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17『ベータ・レイ2』

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「起きろぉぉ! 兄ちゃーん!!」
 ふわりと気持ちの悪い浮遊感。どすん、という何かが床に勢い良く落ちたような音。そして、俺の首から背中を稲妻みたいに走る痛み。
「いてええええ!」
 自分の悲鳴で起きる。そうしてやっと、俺に痛いことが起こったのだと自覚する。見れば俺の顔のすぐ横にシイナの顔。俺の頭を担ぐようにして、股を開かせ、ベットから飛び降りたらしい。つまり、キン肉バスター。
「ハロー兄ちゃん! そろそろ家出る時間だぞ!」
 息が思いっきり顔にかかるくらいに至近距離でその大声はかなりうるさかった。なので、俺も負けずに大声で「お前は普通に起こせねえのか!? キン肉バスターとかすごいな!?」
「ちょっと苦労しちゃったけどなー。二回くらい床に兄ちゃん落としちまった。あれで起きないんだから、兄ちゃんも相当寝坊助だよなー」
「お前ホントいつかぶん殴るからな。いいから、降ろせ、あ、優しくだぞ! ドスンとかって落としたらホント蹴り入れっかんな!」
「わーかったよ、兄ちゃんうるさいなあ」
 意外にシイナは、ベットの上に丁寧に俺をおろしてくれた。そこはぽいっとやるところじゃないのか、バラエティ的にはと思わなくもないが、しかし痛みと引き換えに笑いを得たいと思うほど俺の心は芸人じゃないので、何も言わない。
「ところで兄ちゃん、下にお友達来てるぜ!」
「……アキラとミズキか? また俺の分の朝飯食ってんじゃねえだろうな。着替えるから、シイナはとっとと出てけ」
「はーい!」
 朝っぱらから元気ハツラツなシイナを見送り、俺はクローゼットからいつもの服を取り出して、さっさと着替える。朝飯取られるのはいやだし。
 そして小走りで下まで駆け下り、リビングに入ると、何故かカリンさんにジロウさん、ミズキとアキラがテレビ前のソファにまで進出して朝食を食べていた。
「よう、セイジ。お前のおふくろさん、料理上手いな」
 と、納豆を混ぜながら言うジロウさん。あんたはなに普通に人の家で飯食ってんだこの野郎。
「おはよう、セイジ。今日はちゃーんとセイジの分も取ってあるからね」
 母さんはそういうと、アキラとミズキが座るテレビ前のソファーに、俺の分の朝食も置いてくれる。
 よかった、今日はあるのか。アキラの隣に座り、いただきますと言ってから和食御膳を掻きこむ。
「――つーか、アキラはなんでいんの?」
「ひっでえなセイジ。ジロウさんに呼ばれたってのもあるが、俺はお前らのダチだぜ? 危険な目に合うかもなんだろ? そりゃー強力するしかないっしょ。ダチとしては」
「本音は?」
「タクマ塾行くんだろ? 面白そうじゃねえの!」
 そんなこったろうと思った。
「ミズキは、マーキュリーのオーバーホール終わったんか?」
「もち」そう言って、ポケットからキューブを取り出し、マーキュリーへと変形させる。それは確かに新品同様の輝きを放っており、以前のバトルを感じさせない。
「……あれ? お前、ガンがブレードガンじゃねえけど」
 見慣れないガンだった。ブレードガンに似ているけれど、しかしミズキのバトルを見てきた俺には一発でわかる。
「ふふん。新・氷結の舞用カスタマイズ。ま、タクマ塾だからね」
「なるほどねえ」
 俺も早くベータ・レイを試してみたい。タクマ塾って、すげえエリート揃いなんだもんな。強いヤツがわんさかいるってことだ。くあー! 燃えるぜ!
 テンションが上がると腹も減る。腹が減れば食事はなくなる。そんなわけでいつもよりずっと早く飯を平らげると、俺達は表に停めてあったカリンさんのトラックに乗り込んで、タクマ塾へと向かった。


