蝋燭の薄明かりだけが照らしている廊下を進んでいくと、やがて一つの部屋にたどり着いた。カエルは部屋の前で足を止め、深く深呼吸をして、わずかに乱れていた呼吸を整える。
分厚いオーク材の扉越しには、恐ろしいほどの殺気が漂ってきていた。部屋の中に化け物がいる。歴戦の戦士だけが持ち得る感覚が、そうカエルに教えていた。
いつでも剣を抜ける体勢を取りつつ、カエルは用心深く扉を押し開いた。
しかし、意外なことに部屋の中はもぬけの空であった。何もない広い室内を、部屋の角に設置された蝋燭が照らしている。
――存在を隠す気があるのか、ないのか。
醜悪な口元を引き攣るように歪ませて、カエルは無言で剣を引き抜いていく。それが合図だったかのように、部屋の中央から気配が生じた。まるでそれは闇から滲み出ているようだ。漠然としていたその輪郭が、徐々に人型のそれへと変じていく。
現れたのは手に長刀を携えた一匹の魔物。
人間の老人にも似た風貌のその魔物は、静かな眼差しでカエルを見据え、眼前に刀を掲げていく。
「死ににきたか」
「さて」
会話する気など毛頭ない。カエルは黙って剣を正眼に構えた。
「ふん」
魔物が鼻を鳴らす。そして一瞬にして静と動が切り替わった。ひと息に抜きつけられた魔物の長刀が、薄闇の中で火花を散らした。風切り音を纏わせながら迫る白刃を、カエルの剣が受け止める。重い一撃だ。わずかに身体が沈み込み、両腕の筋肉が緊張する。
そして、しばしの鍔迫り合いが起こった。腕力は互角。一瞬の気の緩みが命取りになる。
「止まっていては面白くないな」
魔物の方から先に引いた。それを猛追したカエルの剣を受け流し、返す刀でカエルの首を薙ぎにくる。
「チッ」
室内に紫色の体液が飛び散る。薄皮一枚を切り裂かれた。
床に飛び散ったカエルの体液を見て、魔物の顔が恍惚に歪んでいく。剣速がさらに増した。迫りくる白刃が蛇のような執拗さで急所に迫った。
激しい金属音がする。迫る刀と受ける長剣が何度も交差した。薄暗い室内に火花が乱舞する。カエルは間一髪で致命傷だけは避け続け、何とか反撃の機会を窺おうとする。
――腕力は互角。剣の速度は相手が有利。だが得物の威力はこちらが上か。
頭の中で状況を分析し、カエルは行動に移した。
ザシュ! カエルの剣の一振りで、凄まじい衝撃波が、魔物のすぐ横をかすめた。
「やるじゃないか! だが、確かにニルヴァーナスラッシュの威力は上がったが、その程度ではワシは倒せぬぞ」
「馬鹿野郎が」
グランドリオンを肩に担ぐようにして、カエルは魔物を睨み据える。
「今のはニルヴァーナスラッシュじゃねえ、ただの剣圧だ」
「なに、何なんだ! この威圧感は!」
「ニルヴァーナスラッシュ!」
魔物の身体は吹き飛んだ。