と手の痺れだけが返ってきた。
* *
* 初心者の塔 2F(2回目) *
* *
******************************************
2度目の挑戦。丸太のトラップを抜け、無事にトビラの前に到着できた。
彼女は腕や頭を撫でた。頭の怪我はもちろん、即死型トラップの致命傷すらなくなっていた。
「…………」
先ほどの死亡時の記憶は鮮明に残っていた1撃目で火の中に突っ込んだような熱さを思わせる痛み。動かない左半身、痺れる右半身。半濁した意識の中、込み上げてくる嘔吐感。
眼前に迫る丸太。
痛みは一瞬。
気づけば2Fの入り口。
******************************************
* *
* 2Fクリアおめでとう! *
* *
* トラップはこの3つ以外にもう1つ、特殊型トラップがある *
* *
* あえてここでは説明しない。遭遇してからのお楽しみってやつだ *
* *
* さあ最後のフロア、1Fはすぐそこだ! *
* *
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『遭遇してからのお楽しみ』
その言葉が立川はるかの逆鱗に触れた。
「……楽しみやがって!」
腹いせにショートソードの柄で壁を殴った。反響と手の痺れだけが返ってきた。
******************************************
* *
* 初心者の塔 1F *
* *
******************************************
最後のフロア。そのことを意識するだけで、ショートソードを握る手に力が入った。
先ほどのフロア。無事に突破できたことへの達成感はなかった。そもそもそんなものは不要だった。もっとほしい感情があったからだ。
モンスターを斬りたかった。
斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って、斬りたかった。
生温い返り血を浴び、悦に浸りたかった。
殺戮欲求。戦士となった彼女に生まれた悪癖だった。
そんな彼女の願いを神が聞いていたのか、階段を降りフロアに入ると、それらがいた。
緑色の皮膚。しかし色はところどころマダラで毛はなく、つるりとしている。不潔な雰囲気があるのは、ほんのりと漂ってくる体臭と、口元からダラダラと垂れる唾液によるところだろう。
彼女の腰ぐらいの身長で、手には無骨な棍棒。腰はボロボロの布を巻いているだけ。人型の、野性味のある生き物。
そんなモンスターが3体。フロアの中心付近に、いた。
******************************************
* *
* 塔の中には様々なモンスターが住み着いている *
* *
* こいつらはゴブリン。塔内で最弱のモンスターだ *
* *
* まずはこいつで腕試しだ! *
* *
******************************************
べろり。
立川はるかはショートソードの刃を舐めた。
モンスターへの恐怖や、初めての戦闘に対する不安は微塵もなく、モンスターを殺せることへの期待、歓喜、狂気。
心臓が高鳴りすぎて苦しかった。
どくどくと身体中に血液が巡っている。
体温が上がっている。
吐息、鼻息が荒い。
口の端から唾液が垂れていた。
「うふ、あふふふふっ!」
一気に駆け出し、縦に一閃。振り下ろされたショートソードの刃は、先頭にいたゴブリンの肌をやすやすと切り裂き、その醜い容姿からは想像できない鮮血が吹き出した。
叫び声もなくゴブリンは事切れ、倒れた。流血が溜り、流れ、床を汚していく。
「はふひ、ひひひひっ」
立川はるかはショートソードについた血をべろりと舐めた。うっかり刃先に舌があたり、薄く切れてしまった。モンスターの血液と自身の血液が口内で混ざる。
こくり。飲み干すとそれは、至高にして究極の味がした。
モンスターを殺したことによる高揚で、乳首はきんきんに突起し、クリトリスは勃起し、性器から愛液が漏れ出していた。
快楽殺戮。彼女はサディズムを超越した性癖に身を委ねた。
もう1体殺せば、絶頂へ昇り詰めることができるだろうか。全員殺せば、あまりの快楽で腹上死(ではない。言ってしまうと快楽死)してしまうかもしれない。
床に溜まるモンスターの血。不衛生に違いない、それでも喉を潤したい。モンスターの皮や肉。グロテスクなものほど美味だと言われている。
唾液で口の中がいっぱいだった。
彼女は、救いようがないぐらい狂っていた。
