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03『サンデー・マッチ』

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 サンデーマッチ。
 ロボステ月一恒例イベントで、腕試し的意味合いが強い大会。優勝賞品が毎回出るらしく、しかも今回の賞品が今までにないくらい豪華なんだとか。その所為で、今回のサンデーマッチには強豪コマンダー達が揃い踏みらしい。
「レベルの高い大会になるからな。俺達も強くならないと」
 学校からの帰り道。アキラと一緒に駅前のハンバーガーショップで買い食いに勤しみながら、サンデーマッチに向けての作戦会議をしていた。ミズキも誘ったのだが、来てくれない。意外と人見知りするやつなのだろうか。
「……俺達みたいな無名コマンダーが勝ち上がるには、やっぱ名コーチが必要だと思うわけよ」
「名コーチ……」
 その言葉に、俺はカリンさんを思い出した。名コーチかは知らないが、腕はある。
「そこで! セイジ、お前師匠がいるんだよな?」
 コーラをストローで飲みながら、頷いた。そう言えば、ちらっと口にしたことあったっけか。
「……まさか、カリンさんにコーチ頼むつもりか?」
「おう。カリンさんか」
「……やめたほうがいいぞ」
「なんでだよ。初心者のお前がそこまで強いのは、そのコーチが優秀だからだろ? 俺にも教えてくれるよう、頼んでくれよ」
「……後悔すると思うんだよなぁ」
 しかし、まあ。そんなこと言ったって、実際に納得なんてできねえだろうし。
「わかったよ。――ただし、『なんであの時もっと必死で止めなかったんだよ!!』とか言うなよ」
「あぁ。もちろんだ」


