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voL.20「メルカディアン・ネメシスの旅」

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 20世紀末から21世紀にまたがってスタンダードに存在したマスクス・ブロックはごく控えめに言っても筆者にとってそれほど思い入れのあるサイクルではない。発売前にスポイラーがでたときこそ《カテラン組合の首領(MM)》《墜ちたる者ヴォルラス(NE)》《隆盛なるエヴィンカー(NE)》などに闇の隆盛を期待したが、フタをあけてみれば《果敢な勇士リン・シヴィー(NE)》によって完璧に組織化されたレベルの前に統制のよわい傭兵たちはあっさりと瓦解してしまい、いかに《暗黒の儀式(MM)》があろうともウルザのマナ・アーティファクトやインベイジョンの「ファイヤーズ」が相手とあってはラースのエヴィンカーたちは少々マッチョすぎた。たしかに《からみつく鉄線(NE)》やピッチスペルなどいまでも下の環境で活躍するカードもちらほらみることができるが、テンペストやウルザのパワーカードに慣れてしまった当時の筆者からすればいまひとつパッとしないブロックという印象はぬぐえない。
 だがそれももう10年以上むかしのことだ。かつてウェザーライト号がおとずれたメルカディアの地もいまはただ懐かしい。そんなわけで今回はマスクス・ブロックのカードたちをフィーチャーしていこう。



〈メルカディアン・マスクス〉

・《レイモス教の兵長(MM)》
 レベルの切りこみ隊長。「5CG」の《クウィリーオン・レインジャー(VI)》や「スタックス」の《ゴブリンの溶接工(UL)》とおなじく即除去しないと大変なことになる。

・《物語の円(MM)》
 まさかのオールラウンド型防御円。もちろん黒と赤がよく選ばれる人気色だった。南無三。

・《恭しきマントラ(MM)》
《栄光の頌歌(US)》についでカード名が読めない枠の1枚。レベルの切り札。

・《革命家チョー=マノ(MM)》
 ダメージを無視できる伝説のオッサン。その肩書きにふさわしく胡散臭そうな顔立ちをしている。「チョー=アリム人は生命力が強く、なかなか死なない」と言っていることもやはり胡散臭い。

・《レイモス教の空の元帥(MM)》
 こちらも胡散臭そうな雰囲気のレベルのボス。だがその表情には迷いがなく筆者的には信頼できるタイプ。マカオとジョマっぽい。

・《波止場の用心棒(MM)》
 見た目3/3くらいはありそうな1/1クリーチャー。たいしたカードではないがメルカディアン・マスクス発売前に先行付録としてゲームぎゃざについてきたので最初に手にしたマスクスのカードとして印象深いプレイヤーは多いはず。

・《噴出(MM)》
 青らしくいろいろと悪さのできるドロースペル。とくに下の環境ではウルザ・ブロックのフリースペルと同様に詐欺臭い動きをするのでレガシーでは禁止。

・《リシャーダの飛行船(MM)》
 メルカディアの世界観を象徴するようなイラストがステキな1枚。なんかのほほんとする。

・《妨害(MM)》
 ピッチスペル復活ときいてだれもが期待(あるいは戦慄)したゼロマナ・カウンター。だが元祖であり最強のカウンターでもある《Force of Will(AL)》にくらべるとピッチ条件がきびしく脅威とまではならなかった。

・《誤った指図(MM)》
 おなじく青のピッチスペル。これでキッカー付きの《ウルザの激怒(IN)》をはねかえすと大賢者になった気分になれる。イラストがコミカルで好き。

