MTGからはなれて筆者があらたなる環境に四苦八苦しているあいだ、テリシアに発してドミナリアをつつみこんだ狂気の権化たるウルザ・ブロックもまたスタンダードを去った。「MoMaの冬」を筆頭にDCIの緊急声明や〝社長室への召集〟などネガティブな話題には事欠かないこのブロックだが、いっぽうでフォイルの登場やフォントの変更などMTGそのものにも大きな変革をもたらした。ひとつの戦争をひきおこした男は同時にひとつの戦争を終結させたのだ。
とはいえこのサイクルが現在における異様なまでのクリーチャー偏重な環境を生みだす大きな要因のひとつになったことはまぎれもない事実だ。2つの〝アーティファクト〟による致命的なあやまちを経たR&Dはスタンダードからコンボデッキを排除し、クリーチャー以外のカードパワーを全体的に落として積極的な戦闘を推奨し、さらにカウンターやマナ加速を弱体化させることで健全(とされる)な環境を実現させた。いまやMTGの主役は《変異種(US)》や《ブラストダーム(NE)》がかすんでしまうほど強力なクリーチャーたち(もはや《アーナム・ジン(CH)》のことなどだれもおぼえていまい)と《選ばれしものの剣(ST)》がなまくらにみえるほど充実した勇ましい装備品であり、もうソリティアも神経衰弱もMTGのトレンドではないのだ(それでも《中断(WL)》を撃ちあったり《政略(MI)》で《Kjeldoran Outpost(AL)》をうばいあったりしたいという人は定期預金を解約してヴィンテージに参入することをオススメする)。
だが光あるかぎり闇もまたあるように、マローがいるかぎり悲劇はまた起こりうるだろう。それをとめる手だては残念ながらいまのところない。せめて筆者にできるのはその功罪をここに記していくことだけである。この告発によってひとりでも多くのプレイヤーにウルザ・ブロックがいかなるものであったかを知ってもらえることをねがう。
〈ウルザズ・サーガ〉
・《セラの抱擁(US)》
どんなクリーチャーでもかつて空の支配者だった《セラの天使(4th)》になれるコスプレ衣装。《天使の運命(M12)》とくらべてみると当時クリーチャーがいかに冷遇されていたかがわかる。
・《要撃(US)》
エラッタがでるまで白い火力として大活躍したインチキカード。これを使用した「ホワイト・ライトニング」がコンボデッキのあばれまわるアメリカ選手権99を制しており、当時の混沌さを伝えている。
・《栄光の頌歌(US)》
自分専用《十字軍(6th)》。だれも〝頌歌〟を読めず、もっぱら〝アンセム〟と呼ばれていた。
・《オパールの大天使(US)》
かなり条件のゆるい《大天使(6th)》。しかし当時はクリーチャー呪文を唱えないデッキが横行していたのでただの豪華なオブジェとして場のすみにかざられていた。
・《セラのアバター(US)》
登場時のインパクトはすごかったが、けっきょくコンボパーツにすぎないことが判明した擬似生物。基本セット2013で再録されるがいまのところ大会での目撃情報はない。
・《セラの伝令(US)》
筆者が「青白レイディアント」で重用していた天使。エコーなので隙が大きくデッキにアジャストしていたとは言いがたいが、使いたかったのでよし。
・《崇拝(US)》
白お得意の黒赤いじめカード。白ウィニーの友人にこれを張られるとマジでゲーム終了だったので筆者はパックから引いたこれをその場でやぶりすてた。
・《尖塔のフクロウ(US)》
青によくあるライブラリー操作内臓の軽量飛行クリーチャー。あまったカードでとりあえず青いデッキを組もうとするとついいれたくなってしまうカワイイやつ。
・《巻き直し(US)》
供給過剰だったカウンター群の1枚。ほかにもっと優秀なカウンターがあったのでフルパーミッション以外ではほぼみかけなかった。