  ■


 ハンバーガーショップを出た俺は、カリンさんの工房が停まっている公園へアキラを案内した。カリンさんはアキラを見るや否や特訓志願と見抜き、笑顔で特訓してくれたのだが、当のアキラは。
「なんでもっと必死に止めねーんだよ!!」
 案の定、カリンさんと一度バトっただけで、アキラはそんなことを叫んだ。公園の中心にあるホロセウムデッキで向かい合う二人。俺はその横で、二人のバトルを見ていた。
 結果は惨敗。前の俺みたいに、サッカーボール扱い。
「はぁ……期待を裏切らないヤツだよな」
 呆れて頭を掻く。どうせこんなことになるんだろうな、と予想してたからな。ホロセウムも、アキラのフェイバリット路地裏で、野獣殺法も使ったのに、蹴りでピンボールみたいにされていた。むしろサッカーボールの壁当て。
「アキラくん……だっけ? 君の野獣殺法、なかなかだったわよ? まあただちょっと、相手のこと気にしてなさすぎたかな」
「……なるほど」
「バーニングビーストなら、ジャンプが長くて速いし、近距離系のカスタマイズがいいんじゃないかな。――たとえば、スタンガンとか、ショットガンなんかいいんじゃない?」
「あぁ、それなら一気に距離を放したり詰めたりできますね! ヒット・アンド・アウェイかぁ」
 おお。なんかよくわからんがすごそうな話をしてるな。
「うん。サンデーマッチに向けて、何かわかったかもしれません」
「そう? なら良かった――問題は、セイジくん」
「んあ?」
「間抜けな声出さない。……セイジくん、いまどんなパーツ持ってる?」
 俺が持ってるパーツは――。
 アルファ・レイはもちろんだが、ガトリングとヤジューポットF。それ以外は、全てベーシック。まあほとんど持ってない。
「……まっずいなぁそれ。ほとんどコンボにならないし」
「そう、なんですか?」
「うん。カスタムロボはコンボゲーだからね『ボッドで追い詰め、ボムで止め、ガンでトドメ』流れるような、自分だけの勝利へのタクティクスを見つけること。それがカスタムロボの極意だから」
 ……なるほど。ミズキが使う『氷結の舞』も、そういう戦術なのか。
「あ、じゃああれ見る? 前話した、チャンピオンのエキシビジョンビデオ」
「マジすか!!」
 カリンさんべた褒めのチャンピオン。見たい……。
「チャンピオンて……『ユウキ』さんですか!!」
「あ、やっぱ知ってたアキラくん」
「カスタムロボやってるやつなら知ってますよ……。グレートロボカップ三連覇チャンピオン『マモル』を倒し、秘密組織ドレットを壊滅させた初代レイの使い手……今は海外遠征でしたっけ?」
「そ。いまヨーロッパらしいけど」
「なぁ、ユウキさんて?」
 いまいちわからない俺は、アキラに訪ねてみた。
「今の説明がほとんどだったが――強いて言えば、『栄光のレイシリーズ』その原点にして頂点。初期型レイを持つ人だ。あの人がチャンピオンにならなかったら、レイはシリーズ化しなかったかもな」
「……レイシリーズの原点」
 突然、ポケットの中に収まったアルファ・レイが存在感を増したような気がした。
「じゃ、はいこれ」
 カレンさんは、自分のケータイを俺に渡してくれた。スマートフォンってやつだ。映し出されたのは、空母のホロセウムで向かい合うカスタムロボ二体。片方は、緑のヘルメットみたいなのを被ったメガネをした小さなロボ。
「リトルレイダー型のロビンだ。地上でのスピードは全ロボ中トップクラスのロボだな」
 そのロビンの前に立つロボは、アルファ・レイと似たような赤いツンツンと逆立った髪の、青年型ロボ。
「こっちが、ユウキさんの使う初代レイだ」
 そのレイを見た瞬間、全身に鳥肌が立った。圧倒的存在感。そこだけ空気が壁と化したような、他を寄せ付けない迫力。
「す……げえ」
 その呟きと同時に、バトルが始まった。
 まずはロビンが横にあった木箱の裏に隠れた。そこから、ロビンはレイに向かって箱越しにガンを構えた。
「それじゃ当たらねーんじゃ……」
 しかし、俺の心配は杞憂だった。そのガンから放たれた弾丸は、上に飛んでから方向転換し、レイに向かって行く。
「なんだあのガン!」
「バーティカルガンだ。上と前に飛ぶ弾丸が特徴で、ああいう奇襲に使えるんだ」
 アキラが呟くと、その弾丸をレイはサイドステップで避け、ボムを放った。箱にぶつかったそれは爆発し、爆発がさらに少し前で起こり、ロビンがそれに打ち上げられた。
「ディレイボム……二段階の爆発と、相手を上に飛ばす爆風が特徴だ」
 ……そして、ここからがユウキさんの真骨頂。
 アキラが言うと、画面の中のレイは、打ち上げられたロビンに銃口を向けた。そのガンはやたらと銃身が長く、スコープもあることから、スナイパーガンであることがわかる。
 そのスナイパーガンから放たれた弾丸がロビンを撃ち抜き、ロビンはホロセウムのバリアに弾かれレイの元へ飛んでいく。そして、レイはさらにポッドを撃ち、ロビンを打ち上げ、再びスナイパーガンで撃ち抜いた。


 動画はそこで終わり、俺達はしばらく、呆然と真っ暗になった画面を眺めていた。
「……すげぇ」
 相手からの反撃を許さない完璧な勝利へのタクティクス。さすが『栄光のレイシリーズ』の原点にして頂点のチャンピオン。
「どう? これがコンボってやつよ」
 俺の手からスマートフォンを取るカリンさん。凄すぎてなにから言及したらいいのか、さっぱりわからない。
「その顔は、レベルが違うって顔だね」
 頷く俺達。
 正直、『チャンピオンって言ったってそんなにすげーってもんでもねえだろ』とか思ってたんだが。
「まあチャンピオンだから、レベルに差があるのは当たり前。さっ、練習練習! ――っと、そうだセイジくん、カスタマイズ困ってるなら、これあげるよ」
 はい、とデータチップを三枚俺にくれた。『3ウェイガン』『ストレートボムS』『フォーミュラレッグ』と書かれている。
「その3ウェイガンはね。私愛用のガンなの」
「え~。3ウェイガンは攻撃力弱いじゃないですか」
 アキラの言葉に、俺は「そうなんですか?」とちょっとだけ不安になる。攻撃力高い方がいいよなぁ、男の子としては。
「話を聞いた感じ、セイジくんは射撃に難ありな感じなのよね。本当はホーミング(追尾)機能の高いガンを渡したいんだけど、そういうのは大概弾速が遅いから、セイジくんには使いこなせないかなと思って」
「あーなるほど……。確かに、ドラゴンガンとかホーネットガンとか、弾速遅いですからね」
 なんだドラゴンガンて。すげー心ときめく響きじゃねえの。いつかほしいな。
「まあそんなわけだからさ、大会ではこれも使ってカスタマイズ考えてみてよ」
「そうですね……ちょっと考えてみます」
 三枚のデータチップをキューブに差し込む。『登録完了』というアナウンスを確認し、さっそく装備して、俺はアキラとの特訓を始めた。