ただ、その異常性は当然戦闘ではデメリットにしか働かない。神の声に『最弱』とアナウンスされたゴブリンも、その恍惚とした状態を見逃さなかった。
ゴッ
「うくっ」
脇腹に棍棒が打ち込まれる。鈍い痛みと共に呼吸困難に陥った。
本能に支配されていた意識を理性に引き戻す。受けた痛みはこの際無視する。まずは状況を確認する。攻撃された、しかしまだ1体、行動していないゴブリンがいる。
優先するは、撤退。逃げるためではなく、殺すために撤退。
がむしゃらにショートソードを振りながら後退。たたらを踏みながらもどうにか逃げ切れた。
痛みは我慢。自然にできる構えで、ショートソードを構え直す。
目を疑った。
2体のゴブリン。腰に巻かれていたボロボロの布切れがなかった。
人型のオスの生物なら共通するだろう急所、生殖器。それが、膨れ上がっていた。
毒々しく、ビンビンと屹立、性的興奮。距離があっても嗅ぎ取れる異臭。おそらくはオスの臭い。
どのタイミングで絶頂を迎えたのかは彼女の知るところではないが、床に白濁液が飛び散っていた。
******************************************
* *
* モンスターはそれぞれ目的を持っている *
* *
* 積極的に排除を行おうとするモンスター *
* *
* こちらには興味を示さないモンスター *
* *
* 何らかの利害が一致したのか、援護を行ってくれるモンスター *
* *
* そして、生殖の道具として利用しようとするモンスター *
* *
* どうやらゴブリンは、最後に説明したモンスターのようだ *
* *
******************************************
「ひぃっ……」
襲いかかってくるのであれば、切り伏せるだけ。
何もしてこないのであれば、こちらも無視するだけ。
危害を与えられないうちは、呉越同舟も悪くない。
しかし、目の前のゴブリンは違う。
こちらをメスと認識している。股間のそれが、そう言っている。
もし、敗北すれば。
身動きできなくなったこの身体に男根を突き込み、性欲、肉欲のままに動き、精液を吐き出す。それは性器だけでなく、口や肛門、耳や目など穴という穴が犯されてしまうに違いない。
きっと1度や2度では終わらない。それどころか、生涯生かさず殺さず飼われることだろう。生殖、繁殖。生殖、繁殖。それを繰り返すだけの道具。
異種間の繁殖意識の違いは殺戮欲求すらかき消していた。強敵と対峙しているわけでもない、明らかに格下のモンスター、そんな相手に彼女は震えていた。
動けなくなった立川はるかを見て好機と感じたのか、ゴブリンはじりじりと近づく。股間のソレはびきびきと硬みを帯び、脈打っている。
立川はるかはじりじりと後退する。見たくないはずなのに、オスの性器から目が離れない。
それがどれぐらい続いたのか。立川はるかが壁に追い詰められるまで、続いた。
どんっ。背中に壁が当たった。
逃げれない。
2体のゴブリンは飛びかかってきた。左右から挟みこむように、素早い動きで距離を詰める。
嫌だ。
「いや、いやあああああああ!」
恐怖心は爆発した。それが怒気なのか狂気なのか、正体不明の感情を排出させながら、立川はるかも駈け出した。
ズルリ
横に薙いだショートソードは、1体のゴブリンの首を跳ね飛ばした。軽々しく宙に浮かんだ首は着地後、バウンドせず床に転がった。
残りの1体のゴブリンは、2体の仲間の死でようやくメスとの力量の差を知った。
だが、それを知ったのはあまりに遅すぎた。
パァンっ
彼女は怒りに任せ、ショートソードの腹ででゴブリンをぶん殴っていた。頭蓋骨、さらには脳を粉砕し、それと同時に刃が真っ二つに折れ、もともと短いショートソードの刃が半分以下の長さになった。
******************************************
* *
* おめでとう! キミの勝利だ! *
* *
* 武器は使っている途中に壊れるときがある *
* *
* ステゴロでもやってやれないことはないが、少々心もとない *
* *
* ショップで購入するか、道中で拾ったりすればいいぞ *
* *
******************************************
折れたショートソード。
転がる3体のゴブリンの死体。
異獣にメスと観られたという事実。
2Fで一度死亡したという過去。
モンスターを殺戮し、獣のように欲情していた自分。
しかし立川はるかは知らない。まだこれが、初心者の塔であるという現実を。
最後のトビラ。
立川はるかは穏やかではない精神状態のまま、そのトビラを開いた。
* *
* 初心者の塔 1F *
* *