・《意外な授かり物(US)》
ウルザ・ブロック禁止カード先鋒。「MoMa」においてなくてはならない大切な存在。《時のらせん(US)》とともに「かんたんにカードが7枚引けちゃう超お得クーポン」として多くの青プレイヤーをくるわせた。
・《隔離(US)》
一見して青版《ハルマゲドン(5th)》にみえるがじつはやはりコンボパーツ。R&Dはこれを使った青ウィニーでも期待していたのだろうか。
・《実物提示教育(US)》
ふつうに使うとメリットとデメリットを天秤にかけながら相手と駆け引きできるおもしろい1枚だが、やっぱりコンボデッキに悪用されてなんの教育にもならないカードとなってしまった。下の環境のせいか最近やけに価格が上昇している。
・《調律(US)》
「補充」のパーツ。この圧倒的なコンボデッキ専用ですよ感が逆にいさぎよい。
・《天才のひらめき(US)》
スポイラーがでたときからトップレア候補だったXドローカード。もちろん「MoMa」で大活躍するのだが、これ自体は汎用性の高いバランスのとれた良カードといえる。だがX=100とかで撃たれるのがザラだったのでパーミッションで「あ、じゃあエンド時にX=4で4枚カード引きます」とか静かに使われるとなぜかほっとしたものである。もちろん負けにかわりはないのだが。
・《時のらせん(US)》
ウルザ・ブロック禁止カード次鋒。無料になって帰ってきた《Timetwister(UN)》としてスポイラー時からヤバイとはささやかれていたが、やっぱりヤバかった超強力スペル。こういった強力なソーサリーやインスタントはもう2度とおがめないだろう。
・《変異種(US)》
当時スタンダード最強だったクリーチャー。パーミッションでも茶単でもいける青らしい性能。マナ食い虫ではあるが、ウルザ・ブロックではマナがミネラルウォーターより安かったのでとくに問題なかった。
・《強迫(US)》
有史以前をべつにすれば最強クラスの手札破壊カード。ウルザ・ブロック当時はそれこそ絶大な効果をもたらした。クリーチャー主体の現環境でもきっと活躍してくれるだろう黒期待の1枚。
・《走り回るスカージ(US)》
黒にしてはまともな小型飛行クリーチャー。1マナゾンビにつづいてこれをプレイできれば強力なクロックをかけられる。いまならマルチカラーでメリットがついてくるレベル。
・《スカージの使い魔(US)》
おなじスカージでもこちらはコンボ用。《死体の花(MI)》の才能が開花して空を飛べるようになった。スタンダード落ち後はガンダールヴとしてハルケギニアに召喚されて第二の人生をおくる。
・《潜伏工作員(US)》
黒にありがちな一見つよそうだがデメリットが致命的すぎてどうしようもないクリーチャー。いまならこれにメリットが……さすがにそれはない。
・《ヨーグモスの意志(US)》
マローいわく〝最大のあやまち〟。土地をプレイするようにあやまちを犯す彼が言うのだからそうなのだろう。たしかに「黒コントロール」でエンドカードとして筆者になんども勝利を呼びこんでくれたが、スタンダードだと適正なつよさであったと思う。下の環境では言わずもがな。
・《ゴブリンの従僕(US)》
下の環境では《モグの狂信者(TE)》を超える最強クラスのゴブリン。当時のスタンダードでもそこそこ活躍した。このころからゴブリンはじょじょにファンデッキからトーナメントレベルに成長していく。
・《稲妻のドラゴン(US)》
ウルザズ・サーガでもトップレベルの人気をほこったドラゴン。とにかくイラストがかっちょいい。MTG史上最初のフォイルカードでもある。実用性としては4マナでエコーと当時の環境では悠長すぎたが、オンスロートあたりでなら活躍できたかもしれない。
・《精神異常(US)》
マロー渾身の自虐カード。
・《騙し討ち(US)》