  ■


 そして来るは日曜日。
 ロボステーションは、たくさんの人で賑わっていた。前に来た時も結構賑わっていたのだが、今は壁際にギャラリーと思わしき人達が溜まっている。
 ちなみに、俺を含めて参加者は十六人。五回勝てば優勝ということになる。 参加者の中にはゴウタはもちろん、アキラとミズキがいる。
 その参加者は皆、それぞれ一回戦のホロセウムにスタンバイし、あとは開始を待つばかり。
「さぁ、いよいよ始まりまぁすッ! 毎月恒例サンデーマッチィッ!!」
 突然、ホール内によく通る高い声が響いた。その声の主は、ホールの中心に立つロボステーションの職員らしい。マイクを持ち、興奮に満ちた表情で叫ぶ。
「今回の優勝商品は強者達が集う戦いの祭典、『アヴァロン』の出場権!! カスタムロボの大会としてはグレートロボカップに次いで権威ある大会。その出場権はコマンダーなら喉から手が出る代物だぁぁ!!」

 職員が叫んだ瞬間、会場の俺以外が呼応するみたいに叫びだした。会場が声で揺れる。すごい熱気。

「それではぁ!! サンデーマッチ、開幕です!!」

 その合図と同時に、参加者達は自分の前に置かれたホロセウムデッキに、キューブを投げ入れる。俺もそれに続こうと、キューブを投げるモーションに入ろうとしたのだが、突然俺の対戦相手が笑い始めた。
「がぁーっはっはっはっはっ!! 運のないやつめ。一回戦から俺様に当たるとは……。最強のコマンダー、フカシ様が叩き潰してくれよう!!」
 そいつは、赤いニット帽と、赤黄の順番に連なったボーダーのセーター。紫色の七分丈ズボンを穿いた小太りの男。多分二十代前半だが……。どうもテンションがおかしい。なんて落ち着きのない二十代だ。
「フカシさん……ね。最強だって言うんなら、『元気印のコマンダー娘』の一番弟子である、この俺を倒してみろ」
「ふっ。楽勝なのだ!」
 俺達は、同時にキューブを投げた。
「行くのだドデカン!!」
「駆け抜けろ! アルファ・レイ!」



 ホロセウムは砂漠。何本かの白い柱が立っているだけの寂しい場所。その真ん中に、二体のロボが立った。
 フカシさんのロボは、体型から察するにファッティバイス。名前はおそらくドデカン。ほとんどフカシさんと同じ姿をしている。
「さぁ、俺様行くのだ!!」



  ■


「彼があの、アルファ・レイの持ち主……」
 薄暗い部屋、たくさんのモニターが並べられている、監視カメラのモニタールームらしい。そこには、フカシと戦うセイジが映っている。
 モニターを前にしたその女性が、独り言のように呟く。
「そっ。私が選んだ子よ」
 女性の隣に立つカリンは、胸を張る。
「確かに初心者にしては動きがいいですわ。……ですが、本当に良かったんですの? 初心者に持たせて」
「いいのよ。……最初はちょっと不安だったけど、あの子なんだか、ユウキに似てるのよね。……カトレアもそう思わない?」
 カトレアと呼ばれた女性は、小さく鼻で笑い、呟く。

「さぁ、どうでしょう?」
5

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