・《カリスマ(MM)》
 カリスマ美容師の語源。

・《鼓舞(MM)》
 プチヘイト。どうしてもピッチスペルを使ってみたかった筆者が4枚積みしていたカード。そんなに強くはなかった。

・《殺し(MM)》
 こちらも黒らしいピッチスペル。英語名がかっこいい。

・《血の復讐(MM)》
 これも黒らしい除去スペル。《石の壁(5th)》に復讐すると大損する。

・《カテラン組合の首領(MM)》
 傭兵のボス。レベルのボス以上に実用性は低い。マスクスといえばこのイラストを思い浮かべる人も多いだろう。

・《強行軍(MM)》
 当時の単色ブームに乗った黒単専用の全体除去。だが《のたうつウンパス(MM)》のほうがそのかわいらしいイラストもあって人気だった。

・《デルレイッチ(MM)》
 能力といいイラストといい非常に黒らしいホラー。ただシングルシンボルなのが玉に瑕。黒クリーチャーなら最低でもダブル、できればトリプルシンボル以上がいい。

・《冥界のスピリット(MM)》
「ネザーゴー」系デッキの主力。《Ashen Ghoul(IA)》《冥界の影(5th)》の亜種ともいえるので由緒正しき黒クリーチャーと思われがちだが、その実態は青使いのペットにすぎない。

・《クリスの魔道士(MM)》
 筆者が《打ちすえる兵士(MM)》とともに赤単ランデスに使っていた1マナクリーチャー。イラストがかわいい。

・《操り人形の評決(MM)》
 これもなぜか赤単ランデスにはいっていた。メルカディアの平和な日常をよくえがいている。

・《岩喰い怪虫(MM)》
 筆者の赤単ランデスのフィニッシャー。岩どころか山ごと食べてしまうおそろしい虫。《無限のワーム(US)》といいついエサをあたえすぎてしまう。

・《打ちすえるマンティコア(MM)》
 フィニッシャーその2。4ターン目にプレイするとほぼ確実に返しのターンで瞬殺された。

・《ゴブリンの太守スクイー(MM)》
 マスクス・ブロックのトップレア(前期)。《スクイーのオモチャ(TE)》のころにくらべるとずいぶん出世したものだが《マスティコア(UD)》のエサにされたり《生き埋め(WL)》で埋められたりとその扱いはトップレアとしてはあんまりであった。

・《双頭のドラゴン(MM)》
 みんな大好きドラゴン枠。いまならもう1マナ軽くできるか。

・《泥棒の競り(MM)》
 これも赤によくある重い上に意味不明な効果を持つしょうもないカード。さらにおなじくカスレアだった《刻印(US)》とタッグを組んで「ブランドオークション」というこれまたよくわからないコンボデッキを生みだした。

・《命取りの昆虫(MM)》
 アライアンスより再録された危険な虫。氷河期には益虫としてそこそこ姿をみかけたが、メルカディアの環境には適応できず淘汰された。

・《砂漠の竜巻(MM)》
 第5版にも収録されていたなんでも割れる豪快なカード。やや重いが緑ならそんなに苦にはならない上に貴重なクリーチャー破壊手段でもあったのでけっこう使われた。

・《自然の類似(MM)》
 筆者の《操り人形の評決(MM)》に対応して相手がこれを唱え、コイン投げに勝ってしまったため土地が全滅して場に唯一のこった《エリシゾン(MM)》に撲殺された思い出。

・《ラッシュウッドの精霊(MM)》
 これでもかと言うほど緑単専用クリーチャー。そのマナ・シンボルのわりに能力は地味。

・《崩れゆく聖域(MM)》
 記念すべきミレニアムの世界大会を制した「スーサイドブラウン」のキーカード。〝聖域〟とはすなわちライブラリーか。

・《黄塵地帯(MM)》
「土地を投げて土地を壊す」というエルフ大激怒な1枚。当然《Library of Alexandria(AN)》をぶん投げて《Bazaar of Baghdad(AN)》を破壊することはイスラムの戒律で禁じられている。

・《リシャーダの港(MM)》
 マスクス・ブロックのトップレア(後期)。その能力は非常に地味だがきわめて強力。実質すべてのカードが1マナ重くなるようなもので使われるほうはたまったものではない。筆者たちのあいだでは「これで《真鍮の都(6th)》を毎ターンタップされるとヤバい」程度の認識だった。