「スニークアタック」のキーカード。どんなクリーチャーでも1マナでだすことができる夢のようなエンチャント。スタンダードでも強力なデッキだったが、現在はレガシーで大暴れ中。
・《燎原の火(US)》
〝りょうげん〟の火。ブッディが世界を制した「赤茶単」に使用されるとこっちの場だけほぼ壊滅する一方的なリセットカード。
・《共生(US)》
赤の《降り注ぐ火の粉(US)》とおなじく地味に使いづらいカード。だがカード名とイラストが筆者的にお気にいり。
・《飛びかかるジャガー(US)》
当時の緑のマスコット。ニャー(=^・・^=)
・《子守り(US)》
当時のごく平均的な緑クリーチャー。《アルビノ・トロール(US)》もそうだが現在ならわりと本気でエコーがなくなるのではないかと思えてしまう。
・《繁殖力(US)》
「ストンピィ」が《非業の死(6th)》のような不条理な虐殺に対抗できるエンチャントだが、もちろんそんなほほえましい使われかたはされず当然のようにコンボデッキに組みこまれた。
・《アルゴスのワーム(US)》
当初はつよすぎるとわれわれのあいだで話題沸騰だったが、いつのまにか忘れ去られたかなしきワーム。だって序盤に引けないとドローとまっちゃうんだもん……
・《ガイアの子(US)》
いまなら呪禁がついてアップキープ・コストがなくなって打ち消されない、そんなレベル。
・《無限のワーム(US)》
当時の筆者が大好きだったパワフルなワーム。フレイバーが秀逸。
・《陰極器(US)》
筆者がプロテクション対策に使っていた時期があったがよくマナバーンで自爆するのであんまり意味はなかった。いまのルールならじゅうぶん使える。
・《通電式キー(US)》
茶単デッキの高速化を支えた〝キー〟カード。アンコモンのくせに一時シングル価格がすごいことになった。
・《煙突(US)》
魔境ヴィンテージを象徴するようなアーティファクト。うまく使いこなせればこれ1枚で勝ててしまうほど強力だがそれゆえにリスクも大きい。ご利用は計画的に。
・《束の間の開口(US)》
赤茶単専用アーティファクト。能力が能力なのでコストも重いが茶単には関係なし。これがまわりだしたらほぼ負け。
・《波動機(US)》
ウルザ・ブロック禁止カード中堅。「MoMa」のせいで影をひそめていたが、予想どおり凶悪すぎてすぐにあとを追うことになった。
・《ファイレクシアの巨像(US)》
茶単系デッキのメインウェポン。マナ・アーティファクトや《修繕(UL)》から序盤にでてきたら即死できます。
・《ガイアの揺籃の地(US)》
ウルザ・ブロックの悪しきマナ加速を象徴する伝説の土地。ウルザ・ブロック禁止カード副将(ブロック構築)。白単にまで搭載されたことからもその異常性がうかがえる。
・《トレイリアのアカデミー(US)》
ウルザ・ブロック禁止カード大将。これ1枚でアメリカとさえ対等にたたかえるMTG史上最強のカード。いうまでもなく「MoMa」の中核をなす超凡なマナ加速装置で、その加速力は前述の《ガイアの揺籃の地(US)》や《暗黒の儀式(MM)》は言うにおよばず《Mishra's Workshop(AQ)》や《Mana Crypt(PRM)》すら凌駕するほどでこれにはバレンティーノ・ロッシも苦笑い。もちろん現在はヴィンテージに幽閉中。
〈ウルザズ・レガシー〉
・《ルーンの母(UL)》
いつでも筆者に対して苛烈だった良き母。いまもレガシーで元気に活躍できる長寿の秘訣をきいてみると「プロテクション」とひとこと。
・《大天使レイディアント(UL)》
お供が増えるほど存在感がつよくなるアイドル気質なお方。左右に《貿易風ライダー(TE)》をしたがえた姿は荘厳。イラストもレジェンドらしく凛々しい。
・《大あわての捜索(UL)》