  ■


 タクマ塾は我が家から一時間ほどの山にある。なんだ、案外近いじゃないかと侮るなかれ。それは麓につくまで一時間ということで、そこから先は車じゃ登れないということで、歩きでその後二時間ほど険しい山中を登ることになった。
 もうやだお家帰る、と叫びだしそうだったが、なんとかデカい門の前にたどり着いて、ほっと一息。
 ジロウさんが一歩前に出て、「俺だ! ジロウだ!」と叫ぶ。門はゆっくりと上がっていき、その中にあったのは、いくつものホロセウムが並んだ大広間。その周囲を囲むようにして並ぶ木造の建物。どう贔屓目に見てもボロくて、雨風がしのげるかどうかすら心配だった。
 ホロセウムでは大勢の人間がバトルしており、なんか映画で見た少林寺を思い出す。
 俺達団体は、その真ん中を突っ切り、一番奥に居た、黒いタンクトップに緑のシャカパン。黒の編みこみブーツと紫の鉢巻をした、筋骨たくましい男の前に並んだ。
「キミらか。ジロウの推薦で、我がタクマ塾に入塾したいという子達は」
 その人は俺達を値踏みするみたいにジロジロと見始める。全員を見終わると「俺はこの塾の塾長、タクマだ」と軽く頭を下げた。
 俺達も頭を下げ、それぞれ自己紹介。
「よろしく。――さて、来てもらってさっそくではあるが、君たちには入塾テストをしてもらう」
「はあ!? 入塾できるんじゃねえのかよ!」
 あの山中を思い出し、俺は思わず叫んでしまった。だって、もしそのテスト不合格だったら、何もないままあの山をまた降りなきゃならないんだろ!?
「大体ジロウさんの推薦だろ! これ以上の紹介状はないだろ!」
「スマンが、タクマ塾の門戸は万人に平等に開かれている。――それに、タクマ塾のバトルは少々荒っぽいんでな……。誰もがついていけるわけではない。ここで、篩にかけさせてもらう」
「ま、マジかよセイジー! 俺ついてける自信ねえよー!」
 さっきまで余裕綽々だったアキラが、俺の腕にすがりついてきた。お前それ、美少女限定イベントだからな。
「うるせえな! 勝ちゃいいんだろ勝ちゃ! 上等だ! 誰でもいいから連れてこい!」
 俺の言葉を聞くと、タクマさんは鼻で笑い、「では、セイジは一番デッキに行け。ミズキは二番、アキラは三番、シイナとエリナは四番デッキで、それぞれ入塾試験を受けてもらおう」
 それぞれは指示されたデッキへと向かっていく。アキラはもう泣きそうだったが、これくらいのことで泣いてちゃ、多分タクマ塾なんて無理だろう。
 俺が指示されたデッキには、女性が立っていた。蒼いバンダナに、ほとんど赤に近い茶髪。こんがりと日焼けした肌に、スタイル抜群な肢体にノースリーブの紺と黒いズボン。
「はじめまして、セイジ。キミとは結局、アヴァロンで戦えなかったからな。ここで戦っておきたかった。タクマに無理を言って、入塾試験にねじ込んでもらったんだ」
「……え? あれ、アヴァロンに出てた人?」
「そうだ。私の名前はナナセ。タクマ塾幹部。一応、アヴァロンに出場していた。――キミと当たる前に、ジロウに負けてしまったけどね」
「ああ! そっか、ナナセさん……。俺、ナナセさんの出番で腹壊してて……」
「つまり、私のバトルは見ていない、と。なんだ、つまらないな。――じゃあ、準備はいいか」
「はーいストップ!」
 突然やってきたカリンさんが、俺の隣に立った。
「ナナセさん。あなた相手ですから、私がセコンドしますよ。いいですね?」
「ああ。もちろん。なにせよ、骨のあるところを見せてほしい」
 俺、一応日本一なんだけどな。
 とはいえ、ジロウさんに負けてるし、名前だけで実が伴ってないので、あまり強く言えない。
「じゃ、セイジくん。ナナセさんはマジ強いから。基本的にはスピード重視で来るだろうから、それについていけるようにしなさいね」
「了解!」
 俺はロボキューブのカスタマイズ画面を投影し、ロボをベータ・レイに。3ウェイガンとストレートボム。ヤジューポッドにロングバーニアレッグを装備。伊達にバトルをこなしているわけではないので、扱えるパーツもちょっとずつ増えてきてる。
「準備はいい?」
「おう!」
「アニー、戦いの時よ!」
「飛び立て! ベータ・レイ!!」
 俺とナナセさんは、互いのロボキューブをホロセウムに向かって投げ入れた。



