「ブライトか……珍しいロボ使ってるのね」
カリンさんはそう言って、まじまじとカズマの手に握られたブライトを見る。その視線はエンジニア魂で燃えているのか、やけにキラキラしている。
「そんなに珍しいロボなんですか? あのロボ」
「なんかの雑誌の抽選限定だったかな? なんにしても、使ってる子はほとんどいないけど」
そういうロボか。
確かカリンさん曰わく、ガンの使い方が上手いんだったよな。まあ本人もロボもカウボーイみたいだし、聞かなくてもなんとなくわかるな。
「ガンの使い方を教えてあげよう!」
「駆け抜けろ! アルファ・レイ!!」
俺とカズマは同時にキューブを投げた。
ホロセウム中央に立つカウボーイ型ロボ、ブライトと俺、アルファ・レイ。
戦うフィールドは荒野の中に広がる無数のコンテナ地帯。
俺はまず、背中のミサイルポッドから真っ直ぐに飛ぶミサイルを放つ。そのミサイルは、ブライトの目の前で爆発し、やつは顔を庇う様に腕をクロスさせる。
「……ん?」
爆風が収まった瞬間、やつはキョロキョロと首を動かした。俺は、奴の後方のコンテナの影に隠れた。正面から突っ込むだけが能じゃないのだ。俺だって、一戦ごとに学んでる。やつは完全に俺を見失っている今がチャンス。俺は空中に向かって飛び出し、やつの真上から、3ウェイガンを連射してやった。
「うるぁぁぁぁッ!!」
まさに雨の如く。
気づいた時には撃たれている。
そのはずだったのに、ブライトは俺が空中に出た瞬間、バックステップ。そして、空中に向かってガンを構え、ブライトの放った炎の弾丸が俺を焼き尽くす。
「ぬぁ!?」
弾き飛ばされ、地面に着地する俺。攻撃力が高いのか、結構ヒットポイントを持っていかれた。
「いや、そんなことじゃない。あいつ。俺を見失ってたのに、気配を読んだみてえに反応しやがった……」
ヤツは、人差し指を左右に振り、挑発するようにほくそ笑んで指で被っていた帽子を弾く。
「俺に奇襲は通じない」
それだけ言うと、俺に向かって走り出した。迎撃しようと3ウェイガンを連射するが、ヤツは華麗なフットワークで躱し、最後に俺が放ったボムは、ジャンプで躱し、俺の真上でガンを撃ってきた。
しかし、先ほどのブライトのように上手く避けることができず、足に食らってしまった。
「――でも、隙だらけだ!」
着地する瞬間は、すべてのカスタムロボに隙ができる。ブライトも例外ではない。背中を向け、着地しようとしているブライトへ向け、3ウェイガンを放った。
「甘い」
そう言って、ブライトは後ろ手にガンを構え、俺の3ウェイガンを、ヤツに直撃しそうな弾丸だけ撃ち落とした。
「はぁぁぁぁ!?」
俺の驚きとは反対に、悠々と着地するブライト。
「俺にガンは通用しない」
自信満々に、一片の曇りなく言い放つブライト。それが自信過剰ではないと納得せざるを得ないとは、なんとも悔しい状況だ。
「さっすが、ガン・マスターと呼ばれてるだけあるわね」
「……は?」
突然、カリンさんがワケのわからんことを言い出し、俺は全身の関節に異物が挟まったみたいに固まってしまった。俺がガン・マスターなんて呼ばれた覚えはないので、推測するにカズマがガン・マスターと呼ばれているということなんだろうが。
「あなたのような美しい女性に知ってもらえてるとは、光栄です」
「美しいだなんて、光栄だわ。――セイジくん、ガンが効かないなら、相手より優れている物で勝負するしかないわよ」
相手より優れている物?
それ、なんですか? それを訊こうとした瞬間、ブライトが炎の弾丸を俺に向かって撃ってきた。
「うわったった!!」
俺はなんとかそれを躱し、コンテナの影に向かいながら3ウェイガンを撃つ。やっぱりというか、ジャンプで躱され、さらにポッドを放たれ、俺の退路を阻まれた。
――明らかにすべてのパーツを使いこなしてやがる。抜け目がない。尊敬するよ、くそったれ!
「俺があいつより優れてる所なんて、あったかよ……」
いや、諦めるな俺!!
考えろ考えろ! 人間の知恵とは困難に直面した時の為に神が与えた財産なのだぁぁ……!!
初心者の俺が、格上相手にどう勝ってきたか。
「……うしっ、やるか」
覚悟を決めた俺は、ブライトの正面に出て、中腰になる。
「やられる覚悟ができたかい?」
ブライトがガンを構えたのを見て、俺は走り出した。俺の履いてるレッグはフォーミュラレッグ。走るスピードがアップするレッグだ。このレッグで、正面突破する!
「うだうだ考えても仕方ねぇぇぇ!! 知恵なんて神の野郎がくれやがった呪いなんだよぉぉッ!!」
「なにをワケのわからないことを……」
ブライトは、まずポッドを放つ。二つのミサイルが俺に襲いかかってくるが、なんとか躱してみせた。あまりホーミング性能が高くなくて良かった。
次にボム。まっすぐこちらに向かってきて、足元に落ちてきた。しかし、爆発する間際、俺はジャンプし、その爆発も躱してやる。
もともとアルファ・レイは空中戦が得意なロボなのだ。空中から一気に近づいてやる!