「補充」などでよく使われたライブラリー操作カード。このころようやくフリースペルという試みは失敗だったことを多くのプレイヤーが悟った。
・《誤算(UL)》
汎用性の高い《マナ漏出(ST)》。イラストがコミカルで印象深い。
・《修繕(UL)》
ウルザズ・レガシーのほこる凶悪サーチカード。当時スタンダードでも青系の茶単でメインエンジンとして重用されたが、のちにミラディンの登場によって下の環境で猛威をふるって予想どおり幽閉された。《トレイリアのアカデミー(US)》といい青とアーティファクトがからむとロクなことにならない一例。
・《パリンクロン(UL)》
次世代のパーミッションのフィニッシャーとして期待されながら投入されたが、またしてもフリースペルの宿命として《巨大鯨(US)》とおなじく無限マナ生成器に。マローもようやくフリースペルの危険性をみとめる。
・《ファイレクシアの疫病王(UL)》
ウルザ・ブロックでは冷遇されていた黒で数少ない使えるキャリアー。「黒コントロール」において筆者のよきパートナーとなった。当時ドミナリアで流行したファイレクシア病の進行過程を刻々と伝える貴重な資料でもある。
・《溶岩の斧(UL)》
そらよッ!
・《なだれ乗り(UL)》
赤の「スライ」から「ポンザ」へのシフトチェンジを象徴する主力クリーチャー。インビテーショナル・カードなのにアンコモンというかなしい1枚。ダーウィン・キャスルはその程度だとでもいうのだろうか。
・《ゴブリンの溶接工(UL)》
ヴィンテージでは《ゴブリンの従僕(US)》とはべつの意味で最強のゴブリン。これの日本語版のフォイル価格も最強レベル。持っている人は大切にとっておこう。
・《怨恨(UL)》
コモンながらワンコインまで高騰した超強力エンチャント。「ストンピィ」や「オーランカー」に欠かせないほか《無限のワーム(US)》の主食でもあり絶滅が危惧されていたが、基本セット2013で再録されて事なきを得る。
・《ウェザーシード・ツリーフォーク(UL)》
神の逆鱗にふれ、打ち消され、虐殺され、焼きつくされてきた緑クリーチャーたちの《怨恨(UL)》があつまって具現化した不死身の大木。そのうらみは要塞ひとつを壊滅させるほど強大。
・《樫の力(UL)》
《踏み荒らし(TE)》にはおよばないが強力なフィニッシュカード。かわいいイラストが話題になったが思ったほど使われなかった。
・《錯乱した隠遁者(UL)》
MTG界のムツゴロウさん。このあと登場する《対立(UD)》とのシナジーは絶大でフリースペルと《ガイアの揺籃の地(US)》のマナ加速を搭載した「リス対立」はメタの一角をしめた。
・《ウルザの青写真(UL)》
すべてはここからはじまった。
・《役畜(UL)》
黒沢くんの相棒。その一心同体ぶりはかつてのガルベスと杉山を彷彿とさせる。
・《厳かなモノリス(UL)》
茶単の重要なマナ基盤。これと《通電式キー(US)》のマナ加速からはやい段階で重量級の呪文やさらなるマナ・アーティファクトにアクセスする。ウルザズ・レガシーのトップレア。
・《記憶の壺(UL)》
前代未聞の緊急声明によってウルザズ・レガシー発売からわずか2ヶ月足らずで禁止された伝説のカード。ウルザ・ブロック禁止カード闇の総帥。そのテキストにはやはり「カードを7枚引く」と書かれている。
・ミシュラランド
その名のとおり往年の強力カードである《ミシュラの工廠(4th)》を各色の特性にあわせて再録した土地サイクル。どれもまんべんなく使用されたが青と緑が抜きんでてつよくトーナメントでの使用率も高かった。
〈ウルザズ・デスティニー〉
・《輝きの壁(UD)》
《ルーンの母(UL)》とのコンビネーションは鉄壁で筆者の「青白レイディアント」の防御の要となってくれた。ディーフェンス、ディーフェンス!
