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voL.3「梅雨は虹色の季節~絶望の国のエクソダス~」

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 梅雨入りと同時にエクソダスが発売され、世界じゅうのプレイヤーが金や銀にかがやくエキスパション・シンボルに目をうばわれた。いっぽうでトーナメントにはまったく影響のないそのシステムには目もくれず《伏魔殿(EX)》《適者生存(EX)》《ドルイドの誓い(EX)》などの強力なエンチャントカードをジョン・フィンケルやランディ・ビューラーがあれこれ検討しはじめていたころ、われわれは《ヴェクの聖騎士(EX)》のカードテキストに驚愕していた。このカミュも真っ青な不条理きわまりないカードの登場によってただでさえ白に対して分のわるい黒や赤はさらなる苦戦を強いられることになり、筆者や水原くんや黒単赤単使いの友人ふたりは「もしお前が本当のパラディンなら、剣をおさめ耐えるのだ!」と思わずさけんだものである。もちろん白単の友人はそんな言葉に耳を貸すこともなくサルタリーやコー族を率いたパラディンを存分に戦場であばれさせ、ダウスィーやゴブリンをその肉の最後の一片までも絶滅させた。それは《呪われた巻物(TE)》のない黒や赤にとってあまりにも一方的な虐殺であったが、いまにして思えば彼らが《浄火の鎧(WL)》を纏っていなかったのはせめてもの慈悲だったのだろう。
 エクソダスは黒にも《カーノファージ(EX)》《憎悪(EX)》をあたえてくれたが、どちらも白単と赤単にはあまり有効ではなく筆者的にはいまひとつだった(大量のライフを支払った直後に火力で瞬殺されるのは《荒廃の下僕(TE)》ですでに懲りていた)。赤にかんしても《怒り狂うゴブリン(EX)》《音波の炸裂(EX)》《発展の代価(EX)》といった程度で、白や《適者生存(EX)》《ドルイドの誓い(EX)》《スパイクの織手(EX)》の緑にくらべると不遇であった(ちなみに青にはのちにスタンダードを大いに荒れさせる〝あのデッキ〟のキーカードとなる《精神力(EX)》があたえられた)。
 こうしてエルサレムを追われた筆者一同だったが、黒単と赤単の友人は「まあつぎのエキスパンションでなんとかなるだろ」と十字軍の遠征に対して楽観的だった。しかし負けず嫌いの水原くんは《赤の防御円(5th)》《暖気(TE)》をなんとしても破壊すべく、緑をタッチして《平穏(TE)》をフル投入するなど徹底的に対抗した。緑には《不屈の自然(TE)》《スカイシュラウドのエルフ(TE)》《砕土(TE)》《荒々しき自然(5th)》などがあったのでペインランドがなくても彼の赤緑は安定してまわったが、土地サーチカードと入れ替わりに火力スペルが抜かれたためあきらかに攻撃力が落ち、バランスもかなり悪くなった。それでも白単に対してはそこそこ勝てるようになったが、持ち前のスピードと火力の減った「スライDE平穏デッキ」は黒単の筆者からすれば単なる弱体化であった。すぐにそれを悟った水原くんは緑のマナ加速を生かして《電撃破(TE)》《ラースのドラゴン(TE)》《分節ワーム(TE)》《火の玉(5th)》《オーグ(5th)》《シヴ山のドラゴン(5th)》をいれるなど構成を大幅に変更し、いわゆるステロイド系のデッキに進化(あるいは迷走)させていった。
 そして筆者もまた多色化の道をすすむことになる。「たった一枚のカードに完封されるのはくやしい!」と《平穏(TE)》をぶちこむことよりはじまった水原くんの多色化とは異なり、筆者が愛すべき黒単を多色化させていくきっかけとなったのはある〝偶然の出会い〟からである。