・レベル
 スタンダードでは補佐的存在だったマスクス・ブロックが唯一胸を張ることのできるメカニズム。「リベリオン」というデッキ名は筆者的に5本の指にはいるカッコよさ。

・傭兵
 全体的に重く《果敢な勇士リン・シヴィー(NE)》のような中心的存在がいなかったのも敗因のひとつか。

・多色
《リシャーダの港(MM)》のせいで絶滅した。



〈ネメシス〉

・《浄化の印章(NE)》
 置き《解呪(6th)》。当時は《補充(UD)》があったので本家より強力だった。これもゲームぎゃざの付録。

・《果敢な勇士リン・シヴィー(NE)》
 最強のレベル。これがなければ「リベリオン」もごく平凡なデッキのひとつにすぎなかっただろう。愛称は〝リン姉〟。

・《パララクスの波(NE)》
 当時メタの中心に居すわっていた「パララクス補充」のキーパーツ。これと《オパール色の輝き(UD)》が場にならぶと非常にややこしくなり、さらに《パララクスの潮流(NE)》まででてくるともうどうでもよくなってくる。大会の初戦でこれにあたった筆者の赤単はみごとにパーマネントをひとつのこらず消されてしまった。

・《まばゆい天使(NE)》
 その能力をみた瞬間トップレアまちがいなしと筆者が思った天使。《闇の天使セレニア(TE)》につづいてあらたな彼女ができた春日くんに嫉妬した筆者は《火炎舌のカヴー(PS)》を4枚買いあつめた。

・《蓄積した知識(NE)》
 優秀な青のドロースペル。これくらいなら現環境にあってもいいと思うのだが。

・《目くらまし(NE)》
 ピッチカウンター。《妨害(MM)》より使い勝手がよく、いまでも下の環境で活躍中。

・《蒼ざめた月(NE)》
 プレイしてもなにも起こらないという非常に文学的なカード。そのテキストは〝意識の流れ〟をたった4行であらわしているとされ、『重力の虹』や『フィネガンズ・ウェイク』にならぶ難解さから紙マニアたちによっていまなお研究されつづけている。

・《水位の上昇(NE)》
「ライジングウォーター」のキーカード。対戦相手のテンションは低下する。

・《パララクスの潮流(NE)》
「パララクス補充」で使われるとこっちだけ土地がなくなってマジックができなくなる畜生カード。ただ《リシャーダの港(MM)》が永久追放されるのはいい気味である。

・《ルートウォーターの泥棒(NE)》
 強力なものが多いインビテーショナル・カードのなかでもなんとも微妙なシーフ。「フィンケルのは畏怖つきの《知恵の蛇(WL)》になったのにオレのは起動コストつきのマーフォークになっちまった」とマイク・ロングが愚痴っていた。

・《破滅の印章(NE)》
 どこにでも飾ることのできる《闇への追放(TE)》。筆者の初リミテッドをおおいに助けてくれた1枚。

・《暗黒の凱歌(NE)》
 ご存じジャイアン・リサイタル。

・《墜ちたる者ヴォルラス(NE)》
 テンペスト期のプレイヤーならだれもが知っている名悪役がついにカード化。だが官邸である《ヴォルラスの要塞(ST)》より使われることはなかった。

・《隆盛なるエヴィンカー(NE)》
 筋トレによって肉体改造に成功したクロウヴァクス。エヴィンカーとはファイレクシアの王ヨーグモスの右腕的存在であり、五老星によって任命される。

・《炎の印章(NE)》
 いつでも《ショック(ST)》。3枚もならぶと滅入る。

・《流動石の監視者(NE)》
 フィニッシャーその3。たぶん強いんだけど《パララクスの潮流(NE)》や《寒け(6th)》のせいでそもそもプレイできなかった。まだ打ち消されるほうがマシ。