  ■


 ホロセウムは公園の様な、アスレチックが中央に置かれた原っぱ。
 俺と、ナナセさんが操るロボ――アニーは、その中心のアーチ型アスレチックに乗って向かい合っていた。ほとんどナナセさんと同じ様な姿をしたそのアニーは、早速ガンを俺に向かって放ってくる。小さな弾丸がいくつも小気味の良い音を立てて飛んできた。
 開幕してすぐ来るとは思っていなかった俺は、それをモロに食らってしまう。
「セイジくん! それはスターダストガン! 近~中距離のガンだから、距離を取って戦って!」
「了解!」
 ジャンプして、空中でベータ・レイを戦闘機へと変形させる。そのままアニーの真上を飛び、3ウェイガンで絨毯爆撃ならぬ、絨毯銃撃。何発かは当てる事に成功した。そしてベータ・レイをロボ形態に戻し、背後から殴りかかる。予測していたらしいアニーは、するりと半身になって躱すと、裏拳を俺の顔面にぶち当てる。
 トラックに撥ねられたような衝撃に襲われ、後方へと吹き飛ばされる。アニーはその隙に俺へ向かってボムを発射する。見覚えのあるあのボムは、フリーズボム!
 もちろんばっちり当たってしまい、俺の動きは止まる。そして、スターダストガンに弾き飛ばされ、ダウンしてしまう。
「ぐ……っ! まだまだぁ!!」
 俺は素早く起き上がると、ポッドを射出。ヤジューポッドがアニーに向かって飛んでいく。俺は再び戦闘機形態へと変形。飛び立ち、地上からヤジューポッド空中から3ウェイガンという隙のない怒涛の攻め。
「甘いな」
 そう呟いたアニーは、ヤジューポッドをわざと踏みつけ、その爆風に乗り、俺の真上へと躍り出た。
「なんだとおお!?」
 そんな手があったのか、と驚いた俺は、すぐにモードをロボに戻して、体を反転。真上のアニーに向かってボムを放った。俺とアニーの間で爆発し、俺を地上に叩き落とし、アニーはさらに上空へ。
 俺は地面に寝転がったまま、3ウェイガンを発射。これはもらったとおもったが、なんと彼女は、体の捻りを利用してガンを躱し、どうしても当たりそうな物は空中ダッシュで躱し、無事着地した。
「うっそお……」
 あんぐりとして、着地したアニーを眺める俺に、彼女は小さく笑ってみせる。
「一つ、教えておこう。ここにはお前レベルならたくさんいる」
「っか! 元気印のコマンダー娘、その一番弟子をナメるな!」
 正直かなり驚いたが、だったら次当ててやればいいだけの話。
「セイジくん! ボムポッド連射! 目眩まし!」
「了解!!」
 カリンさんからの指示を受け、俺はアニーへ向かってボムとポッドを連射。彼女の視界が爆発の煙に侵食される。
「行くぞッ! ソウル・ブースト!!」
 俺とベータ・レイのシンクロ率が上がっていく。俺がベータ・レイを操作するのではなく、俺がベータ・レイになるような感覚。金色に輝くボディを見て、拳を握る。
 そして再び、飛行形態へと変わり、真っ直ぐアニーが居た地点へと飛ぶ。
「……どこから来るか、ベータ・レイならわかりきったことだ!」
 アニーは真上にスターダストガンを構える。だが、俺は真上にはいない。
 俺は、超低空飛行で、アニーの足元をかすめるようにして、アニーの爪先を翼に引っ掛けて上空へと急上昇。そのまま上空でアニーを落とし、彼女より高い位置でモードを解除。
「行くぜアニー!! 全弾開放ッ!!」
 ポッド、ガン、ボム、すべての弾丸を一斉にアニーを向かって放つ。
 先ほどの避け方も、こう物量が多かったんじゃあまり効果はないらしかった。
「……なるほどね」
 俺が倒した瞬間、ナナセさんのそんな楽しそうな声が聞こえてきたのが、妙に印象的だった。
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