******************************************
最後のフロア。そのことを意識するだけで、ショートソードを握る手に力が入った。
先ほどのフロア。無事に突破できたことへの達成感はなかった。そもそもそんなものは不要だった。もっとほしい感情があったからだ。
モンスターを斬りたかった。
斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って、斬りたかった。
生温い返り血を浴び、悦に浸りたかった。
殺戮欲求。戦士となった彼女に生まれた悪癖だった。
そんな彼女の願いを神が聞いていたのか、階段を降りフロアに入ると、それらがいた。
緑色の皮膚。しかし色はところどころマダラで毛はなく、つるりとしている。不潔な雰囲気があるのは、ほんのりと漂ってくる体臭と、口元からダラダラと垂れる唾液によるところだろう。
彼女の腰ぐらいの身長で、手には無骨な棍棒。腰はボロボロの布を巻いているだけ。人型の、野性味のある生き物。
そんなモンスターが3体。フロアの中心付近に、いた。
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* *
* 塔の中には様々なモンスターが住み着いている *
* *
* こいつらはゴブリン。塔内で最弱のモンスターだ *
* *
* まずはこいつで腕試しだ! *
* *
******************************************
べろり。
立川はるかはショートソードの刃を舐めた。
モンスターへの恐怖や、初めての戦闘に対する不安は微塵もなく、モンスターを殺せることへの期待、歓喜、狂気。
心臓が高鳴りすぎて苦しかった。
どくどくと身体中に血液が巡っている。
体温が上がっている。
吐息、鼻息が荒い。
口の端から唾液が垂れていた。
「うふ、あふふふふっ!」
一気に駆け出し、縦に一閃。振り下ろされたショートソードの刃は、先頭にいたゴブリンの肌をやすやすと切り裂き、その醜い容姿からは想像できない鮮血が吹き出した。
叫び声もなくゴブリンは事切れ、倒れた。流血が溜り、流れ、床を汚していく。
「はふひ、ひひひひっ」
立川はるかはショートソードについた血をべろりと舐めた。うっかり刃先に舌があたり、薄く切れてしまった。モンスターの血液と自身の血液が口内で混ざる。
こくり。飲み干すとそれは、至高にして究極の味がした。
モンスターを殺したことによる高揚で、乳首はきんきんに突起し、クリトリスは勃起し、性器から愛液が漏れ出していた。
快楽殺戮。彼女はサディズムを超越した性癖に身を委ねた。
もう1体殺せば、絶頂へ昇り詰めることができるだろうか。全員殺せば、あまりの快楽で腹上死(ではない。言ってしまうと快楽死)してしまうかもしれない。
床に溜まるモンスターの血。不衛生に違いない、それでも喉を潤したい。モンスターの皮や肉。グロテスクなものほど美味だと言われている。
唾液で口の中がいっぱいだった。
彼女は、救いようがないぐらい狂っていた。
ただ、その異常性は当然戦闘ではデメリットにしか働かない。神の声に『最弱』とアナウンスされたゴブリンも、その恍惚とした状態を見逃さなかった。
ゴッ
「うくっ」
脇腹に棍棒が打ち込まれる。鈍い痛みと共に呼吸困難に陥った。
本能に支配されていた意識を理性に引き戻す。受けた痛みはこの際無視する。まずは状況を確認する。攻撃された、しかしまだ1体、行動していないゴブリンがいる。
優先するは、撤退。逃げるためではなく、殺すために撤退。
がむしゃらにショートソードを振りながら後退。たたらを踏みながらもどうにか逃げ切れた。
痛みは我慢。自然にできる構えで、ショートソードを構え直す。
目を疑った。
2体のゴブリン。腰に巻かれていたボロボロの布切れがなかった。
人型のオスの生物なら共通するだろう急所、生殖器。それが、膨れ上がっていた。
毒々しく、ビンビンと屹立、性的興奮。距離があっても嗅ぎ取れる異臭。おそらくはオスの臭い。
どのタイミングで絶頂を迎えたのかは彼女の知るところではないが、床に白濁液が飛び散っていた。
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* *
* モンスターはそれぞれ目的を持っている *
* *
* 積極的に排除を行おうとするモンスター *
* *
* こちらには興味を示さないモンスター *
* *
* 何らかの利害が一致したのか、援護を行ってくれるモンスター *
* *
* そして、生殖の道具として利用しようとするモンスター *
* *
