トップに戻る

<< 前 次 >>

第三話:お友達に……。

単ページ   最大化   

 時は少し戻り『住江町のオメンダー』こと栄花 朋也が殺された数時間後、住江町のある施設に数人の人影があった。その中心で三人が会話をしてる。。
 一人はリクルートスーツにメガネといかにもインテリそうな女。もう一人は髪がボサボサな白衣の女。最後の一人は車椅子に座っていて、顔を仮面で隠している多分男であろう人物。後ろには側女らしき人もいる。立ち位置的にはインテリ女と白衣の女は仮面の男の部下と見える。
 更にその三人を護衛するように囲む男達を見れば、なにか危ない会合でも開かれているのではないかと容易に想像できる。
「さて、お二人に集まっていただいたのは言わなくても分かるでしょうが、先ほど『包帯男』が現れました」
 白衣の女はなにか資料のようなものを見ながらそう言った。それに他の二人は「ついに」といった感じの反応をしめした。
「博士、ならば例の物は手に入れたのかね?」
 車椅子の手すりの部分を指でカタカタ鳴らしながら仮面の男は言った。
「いいえ、まだです」 
「なら、それはいつもと同じよね? それなら私達をわざわざ呼ぶ必要はないですね」
 インテリ女はメガネをとり、汚れを拭きながら言った。仮面の男は顔を伏せってため息をついた。よほど何か期待していのだろうか。
「ええ。その通りですね。もちろんそれだけではありません。実はお二人にお伝えしたいことがありまして」
「情報?」
 メガネをかけ直しながらインテリ女が言う。落胆した様子で顔を伏せていた仮面の男も顔を上げた。
「また『包帯男』が現れました。しかも先ほど現れた場所にかなり近い場所で」
「「!?」」
「つまり――」
「つまり『包帯男』が住江町付近に潜伏している、ってことかしら?」
 言葉をとられ、白衣の女は少しむっとした表情でインテリ女を睨んでいたが、「……その通りです」と言うとすぐに資料に目を戻した。
「これは以前にはなかったケースです。半径五十キロ以内で、しかもこんな短時間で連続して現れることはまずなかったですね。いつも数カ月に一回現れればいいくらいでしたから」
「おお、神は我々を後押ししてくださっている……。時は満ちた。私の計画が完成する日も近い……」
 感慨深いといった様子で、神に願うかのように手を組んでそう言った。
「『包帯男』を捜索させるためにエージェントを手配しますわ」
 携帯電話を片手にインテリ女は言う。
「でしたら、実験も兼ねて私も部下にやらせたいのですが、よろしいですか?」
 それに続き白衣の女も提案する。
「ああ、構わない。君たちに任せる――」
 

「――出しください」
 白衣の女は止めてあった黒い軽自動車の助手席に乗ると運転手にそう言った。
「例の件はご報告なされないのですか?」
 白衣の女に側近の男が聞いた。白衣の女は持っていた資料にまた目をと通していたが、それを聞くと少し顔を上げた。
「ええ。あれはあくまで私の趣味、私的に手に入れたものですから。それに隠すと言ったらあのメガネ女もスーツの下には何があるやら」
 含み笑いをまぜたその言葉を聞いて、運転手の男は少し頬をあからめた。
「スーツの下……ですか?」
「変な想像はしないでくださいね。ただの例えです」

 

 



 
 朋也が死んで一週間がたった。クラスでは朋也がいないことが早くも日常になってきていた。
 チュウ太と初めて出会ったあの日以来、【そいつ】は英正前には姿を現してはいない。今はこのまま何もなく忘れたいのが半分、復讐したいのも半分。中途半端なのは自分が弱虫だからというのは良く分かっている。これは忌まわしい事件だった、それで終わりにしたい。でも、英正は復讐できる力を手に入れてしまった。これを復讐するために使うかは、まだ考えている。
 それを考えている時、よく朋也の言葉を思い出す。


「俺がヒーローだったら、きっと助けてやるのに!」


 よく学校の帰りに言っていたっけ。朋也がオメンダーだと知った今となればとんだ茶番だったわけだが、チュウ太という力を朋也のように人助けに使う。それもありかなと思う。でもいつもその後を考えて面倒くさくなって止めてしまう。いつまで続ければいいのかとか、具体的に何をすればいいのかとか。
 学校はもう楽しい場所では無くなった。ただ授業を受けるだけ。遊びに誘う奴も昼食を一緒に食べる奴も、ましては授業中の組み分けとかで組んでくれる奴もいない。唯一の救いはチュウ太という存在があることだけ。話し相手がいる。これだけのことで救われることは意外と多い。
 そして、今日もつまらない一日が始まる。


