第四話「身体検査」
身体検査、それは恥辱。
身体検査、それは露出。
身体検査、それは検査。
身体検査、それはそれはもうそれは。
というわけでペタンのクラスにも身体検査の順番が回ってきた。季節ごとに行われるそれは、人前で裸体を開陳出来るという意味ではペタンの露出趣味にどストライクにも一見思えるのだが、実態はその逆であった。
定められた露出に何の意味があるのだ。
女達の前にさらけ出してどうなるのだ。
自分よりどうして皆胸が大きいのだ。
そんな気持ちに襲われて、高まるリビドー、浮き上がるはずの乳首もどこか宙ぶらりんになって、濡れそうで濡れない股間を抱えてうずくまりながら「どうしたの? 気分悪いの?」と心配されながら「ううん、胸が小さいの」とぽつりと呟くくらいしか出来ない、それが身体検査時におけるペタンのいつもの態度であった。
しかしいつまでもクラス一、学年一、町内一の貧乳の身であり続けたペタンは、この拷問に対する復讐案を思いついてもいたのだった。
通常、検査結果は一枚のシートに記されていく。
胸囲:86
カップ:D
感度:72
柔らかさ:69
などなど。もちろん胸に関すること以外、身長体重座高経験人数など、保険医の長谷川ギルガメッシュ(三十五歳バツ三淫乱女性、男でも女でもOK)に調べられ、女生徒達の全貌は余すことなく晒される。
そこにペタンは目を付けた。
通常なら調べられることのない項目、つまりは股間部分、検査時においても脱がされることのない聖域という名のサンクチュクチュクチュに踏みこむように仕向けた。身体検査前夜にこっそりと保健室に忍び込み、検査シートの全てに「クリトリスのサイズ」の項目を付け足した。これならば、勃起した際のクリトリスの大きさにはそこそこ自信があるペタンにとっては、クラスの皆に自慢出来る要素となる。何よりクラスメイト達が顔を赤らめて股を広げてパンツをずらし、包皮からクリトリスを露出させる様を眺められるというのは、本格的なレズ趣味がないペタンにとってすら悦びであった。これを機に露出癖を持つ仲間を見出せたなら、複数による露出プレイも可能となる。男装趣味の自分の横に彼女のように寄り添ってくれるのは誰か、なんて夢想をして、忍び込んだ保健室の中で一人潮を吹いたりした。
「じゃあ次、クリトリスのサイズを測るわね、今回から始まったらしいわ。私全然聞いてないけど、まいっか、クリトリス出して、ペタンさん」
保険医といえども所詮は学校という名の牢獄の看守に過ぎない。上から与えられた責務となればどのような不可思議な仕事であろうと首肯して遂行する。精密にプリントされたものでなく、明らかに手書きでシートに付け足された欄でさえ、ギルガメッシュは疑うことをしなかった。
出席番号でも背の順でもなく、何事も胸の小さい順で始まるこの学校では、もちろんペタンが先頭だった。
「はいちょっとパンツずらして、あ、先生が剥くわね。ちょっと大きくするけど緊張しないで。何も恥ずかしいことなんてないから。誰だって通る道だから。だからせめて先生が優しくしてあげる。好きだの嫌いだの無理に考えたりしないで、黙って目を閉じて、ゆっくりと息を吐いて、全てを任せて」
そんなこんなでペタンはイった。
自身の番を終え、さてこれからじっくり鑑賞タイム、とペタンが思った時、異変は起こった。自分よりほんの僅かだけ胸が大きい生徒、吉永ザッツライトのパンツをギルガメッシュがずらした時、悲鳴があがったのだ。
「じゅ、14cm? いや、これはクリトリスじゃない、ちんちんだわ!」
ザッツライトが座って股を広げていた椅子をくるりと反転させ、ギルガメッシュはザッツライトの開かれた股間を級友達に見せつけた。そこにはちんちんがあった。そこには高くそそり立つちんちんの姿があり、どこにもまんこは見当たらなかったのだ。
ペタンにとってその光景は何故か「いつか見るはずと予期していた」という既視感を伴って見えた。男装趣味の自分がいつか正体を暴かれる、そんなそう遠くない未来の姿を反転させたものが、今目の前に現れたと感じていた。
ただしザッツライトはペタンのような少年風の女子高生などではなく、胸が小さいこと以外は欠点などない正統派美少女で、クラス内での男子からの人気も常にナンバーワンという、いわば別格の存在なのであった。
そんなザッツライトが実は男だった。
その驚きは他の生徒だけでなく、特別な意味でペタンの心を貫いた。まだ彼女はその衝撃につけられるべき名前を知りはしなかったが、それが「初恋」と気付くまでにそう時間はかからない。
吉永ザッツライトは男子からだけではなく女子からの人気も獲得しながら、今日も女生徒の格好で退屈な授業を受けている。その横顔を遠くから眺めるペタンは胸に痛みを抱えていた。
ザッツライトの股間を見た日の夜、ペタンの胸は0.01mm成長した。