 多色化を検討するに際して「白単にマジで勝てない」というのがやはり第一にあったわけだが、ではどうするかという段階になると目の前にならべた色とりどりのカードたちをながめながら筆者はうめくことしかできなかった。水原くんは「スライ」の最大の武器であるスピードを犠牲にしてまでエンチャント対策にこだわり、その結果として「ステロイド」のようなものにデッキを変化させていったが、筆者は《解呪(5th)》や《平穏(TE)》のためだけに色を増やしたくなかったし、できるかぎり黒ウィニーにはこだわりたかった。たしかに白や赤相手にはやられっぱなしであったが、《暗黒の儀式(TE)》からクリーチャーをずらっとならべるのは爽快だったし、《アーグの盗賊団(5th)》や《黒騎士(5th)》のかっこよさは筆者の厨二心をグッととらえたままはなさなかった。できればこのまま黒単でいきたい……筆者は心の奥でひそかにそう願っていた。
 だがやはりそれでは勝てない。白単に勝てない。ただでさえ赤に勝てないのに白にも勝てないとなるとさらに困ったことになる。このときの筆者のあたまには「大会」という2文字が漠然とあった。比較的近くにある某大学でMTGの大会が定期的にひらかれているという情報をどこからともなく入手したわれわれは「デッキが仕上がったらでてみようぜ」と参加意欲をしめしながら、それにむかってデッキをチューニングしていたからだ。大会にでるからには絶対に優勝したい、と勝つ気満々でいた筆者はどうしても〝白〟を克服する必要があった。もし大会で白単とあたったら優勝が大きく遠のいてしまうからだ。優勝をねらうとなるとほぼ全勝でいくしかないので赤単にも当然勝たなくてはならないのだが、《生命吸収(5th)》や《不吉の月(5th)》があれば赤はまあなんとかなるだろうと楽観視していた。それよりも《日中の光(TE)》《黒の防御円(5th)》である。筆者は悩みつづけた。この暗黒騎士より邪悪なカードどもをどうするか……
 そのこたえは意外なところにあった。勉強などそっちのけで一日じゅうMTGのことを考えていた筆者があるパズル屋にふと立ち寄ったときのことだ。べつに買うつもりもなく店内をぶらついていた筆者の目にMTGのカードがとびこんできた。と言っても本物のカードではなく「World Championship Decks 1997」と題されたパズルであった。それは1997年に開催されたMTGの世界選手権を制したヤコブ・スレマーの使用デッキをデザインしたなんともニッチな層をねらったパズルで、デッキを構成するカードと使用された枚数がえがかれていた。そしてそのデッキこそが筆者のさがしもとめていた「5CB」であった。「5CB」は黒ウィニーを基本にしているが多色化してほかの4色のカードを採用することで弱点をおぎなうというバランスのとれたデッキに仕上がっており、筆者はパズルの箱を凝視しながら「これだ!」と心のなかでさけんだ。ちなみにそこに印刷されたカードはすべて英語版で、あまりよく知らないミラージュ・ブロックとアイスエイジ・ブロックのカードが多く使用されていたので筆者はそのデッキを完全に理解することはできなかった。例に漏れず筆者も当時から英語は苦手であった。それでも《黒騎士(5th)》《ストロームガルドの騎士(5th)》《地震(5th)》《硫黄泉(5th)》などの第5版のカードは知っていたし、《大クラゲ(VI)》《堕ちたるアスカーリ(VI)》《ネクラタル(VI)》《ウークタビー・オランウータン(VI)》などのテキストがシンプルなカードの効果はなんとか理解することができた(《Contagion(AL)》やサイドボードの《Dystopia(AL)》《名誉の道行き(VI)》あたりはまったく意味不明だった)。なにより《真鍮の都(5th)》《地底の大河(5th)》といった多色のでる土地カードの意味を理解できたのが大きかった。それまではなぜ1点のダメージを受けてまで多色のマナをだす必要があるのか筆者にはわからなかったのだ。