・《アカデミーの学長(UD)》
筆者の祖母にそっくりなサーチ能力持ちのクレリック。《トレイリアのアカデミー(US)》のボスだけあってコンボデッキで大活躍。たまに事故った「ピットサイクル」でブロッカーとして戦闘していた。
・《補充(UD)》
エンチャントをリアニメイトしてしまうウルザらしいカード。いっしょに収録された《オパール色の輝き(UD)》や《調律(US)》など相性のいいカードが充実していたので「補充」は当初から人気のあるコンボデッキだったが、つぎの環境で「パララクス補充」となってトーナメントを席巻した。
・《寄付(UD)》
場を制圧した青使いがズラッとならんだ《島》を対戦相手にわけてあげるためだけに刷られたノブレス・オブリージュにあふれる1枚。なかには《変異種(US)》や《精神力(EX)》をプレゼントする紳士も。
・《対立(UD)》
「リス対立」のキーカード。単体でもかなり強力。イラストは社長室で責任をなすりつけあうマローとマイク・エリオット。
・《不実(UD)》
《時のらせん(US)》につづきなぜかフリースペルになって帰ってきた《支配魔法(4th)》。《火薬樽(UD)》とともにパーミッションを調子に乗ら……隆盛させた。
・《貪欲なるネズミ(UD)》
ここで初登場。2マナとどんなデッキでも飼いやすく多くの黒使いに愛された。基本セット2013で《強迫(US)》とともに再録されるが《ロクソドンの強打者(RtR)》という意味不明なカードが登場して終了。
・《走り回る怪物(UD)》
これをみるとフィンケルを思いだす。
・《ファイレクシアの抹殺者(UD)》
当時の筆者の心を一瞬でとらえた黒にして黒であるべき黒クリーチャー。エヴァとか抹消者とかいろいろあったけれど彼は彼でしかありえないのだ。コンボデッキなどクソ食らえな攻撃的な1枚。最初は英語屋で300円くらいだった。
・《ヨーグモスの取り引き(UD)》
《ネクロポーテンス(5th)》をコンボむきにするとこうなる。《アカデミーの学長(UD)》からのこれによる瞬殺はまさに「ウルザ・ブロックでは日常茶飯事だぜ!」
・《ゴブリンの司令官(UD)》
ウルザズ・デスティニーにおけるカスレア的存在だったゴブリン。いまだに《包囲攻撃の司令官(SC)》とごっちゃになる。
・《欲深きドラゴン(UD)》
5マナで6/5飛行のドラゴン。デメリットはあってないようなもので赤茶単の主力クリーチャーとして空をあばれまくった。
・《ヤヴィヤマの古老(UD)》
めっちゃアドバンテージがとれるジイさん。土地サーチ系の緑クリーチャーはいつでもきみの味方だ。
・《皇帝クロコダイル(UD)》
つよいんだけど使われなかったワニ。いまなら呪禁かトランプルくらいつけろと文句をつけられる程度の能力。
・《すき込み(UD)》
カスレア→じつはつよかったぜ的な典型。たしかに初見ではスルーしてしまいがちなテキストである。
・《ラノワールの使者ロフェロス(UD)》
これと《ガイアの揺籃の地(US)》あたりからレジェンドでもデッキに4枚積みしていいのだと筆者は認識しはじめた(さらに《果敢な勇士リン・シヴィー(NE)》がそれを決定的なものとする)。
・《スランの発電機(UD)》
《厳かなモノリス(UL)》にならぶ茶単に不可欠なマナ・アーティファクト。こちらは重たいぶんデメリットがないのでプレイできてしまえば《通電式キー(US)》なしでも気にせず使い倒せる。基本セットでもいけるくらい至極まっとうなバランスのカードにみえるがR&Dのマナ加速アレルギーは深刻でこれでさえ再録はのぞめないだろう。
・《火薬樽(UD)》
ウルザズ・デスティニーのトップレアその1。通称「まわる円盤」と呼ばれコントロール系のデッキでは必須の1枚だった。一見して使いづらそうにみえるためか初動はカスレア価格だったが気づけば2000円を超えていた。