 朝、教室に入るとにわかに生徒が活気づいていた。何かあるのか、はたまたあったのか。ともあれ朋也が死んでからこれだけテンションの高い教室の空気は久々だった。
『んー、おい。何があったか聞いてみろよ』
 チュウ太が英正に促す。
(いや……いいよべつに。興味ないし。それにこれだけ騒いでるんだからそのうちわかるだろ)
 ところがどっこい、興味はとてもある。ただ、聞く友達がいなだけだ。
『俺は今知りたいの!!! ほら教卓の前で固まってる男子グループとかさ、あそこらへんに聞いてみようぜ!』
 教卓の前ではクラスの中心的男子グループが興奮しながら談笑していた。ときどき卑猥な言葉も聞こえる。
(遠まわしに死ねって言ってるだろ、お前)
 その英正の言葉を聞くと、チュウ太は大きく「はあ」とため息をついた。
『お前さあ、いつまでもボッチってわけにもいかねーだろ。小さいことでも切っ掛けになるもんなんだぜ?』
 心配してくれているのは嬉しい。でも有難迷惑だ。正直あまり話したことない人と話すのは恐怖以外の何物でもない。そんな思いまでして無理やり友達を作ろうとも思わない。それに、英正にはチュウ太がいる。寄生虫が友達だというのは不本意極まりないが、それで充分だと思った。
「はい! 席についけー」
 担任の山下先生の声で朝のホームルームが始まる。教室内も自然と静かになっていった。
「センセー! 転校生来るって本当ッスカアアアア!?」
 クラスのお調子者の鈴木が興奮気味に叫ぶ。そうか、そういうことだったのか、と一人納得した。いや、一人と……一匹? 一体? まあどうでもいいか。
「落ち着け鈴木。今からそれを話すから」
 それを聞いた瞬間、生徒達がわっと盛り上がった。それを見て先生は苦笑いをしていた。
『俺もとにかくさけぶぜ! うおおおおお!』
(うるさい)
「ほれ、みんな落ち着け。……本当なら一週間前に来てもらうつもりだったんだが……まあ言わなくても分かるよな」
 また教室内は元の静けさを取り戻した。ああ、まだみんな朋也のことを覚えているんだな。いや当たり前か……。と一人漫才じみた思考を巡らせた。
「あー……まあ、人間別れがあって出会いがあるんだし、新しい仲間をみんな歓迎してやってほしいんだ」
「あたりまえっすよう! 可愛い子ならこっちからよろしくっすよ!!」
 若干女子は引いていたが、男子には受けがよかったようだ。あいかわず先生は苦笑いだ。
「はは……じゃあ入って来てもらおうか。どうぞ」
 教室の前方のドアに期待の視線が集まった。



13, 12

  