《知られざる楽園(VI)》《宝石鉱山(WL)》も《真鍮の都(5th)》のようになにかしらのデメリットとひきかえに5色のマナをだせる土地なのだということは理解できたし、それらの土地カードを使用することで使いたいクリーチャーやスペルカードを減らさなくても多色化できるのだとヤコブ・スレマーは筆者に教えてくれた(彼は筆者にとってMTGにおける3人の師匠のひとりである)。これならデッキの構成を大きく変更せずとも《解呪(5th)》を使うことができるし、いままでさんざん苦しめられてきた《火葬(5th)》《ショック(ST)》といった火力スペルも積めるのだ。そうなれば《日中の光(TE)》もプロテクション黒もこわくないし、使えるカードも黒だけから全色にひろがるので持っているカードもフルに活用できる。そうだ、1色だけ増やすなんてケチケチしたことは言わず全色使っちゃえばいいのだ。ひとつ大きな知識を得た筆者は手にしたパズルの箱とヤコブ・スレマーに深く感謝した(でもパズルは買わなかった)。
 そうと決まればさっそく行動である。筆者は水原くんやほかの友人から《地底の大河(5th)》《硫黄泉(5th)》《燃えがらの湿地帯(TE)》《ルートウォーターの深淵(TE)》《塩の干潟(TE)》《松のやせ地(TE)》などをトレードしてもらい、さらにそれだけでは足りなそうだったので黒マナのでない多色ランドも何枚か手にいれた。そうしてあつめた土地と手持ちのカードから《解呪(5th)》や火力カードなどとりあえず使えそうなカードをかきあつめ、黒単デッキに投入した。こうして一応かたちになった筆者の新デッキ「5CB」はさっそくそれなりの成果をあげてくれた。休眠ランドやタップ状態で場にでる対抗色ペインランドのおかげで黒単にくらべるとスピードは落ちてしまったし、沼を一枚も引けず《ストロームガルドの騎士(5th)》をパンプアップするたびにライフがガリガリ削られるなどの問題点も多かったが、おかげで白単に勝てるようになったし、なによりプレイしていてとてもたのしかった。それまでまっ黒だった手札が色あざやかになり、土地をプレイする順番を考えるのは学校の宿題よりずっと有意義な思考問題だった。われわれのなかで軽視していたペインランドや休眠ランドを駆使することで友人たちが初期に失敗していた「多色デッキ」を実用化させたことも筆者にささやかな優越感をあたえてくれた。こればかりは「多色化」というひとつの点において筆者が水原くんをうわまわった数少ない事例であったといえよう(まあヤコブ・スレマーのデッキをパクっただけなのだが)。
 しかし解決すべき問題もいくつかあった。ランド事故をおそれるあまり多色ランドを過剰なまでに投入した結果そのデメリットが大きくデッキに影響していたし、やはり5色ランドが《真鍮の都(5th)》だけというのは厳しかった。それにほかの色のカードをいれるためにシャドークリーチャーや《邪悪なる力(5th)》を抜いたため攻撃力が低下し、ウィニーのくせにライフをなかなか削れないという場面もあった。「スライDE平穏」のときの水原くんとおなじく決定力の欠ける状態におちいってしまったのだ。これは火力や当時だれも使っていなかった青のカウンターなどをいれたいあまりクリーチャーを減らしすぎた結果なのだが、そのあたりの調整もまだデッキ構築に慣れていない筆者にとってむずかしいところだった。
 まだまだ改良の余地がある、と筆者はまずすべきことを考えてみた。それは二点に集約された――5色ランドを増やし、もっと強力なカードを手にいれること。もう使える期間は少ないができればミラージュ・ブロックのカードがほしい。しかしパックをいまから買うのはちょっと気が引ける。どうすべきか。
 防御円にかこまれ陽光に満たされた絶望の国を脱出することに成功した筆者はつぎなる禁断の国へとつづく扉をひらいてしまう――シングルカードである。
 というわけで次回はシングルカードを買いに行こうと思う。
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