トップに戻る

まとめて読む

単ページ   最大化   

・・・あと・・・・です・・・・覚・・・
徐々に意識が浮上してくる。そして、いつもの無機質な声。そろそろ戦場に到達、か。

しかし、この無人運転システムは本当に人道的なのか?と思う。そもそものきっかけは陸戦における移動時間の多さ。実に99%は移動に費やされるという。この島国においてもそのルールは健在だ。いや、島国であるからこそ戦場が限られ、戦場が限られるからこそいかに有利な位置から戦場にエントリーできるかの腹の読み合いになっている。そのため戦闘は既に余録。そしてエントリー直前まで俺たちは眠らされ、体力を温存され、そして起き、短時間で死んでいく。

「あと12分で戦場にエントリーします。システムチェック、独立起動準備をしてください。あと…」
HMDがフラッシュしながら文字を、そして音声を流す。そして、防護衣の皮膚浸透薬液注入システムから覚醒用の薬剤が注ぎ込まれる。
腕が冷たい。この時間だけは気分が悪い。いっそ、移動中に誘導弾でも喰らって死んでしまえば永遠に眠っていられるのに。

ふらつく頭を振りながらマップを視線でタップ。腹がたつほど見つからずにここまで来やがった。

車両状況の確認…移動用燃料電池は異常なし。生きて帰れればもう一度接続して帰ってこれるだろう。弾薬…いつも通り徹甲ばかり。もっとも最近の徹甲弾は時限フューズで破片をばらまけられるから昔のように爆薬をしこたま抱え込むような事が少ない。贅沢を言えば弾底起爆と対空モードを備えたマルチ榴弾がせめて5発は欲しいところだが贅沢は言えない。発射薬は全て放電中。もっともコイツは発射寸前まで充電されることはない。全ては対脆弱性という観点で、いや、正確にはギリギリまで戦って死ねという上層部の意志そのものだろう。足回り…ギアードモーター10組のうち一組の同期がいまいちでこのせいで車速制限。コム(Computer)の予測では時速60キロからは同期できないという御宣託。仕方がないので低速時のみ動作。どうせトップスピードで機動することはまずない。装甲…パッチだらけだが問題なし。E/O…冷却がいまいちか、それとも校正がうまく取れていないのか、相変わらずコントラストの高すぎるピーキーな映像が目に痛い。砲アクチュエータ…腹がたつほどスムーズに動く。エンジン…独立起動するまでは状況は分からず。排気熱を徹底的に遮蔽されているため、コイツのオーバーヒートに何時も悩まされる。バイタルチェック…血圧、鼓動ともに上昇中。そりゃ死にに行くからな。通信…僚機との通信はスペクトラム拡散通信によるアドホック、戦術リンクよし、戦略リンクは、、関係ない。目の前の敵を殲滅し帰投するだけの仕事だ。どうせ見るときは戦いが終わった後だ。

そして、チェックが終わった事を宣言する。
「ナイト5、システムチェック終了、独立起動の承認乞う」

承認された事がHMDが文字と枠だらけの画像からVRを駆使した画像に切り替わることで分かる。車体は白いフレームで表示される。スムーズに移動する画像は気分が悪い。僚機は、、、ナイト7、ナイト3、ナイト9。ナイト7は先週配属されたばかりのルーキーだ。術科学校でのシミュレーションではトップだったらしいが、はてさて。気負いすぎているのかアクセルワークが雑だ。余計な熱は出さずに済ますのがいいのだが。俺のためにも。エンジン…内燃機関が内蔵されたモーターを介して空転、ステータスはグリーン。そして燃料ポンプと内燃機関が起動し、背後でちょっとした振動が起きる。燃料電池の切り離しだ。独立機動開始。僚機が徐々に定位置に着く。既に充電が終わった弾薬が薬室に装填。充電した推進薬を放電、気化させる事で徹甲を高速で放り出すタイミングを待つ。戦闘開始。

彼我の距離6000。どうする?プログラム誘導でトップ狙えるか?そろそろギリギリの決断。

珍しい事に今日に限ってはモーターが背後から敵最前列に向かって叩き込まれる。三角錐…つまりはステルスを意識した滑空モーターが翼を広げて敵前に迫る。発数にして12、連射4の48。敵CIWSが殆どを迎撃するとは言え、迎撃された瞬間、盛大な電磁パルスや高温の煙を出し、敵のE/O、通信を混乱させるだろう。いい兆候だ。機先を制した分、初弾が狙える。とりあえずは3射まではトップアタック、プログラム誘導を選択。僚機と共に20秒で3射、計12発が推定される敵に向かって放り出される。残る仕事は死の舞踏。ダンス、ダンス、ダンス。死ぬのは一瞬、生きるは永遠の苦痛。

・・・

1

戦車スキー 先生に励ましのお便りを送ろう!!

〒みんなの感想を読む

トップに戻る