・《スカイシュラウドのこぶ背獣(NE)》
 いまなら消散10で呪禁がついて打ち消されないレベル。

・《ブラストダーム(NE)》
 当時最強だったクリーチャー。《火炎舌のカヴー(PS)》とともに「ファイヤーズ」の主力としてスタンダードで暴れまくった。現在はワシントン条約にひっかかるため輸出入禁止。

・《はじける子嚢(NE)》
 MTG界のハジケリスト。「ファイヤーズ」だと一瞬でライフを半分以上もってくハジケっぷり。

・《ロウクス(NE)》
 ペットにちょうどいいサイズのサイ。いまならアンコモンくらい。こちらは規制されていないのでみかけたらどんどん保護してあげよう。

・《からみつく鉄線(NE)》
《マスティコア(UD)》につづきカスレアから高騰したカード。テンポ・アドバンテージを体現する強力なアーティファクト。いろんなデッキから需要があったため《ゴブリンの太守スクイー(MM)》《リシャーダの港(MM)》にせまる勢いで価格があがった。複数だされると非常にうっとおしい。

・《旗艦プレデター(NE)》
 ウェザーライト号のライバル。甲板では艦長によるヒモなしバンジー体験を随時開催中(参加費7マナ、お一人さま1回かぎり)。

・消散
 ネメシスを中吉エキスパンションにしたナイスアイディア。でもパララクスはbad。



〈プロフェシー〉

・《希望の化身(PR)》
 第8版再録時のイラストがひどい。

・《獅子将マギータ(PR)》
 これは知ってる。

・《リスティックの研究(PR)》
 プロフェシーのトップレア。

・《トゲ尾の雛(PR)》
 けっこう強い。

・《撃退(PR)》
 強い。

・《厄介なスピリット(PR)》
 これもみたことある。

・《心を削るものグリール(PR)》
 出オチ。

・《キマイラ象(PR)》
 プロフェシー最強のカード。

・《冬月台地(PR)》
 無価値。

・リスティック
 謎。



 ウルザ・ブロックやインベイジョン・ブロックのあいだでマスクス・ブロックが肩身のせまい消極的なサイクルだったことは否定できない。ではマスクス・ブロックは失敗だったのか?答えはもちろん「ノー」だ。MTGは強いカードや高いカードがすべてではない。テンペストが筆者の心をとらえたようにマスクスもまた幾人ものプレイヤーの心をとらえたことだろう。筆者も懐と庭に余裕さえできれば《ブラストダーム(NE)》の1匹くらい飼ってもいい。
 また《意外な授かり物(US)》や《トレイリアのアカデミー(US)》を刷ってしまい一喝された開発陣が「じゃあこういうのを刷ればプレイヤーは満足して売り上げがあがるというのか」とピーター・アドキソンへの抗議の意味をこめてデザインした結果が《蒼ざめた月(NE)》《冬月台地(PR)》ひいてはプロフェシーであり、そのような内輪もめがあったことも留意しておきたい。カードをデザインするのはあくまで《剣を鍬に(4th)》のはいっていない「カウンターポスト」くらい不完全な人間であり、《Sinkhole(UN)》のようなコモンもあれば《ファイティング・チャンス(EX)》のようなレアも存在するのがマジック・ザ・ギャザリングだ。
 だからこれを読んでいる読者のなかにすこしでも善にかられた方がいたなら(偽善でもいい)いまだフォールン・エンパイアやホームランドとともに簀巻きにされてカードショップで梱包材や福袋のバラストになっているプロフェシーにどうか手をさしのべてあげてほしい(筆者もアベノミクスで億万長者になった暁には10パックほど購入するつもりだ。もちろん筆者には手にあまるシロモノなのですべて視聴者プレゼントとしたい)。
 さて、やや短くはあるがマスクス編はこれで終わりにしようと思う。次回は基本セット2014のプレリの様子をお届けする予定だ。
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