* どうやらゴブリンは、最後に説明したモンスターのようだ *
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「ひぃっ……」
襲いかかってくるのであれば、切り伏せるだけ。
何もしてこないのであれば、こちらも無視するだけ。
危害を与えられないうちは、呉越同舟も悪くない。
しかし、目の前のゴブリンは違う。
こちらをメスと認識している。股間のそれが、そう言っている。
もし、敗北すれば。
身動きできなくなったこの身体に男根を突き込み、性欲、肉欲のままに動き、精液を吐き出す。それは性器だけでなく、口や肛門、耳や目など穴という穴が犯されてしまうに違いない。
きっと1度や2度では終わらない。それどころか、生涯生かさず殺さず飼われることだろう。生殖、繁殖。生殖、繁殖。それを繰り返すだけの道具。
異種間の繁殖意識の違いは殺戮欲求すらかき消していた。強敵と対峙しているわけでもない、明らかに格下のモンスター、そんな相手に彼女は震えていた。
動けなくなった立川はるかを見て好機と感じたのか、ゴブリンはじりじりと近づく。股間のソレはびきびきと硬みを帯び、脈打っている。
立川はるかはじりじりと後退する。見たくないはずなのに、オスの性器から目が離れない。
それがどれぐらい続いたのか。立川はるかが壁に追い詰められるまで、続いた。
どんっ。背中に壁が当たった。
逃げれない。
2体のゴブリンは飛びかかってきた。左右から挟みこむように、素早い動きで距離を詰める。
嫌だ。
「いや、いやあああああああ!」
恐怖心は爆発した。それが怒気なのか狂気なのか、正体不明の感情を排出させながら、立川はるかも駈け出した。
ズルリ
横に薙いだショートソードは、1体のゴブリンの首を跳ね飛ばした。軽々しく宙に浮かんだ首は着地後、バウンドせず床に転がった。
残りの1体のゴブリンは、2体の仲間の死でようやくメスとの力量の差を知った。
だが、それを知ったのはあまりに遅すぎた。
パァンっ
彼女は怒りに任せ、ショートソードの腹ででゴブリンをぶん殴っていた。頭蓋骨、さらには脳を粉砕し、それと同時に刃が真っ二つに折れ、もともと短いショートソードの刃が半分以下の長さになった。
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* *
* おめでとう! キミの勝利だ! *
* *
* 武器は使っている途中に壊れるときがある *
* *
* ステゴロでもやってやれないことはないが、少々心もとない *
* *
* ショップで購入するか、道中で拾ったりすればいいぞ *
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折れたショートソード。
転がる3体のゴブリンの死体。
異獣にメスと観られたという事実。
2Fで一度死亡したという過去。
モンスターを殺戮し、獣のように欲情していた自分。
しかし立川はるかは知らない。まだこれが、初心者の塔であるという現実を。
最後のトビラ。
立川はるかは穏やかではない精神状態のまま、そのトビラを開いた。
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* *
* 『初心者の塔』クリア! *
* *
* はじめて遊んでみてどうだったかな? *
* *
* まだ冒険は始まっていない! 次の塔に挑戦しよう! *
* *
* *
* *
* ※クリア特典 *
* *
* モンスターによる陵辱シーンが開放されました *
* *
* ・ゲーム開始時、陵辱シーンの有無を選択できるようになりました *
* *
* ・キャラクターエディット時、女性キャラクターの場合のみ *
* *
* 処女・非処女の設定を行えるようになりました *
* *
******************************************
* *
* 『初心者の塔』クリア! *
* *
* はじめて遊んでみてどうだったかな? *
* *
* まだ冒険は始まっていない! 次の塔に挑戦しよう! *
* *
* *
* *
* ※クリア特典 *
* *
* モンスターによる陵辱シーンが開放されました *
* *
* ・ゲーム開始時、陵辱シーンの有無を選択できるようになりました *
* *
* ・キャラクターエディット時、女性キャラクターの場合のみ *
* *
* 処女・非処女の設定を行えるようになりました *
* *
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