・《金属細工師(UD)》
手札1枚を2マナに変換できるマナ・クリーチャー。このころのマナ加速はどうもやりすぎ感が否めない。下の環境でメタの一角をしめる「MUD」の中核をなすカード。
・《マスティコア(UD)》
ウルザズ・デスティニーのトップレアその2。おなじく初動が安かった出世頭。エサ代は高くつくが《変異種(US)》と同様マナさえあれば無敵の超獣と化した。茶単やパーミッションはもちろん「ストンピィ」や「リベリオン」などからもひっぱりだこで、当時ほとんどのデッキに「マスティコアはじめました」ののれんが掲げられていた。
・フリースペル
ウルザ・ブロックの悪名をとどろかせる元凶のひとつ。現在の「糖類ゼロ」「オールフリー」ブームの先駆けとなった画期的なメカニズムだったが、なんでもフリーにすりゃいいってもんじゃないという結果に終わったMTG史上でもトップクラスの大失態。
・フォイル
現在では構築済みデッキに封入されていたりFNMやプレスリリースなどで配布されるなどごくあたりまえの光景になったプレミアム・カード。《裏切り者の都(EX)》や《ゴブリンの溶接工(UL)》(日版)はいまもなおコレクター泣かせである。
・茶単
ウルザ・ブロックを代表するデッキタイプ。デッキの大半をアーティファクトがしめるが純粋な茶単というのはほぼ存在せず、おもに青や赤がサポート色として使用された。アーティファクトの圧倒的なマナ加速を利用して序盤から《燎原の火(US)》《天才のひらめき(US)》などの強力スペルを連打したり《変異種(US)》《ファイレクシアの巨像(US)》などのフィニッシャーを高速で召喚していっきに押しきる豪快さから非常に多くの亜種が登場する人気デッキとなった。
・「MoMa」
これについてはvoL.9でさんざん話したが、ウルザといえばこれに尽きるので再度いっておこう――「必要なのは〝精神力〟だ」
《ウルザの罪(PS)》についての概要は以上だが、結論を言ってしまうと筆者はこのようなブロックがふたたびMTGに帰ってくることをのぞんでいる。「MoMa」がネジの1000本はずれたイカれたサイコパスなデッキだったことは否定しようのない真実であるが、これまでにない先駆的なものを生みだそうとする創造的なバイタリティにあふれていたのもまたウルザ・ブロックの特筆すべき点だ。ウルザのカードはどれも実験的でエキセントリックだったし、トーナメントシーンでは多くのプレイヤーやジャッジ……ひいてはR&Dをもふりまわした。ミラディン・ブロックでもそれはくりかえされ、結果的に本文冒頭にあるような現在があるわけだが、それがよいものかと問われれば筆者的には首をかしげざるをえない。まだ感受性が豊かだった年齢にウルザ・ブロックを体験したからゆえなのかもしれないが、たしかに心をふるわせるような未知なる魅力がそこに満ちていたのだ(あるいは十数年という時の経過がつくりだした幻影にすぎないのかもしれない)。だれもフォールン・エンパイアやホームランドをふりかえりはしないし、オンスロートの再来ものぞんではいないだろう。
さて、長々と過去にすがりついた話をしてしまったが凡庸なプレイヤーのひとりにすぎない筆者がどうわめこうともめまぐるしいスタンダードの変容をとめることはできないし、それがMTGの魅力でもあるのだ。いまは着々と埋まっていくラヴニカへの回帰のスポイラーをながめながらプレスリリースや今後のスタンダードについてあれこれ考えつつ今回はおしまいにしようと思う。幸運にも読者諸君になにかを語ることができる機会にふたたびめぐまれたなら、そのときはどうかまたあたたかくむかえていただきたい。