番外のコクリちゃん
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コクリちゃんは待っていました。相手は吹奏楽部のちょっと勝気なトランペット吹きのユミリーちゃん。
ユミリーちゃんはさっぱりとしたショートでちょっと赤みがかった髪の毛をいつも「えいえい」といじっています。
コクリちゃんはそれを見てるのが大好きで、いっつも見ていました。
今日はそれがとっても近くで見れると思うと、コクリちゃんはたまりません。
胸の鼓動がどくどくんって、メロスピだってそんな早く叩かないだろってぐらいにダブルキックをかましてくれます。
あんまり早いものだから、コクリちゃんは興奮してきちゃいました。
興奮してきちゃって、その場で座っていることもできなくなって、ベンチから立ち上がって足踏みを始めました。
とん、とん、とん
コクリちゃんの今日の髪型は、長いブロンドヘアをそのまま肩に流した無造作モード。
「はっ、はっ、はっ」
ちょっと上を向いて、まだ寒い2月の空に向かって桜色の舌ををぴょこっと出します。
ちょっと何かがたれたけど、気にしません。
それもこれも、ユミリーちゃんを待つため。ささいなことは気にしちゃだめなのです。
ユミリーちゃんがやってきたら、だきっ、とするのが一番なのです。
「はっ、はっ、はぁ……はぁ……」
でも、ユミリーちゃんは中々きません。
だらん、と上半身をゾンビみたいに垂らして、コクリちゃんは腕時計を見ます。
やくそくの時間を、もう13分も過ぎてました。
(ユミリーちゃんは、忙しいのかな)
コクリちゃんは考えました。それとも、もしかしたら違う誰かと口を重ねてるのかもしれません。
部活動が終わって、ヘトヘトになったユミリーちゃんが、涙を貯めて、でもうれしそうにしてる。
そんな光景が目に浮かびます。
でもコクリちゃん、めげません。むしろ笑います。
「にひひっ、にひっ」
めっちゃ笑ってます。なぜでしょう。
「ユミリー、ちゃああん!」
突然叫びました。コクリちゃんの小さな口から、みずたまがちょっと飛びました。
コクリちゃんはまたベンチに座って、足を抱え込んで、ゆらゆらと揺れています。
「ふに~」
大丈夫でしょうか、コクリちゃん。なんだか、様子がおかしいです。さっきからですけど。
(ユミリーちゃん、おしおき、いっぱいできるネ)
コクリちゃんは、考えてました。
遅れてきた、ユミリーちゃんのおしおきを。
とっても、たのしくて、とろとろな、おしおきを。
嬉しいのです。コクリちゃんは。ユミリーちゃんともっと近くなれる。一緒になれる、って考えてるのです。
だから、コクリちゃんは、ユミリー、ちゃんが「遅れてごめんねー」と走ってきた時
「ありがとうっ!」
と、満面の笑みを浮かべたのでした。
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