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プロローグ

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 うわさがあるのは知っていた。
 初めてそのうわさを聞いたのは、中学三年生になったばかりの頃だ。
「Y女の漫研、相当ヤバいらしい」
 漫画は小さい頃から好きだったし、落書き程度の絵は描いたこともあったけれど、部活に入ろうと思うほどじゃない。それに、通っている中学には漫研もなかったので、うわさは聞き流していた。そう、このときはまだなんともなかった。不城菜乃は、ごく普通の平凡な女子中学生だった。
 そのY女の漫研の新たな情報が入ってきたのは、そろそろ志望校を決めなければならない時期だった。
「これ、例の漫研の本」
「どうしたのよこれ」
「Y女にいってる先輩に頼んだの。見る?」
「見せて見せて。……きゃぁー!ねえ、ちょっと、ヤバいってこれ」
 思春期の少女たちが騒ぐ騒ぐ。
 その本を持ってきたのは、菜乃の友人だった。だから当然菜乃も見た。菜乃が一番騒いだ。 
 そのころから菜乃は、少年漫画を好んで読むようになった。好きな漫画に、特別美少年が多く出てくるのは、おそらく気のせい。絵もよく描くようになった。無意識ではあったが、構図やセリフは、友人が見せてくれた本によく似ていた。
 ほどなくして、菜乃は高校に進学した。それがY女になったのは偶然だった。いや、偶然とは言い切れないか。菜乃はそこを第一志望校にしていたのだから。ちなみに、友人はY女に落ちた。
 菜乃が漫研に入部したのは、四月半ば。存在を知っているのがそこだけだったし、ほんのちょっぴり興味もあったので足が向いた。彼らは、菜乃を大いに歓迎してくれて、去年の作品だと、『3Pーす』や『ゼンイントセイヤ』といった流行りものの薄い本も何冊か渡された。大好きなムウとシオン様が絡み合っているのを見て、菜乃は迷わず入部を決めた。

 それから一ヶ月ほど経った頃か。開戦の狼煙が上がったのは――。
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