 転校生が入ってきた時、男子からは喜びの歓声が上がり、女子からは少しのがっかり感と何かしらの期待の混じった歓声が上がった。
 入ってきたのは女の子。髪は腰まで伸びていて、肌は透き通るように白く、体の線から言っていかにも病弱といった感じだった。
「はい。じゃあみんなに自己紹介、頼むな」
 転校生は教卓の前に立ち、みんなの方を向いた。転校生がかわいいなんて都市伝説だと思ってた。頭を下げる動作、上げる動作、クラス内を見渡す視線、どれを見ても男子からは歓声があがる。
「川喜多 冷泉(かわきた れいせん)です。父の仕事の都合でこちらに引っ越してきました。これからよろしくお願いします」
 その言葉の後に、教室内のテンションは最高潮に達した。一人は発狂し、一人は感動の涙を流し、一人は……。とにかく凄かった。英正はというと本当は一緒になって騒ぎたかったけれど、普段のキャラクターがアレなのでそれをじっと堪えていた。
「ハハハ……お前ら他のクラスの邪魔になるからあんま騒ぐなよな。さて、じゃあ座る席はどこにしようか……」
 一瞬で教室内が静かに(主に男子が)なった。先生が注意したからではないということは言わなくても分かるだろう。転校生でしかも美少女が隣の席。これはもう至福としか言いようがない。
「さーて……」
 急に身だしなみを気にしだす奴、自分は興味無いよと言わんばかりに頭を伏せる奴、更には無理矢理自分の横にスペースを作る奴もいた。この瞬間にかけるみんなの熱意は本物だ!
 しかし、こういった場合選ばれる席というのはたいてい決まっている……。そう、既に空いている席だ。
「じゃあ日向野の隣の席に座ってもらおうかな。窓側の一番後ろの空いてる席だ」
 一瞬にして英正に注目が集まる。
(きたあああああああああああ!!!!)
『きたあああああああああああ!!!!』
 不謹慎だが、朋也に感謝した。でも、後でいっぱい謝るから今は許してくれ!
『みんなのうらやましがってる顔が気持ちいいな!』
 チュウ太は浮かれてたが、その視線はうらやましがっているなんてレベルでは無かった。むしろ嫉妬や憎悪、さらには殺意。それがこもった唸り声や視線が一瞬にして英正に向けられたので、一気に英正は酔いが醒めたようにはっとなった。どうやら友達より先に敵をたくさん作ってしまったようだ……。ハイリスク、ハイリターンという言葉の意味が初めて分かった気がした。
 そうこうしている間に川喜多は英正の席の隣に座った。が、英正はここで重大なことに気づく。
(あれ、俺友達いないのに、女の子と仲良くなれるの……?)
 単純、だがそれが最大の問題……! クラスメートの男子ともまともに話したこともない英正に、女の子でましてや転校生に話しかけるスキルなんてあるわけがない……! まず声が出るか怪しい……! 声が出たとしてもどもったり裏返ったりして最終的に引かれるに決まっている……!
『ばっかだなあ。友達に男も女もねえよ! それに仲良くなるには思い切りの良さしかねえ!』
 チュウ太はそうは言うが、英正にはその思い切りのよさすらない。
 やはり、自分には無理なのだろう。






 今思えば英正の交友関係というのはすべて受動的にできたものばかりだった。
 小学生の頃はみんなあまり交友関係の線引きなどほとんどしないので、仲のいい友達は何人かいた。いつも教室で絵本を読んでいると、外にドッヂボールに誘ってくれる子とか。
 それが小学校高学年になって、中学生になるうちに、誰も自分を誘ってくれなくなった。寂しかったが、子供なりの順応能力というかそういったもので本の世界へとのめり込んでいった。
 そんな英正に声をかけてくれる人物が一人いた。それが朋也だった。
『ヒーローは誰にでもわけ隔てなく接するものなのさ!』
 そう言いながら英正にちょっかいを出してきた。疎ましく思ったのが二割で、その他八割は単純に嬉しかった。
 まあつまり、そんなこんなで自分から友達を作るなんて行動を思いついたことすらない英正には、初チャレンジのハードルがあまりにも高すぎるということだ。


 いや、むしろその考え自体がおかしいか。だって無理にチャレンジなんてしなくていいじゃないか。隣の席に可愛い転校生が座っている。もうそれでいいや。なんか満足だ。
『へたれだなあ……』
 なんとでも言えばいいさ。僕をこんなにした環境が悪いに決まっている。僕が変わるにはまず環境を変えなければならない。それは難しいことだとは考え無くても分かる。なら、今ある現状で妥協。これが最善策。
 休み時間になると、英正は自分の席にいることはできなかった。クラスの奴らはもちろん、噂を聞きつけ他クラスからやって来た、良い関係を作ろうとする男女や、彼女とオトモダチ(笑)になろうと詰め寄る男女、それに興味本位の奴らも合わさった連合軍がまるで城を落とすかの如く押し寄せてきたからだ。
 英正はしょうがなく、この日の休みという休みがつく時間は全部図書室で過ごした。これも妥協策。しかたない、しかたない……。


「日向野くん、たいへんだねえ」
 クラスの端っこで金髪のショートカットの女子が呟いた。
「日向野かよ。普通は転校生が大変だなと思うだろ。カオはみんなといつも見てるとこが違うよな」
 隣の長身でセミロングの女子が言った。
「それって、けなしてるのお?」
「褒めてるのよ。てか、その日向野の前の席のあんたが言う事じゃないでしょ」
「えへへ、そーでした」
 クラス内の喧騒は、一向に収まる気配はなかった。
15, 14

でか 先生に励ましのお便りを送ろう!!

〒みんなの感想を読む

<< 前 次 >>

トップに戻る