「いらっしゃいませー♪」
元気よくお客さんの挨拶をする。だいぶこの仕事にも慣れてきたかな。
『ふひひ、今日は巫女服でござるか』
『これは、見ているだけで心が浄化されそうだ……』
『お賽銭は店長に渡せばいいのかな?』
お客さんの質と仕事着については、なかなかに慣れないけど、それでもある程度楽しく働いている。
ギィ……と喫茶店の扉が開く音がする。また新たなお客さんが来たみたいね。
元気よく笑顔でお客さんに挨拶を――
「いらっしゃいま……せっ!?」
「……う、うん」
「……」
「…………」
何これ、すっごく気まずい。何でコイツがこのお店に?
「お、お一人様でしょうか……?」
今すぐにでも逃げ出したいけど、仕事を途中で放り出すわけにはいかない。恥ずかしい気持ちを
押し殺して平常心で仕事をこなさないと……
「一人だけど……美穂、あんた何してるの?」
「ひぇっ!? な、ナンノコトデショウカ?」
「いや、何他人の振りをしてるのよ。十年来の親友に対してその態度はどうなのよ?」
「うぐ……っ、親友なら何事もなかったかのようにしててよ」
今、私の目の前に居るお客さん……もとい親友は、小学生からの付き合いで私の一番のよき友で……
「それで話は戻るけど、あんた何してるの?」
「何って喫茶店の仕事だよ」
「喫茶店の仕事はあんたからの報告で知ってるけど、あたしが言いたいのはその格好なんだけど」
「お願いですから綾菜さん。何も聞かないでください」
そしてここで見たことを忘れてちょうだい。
「え~どうしようかな~?」
「サービスするから、ね? いいでしょ綾菜」
「どんなサービスをしてくれるの?」
「こ、コーヒーを一杯?」
「あ~コーヒーだけじゃ誰かに言ってしまうそうだわー」
く……っ、このバカ女。こっちの足元を見やがって。何で私、こんな奴と親友なんだろ?
「け、ケーキもつけてあげるわ……」
「ありがと♪ 愛してるわよ美穂」
調子に乗って投げキッスをしてくる綾菜。何が愛しているだよ、絶対に私のこの姿を見て楽しんでるでしょ。
あんたは昔っからそうだったもんね。自分が楽しむために人を犠牲にする。そんな性格で……
あれ? ほんと、何で私こんな奴と親友なんてやってるんだろ?
「あらあら~その人、もしかして美穂ちゃんのお友達なのかしら?」
「あ、はい。一応友達ですね」
「友達っていうか、あたしと美穂は親友ですよ」
「親友ね……」
今の綾菜の言葉を聞いて一瞬、店長の目が鋭くなったのは気のせいだろうか?
「ねぇねぇ、よかったらこのお店で働いてみる気はないかしら?」
「ちょ――っ、店長!? あなたは何を言ってるんですか?」
綾菜をこのお店で働かせるだなんて正気ですか?
「給料の高さには自信があるんだけど、どうかしら?」
もうプッシュで綾菜を従業員として誘おうとしている店長。確かに、綾菜がこのお店
で働いたら私のこのコスプレの恥ずかしさも軽減されるかもしれないけど、でも――
「美穂。あんた、なんて目で人のことを見ているのよ? そんなにもあたしと一緒に
働くのが嫌なのかしら?」
「そういうわけじゃないんだけど……」
あんたと一緒に働いても碌でもないことになりそうなんだもん。
「あの、店長さん。一つ聞いてもいいですか?」
「何でも聞いてくれていいわよ」
「あたしが働いたら、美穂と同じようにそういう格好をしないといけないんですか?」
まぁ、やっぱりそこは気になるわよね。と、いうか一番気になるところだもんね。
「……勿論、働く以上は美穂ちゃんと同様にコスプレをしてもらうわよ♪」
「へぇ~」
やっぱりコスプレなんてしたくはないよ――
「いいですよ」
「えぇっ!? あ、綾菜、あんた本気なの!?」
本気でこんな服を着たいとか思ってるの!?
「楽しければ、それでいいんじゃない?」
「あんたはね……」
それだけでここで働こうとか思えるなんて凄いわね。まぁ、お金という目的で働いている
私が言っても説得力ないけど。
「ふふ、じゃあ次回からあなたにも美穂ちゃんと一緒に働いてもらいましょうかね」
「はい♪」
にこやかに握手をする二人。はぁ……同じ仲間が増えるのはいいんだけど、あまりいい予感
はしないわね。あぁ、胃が痛くなるわ。