「ちぃッ!」
そしてついに、ブライトは俺に向かってガンを撃ってきた。迫り来る炎の弾丸を、俺は空中ダッシュで躱す。やっと隙の多いガンを撃ってくれた。
「さっきのお返しだぁ!」
空中から、最初にやったのと同じように、3ウェイガンを放った。
「ぐっ……!!」
直撃し、吹っ飛ばされたブライト。俺は追い討ちとばかりに、ヤジューポッドを放つ。
野獣と化したミサイルが、ブライトを追い、爆発。牙がブライトを捉えたのだ。
「ぐっ……くそっ……。ここまで追い詰められるか……」
俺を睨むブライト。だが、そんな視線などお構いなしに、再び特攻。奇襲が通じないっていうなら、真正面から行く。俺の残念な頭ではそんな程度の作戦しか思いつかないのだ。
「正面から突っ込むだけでは、俺を倒せないぞ!」
「んなこたぁわかってらあ!」
俺は、ブライトの少し前でボムを爆発させる。
「また奇襲か……!」
「うるぁぁぁぁ!」俺は、ボムの爆風を真っ直ぐ突っ切って、ガンを放つ。正面から出てきたことについて、多少驚きはしたものの、さすがはブライト。すぐにガンを躱し、空中へ。
「ガン喰らって余裕なくなったんか? うかつに空中出るなんて、お前らしくねえなあ?」
と、俺はボムをブライトに向かって構えた。
「しまっ――!」
そして俺は、ブライトに向かってボムを放った。
■
俺たちの意識はロボから離れ、身体に戻った。
『第二ホロセウム準決勝決着ぅ! 激闘を制したのは、期待の新星! セイジ選手だぁぁぁぁッ!!』
俺は、肺の底に溜まった淀んた空気を換気するように、ため息を吐いた。目の前に立つカズマは、ブライトを回収し、俺を見て微笑んだ。
「初心者だと思ってナメていたようだ。――いいバトルだった」
「そっちこそ。ぶっちゃけ勝てるとは思わなかった」
というか、実際ガン捌き、ガンの対処法、すべて俺より上手だった。なのに勝てたのは、カスタムロボがガンだけの戦いではなかったから。
「俺は試合には勝ったけど、勝負には負けた。次やるときは、ガンで圧倒してやるからな」
カズマは、ふっと鼻で笑うと、背中を向け、帽子のつばを指で弾く。
「その言葉、そっくりそのままお返しするぜ。」
と言って、離れていくカズマ。しかし、思い出したかの様に振り返って、「ああ、そうだ。これをやるよ」と、俺に一枚のチップを投げ、観客達の中に消えていった。
「すごいわねえセイジくん。まさか決勝まで来ちゃうなんて!」
カリンさんに肩を組まれ、「恐縮です……」と思わず小さな声で言ってしまう。ガラにもなく照れてしまったのだ。なにせ、小さな大会とはいえ、結構な強豪達とひしめき合い、しかも決勝に出れて、ミズキとの約束を果たせたのだ。
「……で、カズマくんからなんのチップもらったの?」
俺は、手の中に収まっていたカズマのチップを見る。そこには、『フレイムガン』と書かれていた。
「さっきカズマくんが使ってたガンね。これは射程が短いけど、射程ギリギリで当てると攻撃力が上がるのよ」
なるほど。これは役に立ちそうだ。俺はすぐにキューブへデータチップへ差し込む。すると、『フレイムガンを登録しました』とアナウンスが流れた。
「じゃあ、ミズキちゃんと決勝ね。第一ホロセウムだから」
「ういっす!」
俺たち二人は、ロボステ中央にある第一ホロセウムへと向かった。そこにはすでにミズキがいて、腕組みをして待っていた。俺が目の前に立つと、口元がにっこり微笑んだのがわかる。
「おまたせ」
腕を軽く挙げ、やつの前に立ってみせた。
「遅い。あの程度、30秒で充分でしょ」
「お前……あいつめっちゃ強かったんですけど……」
こいつどんだけ自信家なんだよ。ここまで来ると、なんかもう勝てないんじゃないかとさえ思えてきた。俺だって、カズマ相手にはヒットポイント残り百くらいでやっと勝てたんだからな。
俺はチラリとホロセウムを見た。今回戦うステージは、ケーキの上。中央に一本のろうそく、周りにはいちご。なんともファンシーなステージだ。
「今回は氷じゃねえ。この間みたいに氷結の舞はできねえぞ」
「ふふっ……」
「――なにがおかしいんだよ?」
ミズキは、わざとらしく肩をすくめた。完全に馬鹿にされてるぞ俺。
「私の氷結の舞が、氷のステージ限定だと思った? カスタムロボは、すべてのホロセウムに氷があるわけじゃないのよ?」
「へえ……そうかい」
言いながら、俺はキューブの側面にあるボタンを推し、空中にウインドウを展開させ、手持ちのパーツからアルファ・レイをカスタマイズしていく。フレイムガン、ストレートボムS、ヤジューポッドF、フォーミュラレッグをアルファ・レイに装備させる。
「さあて。決着をつけようぜ! ミズキ!!」
俺たちは、ホロセウムに向かって同時にキューブを投げた。
「駆け抜けろ! アルファ・レイ!!」
「真・氷結の舞、見せてあげる!」