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2-3  『戦闘員の日常』作・ミハエル先生

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『戦闘員の日常』



 俺の名前は田中 正義、悪の組織で戦闘員をしている。役職は主にお茶汲み、掃除、資料の整理……、要するに雑用だ。一応、戦闘員枠で組織に加入したは良いが、直ぐに強化人間! って訳には行かない。現実は厳しい。

 この組織はヤクを作ってる。覚醒剤やヘロイン、コカイン、ナーコティック。でも、それだけじゃ無いみたいだ。俺は戦闘員だからな、科学者連中のやってる事は判らない。でも、多分スゲー悪い事してるんだと思う。俺の予想だと、世界中の人間を何とかしちゃう程の威力のある何かをこう……。何か……。そのー、あーだこーだして……。糞、難しい事考えすぎて頭がパーになりそうだ! とにかく! 絶対ヤバい事に決まってる! 悪の中の極悪! 最悪! 大悪人! あぁもう興奮しちゃうなぁ!!

 でもやっぱり俺はまだ雑用。

 くっそぉ、こんな事やってねぇで早く改造して欲しい! そうすりゃあ俺だって、ちょっとやそっとの攻撃にも耐えられる、筋肉もりもりの、無敵の超人になれるんだ!
 いや、俺ならそれ以上にだってなれる筈だ。 銃を撃たせりゃ百発百中! 走れば100m走で5秒出せるぐらいの規格外のハイ・スペックさ!
 そーしてよ? 組織の先輩達から素質を見込まれて、科学者連中にも「こんなに潜在能力の高い人間は初めてだ」とか言われて、一気に組織に名前が知れ渡る! そんでもって、ボスに声を掛けられて……、「お前、かなり出来るらしいな。どうだ、今研究が進んでいる新しい強化人間の第一号にならないか?」って言われちゃったりして……クゥゥゥゥ!!! たまらねぇよ!!!

 でも、俺は雑用。

 銃もまだ触らせて貰えないし、ボスの顔も見た事ないし、そもそもボスが居るのかどうかも知らないし、奥の部屋にも入れて貰えないし、鳥目だからいつも何かにぶつかって怒られるし、足遅いし、鈍臭いし、中肉中背だし、名前が正義だし、彼女居ないし、童貞だし……。

 ……なんだか気分が落ち込んできた。

 あぁー、入った頃は良かったなぁ。期待に胸を膨らませて、明るく挨拶なんかしちゃってさ。若かったなぁ、あの頃は。ガキのまんまだったよなぁ。

 ……ガキかぁ。懐かしいなぁ、ロクゲンレッド。

 俺が悪人に憧れたのは、言ってしまえばあの野郎のお陰だよなぁ。いっつも馬鹿でよぉ、大事にしてたガキ連れ去られて、何度目だってんだよ。それで戦闘シーンになる。飛び出す戦闘員。黒いタイツに身を包んで、躍り出る姿。

 あぁぁぁん、もおおぉぉぉ、たまらない!!!!!!!!

 ガキを背にして、レッドの野郎があたふたする。
 それを戦闘員が……。

 じわじわ……。


 じわじわ……。



 じーわじーわじーわじーわ、追い詰める……。




 今だ!
 やれ!
 そこだ!
 ちげぇよ右!
 右みぎ!
 おっしゃ入った!




 戦闘員つえぇぇぇ!!!!

 








 って、思ってたんだけど……。


 







 なにこれ。
















 数十分前。

 俺がお茶を汲んでると、急に警報が鳴り出した。俺はビビってお茶をこぼしてしまった。こんな警報聞いたの初めてだった。
 科学者連中の実験が失敗して、非戦闘員全員退避! なんてのは良くあるけど、この警報は聞いた事がなかった。先輩達が血相を変えて武器庫に向かう。「何があったんスか?」って聞いても、誰も教えてくれない。くそ、新人だからって馬鹿にしやがって! 俺だって戦闘員枠で入ったんたぞ! ぢぐじょー! 

 俺だって……。

 俺だって銃持てば戦えるんだ!
 
 俺は先輩の後ろをこそこそ付いていって、銃を盗んで、後ろから付いていった!

 ……でも、途中で頭からスッ転んで、気絶しちまった。足元が暗すぎなんだよ、このアジト。もっと非戦闘員でも動きやすい様に、明るくバリアフリーに……。

 非戦闘員って認めちまった……。
 でも、仕様がねぇよ。だって本当に……。いや、この話はよそう。

 とにかく、俺が目を覚ますと、警報も止まってて、静まり返ってたんだ。

 通路に出てみると、異臭が鼻をついた。廊下の床になんか、小山が転々と続いているのが、鳥目の俺でも薄っすら判った。何だろうと思って触ってみたら、凄いヌルヌルしてる。やっぱり科学者連中がなんかやらかしたのかなって思いながら、ヌルヌルの中から指に当たった丸い何かを、何気なく取り出した。

 目だった。

 小山は、惨殺された死体の塊だった。



 俺は……。



 
 それに気付いてしまった、俺は……。










 超がっかりした。

 

 なんだよー、そういう事かよー。

 多分あの警報は侵入者を告げる物だったんだな。そして先輩方々が総出で戦ったけど、結果惨敗。
 あーぁ、組織選び失敗したなぁー。まさかこんな、雑魚の巣窟だったなんて。
 この組織は俺以外全滅したんだと思う。こんな雑魚軍団と一緒に心中しないで済んで、本当に良かった。俺は幸運の持ち主なんだな。

 とりあえず俺は手を洗った。自分のロッカーの私物を一通りまとめて、顔洗って着替えて、歯磨いて辞表を書いて、アジトを出た。

 ――ふっ、また無職か。

 でも、いつかBIGになってやる。世界最強の悪の組織に入って、そして……

 「世界征服、やったるでぇーーー!!!」

 俺は昼間だった事を忘れて叫んでしまった。
 誰かに顔を見られない内に、そそくさと家に帰る事にした。
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